ジョージとドンガの初恋
…もう、おじさん疲れました。ヒロインズ+αチームによる派閥の色分けが予想外の事態を生んでしまった。各派閥の勧誘が激化ししまったのだ。脅迫紛いの強引な勧誘や、他派閥による引き抜きまで出てきて学校でも問題になっている。
ちなみに俺の所が派閥の中では一番所属人数が少ない。どうせ担ぐなら年中しかめっ面のフツメンより、勇者の血を引く美少女やイケメンのヤンキー貴族の方が良いとの事。
(しかし、俺にどうしろってんだ…)
華美な装飾が施された手紙から発せられる圧力が胃を傷めつける。ただでさえ、農作物の育ちが芳しくなくてストレスが溜まっていると言うのに。
「またお願いの手紙が届いたのか?」
執務室で机に突っ伏していると、ボルフ先生の溜め息混じりの声が頭上から降ってきた。
「今度はモデスト男爵からですよ。五女のイリヤさんがヴァネッサグループに深入りしてるから、何とかして欲しいとの事です」
何とかしろ言われても、イリヤさんと面識がないからどうしようもないんだが。下手に声を掛けて勧誘と勘違いされたら、藪蛇だし。
「ヴァネッサって、確か奴隷制反対を唱えてるんだよな」
そしてイリヤさんの父モデスト男爵は奴隷推進派に属している。
「男爵は一代爵位ですからね。奴隷推進派のトップゴルド公爵の耳に入る前に何とかしたいんでしょ」
それこそ爵位を持たない小倅にお願いする位に追い詰められていると。
「しかし、最近この手の手紙が随分届くな。お前みたいな嫌われ者に頼んでも、効果は期待出来ないってのによ」
ボルフ先生の言う通り、俺は各派閥から満遍なく嫌われている。
マリーナ派からしたら、金でマリーナを縛っている嫌な男に映っているだろう。
ボーンタ派からしたら、俺は大人の力を借りて仲間を他領に追いやった嫌な奴だろう。
ヴァネッサは祖父ヴァレリーを尊敬しており、ヴァレリーの援助を断った爺ちゃんを憎んでいると言う。ちなみにヴァネッサはマリーナの親友でもある。
アニエス派は金を稼いでいる癖に寄付を出し惜しむ俺の事を卑しい男だと軽蔑しているそうだ。
ベル派には当然ドワーフが多い。俺のスカウトで親戚や幼馴染みと離れ離れになった人が少なくないと聞く…こんな俺にどうしろと言うんだ。
「親の勧める派閥に入っていれば問題ないんですけどね。寧ろ逆の方が多いみたいですよ。何より各派とも主張に正当性があるから、親御さんも反対し辛いみたいですね」
最初は親が勧めた派閥に入っても勧誘で、別の派閥に移るパターンが多いらしい。
「それで、お前はどうするんだ?」
「今は何もしませんよ。第三者に頼んで諌めてもらうしか出来ませんし」
俺が下手に首を突っ込んだら逆効果だ。ましてやイリヤさんは女性。俺にその気がなくても、いくらでも悪い噂をたてれる。
「今はか…」
そう今は動く時期じゃない。派閥の勧誘や引き抜きが激化すれば、もっと大きなトラブルが起きると思う。全員が全員、派閥の掲げる主張を正しく理解していると限らない
そう、人を率いるのは、とんでもなく大変なのだ。有給申請の多さと、とんでも陳情に苦しんでる領主が言うんだから間違いない。
そんな簡単に道路は出来ないし、財政が黒字だからって税金は下げられないっての。
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俺は配下思いの領主だと思う。決して家柄や見た目で贔屓はしない…いや、親御さんが実力者の時は、多少は配慮してしまうが。
(おいおいおい、春の陽気のせいで、おかしくなったんじゃねえだろうな)
今朝からドンガの様子がおかしい。授業中も心ここにあらずと言った感じで、全く聞いていなかった。
そして病状は放課後にマックスになっていた。今俺はドンガ、カリナ、ヴェルデ、そして最近俺の派閥に入ったコニー・ラパンの五人で帰路についている。この面子でいけば、どうしてもドンガが余ってしまう。それにも関わらず、ドンガのテンションは高いのだ。
「ウフッ、ウフフッ。ジョージ様、春は良いだなー。心がウキウキしてくるだ」
もう、ニヤケ顔全開で今にもスキップをしそうな勢いだ…見た目で贔屓をしない俺でも、ドン引きしそうな位に気持ちが悪い。
「お、おう。何か良い事でもあったのか?」
「聞きたいだか?聞きたいだよねー。しょうがないだなー」
ドンガはそう言うと顔を赤らめながら、モジモジしだした。
(ヴェルデ、ヴェルデ。ドンガの奴なんか悪い物でも食ったのか?)
