幕間 クレア・パラッチの取材メモ2
お陰様で、無事発売日を迎える事が出来ました。そんな日に作者は夜勤です。
ボルフ視点
ジョージの頼みでアミ様と友人の生徒をボーブルまで送る事になった。肝心のジョージは、王城に報告があるらしく、帰宅は夜になるらしい。
「ボルフ先生、我が侭を言ってすいません。今日はお願いします」
「アミ様、お久しぶりで御座います」
アミ様は俺を見かけるなり、笑顔でお辞儀をしてきた。ジョージの影響なのか、アミ様は種族や地位で人を見ない。だからなのか自然とこっちも笑顔になってしまう。昔の俺が見たら、貴族が媚びを売りやがってと揶揄しただろう。
「友達のクレアちゃんがお兄様がどんな人なのかを、ボーブルのみんなに聞きたいそうなんです。ボルフ先生は何かありますか?」
ジョージがどんな人間か……極度の心配性で、自己評価が笑えるくらいに低い。その所為か何重にも策をめぐらそうとする。
「そうですね。人に休めって命令するのなら、先ずご自分もきちんとお休みになって欲しいですね。ジョージ様が領主をされているから、俺達獣人も安心して暮らせているんですから」
まあ、ジョージの場合は悲しいくらいに運が悪くて、洒落にならないトラブルに巻き込まれて休みが吹っ飛んでしまうんだよな。
「そうですよね。お兄様は、お仕事をし過ぎだと思います。今日も目の下に隈を作っていたんですよ」
弁解してやれば今回の徹夜は仕方ない。アーシック領での公共事業が思いのほか好評で、イジワール領やコーカツ領での納期が早まったそうだ。特にフェルゼンとコーカツ領を結ぶ道路は、ファルコ伯爵からの強い要望があり予算の見直しも迫られたらしい。
「ボルフさんは、ジョージ様とお付き合いが長いのですか?初めて会った時の印象とか覚えていますか?」
アミ様の友人だと言う少女が尋ねられた。初めて会った時の印象は糞生意気な餓鬼だ。そりゃそうだ、あいつは中身だけなら俺よりも年上なんだし。
「変わった方だと思いましたよ。狼人の俺なんかに敬語を使うんですから」
あいつは前世の記憶がある所為なのか、貴族らしさが全くない。でも、あいつのお陰で夢のような暮らしが出来ているのは確かだ。冗談みたいな話だけど、アサシンの俺が今では守護騎士をしている。
「何かジョージ様に要望はあったりしますか?」
これは簡単だ。もう少し貴族らしさを身に付けろだ。ジョージは未だに威張るって事が苦手らしい。貴族が威張ってみせるのは、権力を強くする為でもある。気弱でオドオドした領主なんて領民に舐められるだけだ。
それと貧乏性を直して欲しい。贅沢をしろとは言わないが、領主がみすぼらしい恰好をするのだけは止めてもらいたい。ジョージに言わせればユルユルの服を着ていた方が、プログラムを組む効率が上がるそうだ。
◇サンダ視点
アミ様のご友人のクレアさんが、ジョージ様の事を取材にやってこられました。なんでも、ジョージ様の人となりをお知りになりたいとの事です。
「そうですね。良い意味でも悪い意味でも常識に捕らわれない方で御座いますね。ジョージ様の発想には毎度驚かされております」
この言葉には少し語弊があるかも知れません。ジョージ様は前世の常識に従っているだけなのですから。
「ボーブルで行っている事業は、全てジョージ様が考えられたのですか⁉」
クレアさんが驚くのは無理もありません。ジョージ様は新規事業の発案者を決して自分だと言いませんので。ジョージ様が言うには『俺は人の手柄を横取りしているだけです。それをさも自分の手柄のように吹聴したら、恥知らずも良いとこですよ』だそうです。しかし、貴族の中には部下の手柄を横取りする人も少なくないんですけどね。
「他人のアイデアを参考になされた物もありますが、実用化出来るようにしているはジョージ様ですよ」
「何かジョージ様に要望はあったりしますか?」
もう少しご自分を大切にして頂きたい、ミケ様や王家に敬意を払って頂きたい等色々御座います。
「そうですね。他人の幸せを願うのは素晴らしい事ですが、ご自分の幸せにも大切にして頂きたいです」
ミューエと一緒に働けるようになれたのは、他ならぬジョージ様のお陰なのですから。
◇オデット視点
アミ様が連れて来られたのは、パラッチ印刷の長女クレアでした。貴族の噂を好き勝手に書き立てる記者は正直好きではありません。
しかし、アミ様のお話によるとジョージ様の誤解を解く為だと言うではありませんか。
「オデットさんは、ジョージ様とお付き合いが長いのですか?初めて会った時の印象とか覚えていますか?」
赤ん坊の頃からになるので、ジョージ様と私の付き合いは長いと思います。今思えばジョージ様は不思議な赤ん坊でした。メイドの動きに合わせてわざとぐずってみたり、自分に好意をもってくれたメイドに笑顔で甘えていたのです。
後に前世の記憶があると知り、あの頃からジョージ様は他人に気を使われていたのだと納得しました。
