ジョージのお休み
若干、下ネタが入ります
電光石火の動きだと自負しても良いと思う。テッラ台地でスライムと磁石を手に入れた俺はすぐさまウッドランドに戻り、必要事項を報告。引き留めようとする担当官に伝家の宝刀『新たに提供する企画を思い付きましたので、早くお見せ出来る形にしたいのですが』を発動。更に追い打ちで『ちょっと朝から風邪気味でして、御迷惑を掛けたくないので、勝手を承知で戻らせて頂きます』で逃げ切った。
ボーブルに戻って直ぐに新しい指示書を作成。トラッシュスライムは清潔な場所で飼育し、生態を把握していく事にした。磁石は工業ギルドに渡し、精製するように指示。
そして、重臣を招集し緊急会議を開いた。参加者はサンダ先生、ミューエさん、ボルフ先生、ロッコ―さん、ギリルさん、オデットさんの六人。俺の転生を知っている人達だ。議題は『黒幕の正体の考察及び対策について』。俺は司会兼書記である。
「お前を嫌わせようとする奴か……随分と暇な奴もいるんだな。放って置いても、こいつが人気者になる訳がないのによ。こんなに手を掛けて、ジョージが嫌われるってだけなんだろ?割が合わなすぎるぜ」
ボルフ先生の言う通り、嫌がらせにしては手が込み過ぎている。十数年も掛けて俺とマリーナ達の仲を悪くする必要があるんだろうか。見た目で釣り合っていないのが丸分かりだから、放って置いてもマリーナ達が俺に惚れたりする事はないのに。
「確かに相手の意図は分かりかねます。しかし、そう考えると納得出来る事が何点かあるんですよ。まずアニエスですが、異常なまでにジョージ様を嫌っています。私やリップル様がいくら説いても態度を変えようとしません」
ロッコーさんは、そう言うと呆れ顔で溜め息を漏らした。そうか、俺は異常なまでにアニエスに嫌われているんだ。休み明けも出来るだけ近付かないようにしよう。
「いや、アニエスさんの場合は俺が嫌味を言ったのが原因ですし」
ロッコーさんはアニエスと親戚関係にあるので、念の為フォローを入れておく。
「アニエスも貴族の娘ですよ。嫌悪感を押し殺す術は、子供の頃から叩き込まれています。出先でゲテ物料理を出されても笑顔で完食出来ますよ」
アニエスの中で俺はゲテ物料理以下と……さすがに泣くぞ。
「そういやマリーナもヴァネッサも貧民街の薄汚れた連中に笑顔で接していたもんな。でも、お前の話題になるとゲロでも見たかのような顔になるんだぜ」
あれ、おかしいな。頬を冷たい水が伝っていく。俺はマリーナ達の中では、嘔吐物扱いなのかよ。普通の中学生なら、ぐれているぞ。やさぐれていると、ギリルさんがそっとハンカチを渡してくれた。
「前にタンラがジョージ様を襲った事件がありましたよね。あの時、タンラとリーゼンは夢にブレイブ・アイデックが現れ、ジョージ様を襲えと命じたと言いました。その夢に出て来たブレイブ・アイデックを絵師に書かせた所、その顔が瓜二つだったんですよ」
そこにも関わっていたのか……あの二人のブレイブ・アイデック像が同じって事は、先ずあり得ない。
「サンダ先輩、どういう事ですか?二人の夢に出て来たのがブレイブ・アイデックなら同じ顔になっていてもおかしくないと思うのですが?」
外国人のミューエさんには分からないだろう。実際、フェルゼン帝国で出回っているブレイブ・アイデックの絵姿には大きな差異はない。
「六家に伝わっているブレイブ・アイデックの肖像画は、それぞれ微妙に違っているんですよ。例えばアーシック家のブレイブ・アイデックは筋骨隆々とした戦士ですし、フレイック家のブレイブ・アイデックは魔術師の姿をしているんです」
サンダ先生の言う通り、六家は自分達にとって都合が良いブレイブ・アイデックの肖像画を持っている。ちなみにライテック家のブレイブ・アイデックはレイピアを持った魔法騎士で、ウオーテック家のブレイブ・アイデックは神官の恰好をしているそうだ。
「これで確信がますます深まったって事ですか。相手を油断させる為にも、どこかで一度負けておいた方が良いかもしれませんね……ロッコーさん、コーナーリバーってエルフを知っていますか?ヘゥーボの叔父さんらしいんですが」
詳しい内情を知りたいので、ヘゥーボから聞いた話をロッコーさんに伝えた。
「歴史作家のエディ・コナリーの事ですよ。普段は森の奥にある集落に住んでいます。ヘゥーボはあそこの生まれなんですか……それなら納得出来ますね」
エディ・コナリーか……そういや、フェルゼンに行く時ラパンさんが『はい、エルフの歴史作家ですよね。ウィル・ロッシュの悲劇が代表作ですよ』とか言っていたよな。
「何か特別な集落なんですか?」
きっと、ヘゥーボの両親は先祖代々伝わっている特別な魔法を守る為に集落を出たんだ。そしてヘゥーボは俺の為に、その魔法を使ってくれるんだ……以上、勝手な妄想でした。
「特別と言えば特別ですね。あそこに住んでいるのは純粋なエルフだけですので。アリエス様とブレイブ・アイデックが結ばれ、猿人の血が混じった事に反発した人達なんですよ。だから、エルフに対する固定観念が病的なまでに強いんです」
ロッコーさんの話によると魔法を使えないエルフは極稀れにだけど生まれるそうだ。そして件の集落では、猿人の血が混じった事による呪いだと言われ、忌み子扱いしているらしい……これは、思っていた以上に重いな。
