ジョージの面接
活動報告にある結婚式の余興の練習で更新が遅れました
弱小領主は悩みが尽きない。今俺を悩ませているは、一枚の招待状。
(ヌボーレ伯爵家主催のパーティーか…正直行きたくないんだよな)
ヌボーレ伯爵は王都の北北東に領地を持っており、主な産業は織物。ヌボーレ伯爵領の織物は良質で安価だとオリゾンでも有名だ。洒落物を自負する人の中には、ヌボーレ産の織物を使った服以外には袖を通さないって人もいる位だ。
その為、ヌボーレ伯爵領の経済は大いに潤っているらしい。問題は何故良質の織物を安価に輸出する事が出来るかにある。答えは簡単、奴隷を使って人件費を抑えているのだ。
「ジョージ様、お早うございます。早速ですけど、歯ブラシの追加注文をお願いしたいんですが。それと御相談があるんですけど…ジョージ様もヌボーレ家のパーティーにお呼ばれされたんですね。当然、参加しますよね。人を覚える絶好の機会ですよ」
挨拶と同時に発注をしてきたのは狸小僧ヴェルディ。確かにヌボーレ家のパーティーには各界の有名人が招待されるそうで、人脈を広げるのは格好の機会である。
「参加した方が良いよな」
参加した方が良いと頭では分かっているが、どうも気乗りがしない。
「当たり前じゃないですか。王族の方々や貴族以外にも有力商人や人気歌手、有名スポーツ選手も参加するパーティーなんですよ。呼ばれただけでも社交界での地位が上がるんですよ」
ヌボーレ伯爵のパーティーに呼ばれるのは社交界のステイタスとの事。そんな場違いな場所に、俺なんかが行ったら顰蹙を買ってしまいそうだ。
「だよな。個人の好き嫌いよりも、領地の損得の方が大切なんだし」
貴族としての地位も領地の経済力も、向こうの方が数段上なのである。そして新規事業に織物は不可欠。
「まさかヌボーレ伯爵が奴隷尊重派だからじゃないですよね?…気持ちは分かりますが、対立するにはまだ早過ぎます。それにヌボーレ領では奴隷にも人権が与えられていますし」
ヌボーレ領で織物製造に携わっている奴隷は寝食が保証されているそうだ。しかし、ゴルド公爵やモデスト男爵の領地だと家畜と変わらない扱いをされているらしい。
しかし、ヴェルデの奴キャラが変わり過ぎだろ。ゲームだと“ぼ、僕には分かりません。パパに聞いてきます”がお約束の台詞だったのに。
「分かったよ。余り深入りしないように立ち回るさ。それで相談ってのは、なんだ?」
表面的な付き合いと、どっちつかずな態度はサラリーマン時代に散々鍛えてきたし。
「はい、うちの支店で布を専門に扱っている店があるんですが、ここ何日か五色の布が飛ぶ様に売れているとの報告がありました。そして布を主に買っているのは、うちの学生らしいんですよ」
布の色は白・赤・水色・黄色・紫の五色との事。
「例の派閥か」
白はマリーナ派、赤はヴァネッサ派、水色はアニエス派、黄色はベル派、そして紫はボーンタ派が買っているらしい。
「ええ、所属している派閥の色の布をを身に着けている生徒が大勢いました」
学生時代って、そう言うノリ好きなんだよね。ヴェルデの話ではスカーフやバンダナの様に使ってみたり、これみよがしに腕に巻いてる生徒もいるそうだ。
「どうせ、下っ端の連中が勝手に盛り上がってるだけだろ。そのうち恥ずかしいって気付いて止めるさ」
「そうもいかないんですよ。布を身に着けていない生徒が強引な勧誘にあっているんです。そこで僕達ジョージ派でもシンボルカラーを決めようと思いまして」
そう言ってヴェルデが取り出したのは、灰色の布。ジャパニーズサラリーマンのスーツのポピュラーカラーグレーである…俺のイメージはグレーなんだろうか。
「それをシンボルカラーにしろと?」
「ええ、ちょっと在庫がダブついてまして…いえ、渋い灰色は大人っぽいジョージ様を連想させますので」
本音は在庫処理かい。まあ、余り派手な色を選ばれるよりマシだけど。
「分かったよ。お前に任せる。その代わり価格は抑えてくれよ」
うちのクラスは金持ちが少なく、バイトや家業の手伝いをしてる奴も多い。余計な負担は掛けさせたくない。
「ジョージ様、ちょっとよろしいですか?…丁度良い、ヴェルデ君もいますね。新しいマジックアイテムを作ったので、見てもらえますか?」
