理不尽なパーティー?
異世界でも女性の身支度には時間が掛かるらしい。今日、フェルゼン城で開かれるパーティーに参加する。ちなみに、俺のパートナーは母さんだ。つまり、母親のお洒落待ちなのだ。なんか、休日のお出掛けみたいだよな。
本来なら婚約者のマリーナにパートナーを務めてもらうんだけども、マリーナはオリゾンにいるから誘う事が出来ない……まあ、近くにいても、これだけ仲がこじれていたら、誘いようがないけど。
(今回は保護者として母さんが付いて来てくれたから良いけど、今度からどうするかな)
貴族のパーティーはパートナー同伴が参加条件というぼっち泣かせな物がある。
まあ、ある程度の地位にある年頃の男性貴族には婚約者がいるから、理不尽とは言えない。そんな条件は納得出来ませんなんて言ったら、婚約者の心を繋ぎとめられない貴方が悪いってブーメランが飛んできてしまう。
今まではオリゾンの貴族が相手だったから誤魔化しも効いたけど、外国の要人に招待されて参加出来ませんはまずい。
宛てがわれた控室で、答えのない問題に自問自答していると、ドアがノックされた。
「ジョージ様、オデットで御座います。失礼致します」
オデットさんもパーティーに招待されており、いつのもメイド服ではなく黒のシックなドレスを身にまとっている。
「母さんの準備が終わったんですね」
母親にパートナーを務めてもらってパーティーに参加なんて、本物の中学生なら恥ずかしがるだろうが、俺は前世も含めると母さんより年上だ。親孝行と思えば、大して苦にはならない。
「いえ、カトリーヌ様は用事が出来たので、参加出来なくなりました」
母さん、御免なさい。ちょっとだけホッとしました。
「それじゃ、俺はいつも通り一人で参加って事で良いんですね」
今回のパーティーはパートナー同伴が絶対条件ではない。名目はホートーとラフィンヌさんを歓迎する為のパーティーだけど、実質的には戦争を回避出来た事とイリスさんが無事だった事を祝う為の物である。
「いえ、ジョージ様のパートナーはカリナに務めてもらいます。カリナには貴族のパートナーとしての作法を教えておりますので何も心配は御座いません」
オデットさんの話によると、イグニア滞在中に礼儀作法やしきたりを教えたとの事。
「いや、さすがにそれはまずいですよ。マリーナの面子を潰す事になりますし。下手したら、カリナに危険が及びますよ」
何だかんだ言っても、マリーナの人気は高い。勇者の子孫というだけでなく、見た目も良く俺以外の誰にでも優しい。むしろ世間的には、あのマリーナ様に嫌われるジョージ・アコーギって、何者みたいな扱いになっている……誰にでも人懐っこい犬に吠えまくられて、あいつが何かしたんじゃないか?って疑われているようなもんだ。
「普段からジョージ様の動向を気に留めないマリーナ様に、カリナを批判する資格は御座いません。それにカリナは今回の事件で大きな役割を果たし、皇帝陛下やファルコ伯爵の知遇を得て御座います。加えてイリス様だけでなく、ラフィンヌ様とも友誼を結んで頂いているので、社交界ではライテック家の小娘と比較にならないくらいの地位を築いております。ちなみに、カリナが今日着るドレスはローレン様からの贈り物で御座います。お子様しか味方がいらっしゃらないマリーナ様と違い、カリナの庇護をしてくれているのは各国有数の権力者。下手に手を出せばその家が潰されますよ」
カリナはイジワール公爵から贈られた髪留めも持って来ているらしい。つまり、今日のカリナの服には権力って名前の棘が付いていると。
「ドレスなんて一日、二日で作れる物じゃないでしょ?いつの間にそんな物を準備していたんですか?」
「イグニス荒野から帰った後、これから城でメイド服を着てもらう機会があるかもと言いサイズを測りました……どうやら、カリナの準備が終わったようですわね」
