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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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ドンガの涙

 俺のしている事は、ある意味大人気ないだろう。相手は貴族とは言えまだ中学生だ。そんな子供相手に自領の兵士を動かしているんだから。

 2時間目の休み時間、俺はボルフ先生と校舎裏で落ち合っていた。


「詳しい状況が分かったぞ。メイリー・イナバはバイトの帰りに襲われたらしい。場所はメインストリートから外れた裏路地。バイトの帰りいつもその道を通っていたそうだ」

 王都リュエルには情報収集専門の職員を常駐させている。その中でもアサシンギルドに所属していた人の情報収集能力は抜群で、大した時間も掛けずに事件の概要を掴んでくれた。


「例の奴等との接点は掴めましたか?」

 今回の事件は中坊(こども)がした悪戯では済まされない。もし、このまま俺の派閥の人間が犯人と決めつけられたら、ボーブルの経済的損失は計り知れなかっただろう。

 何より許せないのは無関係の少女を巻き込んだ事だ。イナバさんは、右腕の骨が折られた上に、顔に大きな傷を負ったらしい。


「ああ、その路地の近くに奴等の溜まり場があるそうだ」


「ロッコーさんに連絡して女性神官をイナバさんの家に向かわせて下さい。それと護衛として、この間契約した女性冒険者を派遣します」

 何しろ真犯人は男。男性神官や騎士を向かわせたら、恐怖感を煽るだけだ。


「しかし、お前の鑑定魔法は便利だな。装備した人間まで特定出来るんだからよ」

 鑑定の結果、最後に布を身に着けていたのはボーンタ・オニゾッリーだった。多分、ボーンタに布を渡したのはケインだろう。そしてケインに渡したのは、ミリカ・ウォールナットだと思う。


「最後に装備した人間を知るまでとなると、1分以上鑑定しななきゃ駄目ですけどね」

 女性の装備品を鑑定する時は、気を付けないとセクハラ扱いされそうだ。


(あの時にこの力があったら、もう少しうまく立ち回れたのかもな)

 彼女を鑑定して、違う男の名前が出てくるのは嫌だけども、あんな醜態を晒す事もなかっただろう。


「でも、今のままじゃボーンタがやったっていう証拠がねえぞ」

 俺の鑑定をマリーナが信じるとは思えないし、ボーンタも一笑にふすだろう。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 昼休みに俺が呼び出されたのは講堂。各派閥の生徒が集まっており、かなりの人数が講堂に集まっていた。

 

「逃げずに良く来ましたね」

 マリーナがゴミを見る様な目で俺を見ている。いや、講堂にいる殆どの生徒から、軽蔑の視線を向けられていた。

 

「この状況で逃げたら、俺が犯人ですって言ってる様なもんだからな」

 それに今更マリーナやヒロインズの評価が落ちても痛くも痒くもない。でも、世間の評判を落とす訳にはいかないのだ。

 

「それで真犯人は分かったのかい?これに懲りたらちゃんと手下に手綱を付けときな」

 ヴァネッサは正義感が強い性格だから、口を挟まずにはいられないんだろう。


「犯人は、例の布が教えてくれますよ。ヴェルデ頼む」


「はい、ジョージ様」

 本来ならヘゥーボの晴れ舞台なんだけども、衆目に曝されるのは苦手との事でヴェルデにお鉢が回った。幾つもの商談を纏めてきたヴェルデなら、中学生相手に気後れする事はないだろう。


「それはギリアム商会で出しているドライヤーですね。ヴェルデさん、それを何に使われるのですか?」

 アニエスはロングヘアーだから、ドライヤーの愛好者を重宝してるらしい。


「はい、私達ジョージ派が身に着けている布にはある仕掛けが施してあるんですよ。ドライヤーで熱を加えると、こんな風になります」

 布にドライヤーをあてると、徐々に文字が浮かび上がってくる。


「No.3ヴェルデ・ギリアム?」


「ええ、この布には特殊なインクを染み込ませているんですよ」

 ヘゥーボのインクを見た時、俺は偽造防止に使えるんじゃないかと思った。早い話がインクでシリアルナンバーを仕込んだのだ。


「へー、凄いな。装備者の名前が分かるんだ。ヴェルデ、これ俺の杖にも使えないのか?なあー、頼むよ、ダチだろ」

 ヴァネッサさん、凄い食い付きです。それと俺の時と違って、物凄くフレンドリーです。


「分かりました。しかし、まだ木材や金属に染め付ける方法は開発してませんので、滑り止めの布に染め付けてみては如何でしょう?それと分かるのは最後に装備した人の名前ですよ」

