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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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飛んで火にいる夏の獅子娘?

長かった……ようやくボーブルに着いた。


「やっと帰ってきましたね。掛かった時間は普段と変わらない筈なんですけど、とんでもなく長く感じましたよ」

 俺は周囲に気付かれぬよう、そっと溜め息を漏らす……転生してからトラブルに巻き込まれたのは、これで何度目になるんだろう。

 ここの神様(グルウベ)は、異世界出身の男は全員ヒーローに憧れていていると勘違いしているのかもしれない。そしてトラブルに毅然と立ち向い、強敵との闘いには胸を躍らせるとで思っているんだろう。

 そうだとしたら、大迷惑極まりない。既に俺の胃は悲鳴を上げており、朝食はパン粥くらいしか受け付けないと思う。

 グルウベ様に言いたい。俺はヒーローとは無縁の事なかれ主義なんだって。

(あそこの角を曲がったら、ファルコ伯爵がドッキリって書かれた看板を持って立ってねーかな)

 そうしたら、満面の笑みで騙されちゃいましたって、最高のリアクションを取るんだけど。 


「気持ちは分かりますが、全てはこれからですよ」

 折角、現実逃避していたのにサンダ先生の冷静な突っ込みが現実へと引き戻す。確かにまだ始まったばかりだ。これから乗り越えなきゃいけない修羅場が幾つも待っている。


「それでもやっぱりボーブルに戻って来ると安心しますよ。取りあえず一息つけますし」

 ここなら多少のトラブルも領主権限で、収める事が出来る。そう、俺はボーブルの最高責任者なんだ。


「ところでカトリーヌ様には、なんと説明なさるのですか?」

 一息つくどころか息を飲んでしまった。イリスさんには隷属の首輪が付いたままだ。誰がどう見たって奴隷を買って来たように見えてしまう。中学生の息子が奴隷を買って来たなんて修羅場以外のなんでもない。

 最高責任者とは言え大恩ある実母には頭が上がらないのだ。ちなみにサンダ先生、ボルフ先生、オデットさんにも頭が上がらない……最高責任者だからと言って一番偉いとは限らないのだ。


「カトリーヌ様には、私から説明をいたします。ジョージ様、イリス様をカトリーヌ様のゲストとしてお招きしてもよろしいでしょうか?」

 確かに母さんに何も話さずに、イリスさんを城に泊めるのは不可能だ。オデットさんを緊急招集した時点で何かが起きたと勘付かれているだろうし。


「お願いします。俺はヴェント谷に行く準備をしなきゃいけないので」

 今回はサンダ先生・ボルフ先生の二人に同行してもらう。ロッコーさんにも付いて来て欲しいんだけど、内政に穴を開ける訳にはいかない。他人にかまけて、自分の家の台所が滅茶苦茶になっていたなんて笑えないし。

(問題は俺の武器か。上空の敵に弓矢を当てるのは難しいんだよな……あの魔法だけじゃ不安だ)


 ヴェント谷に出る魔物は素早さの値が高いのが特徴だ。特に厄介なのが恐鳥(きょうちょう)類と呼ばれている魔物だ。

 出現する魔物は序盤ではゴブリンシーフ・ハーピー・ヘルクロウ・デスコンドル。中間層はレインボーピーッコック・ゲニン・パラライズバタフライ・コカトリス。深層部にはクノイチ・ダークペガサス・ロックバード・テング等が出て来る。

 中でもハーピーはロリ・清楚・妖艶・ボーイッシュ・元気っ娘と様々な個体がおり、魔物の中では断トツの人気を誇っていた。アンケートの中にはハーピーハーレムをしたいから、魔物使いのスキルを実装して欲しいって意見があったくらいだ。ちなみにハーピーの特技は魅了効果があるチャームダンス。男性キャラの方が掛かりやすく、主人公のレベルが低いと高確率で魅了されてしまう。

 ゲームでは人と変わらない容姿も持っていたから人気が出たけど、今は逆に不安になってくる。そんなハーピーを倒したらトラウマ物の死体になると思う。でも、倒さなきゃ俺達が死体になるんだけど。

「ジョージ様、今後の指示をお願いします」


「サンダ先生、ボルフ先生は旅の準備をお願いします。その後は、爺ちゃんから連絡が来るまで待機していて下さい。ロッコーさんは、ギリルさんと一緒に俺が留守にしている間の政務を担当して下さい。オデットさんはイリスさんと母さんの事をお願いします」

 俺は旅の準備をしながら、ヴェント谷での戦闘手段を考えよう。

 修羅場の第一弾は城で起こりました。 

 帰りの遅い俺を心配したらしく、母さんが玄関で待ち構えていたのです。母さんは仁王立ちで待機していて、全身から怒りのオーラが発せられている。

当初の予定では、オデットさんが事情を説明してから母さんと会うって構想だった……正直、心の準備がまだ出来ていません。


「ジョージ、今までどこに行っていたのかしら?悪い事をしていないなら、お母さんの目を見てきちんと言えるわよね」

 カトリーヌ・アコーギさん、御年二十九歳……顔は笑っているけど、目は全く笑っていません。

(落ち着け、精神年齢でいったら俺の方が圧倒的に年上だ。それに相手は貴族のお嬢様、交渉能力は俺の方が上の筈)

