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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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案内人は係長さん?

いざ、ヴェント谷に向けて出発と思ったんだが、大事な事に気が付いた。

(案内人って誰なんだ?それに待ち合わせ場所も聞いてなかったな)

 ミケに案内人を派遣すると言われたが、具体的な内容を何も聞いていない事に気付いたのだ。約束の内容をきちんと確かめていなかったなんて、社会人失格と言われても仕方がない。


「ジョージ、何してるんだ。早くゴーレム車に乗れ」

 ボルフ先生に急かされ馬車に乗ろうとした、その時である。


「すいません、遅くなりました。いやー、久し振りに全力で飛びましたよ」

 どこからか中年男性の声が聞こえてきたのだ。

(ミケが言っていた案内をしてくれる人か。でも、どこにいるんだ?それに飛んで来たって言ったよな)

 しかし、辺りを見回しても誰もいない。


「ここですよ。ジョージ様、お久し振りでございまず」

 声がした方を見ると、そこにいたのは中年男性タイプの妖精。髪はすだれヘアー、分厚い黒縁メガネに汗だくの顔。そして汗で濡れたシャツ。リアル小さなおっさんである。妖精要素は背中から生えた蝶と似た艶やかな羽根のみ。


「カカリ・チョウさん、お久し振りです。お元気でしたか?」

 彼の名はカカリ・チョウ。以前、ちょっとした縁があり、知人もとい知妖精となった。


「最近、血圧が高くなって大変なんですよ。女房は運動をしろって言うんですが、中々ね」

 カカリさんはそう言うと分厚い眼鏡を外して、顔の汗を拭う。その姿は地下鉄の階段を駆け上がったサラリーマンにしか見えない。ちなみにカカリさんはアコーギ領にあるコスモスの群生地で主任をしている。


「もしかして、カカリさんが案内してくれるんですか?」


「ええ、ミケ様に頼まれましたので。私が来たからには、泥船に乗ったつもりでいて下さい」

 まさか異世界で親父ギャグが聞けるとは……カカリさん、部下に煙たがられていないだろうか?娘さんがいたら、確実にウザがれていると思う。


「あの、泥で出来た船だと沈んでしまうのではないのでしょうか?それとも妖精には泥を固める魔法があるのですか?」

 サンダ先生、親父ギャグを真面目に考察するのはやめましょう。それって、結構えぐい行為です。

「あー、ま、間違えました。大船ですよ、大船。それと泥を固める魔法はありませんが、こんな事なら出来ますよ」

 カカリさんはそう言うと胸ポケットに挿してあった赤ペンを取り出すと、俺達の額に何かを書き始めた。


「カカリさん、それは何ですか?」


「これは魔法(マジック)(オブザレッドペン)ペンと言いまして、妖精が持っているマジックアイテムなんですよ。私が書いたのは幻術防止のサインです。ヴェント谷の魔物は幻術を使う奴もいますからね。両目を開いていると幻術の効果を無効に出来ます。逆に片目をつむると、どんな幻術を掛けてきているかが分かるんですよ」

 チラ見しながらマジックオブザレッドペンを鑑定。

マジックオブザレッドペン:妖精族の持つマジックアイテム。妖精族の主な仕事はオリゾンに住む全ての人種の監視である。彼等は担当している地域の人種の行動を採点して、神使に送付しているのだ。採点以外にも使え、役職等によりその効果も変わると言う。

 自動車教習所の教官かよ……待てよ、俺にも担当妖精がいるんだろうか?異世界物の定番と言えば妖精のパートナー、ゲームのジョージ神使もアゲハと言うフェアリータイプの神使だった。

 自分の担当を鑑定してみる。ここは美少女妖精に期待だ。

ジョージ・アコーギ担当:ミケ・ニャアニャア・種族神使……ですよね。


「ジョージ、置いて行くぞ」

 ボルフ先生に急かされて馬車に乗り込む。窓を開けて見送りの人達に手を振ろうとしたら、カリナが近付いてきた。


「……その、無理するなよ。あんたに何かあったら悲しむ人間がいるのを忘れるんじゃないぞ」

 そう言ってカリナは、真っ直ぐに俺を見つめてくる……心が痛くなるくらいの真っ直ぐさだ。痛すぎて思わず目を逸らしてしまう。

(カリナはまだ子供だ。あれは友情に毛が生えたような物……俺とカリナは仲が良い異性の友達の方がいいんだ)

