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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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アンラッキーは続くよ。どこまで

ヌボーレ伯爵領は王都の北北東にあり、ボーブルからだと領都アービトまでは馬車を使っても八時間は掛かってしまう。

「ジョージ様、お気持ちは分かりますが顔にお気を付け下さい。眉間に皺が寄っていますよ」

  ロッコーさんの忠告で、ふと我に返る。深呼吸をして気持ちを落ち着かせて、眉間の皺を消す。


「ありがとうございます。この光景を見ていたら、ついつい顔に出ていたみたいですね」

 ヌボーレ領に入ってから胸糞の悪い光景がずっと続いていた。青々と茂った桑の葉、風にそよぐ白い綿の花。そこだけを見たらのどかな農村にも見えるだろう。

 問題は畑で働いている人達だ。彼らは皆真っ黒な首輪を付けていた。ヌボーレ領の畑で働いている人達は、全て奴隷なのだ。真夏の日差しの下、脇目もふらず黙々と仕事をこなしている…いや、仕事をさせられていると言った方が正確なのかも知れない。


「サンダの奴を連れて来ないで正解だったな」

 ボルフ先生の言う通り、生真面目なサンダ先生がいたら卒倒していてもおかしくない。ある程度の予想は付いていたので、今回はボルフ先生とロッコーさんのしたたかコンビに同行してもらった。


「リーズンを連れて来なくて良かったんですか?あのお坊ちゃまに社会勉強をさせる良い機会だと思うんですが」

 確かに良い勉強になるだろう。でも、リーズンを連れて来ると厄介事が起きる可能性が高いのだ。


「あんなモテ男を連れてきたら、ヴァルムが嫉妬で発狂しちゃいますよ。それにリーズンの性格だと “そんなのは本当の恋じゃない。今すぐマルールさんを解放しろ“とか言いかねませんし」

 ヴァルムとリーズンを比べたら、全てにおいてリーズンが圧倒してしまう。もし、マルールさんがリーズンを見て頬を赤らめでもしたら、ヴァルムが自殺しかねない。自殺は言い過ぎだとしても、ヴァルムの恋心が傷つくのは確実だ。ヴァルムが傷付くのは別に構わないが、それに巻き込まれたらたまったモンじゃない。確実に俺が一番損するし。


「それは考え過ぎじゃないですか?」

 イケメンエルフのロッコーさんには、もてない男の気持ちが分からないのかも知れない。


「ヴァルムと初めて会ったのはアコーギ城のパーティーでした。あの時、ヴァルムは俺を選んで話して掛けてきたんですよ。そしてその後、直ぐにテラスへ向ったんです。自分より格好良い男がマルールさんと話すのが、怖いんだと思いますよ」

 俺が領主(アラン)から疎まれているのは社交界でも有名だ。そんな俺にヴァルムが話し掛けるメリットは少ないと思う。取りあえずリーズンには王都で開かれているパーティーに出席してもらった。爺ちゃんやイジワール公爵も参加しているから、良い社会勉強になるだろう。


「あー、確かに碌な事にならねーな」


「貴族ってあまり否定される事がありませんからね。打たれ弱い人が多いと思いますよ。ましてやヴァルムはマルールさんにベタ惚れですし」

  俺の場合は社会の荒波で揉まれてきたから打たれ強いけど。


「そんなに好きなら奴隷から解放してやりゃ良いのによ」


「マルールさんの本音を聞くのが怖いんだと思いますよ。主と奴隷でいる限り振られる事はありませんから…あくまで推測ですけどね」

 でも、それだと本当の恋人になる事も出来ないんだけどね。恋人ってのは気持ちで繋がっているもんで、一方的な契約でなるもんじゃない。


「相変わらず捻くれた考えは得意だよな…っと、危ねー‼おい、どこ見てんだよ」

 ボルフ先生が怒鳴るのも無理はない。後ろから来たド派手な馬車が強引に追い越しを掛けてきたのだ。真っ赤な車体に金色の月が描かれていると言う自己主張満点な馬車である。


(随分と派手で大きな馬車だな…何を積んでいるんだ?)

 そして俺達を追い越して行ったかと思うと、前方で急停止した。


「獣人が生意気な口をききやがって…この馬車の持ち主が誰だか分かっているのか?ルーナ商会の会長サージュ・ルーナ様の馬車だぞ」

 ド派手な馬車の御者が肩を怒らせながら近づいてくる。その態度はチンピラと大して変わらない。

 ルーナ商会、可愛らしい名前をしてはいるが取り扱っているのは、奴隷というきな臭い商会だ。


「まあまあ、紋章も付いていない貧相な馬車です。私達の馬車に傷が付いてなければ、見逃してあげましょう」

 続いて降りて来たのはでっぷりと肥えた男。脂ぎった顔にはナマズ髭が生えている。

 俺が今乗っているのは普段使いの馬車。王都みたくゴーレム馬車運行の許可が下りていない町で使っている。

(王都で派手な馬車に乗っていると、高確率で反感を買うって知らないのかよ)