「ジョージ様、まだマリーナ様との婚約を継続されるのですか?ハウスキーパー部門の職員を筆頭にボーブル城に務めている女性職員は少なからず、マリーナ様に対して不満を持っております」
まあ、キングオブフツメンとは言え、俺も一応は領主である。その領主が婚約者から蔑ろにされるだけではなく、嫌われまくっているとなれば面白くはないと思う。オデットさん、気持ちは分かりますが、少しは殺気を隠して下さい。背筋が寒くなって堪りません。
「マリーナとの婚約は個人同士で交わされたんじゃなく、家同士で交わされたので破棄の権利はアランにあります。だから、俺とアコーギ家の縁が切れれば破棄も出来ますよ。でも、アコーギの家名がなきゃ、俺はただのガキです。家臣の中には、アコーギ家の嫡男だから、仕えてくれている人が少なからずいると思います。何より、アコーギ領に身内が住んでいる人も多いですから、アランとの縁は下手に切れないんですよ」
領主でいるにはアコーギの家名は必須。そしてアコーギ家の恩恵を受けている間は、マリーナとの婚約は破棄出来ない。勇者君、お願いだから早く来て。今なら高枝切りはさみも付けるから。
「今の段階では婚約を破棄出来る程の証拠が揃っておりません。何よりジョージ様がマリーナ様との交流を避けていたのも事実で御座います。物証がない現段階では、強気な交渉は不可能だと思います」
ギリルさんの言う通り、現段階ではかなり黒に近いが確証はないって感じだ。物証がないからマリーナ達を説得するのは難しいと思う。それにマリーナは俺に夢の騎士の事を話していない……会話自体が殆どないし。
みんなにばれないように、そっと息を吐く。そして、ここからが本当の勝負だ。
「取り敢えず、黒幕に関しては無理に調査をしない方向でいきましょう。何をされても大丈夫なように、地力を付けていくのが一番の安全策だと思いますよ。会議はこれで閉会します……あっ、明日から三日間休みますので、お願いしますね」
みたか、閉会間際に休み希望をぶち込んでやったぜ。
◇
休み初日、目が覚めたら既に夕方でした……どうやら、夏休み中の疲れが溜まっていたようだ。
(今からじゃ、どこもいけないか……仕方ない、ボーブルデータ管理プログラムでも改良するか)
パソコンに近付いていくと〝お休み中は、使用禁止でございます オデット〟と書かれた紙がデカデカと貼られていた……まじっすか。
(仕方ない、残り二日をどう過ごすか考えよう。取り敢えず、明日は漁師の所に行って魚を食いまくる。そして三日目はサキュバスの娼館の市場調査に行く)
サキュバスの娼館はかなり好評らしく、我が城の独身男性従業員もお世話になっているそうだ。そして、領外からのお客様も増えているらしい。ここは開港前に、俺自ら調査する必要があると思う。
休み二日目、ワクワクしながら朝早く起きたら、天気が大荒れでした。風が強く船を出したら、沈没間違いなしだ。釣りをしても高波が危険だな。何より魚が釣れないと思う。
(どうする?パソコンをこっそり動かして六魔枢のデーターをまとめるか。出来たら対策も練ってみよう)
風 オボロ(正体クイーンハーピー、空を飛んで厄介) 副将フーマ三姉妹(素早さが厄介)
火 マエストロ・グラィツアー(正体イフリート、高温の炎が厄介) 副将ルストラ(正体フレイムジャイアント、強力な腕力が厄介)
闇 テネーブル伯爵(正体ヴァンパイア、強大な闇の力が厄介。ついでに夜しか戦えないから更に厄介) 副将謎の騎士(正体グール、強力な剣技が厄介)
土 パペター(巨大ゴーレム陸王丸を操るから厄介) 副将(クロガネ、防御力が高くて厄介)
水 ヴェルソー(神官、無限回復が厄介) イドル(魔物使い、大勢の魔物を率いて厄介)
光 チーポ(堕神使、空中からの光魔法とレイピアによる攻撃が厄介) ハピネス・クラウン(マッドピエロ、トリッキーな動きと分身が厄介)
結論、全員厄介。対策今直ぐには思い付かず、あれこれ考えていたら二日終了。
三日目、いよいよサキュバス娼館の市場調査の日がやって来た。もう、朝からワクテカです。ワクワクしながら娼館に近付いていくと、ドアを閉められてしまった。ドアノブには本日の営業は終了しましたの札……マジで?
「諦めなさい。あの子達、この間の戦いがトラウマになっちゃったのよ。ミルアちゃんなんて、いまだにメイド服を見ただけで泣くんだから」
後ろを振り向くと、そこにいたのは初老サキュバスから美魔女サキュバスにパワーアップしたサユリママがいた……ムー君、大丈夫かな。お願いだから、ボーブルで腹上死だけはしないで下さい。
「いや、俺は戦いに参加していませんよ」
確かに、あの攻撃力過多な女性達を率いてはいたけど。
「この間、オデットさんが〝ジョージ様,娼館利用反対〟の署名を持ってきたのよ。凄いわよー、お城の全女性職員だけじゃなく、総合商店の警備をしている女性冒険者も全員サインしていたの。さすがのあの子達も命を危険に晒してまで、精を集めないわよ」
トボトボ部屋に帰ると、机の上にメモが置かれていた。
「三河ニャ利用開始記念プレゼント?って箱ティッシュかよ」
ありがたいけどさ、これじゃ異世界に来ても転生前と変わらないじゃん。思わず、涙が零れる。
……その後、俺の永年の友達ティッシュ君は涙を拭いてくれたりと色々活躍してくれた。これで俺の夏休みも終わりである。
活動報告に幕間の募集や書籍の情報を載せました。それと見本が届いて感涙しています。




