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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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ジョージと派閥

 異世界レコルトに転生して早13年。漸く中学二年になった。中学二年と言えば青春真っ盛りで、箸が転げても楽しい年頃。俺も前世の時は恋に胸をときめかせたり、輝かしい未来を夢見ていた。

 しかし、今は領地の運営や貴族のお付き合いに胸を痛め、魔王が復活するというやば過ぎる未来を危惧する毎日だ。この学校で一番冴えない顔をしているのは、俺だと思う。

 夏から始まる新規プロジェクト[女性も楽しめる新たな娯楽場]が大詰めを迎えている…と言えば聞こえは良いが、次々に問題点が浮かび上がり睡眠時間がドンドン削られていってる。ラノベ風に言うと“異世界でデスゲームに巻き込まれました“ならぬ“異世界でもデスマーチを始めました“なのだ。


(これだけ金を注ぎ込んで大コケしたらどうしよう。なんか目玉になるイベントが欲しいんだけどな…有名吟遊詩人や演奏家を呼ぶにしてもコネがないし) 

 色々と追い詰められて廊下を歩きながら、策を練る始末。絶対に身体に悪いし、良いアイディアを閃かないのも分かっている。しかし、心配事や中途半端なアイディアだけが浮かんでは消えていく。

 

「ジョージ先輩」

 突然、背後から声を掛けられたので思わず振り向く。


(先輩なんて呼んでくれる程、仲の良い一年はいない筈なんだけどな…えっ?)

 声の主を確かめようとしたら、頬に何かがあたった。頬にあたっているのは人差し指、後ろから声を掛け振り向かせて頬を突っつく悪戯だ。


ふぁれだ?」


「お兄様、おはようございます」

 そこにいたのは、悪戯が大成功して喜んでる新一年生アミ。アミも4月から中学生になった…色々と忙し過ぎて入学式には行けなかったけど。取り敢えず、お兄様の疲れが一瞬で癒されたのは言うまでもない。


「アミか。良くここまで来れたな」

 俺のクラスメイトは、獣人や市民の子供が殆んどだ。中には貴族や騎士の子弟に対して良い顔をしない奴もいる。伯爵の娘であるアミにとって、決して居心地が良い場所とは言えない。


「だって、お兄様全然会いに来てくれないんですもの」

 アミはプッと頬を膨らませながら、俺を睨んでいる。私怒ってますよって、アピールだ。


「ごめん、中々時間を作れなくてさ。それに、俺なんかが行ったらアミに迷惑だろ?」

 もう少しイケメンな兄貴ならアミも自慢出来るかも知らないが、俺の場合はマイナスになってもプラスにはならないと思う。


「お兄様っ!!そんな事を言う口は、こうしてさしあげます」

 アミは俺の頬を指で摘むと、ムニムニと弄りだした。


「ふぁにするんだよ」

 

「お兄様はアミの自慢のお兄様です…もう、目の下に隈が出来てますよ。お兄様はお仕事のし過ぎです」

 アミから聞いた話では、俺のワーカホリック振りは社交界でも有名らしい。俺からしたら、この世界の貴族は仕事をしなさ過ぎなんだけど。


「もう少ししたら、落ち着くから大丈夫だよ」

 でも余裕が出来たら、火属性強化の為にイグニス荒野に行く予定である。


「いーえ、アミはもう騙されません。サンダ先生がこの間仰ってました“ジョージ様は一つの仕事が落ち着く前に、次の仕事の構想を練り始めるんですよ”って。少しはご自分の身体を大切になさって下さい」

 そう言われてもレコルトには、ネットどころかテレビすらない。歌劇や芝居はあるが、上演されるのは甘ったるい恋愛物か過剰に装飾されまくった勇者の活躍譚ばかり。正直言って仕事をするか鍛錬してる方がよっぽどマシなのだ。