 この馬車は見た目こそ地味だが、乗り心地に力を入れているいるから価格は高級車と大差がない。


「この馬車はジョージ・アコーギ様の馬車だぞ。今の言葉もう取り消せぬからな」

 ロッコーさん激怒です。見た目の良いエルフはルーナ商会にとって喉から手が出る程、欲しい人種だそうだ。ルーナ商会は詐欺まがいの手口で、幾人ものエルフを奴隷にしてきたらしい。ロッコーさんにとって、ルーナ商会は不倶戴天の敵なんだろう。


「ジョージ・アコーギ?それなら、あのエルフはロッコー・ウォータか?…これは大変申し訳ありませんでした。御者には、良く言い聞かせておきますので」

 サージュはロッコーさんの言葉を聞いた途端、頭をペコペコと下げだした。

 そりゃそうだ。爵位がないとは言え俺は貴族だし、バックにはコーカツ・イジワールの二大巨頭がいる。そしてロッコーさんは、ウォーテック家の親戚だ。


「すいませんね。俺には爵位が無いから、馬車に紋章を付けられないんですよ。誤解されないように、今度王様にお願いしてみますね」

 俺の紋章は、やっぱり招きミケになるんだろうか?


「いえいえ、とんでもございません。そうだ、お近づきの印に贈り物を受け取ってもらえませんか?」

 奴隷商からの贈り物、異世界に転生する物語では良く見る展開だろう。しかし俺は奴隷反対派に属している。はっきり言えば、かなり迷惑だ。

 俺の気持ちを知ってか知らずか、サージュは躊躇せずに馬車の荷台に付いているドア開けた。

 物語では可愛い娘を助けてやろうと奮起するんだろうけども、現実は非常である。

(む、無理だ。まともに見れない)


 暗く怨みがこもった視線が俺を射抜く。嘆き・怨み・媚び・怒り…様々な負の感情が混じり合った視線だ。

 私と貴方に何の違いがあるの? 私も貴族に生まれていれば、こんな目に合わなかったのに。奴隷になった俺を蔑んでいるんだろ? お貴族様なら、俺を助けろよ…。

 エアリーディング能力が奴隷の心の声に反応したのか、様々な感情が一斉に流れ込んでくる。

「やめろ。ジョージ様は奴隷を持たないお方だ」

 ロッコーさんの冷徹な声のお陰で、見失いかけていた自分を何とか取り戻す。


「気持ちは嬉しいが、俺の馬車にはヌボーレ伯爵への贈り物が沢山積んでいるんだ。これ以上、人を座らせる余裕はないんだよ」

 我ながら角の立たない上手な断り方だ。事実、馬車にはヌボーレ伯爵に贈る魔石ペンダント・高級歯ブラシ・懐中電灯型マジックアイテム等が所狭しと積まれている。


「しかし、それでは私の立場が…」

 ここは上手く落としどころを提案した方が得策だと思う。何しろ、ルーナ家はナイテックの分家だ。いくらドラゴンが守ってくれているとはいえ、あからさまに敵対するのは得策ではない。


「それなら隷属の首輪を幾つか譲ってもらえるか?」

「はい、今直ぐお持ちします」


 サージュから隷属の首輪を二つ受け取り、逃げ込むようにして馬車へと戻る。正直、物凄く疲れました。


「ジョージ様、その首輪をどうするのですか?」

 ロッコーさんの目が全く笑ってないです。隷属の首輪は目にするのも嫌なんだろう。


「工業ギルドで研究してもらって、行動制限を出来るマジックアイテムを作ってもらおうと思うんですよ」

 何しろ隷属の首輪は、奴隷商しか製造方法を知らないマジックアイテムで、市場に出回る事はまずない。まあ、こんな物騒な物を売られたら困るけど。


「行動制限ですか?」

「酒やギャンブルで身を滅ぼし掛けている人に使うんですよ。酒を飲むなって行動制限を掛けるんです」

 オリゾンには医者がいないから、依存症の治療は困難だ。だからと言って、放っておく訳にはいかない。他にも仕事で取り返しがつかないミスをした人や、大失恋をした人等目離しが出来ない人にも使えると思う。


「それなら使用に関する法律を作る必要がありますね」

 どうやらロッコーさんの疑いは晴れたらしい。問題は誰が使用の許可をするかだ。日本なら医者が使用を決めるんだろけど。

(こんな時に、谷がいてくれたら助かるのに)

 俺のダチに医者をやっている谷崎雄一って奴がいた。でも、喚び方が分からないし、分かっていても喚ぶ事はないだろう。異世界召喚なんて体験しない方が良いに決まっている。


「俺はてっきり女に付けて、好き勝手するんだと思ったぜ」

 俺をそんな目で見ていたのか?いや、ボルフ先生流のジョークだろう。


「俺も男ですから、全く興味がないって言えば嘘になります。でも、事が終わった後の嫌悪感が凄いと思うんですよ」

 スーパー賢者タイムを通り越して罪人タイムに突入してしまうだろう。何しろ自分の身勝手な欲望の結果が、目の前にずっといるんだから。

 パンドラの箱には希望が残っていたけど、隷属の首輪を外して残るのは愛だろうか?それとも怨みなのだろうか?