 これからも俺はもっとトラブルに巻き込まれていくし、魔王との戦いに身を投じなくてはいけなくなる。カリナと距離を置いた方が良いのかも知れない。


「気を付けるよ。それと家族の事はイリス様が言い出さない限り触れないでもらえるか?」

  ここでは詳しくは言えないが、蛇が潜んでいるやぶを突いてしまう事態は避けたい。

「ジョージ、フライングシップを手に入れたら、そのゴーレム車はどうするんだ?」

 俺の微妙な態度を察してくれたのか爺ちゃんが会話に割り込んできてくれた。


「うちの騎士数人を別のゴーレム車に乗って同道させるんだ。帰りは、そいつ等に俺達が乗って行ったゴーレム車を運転させるんだよ」

 爺ちゃんの視線に気付いたトム・ブルック・ファンゴの三人が決め顔を作る。公爵様にアピール出来る機会なんて滅多にないから見逃してやろう。


「それなら俺とローレンも乗って行く。小僧は何か掴んだらしいからな」

 途端に決め顔を作っていた三人組の顔が青ざめていく。そりゃそうだ、帰り道は誰かが二大巨頭と一緒の馬車に乗らなきゃいけなくなる。ファンゴに至っては、アイコンタクトで俺に懇願してきた……部下よ、すまん。俺も二大巨頭には逆らえないのだ。

(そういやファンゴの奴、幼馴染と恋人になれたって言っていたよな。この事件が解決したら、特別手当をだしてやるか)

 上手く解決出来たらの話だけど。


 今回はアコーギ領の領都グリフィールを迂回して、ヴェント谷を目指す。王様からの許可証があるとはいえ、検問とかに引っかかったら無駄に時間をロスしてしまう。

 かなりの遠回りなるかと思ったが、予想外の幸運があった。


「そこを右に曲がって下さい。左の方に人がいるそうです」

 カカリさんが道中に部下の妖精を配置してくれたそうで、リアルタイムで情報が入ってくるのだ。しかも、平坦な道を選んでくれるので、凄く快適です。カーナビならぬヨーナビってところだろうか。


「小僧、なんで獅子人の娘に家族の事に触れるなって言ったんだ?」

 さすがはイジワール公爵、聞いていましたか。


「イリス様は深窓の令嬢です。隷属の首輪を付けられるのは、かなり親しい人間だけだと思うんですよ。そう思って隷属の首輪を鑑定したら、シャルル・ファルコって名前が出てきたんです。イリス様の異母姉って事しか分かりませんでしたけど」

 俺のレコルト人物フォルダは本人に直接会って鑑定をしないと、詳細な情報を得られない。イリスさんより隷属の首輪を鑑定するのに時間を割いてしまったから、そこまでしか分からなかった。


「シャルル嬢が?母親は違うけど、イリス嬢を本当に可愛がっていたんだぜ」

 イジワール公爵が目を丸くして驚く。イリスさんの母親が第一夫人で、シャルルさんは母親は第二夫人のとの事。シャルルさんは優し穏やかな性格で、イリスさんも凄く懐いていたそうだ。これは予想を大幅に修正しなくてはならない。原因は跡目争いだと思っていたが、どうも違うようだ。


「誰かがシャルル様をそそのかしたんでしょうね。そんなに仲の良い姉妹なら、まず疑われませんし」

 誰がシャルルさんをどう言ってそそのかしたか気になるが、今知る術はない。それにそそのかされたって言うのも、俺の予測でしかないんだし。


「余程、上手く立ち回らないと不利な状況に追い込まれるな」

 爺ちゃんの言う通り、向こうの方が数段有利だ。それでもフライングシップを手に入れる事が出来たら、敵を出し抜く事が出来る。


「カカリさん、すいません。こんな物騒な事に巻き込んでしまって」

 妖精にとって大事なのは棲み処である自然だ。彼等にとって自然を破壊する人間は監視対象であっても、決して良き隣人ではないだろう。


「前にも言いましたけど、私達はミケ様に多大なる恩があるんですよ。それに私にもイリスさんと同い年くらいの娘がいましてね。とても他人事には思えないですよ」

 カカリさんの娘か……妖精にも色んなタイプの娘がいる。多分、カカリさんに似て明るく朗らかな性格だと思う。人間も妖精も見た目より性格の方が大事だ。今から社交辞令を言う練習をしておこう。