やって来たのはヘッポコ発明家のヘゥーボ。グルグル眼鏡がピカッと光った。
「良いけど、何を作ったんだ?」
期待はしないが良い気分転換になると思う。
「これです。消えるインク秘密まもる君です」
ヘゥーボが取り出したの小さなインク瓶。しかし、ネーミングセンスのなさはゲームと変わらないな。
「消えるインク?文字が消えたら読めなくなるじゃないですか」
流石は商人狸。既に値踏みに入ってやがる。
「フ…この秘密まもる君の凄い所は自由自在に文字を消したり浮かび上がらせたり出来るんです。これがあれば機密文書の秘匿性は更にアップ。付いて来て下さい」
ヘゥーボが肩で風を切りながら向かったのは理科室。理科室にはバットが置かれており既に準備万端だ。
「まず秘密守る君をペンにつけ文字を書きます。そして数秒すると字は綺麗さっぱり消えるんです」
確かにヘゥーボの書いた文字は跡形もなく消えた。
「どうしたら文字が出るんですか?」
「秘密守る君は熱に反応するんです。見ていて下さい」
ヘゥーボはヴェルデのジト目を華麗にスルーしながら、バットにお湯を貯めた。そしてそこにさっきの紙を投入すると
「紙が跡形もなく溶けて消えたな…」
これぞ安心のヘゥーボクォリティー。流石は違う意味で期待を裏切らないエルフ。
「待って下さい。火で炙れば大丈夫です…熱いっ」
今度は紙に火が燃え移り焼けてしまった。そしてズドンと落ち込むヘゥーボ。
「字が読めないと意味がありませんよ。商品としての価値はありませんね。ジョージ様はこの後新規事業の面接が控えているんです。終わりますよ」
ヴェルデの情け容赦ない突っ込みが炸裂する。…確かにこのままでは何の意味もない。でもあれを使えば
「二人共ちょっと良いか?」
ヘゥーボの才能も俺がうまく活かしてやる。
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俺の側近は男の割合が高い所為か、会議室はいつも男臭い。ハウスキーパー部門の職員から会議終了後には換気の徹底をお願いされてる位だ。しかし今日の会議室には、女性独特の甘い匂いが充満していた。
(これが通勤電車なら痴漢冤罪が怖くて、絶対に逃げてたな)
大勢の異性に囲まれて幸せを感じられるのは、勝ち組か自信家の人だけだと思う。俺はこの世界では勝ち組の貴族であるが、その中身は負け犬根性が染み付いてる独身中年なのだ。
「皆様、初めまして。ジョージ・アコーギです。今回はアコーギ領の新規プロジェクトに応募してくれた事を感謝します」
(目や胸に視線を移すな…男のチラ見は女のガン見)
新規プロジェクトに応募してきてたのは全部で25人。種族も年齢もバラバラ、彼女達に共通しているのは現役の冒険者と言う事だけだ。護衛や魔物退治で日常的に命のやり取りをしている所為か、皆威圧感が凄い。優しげな顔付きをしている神官でさえ、ヤクザ顔負けの威圧感を放っている。
「質問がある。私達は長期の護衛と言う話を聞いて来たんだ。まさか、お前の寝室の護衛をしろってんじゃないよね」
最初に口を開いたのは三十そこそこの猿人女性。ここで機転の効いた言葉で彼女のハートを鷲掴みに出来れば格好良いんだろうけども、俺にそんな芸当が出来る訳ない。
「口を慎みなさい。貴女方より年は下ですが、ジョージ様はボーブルの領主です。本来なら直答等出来ない事を忘れない様に」
オデットさんが冷徹な言葉で猿人女性の質問を、ピシャリと封じ込めた。実力で敵わないし、女性相手に口で敵うわけがない。だからオデットさんに応援を頼んだのだ。
…直答云々言ったが、うちはその辺は結構フランクである。仕事だから敬語は徹底しているが、取り次ぎを使う事は殆んどない。
「皆様にお願いしたいのは、夏季にオープンする総合商店の護衛です」
俺に出された課題、女性が喜ぶ施設。その答えが服屋、宝飾店、レストラン、デザートショップ、イベント広場を一か所に集めた総合商店だ。ヴェルデには驚かれたが、日本にあるショッピングモールを丸パクリしただけである。そんな簡単に女性を喜ばすオリジナルアイディアが出せていたら、三十前に結婚出来ているのだ。
「質問があります。なんで護衛を女性冒険者に限定されたのですか?」