「そうですね。ジョージ様は生まれた時から、カトリーヌ様にそっくりだったのを覚えております」
アランに似なかったのが幸いだと思います。コーカツ領の発展の為とはいえ、顔だけが取り柄の薄っぺらい男に嫁がされた時は、カトリーヌ様の将来を悲観しましたが、ジョージ様のお陰でカトリーヌ様はコーカツ領にいた頃より活発になられました。
「何かジョージ様に要望はあったりしますか?」
「私は一介のメイドで御座いますので、要望等ございませんよ」
カトリーヌ様は幸せな結婚は出来ませんでしたが、ジョージ様には幸せになって頂きたいです、幸い、ジョージ様は私の事を信頼してくれて様々な権限を与えてくれました。ですので、ジョージ様に幸せになって頂く為、カリナを教育しボーブル城の女性職員や総合商店を警備している女性職員の力を借りてジョージ様に幸せになって頂こうと思っております。
◇
クレアに宛てがわれたのは豪華な客室だった。ベッドもフカフカで豪華な物である。そのベッドの上でクレアは頭を悩ませていた。
事前に聞いていた噂と実際に会ったジョージ・アコーギが余りにもかけ離れ過ぎているのだ。さっき見せてもらったジョージの部屋は、クレアに宛てがわれた客室の半分にも満たない小さな部屋であった。置かれている物も簡素な物ばかりで、クレアの自室の方が確実に豪華なのである。
もう一つ驚いたのはアミがジョージに甘えまくっていた事だ。アミは学校で見るのとでは別人なのではと思えるくらいに兄ジョージに甘えていた。
(ここはボーブル城。ジョージ・アコーギに肯定的な意見が多くて当たり前か。否定的意見の主流はマリーナさんの周りの人達だ。明日、マリーナさんにも取材してみよう)
クレアの取材メモ ボルフ・ルードウ 強面の狼人男性。前歴は不詳。ジョージ・アコーギとの関係は主従と言うより兄弟に近かった。驚いた事に出自も学歴も不明なボルフであるがジョージ・アコーギの守護騎士に任命されていた。聞いた話では城の中に家を建てているらしい。才能や人柄を重視しているから、ボーブルは短期間で発展出来たのかも知れない。
クレアの取材メモ サンダ・チュウロー オリゾン大、幻の主席と言われたオーク。理知的な性格で、ジョージ・アコーギに対する忠義も厚い。彼の話によると、ジョージ・アコーギは他人の意見に良く耳を傾けるそうだ。彼を慕い、フェルゼン帝国のミューエ・レオパルドがボーブルで働く事になったらしい。ボーブルは人材の豊富さで公爵家にも負けないと思う。
クレアの取材メモ オデット・コーレシャン かつてL級冒険者だったという噂がある猿人の女性。ローレン・コーカツに乞われてジョージ・アコーギの母親カトリーヌ・アコーギのメイドになったらしい。彼女の話を聞くと、ジョージ・アコーギはモテこそしないが、女性職員から信頼されているのが分かる。
ボーブル城を取材して一番疑問に思った事。何故、ジョージ・アコーギは一部の人に手酷く嫌われるのだろうか。誤解を解こうとしないのもあるが、噂と実像が余りにもかけ離れ過ぎている。
◇
次の日、クレアが訪れたのは王都の貧民街。そこでマリーナが炊き出しをしていると言うのだ。
(相変わらず凄い人。そう言えば、炊き出しの資金集めもジョージ・アコーギが考えたんだよね)
クレアはマリーナ・ライテックの事を尊敬していたが、この炊き出しに関しては疑問に思っていた。どう見ても貴族としか見えない服装の人も並んでいるし、貧民街の住民も以前に比べてマリーナ達への感謝が少なくなっているように思える。正確には炊き出しが来て、当たり前と思う人が増えているのだった。
皆、口々にマリーナ達を褒め称えてはいるが、その感情はどこか薄っぺらい。
「クレアちゃん、手伝いにきてくれたの?ありがとう」
クレアの目当ては取材なのだが、それをおくびにも出さずに炊き出しを手伝った。炊き出しが終わり、マリーナの手が空いたのを見計らってマリーナに声を掛ける。
「マリーナ先輩、ジョージ・アコーギ様の事に付いてお伺いしたいのですが」
「ジョージ様の事?……私には分からないよ。どうしてお金を儲けているのに他人に施さないんだろうね。嘘を一杯ついて心苦しくないのかな?」
クレアはマリーナの話を聞いて理解した事がある。マリーナ・ライテックは穢れなき優しい少女だ。まるで清流に住む魚のように穢れを嫌い清さを尊ぶ。清く正しい事が大切であり、欲にまみれた人間を嫌う。
一方のジョージ・アコーギはまるで泥中に住むドジョウのようだ。穢れの中に自ら突っ込んで、もがきながらも頑張っている。しかし、ジョージ・アコーギが穢れの中に入るのは他人の為だ。しかし、その事を吹聴しようとはしない。むしろ欲に溺れる愚者を装っている印象すら受ける。
穢れある者を嫌悪する少女マリーナ・ライテックから見れば、ジョージ・アコーギは侮蔑の対象になってしまうのだろうと。
次回からは通常更新です。




