ジョージと認証式
不味い、意識が朦朧としてきた。膝はガクガク震えているし、なんか酸っぱい物がこみ上げてきている。緊張とプレッシャーで気絶寸前です。
今日はボーブルの独立が認証される日だ。場所はリュミエール城にある謁見室。重厚な扉の向こうから、物凄いプレッシャーを感じる…統治認証式、腹痛で欠席したら怒られるよな。
「ジョージ・アコーギ入りなさい。王様がお待ちです」
厳しい騎士の声に導かれて入ると、そこにいたのはオリゾンの重鎮と言われているお歴々。重鎮の方々は、部屋の端に直立不動で立っていた。その先にいらっしゃるのは、オリゾン国王アヴニール・オリゾン。
(ここ進めと?…無理、無理、無理。てっか、なんで誰もこっちを見ないんだよ)
拍手で出迎えてくれとは言わないが、一言も喋らないのは怖すぎる。それと王様、俺をガン見するのは、やめて下さい。胃がボロ雑巾みたくなってしまいます。
「ジョージ殿、お進み下さい」
玉座までは約20メートル。でも俺には、とてつもなく遠く感じる。ついでに視界が狭くなってるし、足元もおぼつかない。
(えっと、王様の前に跪くと、王様が杖で俺の頭を軽く叩く。そうすると脇に控えている大臣が、“オリゾン王はジョージ・アコーギの統治をお認めになられました”と宣言する。俺は大臣が“これで統治認証の儀を終了する”と言われるまで、頭を上げてはいけない。そして頭を上げた時には、王様は既に退室してる)
こんな下っ端小僧に、そんな大袈裟な事はしなくて良いです。会社の辞令交付みたく、紙を渡してくれるだけで充分なのに。
一歩進む毎に鼓動が早くなる。ぜんまい仕掛けのロボットみたいなぎこちない動きしか出来ない。
(の、喉から心臓が飛び出そうだ)
良く漫画とかで王様の前で傍若無人に振る舞う主人公がいるが、あの人達の心臓は鉄で出来てるんだろうか。俺の心臓なんて16ビートを刻んで、今にも破裂しそうだと言うのに。
考えて欲しい。俺は貴族とはいえ、元は一介のサラリーマン。部長に呼び出されただけで、胃が痛くなっていた小心者である。一国の王から認可を受けなきゃいけないんて、無茶振りもいいとこだ。
漸く目的地に着いたので、ゆっくりと跪く。
しばらくすると、頭を何かがコツンと叩いた。
「オリゾン王は、ジョージ・アコーギの統治をお認めになられました」
(お、終わったー。早く終了宣言してくれ
ー)
しかし待てど暮らせど、終了宣言が掛からない。緊張し過ぎて。耳が阿呆になったんだろうか。
「ジョージ・アコーギ、余に付いて参れ。オリゾンの神使、ジェネラル・グローリー様が汝に話があるそうだ」
ざわつく謁見室。これ以上のストレスは、身体の毒です。
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ジェネラル・グローリーは宣託室で待っていると言う。普段は王族も入れない場所との事。ちなみに宣託室への案内人はオリゾン王。3歩下がって、師の影踏まずって言葉があったけど、俺の場合は10歩は下がっている。
「ジョージよ。宣託室まではまだ距離がある。今からそんな調子では、身体を壊してしまうぞ」
うん、もう充分ボロボロです。向こう一週間は、ホットミルクしか喉を通らないと思う。
「陛下、ジョージは王様に緊張しているのです」
流石に王様と二人っきりなんて無理なので、俺は爺ちゃんに助けを求めた。
「そうなのか?余の顔はそんなに怖いかの…のう、ジョージ」
この王様は、なんちゅうキラーパスを出して来るんだ。トラップしてもスルーしても地獄じゃないか。
「い、い、え…そ、そ、んな事は絶対に御座いません」
全速力で頭を振ってみせる。こんな質問は、王様ハラスメントだと思う。