おずおずと手を挙げたのはエルフの神官。彼女の疑問も最もだ。何しろ冒険者は男の方が多い。女性冒険者限定で依頼するのは、同性に護衛してもらいたい女性か助平な男だけである。今回の依頼を見た人の中に、俺の事を後者の人間と判断した人がいるかもしれない。
「今回の総合商店のメインターゲットは、貴族の女性です。厳つい男性冒険者が護衛をしていたら、お客様がリラックスして買い物を楽しんで頂けないと思うんですよ。他にもありますが、これ以上は護衛をお願い出来る方にのみお話したいと思います」
冒険者の中には、粗野な言動を好んで使う奴が結構いる。中には女性にエロい事を言って喜ぶセクハラ野郎もいるらしい。早い話が男性冒険者の中には民度が低い人もいて、今回の依頼には向かないのだ。
「ボーブル城に勤めている友人に“福利厚生が充実してるし、有給も取りやすいから絶対に受けなさい“と言われたんですが、本当ですか?」
「ええ、総合商店の近くに女子寮を作りますし、各集落から送迎ゴーレムバスが出ます。また、ボーブル製の装備を社割りで購入する事ができます。この後、個人面接になりますので、そのままお待ち下さい」
わざわざ送迎をしなくてもと言われたが、総合商店で働くのは護衛の人だけではない。店員や調理員、清掃担当の人も必要だ。当然、その人達には給料を掛ける。どうせ給料を掛けるんなら、ボーブルの領民に金を掛けて内需の拡大を狙うのだ。
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会議室から退室すると、どっと疲れが押し寄せてきた。虎の威を借りてはみたが、強者から受けた威圧感だけで狐はクタクタです。何とか執務室まで移動して、椅子に倒れ込む様にして座る。
(さて、誰を残すかな)
何しろVIPを対象とした施設だ。安全に配慮しなければならない。彫像に擬態させたゴーレムを各所に配置しているし、騎士団が外周を定時でパトロールを行う。
問題は施設内の警備。買い物を楽しむ施設にゴツい鎧を着た騎士がいたら興醒めだろう。
「お疲れ様です。ホットミルクをお持ちしました」
サンダ先生が持ってきてくれたの蜂蜜入のホットミルク。柔らかな甘みが疲れた胃に染み込んでいく。
「ありがとうございます。個人面接にはサンダ先生も参加して下さいね」
個人面接にはサンダ先生・オデットさん・ボルフ先生・ロッコ―さんの4人にも参加してもらう。
「しかし、なんで女性冒険者に限定されたんですか?」
「この世界の女性、特に貴族の女性は男に抑圧されます。だから男を気にせずに気ままに買い物を楽しませる場所を提供したら喜んで貰え得ると思ったんですよ」
母さんの扱いを見たら貴族の女性に自由がないのが分かる。そして自由があれば物凄く輝ける事も。
「しかし、それなら男性冒険者や騎士でもうまく出来ると思うのですが」
「そして二つ目。女性貴族を対象にしてますが限定は出来ませんからね。怪しい人も来る可能性が高いでしょ…サンダ先生は万引きした女性の身体検査は出来ますか?」
万引きした品が出て来ても、異性に身体を見られたとあっては大問題になってしまう。
「確かに同性なら問題ないですし、スカウト職や盗賊上がりの冒険者なら万引きを見逃さないですもんね」
餅は餅屋ではないが、盗みを防ぐにはプロに任せるのが一番なのだ。
「そして三つ目。男性冒険者の中には、貴族の女性に近づいて出世を狙う奴がいます。既婚のお客様や婚約者のいるお客様を口説かれたらたまりませんからね」
何しろ貴族の男はプライドが高い。いくら恋愛感情を持っていない配偶者や婚約者でも寝盗られたとなったら激怒間違いなしだ。
「貴族の女性と冒険者の恋は劇でも定番ですしね」
危険なアバンチュールを楽しむのは勝手だが、巻き込まれるのは勘弁だ。
「そして最後に彼女達には総合商店で売る新しい服を着て仕事をしてもらいます。総合商店では女性の様々なファションを提案して行く予定なので」
残しておいて良かった。キャラ画像、俺にはファションセンスなんてないからキャラ画像を仕立屋に見せて作ってもらう予定だ。
「このシークレットトークとは、なんですか?」
「それは後々のお楽しみですよ」
サンダ先生に言ったら絶対に怒られるし。