 緊急事態と言え申し訳ない事をした。初日の宿泊先に選んだのは、田舎町にある家族経営の小さな宿屋。唯一の自慢が、数年前にアランが休憩していったって事だったそうだ。

 宿屋の主は俺が泊まるって言っただけでもテンパってしまったのに、さらに爺ちゃんとイジワール卿も泊まるって言ったもんだからマジで気を失ってしまったのだ。


「ジ、ジョージ様、汚い部屋で申し訳ありません」

 宿の女将が案内してくれたのは六畳程の小さな部屋。木製のベッドと机があるだけの簡素な部屋だ。さすがに爺ちゃんとイジワール卿の部屋はもう少し広いらしい。


「充分だよ。パニックになるといけないから、飯は部屋に運んでくれ。それと飯を食べたら直ぐ寝たい。食器を下げるのは明日でも良いか?」

 俺の言葉を聞いて女将は安堵の表情を浮かべた。あれか娘を伽に寄こせとか言われるとでも思ったんだろうか。

 女将が出て行ったのを、確認してベッドに横たわる。

(イリスさんとシャルルさんは仲が良いのか。それならなんで隷属の首輪を付けたんだ?)

 多分、黒幕の狙いはオリゾンとフェルゼンの仲を悪化させる事だろう。そうだとすると、グルウベ皇国が関わっている可能性が高い。

 イリスさんをサージュに売ったのは、ヌボーレ伯爵のパーティーに参加するのを知っていたからだろう。あのパーティーには奴隷尊重派の貴族が大勢参加していた。イリスさんを好みそうな貴族に『素晴らしい奴隷が入りましたよ』と言えば、直ぐに売れる。

 ここまでは分かる。問題はイリスさんが行方不明なっていた空白の数カ月をどうしていたのか、シャルルさんの目的は何かだ……情けない話だが、ゲームに出て来ない事には、俺の知識はなんの役に立もたない。

 無駄だと分かっていても、色々と考えてしまう。その後も思考に耽っていたら、窓がノックされた。取りあえず、布団の中に潜り込んで辺りの様子を探る。

 そしてまたもや響くノックの音。

(おいおい、ホラーな展開は勘弁してくれよ)

 ノックされたのは、絶対にドアじゃなく窓だった。しかもここは二階……ちびるぞ。アランの休憩に代って、俺のお漏らし話が宿のネタになったらどうしよう。


「ジョージ様、少しよろしいでしょうか?」

  しかし、声の主はカカリさんだった。ちびってないのを確かめてから窓を開ける。


「ど、どうしましたか?」

 まだドキドキしているらしく、言葉を噛んでしまった。


「ちょっとお伺いしたい事がありまして……ジョージ様は何故危険を冒してまで、イリスさんを助けるのですか?もう、ブレイブ・アイデックのような勇者に憧れる年ではございませんよね。それとも不幸な少女を放って置けなかったのですか?」

 カカリさんの疑問はもっともだと思う。この騒動を解決する為の労力に比べて、得られる成果は確実に少ない。むしろ大赤字と言ってもいいだろう。


「それはありませんよ。イリスさんより不幸な娘はボーブルにも大勢います。その人達を見捨てて、イリスさんだけ救うのは、ただの自己満足です。そんな事の為に部下を危険に晒せませんよ。俺が動く理由はあくまで保身です。あのまま放置していたら、誰の手にも負えないくらいの大問題になりますからね。損害は少ない方がいいでしょう」

 俺が大切にしているのは自分自身と家族、部下、友人、そしてボーブルの領民だ。でも身内に裏切られた少女を見捨てたら、長期休暇を満喫出来ない。

 きっと聡明な王様は、優秀な王宮騎士を派遣してくれるに違いない。その人にフライングシップとサンダ先生の紹介状を預ければ、俺はお役御免だと思う。俺は全ての問題を一人で解決出来るなんて思っていない。仕事で大事なのは適材適所、そして引き継ぎである。

 オリゾンの騎士のお歴々、英雄になるチャンスですよ‼だから、誰か俺のバトンを受け取って下さい……マジで頼みます。


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