 講堂がざわめく。察しの良い奴はもう分かったんだろう。


「ねえー、マリーナー。どう言う事?僕にも教えてよー」

 どうやらベルは分かってないらしく、上目遣いでマリーナに尋ねていた。


「メイリーちゃんが持っていた布にドライヤーを当てれば犯人が分かるって事よ。カリナちゃん、お願い出来るかな」


「ああ、アタイも犯人を知りたいからな…No.2ボーンタ・オニゾッリー。ちなみに2はドンガの番号さ。そしてドンガは昨日、ミリカに布を貸している…ミリカ、何か言う事はあるかい」

 みんなの視線が集中するが、ミリカは押し黙ったままだ。


「やれやれ、だんまりかい。アタイはこう言うのは苦手だからジョージ、アンタに任せるよ」

 だんまりって言うより、ミリカは誰かを庇っているだろう。


「この布はドンガの物だ。そうするとある矛盾が出るんだよ。ドンガは昨日の夜ボーブルの自宅にいた。つまりドンガにはアリバイがある。それにドンガは普段、布を腕に巻いてるんだ」

 ドンガの身長は今や190を超えている。でも、今はしょんぼりと肩を落として小さくなっているけど。


「メイリーの身長は130ちょっと。どうやってもドンガの腕には手が届かないのさ」

 流石はカリナ打ち合わせ通り。何より伝説の傭兵ギガリさんに鍛えらているドンガが素人の女の子(メイリーさん)に大切な布を取られる訳がない。


「ウォールナットさんがここまで庇う奴は一人しかいない…ケイン、お前がボーンタにドンガの布を渡したんだろう?ボーンタ、お前達が襲撃事件があった路地の近くに、何時もたむろしてるのはもう調査済みだ」

 ボーンタは、メイリーさんが人気のない路地を使うのを見て、今回の一件を思い付いたんだろう。


「だったら、どうした?また大好きな爺さんにチクるのか?大人におんぶに抱っこなお前に何が出来る!!俺は大人の作ったルールになんか縛られないんだよ」

 貴族の子弟とは思えない乱暴な口の聞き方である。でも中学時代って、そういうのが格好良く思えるんだよな。

 

「大人の作ったルールに縛られないか…でもお前は、もしバレても自分が罰せられないのを知ってたからやったんだろ?減らず口は、テメエで銭を稼いでから叩いた方が良いぞ」

 現行の法律でいけばイリヤさんの暴行は罪には問えない。ボーンタは貴族の子弟で、メイリーさんは獣人。そこには身分の差がある。


「金に執着する守銭奴領主と違うんだよ…お前等、行くぞ!!」

 ただ、俺を陥れようとした事は罪に問える筈。問題はオニゾッリー家がどうでるかだ。また金で解決しようとするだろうか…それとも。


「ケイン、行くのは自由だし止めないが、自分のした事をきちんと考えとけ」

 ここでケインとウォールナットに謝らせても、ドンガが惨めになるだけだ。


「ジョージ、ありがと…マリーナ、ジョージに謝りな」

 カリナの問い掛けにマリーナは、ただ俯くだけっだ。


「別に良いよ。それにまだ何も終わってないし…ほら、ドンガ、行くぞ」

 謝られてもメイリーさんの傷は癒えない。何より半ベソかいてるクマ小僧(ドンガ)を講堂から連れ出すのが先である。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「ジョージ様、午後の授業はお休み下さい。ローレン様からお呼び出しが掛かっております」

 講堂を出た俺を待っていたのはサンダ先生だった。事態が事態だけに、爺ちゃんにも報告をしておいたのだ。

 王都にあるコーカツ家の別邸に着くと、有無も言わせずに執務室へと通された。


「ジョージ、うまく動いたようだな。しかし、最後の付けた者が分かるインクとは、どういう仕組みなんだ?」


「あれはフェイクだよ。鑑定で最後に付けたのがボーンタだって分かったから、名前を後から書き加えたのさ。こっちの世界の人間って魔法を過信する傾向にあるから、そこに付け込ませてもらっただけだよ」

 日本と言うか地球では古典的なトリックである。念の為、ヴェルデの他にカリナやラパンさんの布にも細工をしておいた。後日、魔法の継続効果が短かったから、装備者判定効果は廃止にしたって言えば大丈夫だろう。