 しかし、十三年も俺の母親をしていただけあり、カトリーヌさんも成長なされたようだ。無言の圧力が半端ないっす。


「それは、その、えーとなんて言うか」

 どうも男って奴は何歳になっても母親には敵わないらしい。訳の分からない汗は出て来るし、言葉もしどろもどろになってしまう。

「目を逸らさない‼ちゃんとお母さんの目を見て言いなさい」

 言い訳を考えていたら、有無を言わせぬ叱責が飛んできた。母さん、ゲームとキャラが変わり過ぎです。


「お嬢様、少しよろしいでしょうか?」

「オデット、これは母子の問題なの‼話は後から聞きます」

 母さんがオデットさんに反論するところなんて、初めて見た。もし、オデットさんが母さんを抑えられなかったどうしよう。


「いえ、これはアコーギ家だけの問題ではありません。後程、ローレン様もお出でになります」


「お父様が……ちょっと、オデット離しなさい」

 さすがオデットさん、母さんの一瞬の隙をついて物陰へと連れていってくれた。俺はこの隙に部屋に戻るとしよう。

 忍び足で移動しようとした瞬間、母さんの叱責が飛んできた。


「ジョージ‼お母さんの話は、まだ終わっていません。きちんとそこで待ってなさい」

 母さんは千里眼のスキルを持っているのか?配下に助けを求める為、皆に視線を移す。忠義心に厚い俺の配下なら上手な助け舟を出してくれる筈。


「さてと、サンダ旅の準備をしに行くぞ」

「そうですね。ロッコ―さんは、ギリルさんと打ち合わせですか?」

「ええ、ボルフ、サンダ、旅の無事を祈っています」

 助け船は城の中へと消えて行きました。領主なのに、自分の城で孤立無援となっています。


「ジョージ、オデットから話は聞きました。イリスちゃんの事は、母さんに任せておきなさい」

 母さんはそう言うと、馬車の中へと入って行く。


「今まで良く我慢したわね。でも、もう大丈夫。私達が貴方を守ってあげるから」

 母さんの言葉が終わるか否や、イリスさんの泣き声が響き渡った。


(イリスさん、ずっと自分の気持ちを押し殺していたんだな)

 きっと黒幕は全てが上手くいったと、ほくそ笑んでいるだろう。オリゾンの小さな領地が総動員で逆襲に来るとも知らずに。

 ヴェント谷はアコーギ領の西端にある。ボーブルからでは馬車を使っても、片道だけで五日は掛かってしまう。でも、ゴーレム馬車を使えば二日に短縮出来る。

 問題はアコーギ領で、ゴーレム馬車の使用が禁止されているって事だ。内緒で乗り入れたらのがばれたら、罰金を取られたうえにゴーレム馬車を取られてしまうだろう。そうすれば、イリスさんの事がオリゾン中に知れ渡り、パニックを引き起こす可能性がある。 

 でも王様からの許可があればノープロブレム。いかにアランと言えどゴーレム馬車に手出しは出来ない。

 これを俺が申請したら手続きだけで、半日は掛かってしまう。でも爺ちゃんのコネを利用すれば、王様に直接出してもらえるのだ。


「爺ちゃん、まだですかね?」

  爺ちゃんが許可証を持って来てくれたら、直ぐにでも出発したい。どうにも落ち着かない俺は前庭で爺ちゃんの到着を待っていた。


「事が事ですから、王宮も大混乱になっているのでしょう。ジョージ様は、お休みになられないのですか?昨日はあまりお休みになっておられないのではございませんか」

 オデットさん、大正解です。どうせ部屋に戻っても、檻の熊みたくウロウロと歩き回るだけだし。


「ちょっと、試したい魔法があるんですよ。オデットさん、見てもらえますか?」

 部屋で試せば大惨事になるのが確実な魔法なのだ。オデットさんの許可が下りたので、昨日徹夜で改善した新魔法を披露した。


「よろしいと思います。ただもう少し省略した方が安全でございます。今のままでは、ご自分も巻き込まれる危険性がございますので。特にヴェント谷は狭い所がございますから……こういう形にしてはいかがでしょうか?」