「分かった。これからは週に一回はきちんと休むから」

 ゲームを自作すれば少しは暇を潰せるだろう。尤も、その為には休みを潰してプログラムを組まなきゃいけないんだけど。


「お休みの日は、ぱそこんに触るのも鍛錬するのも禁止ですよ…早速ですけど今日の放課後時間はありますか?お兄様にご相談したい事があるんですが」

 色々と立て込んではいるが、他ならぬアミの頼みだ。最悪、睡眠時間を削れば何とかなるだろう。


「分かった。待ち合わせは校門で良いか?」


「はい。それでは失礼します」

 アミはそう言うと元気良く走り去って行った。


「あの子がアミ・アコーギ様か。可愛い子だね」

 カリナの話ではアミは勇者の子孫に負けない人気らしい。お兄様、鼻高々です。

 

「だろ?俺の自慢の妹さ」


「デレデレしちゃって…どうする“お兄様、好きな男の子が出来たから相談に乗って下さい”って言われたらさ」

 …なんて怖い事を言うんだ。顔が青ざめてしまったじゃないか。


「先ず、相手の素性を調べあげるだろうな。そして遊びだったら、とことん追い詰めてやる」

 ボーブルの誇るアサシン部隊の出番だ。場合によっては非合法な手段も使ってやる。


「話には聞いてたけど、噂に違わぬシスコンぷりだね。そういやアミ様には婚約者はいないか?」

 カリナが年下のアミに様を付けるのは、周りへの配慮だろう。


「今は社交界にデビューさせて好条件の相手を探してる最中だと思うぜ。社交界での評判が高まれば公爵家や王族との婚約もあるからな」

 実家は伯爵家だし親戚にはコーカツ公爵がいる。条件的には申し分ない。しかもアミはおれが太鼓判を押す美少女、引く手数多だと思う。

 難点は生真面目な性格、アミはアランの第三、第四夫人に嫌悪感をあらわにしている。もし自分の旦那が側室を持ったり浮気をしたら、激怒しかねない。人としては怒るのが当たり前だけれども、オリゾンでは一夫多妻制を禁止していないから場合によってはアミが責められるだろう。貴族の場合、奥さん一筋の旦那と結婚出来る方が稀なのである。


「まるで物みたいな扱いだね。あんたはそれで良いのかい」

 日本にいた頃は一夫多妻制なんて他人事でしかなかった。浮気をする奴はいても、重婚をする奴はいない。ましてやハーレムなんて絵空事でしかない。しかし、レコルトに来て生で見てみると、反吐が出そうな位にムカつく物でしかなかった。他人の都合や欲だけで、人生を決められるなんて許せる訳がない。

 

「良い訳ないだろ。その為にも力をつけてんだよ。アミを泣かしたら怖いお兄様が黙ってないってね」 

 力のない奴がどんなに喚いても、スルーされて終わりだ。マリーナとの婚約も含めて、権利を主張するには力が必要だと思う。


「中々のシスコンだね。程々にしないと、アミ様に嫌われちゃうよ」

 カリナはそう言うとクスクス笑いながら、小走りで立ち去って行った。オレンジ色のポニーテールを左右に揺らしながら。


__________


 放課後、校門に向かうと既にアミは待っていた。漫画やゲームなら不良やチャラ男に絡まれるんだろうけど、ノープロブレム。アコーギ騎士団から派遣された騎士がしっかりとアミをガードしている。


(アランも心配性だね。俺の時は一人も寄越さなかった癖に)

 まあ、俺の場合小学校から独自で護衛を雇ってんだけど。良く考えれば可愛げのない餓鬼である。


「ご苦労、アミは借りて行くぞ。アミお待たせ」


「ジョージ様、遅くなると我々がアラン様に叱られますので」

 ゲームや漫画のお兄様なら騎士を一喝するんだろうけど、俺は元サラリーマン。彼等の辛い立場が分かる。嫡子である俺には逆らえないし、アミに気分転換させたい。でも上司アランに怒られたくないのだ。


「一時間位なら大丈夫だろ?行く店も決めてるから付いて来れば良い。たまには嫡子としての義務を果たさなきゃいけないしな。昼飯、食べてないだろ?好きな物を食べて良いぞ」