オデットさんの言葉が終わると同時に控え室のドアが、遠慮がちにノックされた。
「し、失礼致します……カ、カリナです」
……これはやばい。カリナは着慣れないドレスが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いている。いつもは雄々しいくらいにピンと立っている獅子耳もへにゃりと項垂れていた。何より水色のドレスが、カリナのオレンジ色の髪と驚く程似合っている。
「あらあら、カリナ良かったですわね。ジョージ様が見惚れていますよ」
違う、俺は決してロリコンじゃない……でも、カリナのドレス姿に見とれていたのは確かだ。
(ここで否定したら、カリナを傷付けるじゃないか……多分、これも計算の内なんだろうな)
ドレスの件といい、どうも手の平で転がされている感がする。
「あー、そのドレス似合っていて素敵だな。それで良かったら、俺のパートナーをお願い出来るか?」
無言で頷くカリナ……こういうラブコメな雰囲気は何十年振りだろう。
カリナの手を取りパーティー会場に向かって歩く。
「あにょ……ジョージしゃまは良くパーティー出ているんだ……出ておられるんでしゅよね?」
緊張しているのか珍しくカリナはかみまくっている。幸いな事に案内役のメイドさんは適度な距離を取ってくれているから、小声なら会話を聞かれる事もないだろう。
「俺しかいない時は、普段通りの会話で大丈夫だぞ。この年でいえば出ている方だろうな」
「パ、パーチーの時って、どんな会話をすれば良いんだ?あたい、初めてだから分からなくて。あんたはどんな会話をしてるんだ?」
いくら実家が客商売をしていて知らない人との会話に慣れているとは言え、今回のパーティーはフェルゼン帝国が主催しているから参加者は貴族か上級騎士しかいない。庶民のしかも獅子人のカリナに緊張しなくても大丈夫って方が無理だろう。
「俺の会話はゴマすりが基本だぞ。基本、貴族は自慢と長話が好きだから、会話の内容にあった表情で頷いておけば大丈夫だよ。そうは言っても俺も外国のパーティーは初めてだし、パートナー同伴のパーティーも初めてだし。今回、俺達は招待されたんだから、楽しむくらいで大丈夫だよ」
「でも、あたいのマナーは付け焼き刃だし、笑い者とかにされないかな」
確かに、社交界慣れしない平民のマナーを指摘して楽しんでいる悪趣味な貴族はいる。
「そんな事をしたら自国の恥になるだけだよ。何より、ミューエさんが黙ってないと思うぞ」
俺達を招待したのは他ならぬフェルゼン皇帝だ。ましてやサンダ先生の知り合いが馬鹿にされたとあっては、ミューエさんが黙っていないと思う。
「そうだよな……でも、あそこにいる兵士がこっちを睨んでいるけど」
カリナの言う通り、年の若い兵隊達がこっちを睨んでいる。
「多分、ベガル様の教え子だろ。頭で分かっていても、感情は割り切れないからな……うん?」
一人の兵士がこっちに向かってくる。念の為に、カリナを庇えるよう前に出ておく。
「ジョージ君久し振り。僕だよ、リーゼン・ライテルだよ。あの時は本当にごめんね。謝って済む問題じゃないのは分かっているけど、僕もタンラもフェルゼンに来て生まれ変わる事が出来たんだ」
リーゼンはそう言うと兜を取って深々とお辞儀をしてきた。髪は短く切り揃えてあるし、表情が初々し過ぎて、一瞬誰なのか分からなかった。
「過ぎた事だしもう良いですよ。お陰で雨降って地固まるで、ボーブルの結束が強まりましたし」
後ろの兵達の表情が和らいでいく。どうやら、ベガルの事で怒っているのではなく、リーゼンの謝罪が上手くいくか警戒していたらしい。