 何カ月も掛けて考えた魔法が、僅か五秒で改善されてしまいました。しかもぐうの音が出ないくらいに理に適っている。でも、これでヴェント谷で使う武器が決まった。


「ありがとうございます。ところでイリス様のご様子はどうですか?」


「今はお休みになられています。ただ、カトリーヌ様に遠慮しているようで、口数は少ないですね。お年が近い娘がいるとよろしいのですが」

 イリスさんと同年代でコミュニケーション能力が高い女子か……心当たりはあるが、さすがに巻き込むのは気が引ける。


 ……そんな事を考えていたら、砂煙を上げながら近付いてくる人影が見えた。なんて、ナイスタイミングなんだ。飛んで火にいる夏の虫ならぬ、駆けて国際問題に入る獅子娘と。


「ジョージ、あんた奴隷を買ったって本当かい‼」

 カリナは俺を見つけるなり、凄い剣幕で詰め寄って来た。兵士は止めようとしたが、獣人(カリナ)の身体能力の方が勝ったらしい。


「悪いけど、今洒落にならない問題を抱えているんだよ。面倒事に巻き込みたくないから何も聞かないで帰ってもらえないか?」

 今回の事はドンガ達にも内緒にしておくつもりだ。ゲームに比べて精神的に成長しているとは言え、まだまだ子供だ。薄汚い大人の世界を見せるのはまだ早い。


「馬鹿にすんな‼あたいが秘密を喋るとでも思ったのかい?獅子人の女は口が堅いのと度胸が良いのが自慢なんだよ」

 説得失敗、カリナはて梃子(てこ)でも動かないって感じで足を踏ん張っている。どう説得しようか考えていたら、ニヤリと笑うオデットさんが目に入った……あれは絶対に何かを企んでいる目だ。


「これはうってつけの人材が来てくれましたね。誰かカリナの店に行ってもらえますか?“お嬢様には何日かお城で仕事をしてもらいます”と伝えて下さい」

 いつの間にかオデットさんがカリナの背後を取っていた。格闘技を習っている獣人より身体能力が高いんですね。


「ちょっと、ちょと待って。何があったの?」

 一方のカリナは予想外の態度にたじろいでいる。オデットさんは、チャンスを逃がすまいと、事のあらましを手短に伝えた。さすがのカリナもたじろいでいる。


「カリナ、今ならまだ間に合う。悪い事は言わないから帰れ」

 努めて優しく諭すように話し掛ける。確かにイリスさんと年が近くコミュニケーション能力の高いカリナは、うってつけの人材だ。でも、国際問題に巻き込む訳にはいかない。


「帰れって言われて、はいそうですかって帰れるか‼そんな可哀想な子を見捨てたら、女が廃るんだよ」

 またもや説得失敗。そんな事をしているうちに、オデットさんは着々と準備を進めていく。オリゾンの事を考えたら、オデットさんの行動は正しい。親しい人間が出来れば、何かあってもイリスさんがフォローしてくれる確率が高くなる。俺はまだまだ為政者として甘いんだろう。


「しかし、誰がカリナに教えたのでしょうか?このままではジョージ様の悪評が広がってしまいますが」

 オデットさんの疑念はもっともだ。噂が広まるには早すぎるし、ピンポイントでカリナの耳に入る確率なんてゼロに等しい。

「あ、あたいはマリーナから聞いて……居ても立っても居られなくなって」

 予想は付いていたけど、やはりそこか。カリナの話によると、マリーナはヴァネッサ達と一緒に食堂に来て『ジョージ様が奴隷を買われたそうです』と興奮気味にまくし立てていったらしい。カリナが何かの間違いではと言っても聞く耳を持ったなかったそうだ。


「サージュでしょ?俺が奴隷を買ったなんて噂が広がるだけでも、奴隷反対派にとっては痛手です。それにサージュの顧客には俺とマリーナの婚約を面白く思っていない奴が多いですからね。俺の馬車が商館を出たのを見かけたら、ピンポイントでマリーナの耳に入るように仕組んだだと思いますよ」

 奴隷を買ったなんて不名誉な噂は直ぐに撤回したいが、今はそれどころじゃない。俺の噂は笑い話に出来るが、イリスさんの噂が広がったら国家の痛手となってしまう。


「あんた、それで良いのかい?マリーナに嫌われるよ」

 カリナさん、安心して下さい。もう、十分に嫌われてますよ。


「事件が解決するまでの辛抱だよ。それに外国で奴隷にされていたって噂が広まったら、イリス様がどう思われるか分かるか?名誉に傷が付くだけじゃなく、まともな婚姻が結べなくなる危険性もあるんだぜ」

 カリナは俺の言いたい事が分かったらしく、口をつぐんだ。

 

「ジョージ様、ローレン様とイジワール様がお見えになりました」

 到着を知らせてくれた騎士の背後から、爺ちゃん達が足早に近づいてくる。


「ジョージ、王から許可が下りた。今直ぐに旅立ってもらえるか?」

 爺ちゃんは俺の顔を見るなり、許可証を手渡してきた。こんなに余裕がない爺ちゃんは初めて見る。


「小僧、王が責任を持ってくれるそうだ。頑張れ」

 王様、それでしたら王宮騎士の誰かとチェンジして欲しいです。


「分かりました。今直ぐでも行きます……カリナ、悪いけど頼めるか?」

 どう見ても断れる雰囲気じゃないし……二大巨頭から放たれるプレッシャーが半端じゃないっす。


「ああ、任せておきな‼」

 次の瞬間、オデットさんがカリナに何か耳打ちした。途端に顔を真っ赤にするカリナ。一体、オデットさんは何を言ったんだろうか?


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