「オニゾッリーの孫は、まんまとお前に騙されたという事か…今回の落とし所は、どう考えている?」


「ここで金を要求したら、オニゾッリー家から恨まれるだけだから難しいよね」

 前回の賠償金は、オニゾッリー家の家計に大打撃を与えたそうだ。それにこれ以上賠償金を請求したら、オニゾッリー領の税率が上ってしまうかも知れない。


「他には一族の誰かを妾として貰い受けるか、宝飾品か家伝の武具を貰うかだな」

 妾なんてもらったら、母さんやオデットさんに叱られてしまう。あの時のオデットさんの笑顔は、未だに俺のトラウマなのだ。


「やっぱりボーンタに罰を与えて貰うのが、一番妥当でしょうね。一度、痛い目に合わないと懲りないでしょうし」

 出来たらオニゾッリー家が自発的にやってくれたら助かるんだけど。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 それから爺ちゃん達と今後の対策について話し合いをした。事が事だけに中々進まずに、気が付けば3時間が過ぎていた。でも。流石はローレン・コーカツが建てる策に隙がない。

 

「もう、こんな時間か。どれ、ちょっと一休みするか」

 爺ちゃんが人を呼ぼうとしたら、タイミング良く扉がノックされた。


「ジョージ様にお客様で御座います。獅子人の娘ですが、お通しして宜しいでしょうか?」


「…獅子人の娘?分かった、通せ」

 獅子人の娘、カリナだろうか。もし、カリナだとしたら、不味い。幾ら俺の知人とは言え、ローレン・コーカツの私邸に獣人の娘が来るのは前代未聞の出来事だ。


「ジョージ、大変だよ。ケインがボーンタの仲間を辞めるって言ったら、彼奴等に連れて行かれたんだ。そしたらミリカがドンガに泣いて頼んで、二人でボーンタ達を追い駆けて…仲間の中じゃ、アタイが一番足が早いから来たけど」

 カリナは余程不安だったらしく目に涙を浮かべている。そして俺を見つけるなり、抱き着いてきた。


「分かった、場所は予想がついてるから、俺も行くよ…爺ちゃん頼みがあるんだけど…」

 爺ちゃんを見たら、ニヤケ顔で親指を立てていた。うん、爺ちゃんと母さんは間違いなく父娘だ。


「ジョージ、馬車と兵を貸すから急げ。それとカリナ・アイビスさん、朴念仁な孫じゃが宜しく頼みます」

 後から聞いた話だが、カリナの事は母さんが爺ちゃんにしっかり報告していたらしい。

 急いで事件があった路地に向かうと、ドンガがケインとウォールナットを背中に庇いながら、戦っていた。でも、多勢に無勢で身体中傷だらけである。


「ドンガ・シンセロは我が配下だ。その者達を拘束しろ」「ドンガ君は僕の友達です。皆さんお願いします」

 ヴェルデもドンガを助ける為に、私兵を引き連れて駆け付けてくれた。コーカツ家の兵士とヴェルデ商会の私兵が相手では、ボーンタ達が敵う訳もなく瞬く間に捕縛されていく。


「ドンガ!!大丈夫か…ハイドロヒール」


「ジョージ様、おで悔しいだ。修行したのに大切な人も守れなくて悔しいだよ」

 ドンガは大粒の涙を溢しながら大泣きした。負けた悔しさと、失恋の悲しみが混じった涙である。


「これだけ出来りゃ上出来だよ。頑張ったな」

 ヴェルデに目配せしてケインとウォールナットさんを移動させる。


「お、お、でウォールナットさんの事、本当に好きだったんだ。でも、ウォールナットさんはケイン君の事を好きで…一生懸命修行したのにうまく戦えなくて、おでおで」

 ドンガを懐に抱き寄せる。でかい図体はしているが、こいつはまだまだ子供なんだ。


「泣きたいだけ泣けよ。そして俺に付いて来い。あの二人が悔しがる位に凄え奴にしてやるから」

 ひとしきり泣いた後、ドンガがしゃくりをあげながら尋ねてきた。


「凄え奴って、何か当てはあるだか?」

 丁度、タイムリー過ぎる当てがある。


「今度、イグニス荒野に修行に行く。お前も付いて来るか?」

 ドンガ無言で力強く頷く。その顔はさっきより少しだけ大人びていた。


「アタイも行くよ。ダチを守れる様になりたいし…それに、ローレン様に頼まれたしね」

 カリナは何かを誤魔化す様に、早口で捲し立てる。装備の確保、パーティーの連携、考える事がさらに増えた。でも、頑張ろう。こんな俺に付いてきてくれる人の為に。

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