「言い訳みたいに聞こえるけど、あの頃は自分が自分じゃなかった感じがするんだ。そんな僕を変えてくれたのがベガル様と養成所の仲間さ……噂でしか聞こえてこないんだけども、ボーンタ様はどうなったの?家からの手紙にも詳しい事は書いていなし」
ライテル家はゴルド公爵に遠慮して詳しい事を書かないんだと思う。取り敢えず、内容を掻い摘んで伝えた。
「オッニゾーリ領の森で、ボーンタの遺体が見つかったそうです。他殺体だけど、犯人は依然不明ですよ」
「……言いづらい事を教えてくれてありがとう……それと、ベガル様の事をよろしくお願いします」
そう言って再び深々と頭を下げるリーゼン……いや、見ると後ろにいる兵士達も深々と頭を下げていた。
ちなみにパーティー会場に入ると、母さんがこっちを見てニヤついていた。ちくしょう、嵌めやがったな。
◇
俺の中でオデットさん人外説が浮上してきた。カリナのマナーが完璧過ぎて、フェルゼンの貴族から褒められているのだ。
「ジョージ・アコーギ様ですね。私はジンガ・コルエシオン。ベガルの兄です。実はジョージ様にお願いがあるのですが」
つまりはコルエシオン公爵の嫡男と……滅茶苦茶大物が来てしまった。
「私で出来る事があるのなら、なんなりとお申し付け下さい」
目上の人に様付けで呼ばれたら、断れる訳がない。
「ありがとう。僕はオリゾン大を卒業していて、オリゾンに友人も多いんだよ。そのうちの一人がボーブル城に騎士として、仕えているんだ。そいつが、この間結婚してね」
最近結婚したオリゾン大を卒業した騎士……トムか。
「トム・トジェリーの事ですか?」
初めて名前を聞いた時は、区切り所を間違えないように心に誓った。
「ええ、そうです。前にトムが新婚旅行でフェルゼンに来た時、面白い事を言っていたんですよ“ボーブル城に仕えれば、俺みたいな不器用な男でも若くて可愛い嫁さんをもらえる”って。調べてみたら、確かに大勢の騎士や兵士が職場結婚しているんですね」
何か嫌な予感がする。この話題は早々に打ち切るべきだ。
「ト、トムがジンガ様と友人だとは知りませんでしたよ。な、何で内緒にしていたんですかね?」
カリナの事を笑えない。俺も嚙みまくりである。
「友人関係を壊したくないから、僕が黙っているように頼んだんだよ。確かにトムが自慢するだけあって可愛くて礼儀作法も完璧な娘だった。うちの両親も“ベガルにもあんな気立ての良いお嫁さんが来てくれたらね”って言っていました」
背中を冷や汗が伝っていく。何か打開策はないか。
「トムの奥さんは兎人ですよ。さすがにベガル様の奥様は猿人じゃないとまずいかと」
ちなみにトムの奥さんマイさんはジョージメイド隊時代から働いていて、頭が上がらなかったりする。今回の事でトムに嫌味を言ったら、俺がマイさんに叱られると思う。
「今回の事で、弟はすっかり自信を無くしてしまいました。もう、フェルゼンで相手を見つけるのは難しいかもしれません。でも、本当に好きな相手と結ばれたら、立ち直れると思うんですよ。弟が自ら選んだ相手なら私達も文句は言いません」
しかし、なにかあったら仲介した人間にも責任が発生すると思う。そんな厄介事はごめんだ。
「そうなる事を心から祈っております」
ついでに、これ以上俺が面倒事に巻き込まれない事も祈ります。
「ええ、ですから今回のお礼も兼ねてベガルをボーブルの兵士を鍛える教官として派遣させて下さい。レオパルド家のミューエも受け入れるのですから、まさか断ったりしませんよね……ベガルの恋が上手くいけばミューエと婚姻したいという者が現れた時には、コルエシオン家は総力もって助力しますよ」
多分、この様子だともう皇帝陛下に話が通っていると思う。いや、戦争を避けられただけでもラッキーだったっていうのは分かっている。分かっているけど、何か理不尽だ。