 護衛騎士は、何かあったらいけないからと言って持ち場を離れる事を禁じられている。うちの場合は交代制、ボルフ先生に至っては、昼飯代を俺のツケにしてくる。


「しかし、ジョージ様やアミ様と食事を共にする訳にはいきませんので」

 そりゃそうだ。彼等にも立場があるし、外聞が悪い。何より領主の息子や娘と飯を食ってもうまくないだろう。俺だって社長の子供達と、お食事会なんてなったら緊張で喉を通らないと思うし。


「それなら俺の護衛と意見交換会って事で。去年から護衛してるんで色々と詳しいと思うぞ…帰りの護衛は」

「ジョージ様、俺ですよ。さぁ、護衛同士腹を割って話しましょう。今日はお土産付きですよ…良いだろ?」

 良いだろの部分だけ、小声で話すボルフ先生でした。

 行く先は、お約束のカリナの店。


「いらっしゃい。ボルフさん、さっきはありがとうございました…ジョージ、支払いよろしく」


「分かったよ。後ろにいる騎士の注文も聞いてやってくれ。アミは何食べる?」

 声を掛けたがアミの返事はなし。何しろアミは、メニューに書かれたデザートに釘付けになっている。


「凄い…生クリームを使ったクレープに、ワッフルもある。どれにしようかなー」

 カリナの店には、ボーブル特産の砂糖や生クリームをを格安で卸している。貴族のご婦人がお忍びで来る事もあるらしい。


「好きなのを頼めば良いよ…それで相談ってなんだ?」


「あっ…いえ、ごめんなさい。お兄様にお願いしたのに、デザート選びに夢中になっちゃって…」

 失敗、アミは顔を真っ赤にして俯いてしまった。転生したからと言って女性の扱いが、うまくなるって事はないらしい。


「もう、もう少し女の子の気持ちに配慮しなよ。アミ様初めまして、ジョージ様と同じクラスのカリナ・アイビスです。獅子人が作るデザートで良かったら、食べて下さいね」

 獅子ライオンが、見事に猫を被った。流石は客商売のプロ。


「お兄様と同じクラスなんですか?カリナ先輩、こちらこそよろしくお願いします…それとカリナ先輩にも聞いて貰っていいでしょうか?」

 人種や立場に関係なくきちんとした挨拶が出来ていて、お兄様は鼻高々である。


「私で宜しかったら、大丈夫ですよ」

 カリナは、そう言うと俺の隣に腰を掛けた。


「ありがとうございます。実は何派に入れば良いか悩んでるんです」

 不味い、知らない単語が出て来た。何派?オリゾンに男性アイドルグループはいないし、まさか目玉焼きに醤油を掛けるかソースを掛けるかで分裂する訳ないし。


『カリナ、何派ってなんだか分かるか?』


『あー、最近マリーナ派やアニエス派ってのが、出来たんだよ』

 何でも学園全体でマリーナ・アニエス・ベル・ヴァネッサを信奉するグループが生まれたそうだ。それぞれ有力な生徒を取り込むのに必死で、アミも複数のグループから声を掛けられているらしい。


「また、面倒な事を始めてくれちゃって…アミが何を習いたいかで、決めても良いんじゃないか?それなら角が立たないし。例えば治癒魔法を習いたいならアニエス派、攻撃魔法を習いたいならヴァネッサ派に入るとかさ」

 あの人が好きじゃなく、あの人から何かを教わりたいで決めれば文句の付けようがないだろう。

 

「そうですね…考えてみます。お兄様は誰派に入られるんですか?」

 4グループの他に不良が多いボーンタ派もあるそうだ。


「俺は無所属さ。そんな暇があったら仕事をするよ」

 

「あんたはジョージ派に決まってるだろ。うちのクラスはあんたがいるお陰で、強引な勧誘がないんだし。人数は少ないけど、現役領主にギリアム商会の三男ヴェルデもいるんだ。他の派閥もおいそれと手を出せないよ」

 知らぬ間に担ぎ上げられてました。まあ、勧誘や運動はせずに、面倒事を避けたい奴が断る理由になればそれで良い。ジョージ派なんてこっ恥ずかしいだけだし。


「ジョージ派ですか!!カリナ先輩、私もお兄様派に入ります」

 アミの悩みはあっさり解決したらしい。お兄様は、妹がデザートに夢中になってる間に対応策を考えるとしよう。

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