 今回、俺はゲストだ…なのに、何でこんなに身の置き場がないんだろうか?

今日のパーティーは当代ヌボーレ伯爵が領主を継いで、二十年が経った事を祝う物だそうだ。その為か、領地からも多くの人が呼ばれている。

 織物が盛んな町だけあり、お洒落な人が多い。女性は色とりどりのドレスを着ているし、男性も真っ赤なタキシードや紫のスーツを粋に着こなしている。

 そんな中、俺が選んだのは無難な紺色のスーツ。サラリーマン時代に着ていた安物と違い、職人にオーダーした高級品である。

 サンダ先生に“安物の服でパーティーに参加するのは、招いてくれた人に対して失礼になるんですよ”と言われて作ったんだけども、着手(おれ)が悪いのか高級品も安物に見えてしまう。

 そして大事な事に今気づいた。皆さん、パートナーと一緒に参加されています。お洒落上級者カップルに囲まれた無難ファッションのボッチ君…これは中々の地獄である。


(終わる。やっとこの地獄から解放される)

 それでも、何とか最後まで乗り切る事ができた。総合商店で売り出した新しい服の話をしただけで話題を盛り上げる事が出来たのだ。


「やあ、ジョージ君。今日は良く来てくれたね」


「ヴァルム様、今日はお招きありがとうございました」

 

 流石のヴァルムも今日はマルールさんを連れていない。今日のヴァルムはもてなす側だ。その隣に立つのは、正式な婚約者でなくてはならない。恐らく、マルールさんを連れて行こうとしたが、周囲から止められたんだろう。一人で参加したのはヴァルムなりの意地なのかも知れない。


「どうしても、ジョージ君と話がしたいって人がいてね」

 ヴァルムの話が終わるのを見計らったかのように、太った男が姿を現す。


「どうも、ジョージ様。またお会い出来て光栄でございます」


「サージュさん。さっき振りですね」

 (さっきの奴隷はヌボーレ伯爵への贈り物か…胸糞悪い)

 本当なら喧嘩腰になってでも追い返したい相手なんだが、ヴァルムが傍にいる限り不可能だ。

「帰りなら馬車にも余裕が出来ると思って話し掛けさせてもらいました」


「僕もサージュのお陰で、マルールに会う事が出来た。サージュは、ジョージ君にも素晴らしい出会いをくれると思うよ」

 そう言って無邪気に笑うヴァルムだが、マルールさんにとって二人の出会いは幸せだったんだろうか?


 ただ今、サージュのド派手な馬車の後を追って王都に移動中。


「考えましたね。主催者からの紹介では、無下に断る事が出来ません。ジョージ様どうなさいますか?」

 サージュの魂胆は見え見えだ。奴隷反対派の巨頭ローレン・コーカツの孫に奴隷を持たせて、その牙城を崩したいんだろう。


「鑑定を使って無理矢理奴隷にされた人を見つけて、話を有耶無耶にしたいと思います。最悪、ボーブルの領民と繋がりがある人を見つけて奴隷の立場から解放ですね」

 相手の思惑が分かっていて、わざわざ乗っかってやる義理はない。

 馬車が停まったのはヌボーレ領と王都の境界線にある巨大な建物。無駄に豪華な外観だが、造りは堅牢その物だ。


「ここには王侯貴族の方々にお譲りする選りすぐりの奴隷を置いてあります」

(敢えてナイテック領から遠い場所に作ったんだろうな。本領には見られたくない物も多いだろうし)

 ナイテック家にはきな臭い噂が絶えない。下手に顧客を招いて、本家の悪評が広まってしまたら元も子もない。

 連れて来られてたのは無駄に広く豪華な部屋。幾つもの小部屋と隣接しており、小部屋の中を確認出来るようになっている。部屋には様々な人種が閉じ込められてたが、共通しているのは見目麗しい若い女性だと言う事。

 品定めする振りをして、次々に鑑定していく。


(兎人、破産した商人の娘・ドワーフ、借金にて・エルフ、元冒険者・猿人、フェルゼン帝国貴族…?・猿人、農家の娘)


 …今、とんでもない鑑定結果が出たような…慌てて再鑑定をする。

鑑定結果 イリス・ファルコ。フェルゼン帝国ファルコ伯爵の孫。

 ……驚きの余り、顎が外れそうになりました…これって、国際問題じゃん。

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