(思い当たるのは、ウォールナットさんと日直が一緒だった位ですけど)
ミリカ・ウォールナットは、ドンガが片思いしている栗鼠人の少女だ。そう、あくまでドンガの片思い。肝心のミリカは、同じ栗鼠人の少年ケイン・ナッツに惚れている。
「と、取り敢えず聞かせてくれ」
「今朝、ウォールナットさんから“ハンカチを忘れたから、ドンガ君が腕に巻いてる布を貸して“って頼まれただよ。これって仲良しになれた証拠だよな」
ドンガが腕に巻いてる布。それは俺の派閥に入っている証の灰色の布だ。
「おう、かも知れない…」
(カリナ、ラパンさん…本当にウォールナットさんはハンカチを忘れたの?)
(いや、アタイはミリカが自分のハンカチを使ってるのを見たぞ)
(ミリカは、何時もケイン君の分と二枚ハンカチを持ってきていますよ)
ミリカはケインに誘われてボーンタ派に入った筈。…なんか嫌な予感しかしない。
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嫌な予感って、当たるんだよな。ラッキーな予感は滅多に当たらないけど。
昨晩、マリーナ派に所属している少女が誰かに襲われたらしい。その側に落ちていたのは灰色の布。そう、俺の一派に属している奴しか持っていない物だ。
「最低です。仲間を使ってメイリーちゃんを襲わせるなんて」
そして俺は久し振り振りに会った婚約者になじられています。襲われたのは、兎人の少女メイリー・イナバ。
「もう一度聞く。イナバさんが抵抗した時に布が、外れたんだよな」
「そんなの貴方が一番分かってるんじゃないですか?か弱いメイリーちゃんを、狙うなんて卑怯です」
マリーナとメイリーは小学校からの友達で仲も良かったらしく、当然マリーナは激怒している…そして俺も怒っていた、手の込んだ悪事を企てた犯人に。
「その布は、今どこにあるんだ?」
布があれば冤罪を晴らせられる。問題はどうやって真犯人を追い詰めるかだ。
「動かぬ証拠として私が保管しています。放課後、王宮騎士団に届けますからね」
マリーナが鞄から取り出したのは灰色の布。話を聞いて調べさせたら、行方不明になっているのはドンガの布だけだったから、あの布はドンガの物だろう。ドンガも事実に気付いているらしく、半ベソ状態だ。
(さてと、鑑定……やっっぱり、そうか)
鑑定のスキルが上がったらしく、時間を掛ければ色んな情報を得る事が出来る様になった。
「ちょっと、その布を貸してくれないか?昼休みにでも俺達が犯人じゃないって証明してやるよ」
「駄目です。そんな事言って、証拠隠滅をするつもりなんじゃないですか」
信用ないな、俺…いや、この状況じゃ、どんな関係でも信用されないか。
「そうしたら婚約を解消するなり何でも言う事を聞くよ。布は第三者に預かってもらっても良いし」
この世界には指紋を採取する方法なんてないから、持ってるだけでは証拠を消す事は出来ない。
「それならアタイが預かるよ…メイリーはアタイの幼馴染みなんだから、文句はないよね」
マリーナ以上に怒っているカリナの提案に、マリーナも渋々納得した。
「昼休みですよ。証明出来なかったら、覚悟して下さい」
マリーナが出て行ったのを確認して、俺は指示を出す。
「ヘゥーボ、例のインクを持って来い。ヴェルデは証明に使うあれを持って来てくれ」
さてと、逆襲の始まりだ。