「王様、余り私の孫を苛めないでもらえますか?」
「反応が初々しくて、ついの…ここからジョージだけ付いて来い」
そこは一見するとただの壁だった。しかし王様が手をかざした途端、淡い光を放ち輝く扉へと姿を変えたのだ。
「お前がジョージか。良く来たな。我が名はジェネラル・グローリー。オリゾンを守護せし神使なり」
威厳たっぷりの声で俺を出迎えてくれたのは、銀色に輝く鎧を身に纏った巨大な騎士。ざっと見ただけで10m近い大きさがある。
「ジェネラル・グローリー様、仰せの通りジョージ・アコーギを連れて参りました」
王様が恭しい態度でジェネラル・グローリーに向かって頭を下げた。つまり、ジェネラル・グローリーは王様より偉いと。
(仰せの通り?そういやサンダ先生が侯爵以上の人じゃなきゃ、認証式を開かないのにって不思議がっていたよな。もしかしてジェネラル・グローリーと俺を合わせる為に、認証式を開いたのか)
なんて迷惑な話だ。ミケに愚痴ってやる。
「ご苦労、アヴニールは下がって良いぞ」
低く威厳のある声だ。胃の奥底まで響いてくる感じがする。ストレスでダメージを受けた胃にはかなり堪える。
「はっ、失礼致します」
固まる俺を他所目に王様は、さっと退室していく。陛下、可愛い忠臣が、貴方を必要としていますぞ…行っちゃった。陛下俺を置いて行っちゃった。こんな、ばかでかい騎士と二人っきりで話せなんて無茶です。
「貴方がジョージちゃん?思ったより可愛い顔してるわね。ミケ様のパートナーじゃなかったら摘み食いしてたのに。残念」
王様が退室した途端、神使がオカマ口調になりました。いや、声が野太い女性と言う可能性もある。
「お、お戯れを。ジェ、ジェネラル・グローリー様の様な素敵な女性なら私なんかを相手にされなくても」
「あら、私は男よ…ハートがレディな・だ・け」
背中に何とも言えない寒気が走る。オカマな神使と密室に二人っきり、違う意味で怖い展開になってきた。
「そ、そうですか。それで私にどんな御用があったのでしょうか?」
こういう時は用事を手早く済ませて撤退するのが吉だと思う。
「ミケ様がー契約した男の子に興味があったの。それに貴方がオリゾンに害をなす存在か確認しておきたかったし」
「買い被り過ぎですよ。私なんて取るに足らない小領の小僧です。オリゾンって巨象に住み着いたちっぽけなノミでございます」
プライド?男の意地?そんな物速攻で捨てました。今謀反の疑いを掛けられたら、ボーブルは空中分解してしまう。それを防ぐ為ならプライドを捨てるし、道化にもなってやる。
「でも、貴方は目覚ましい活躍をしてるじゃない?欲に溺れないし野心もない…でも才はある。厄介よねー」
買い被り過ぎだ。俺に領主としての才能なんてない。ついでに言えば経営の才能もないと思う。
「それは俺は前世の知識に助けられてるだけで御座いまして。俺なんてただの猿真似小僧、家臣に助けられて何とかしのいでるだけですよー」
「それが怖いのよー。ミケ様は絆を司る神リヤン様の第一神使なの。その祝福の凄さは、貴方も知ってるでしょ?」
確かに俺の思いつきのような政策を実現出来たのは優秀な家臣のお陰だ。カリスマのカの字も持ってない俺の元に、才能ある家臣が集まったのはミケの祝福と考えるのが妥当だろう。
「家臣達は私の部下である前に、オリゾンの国民です。ございます。それに私が人らしい生活を送れるのも、オリゾンという国があってこそです」
「もう、つまんないわね。男の子なんだから、意地を見せなさいよ。まあ、貴方に謀反の意思がないも分かったし、これ以上虐めたらミケ様に叱られるわね…でも、これだけは覚えておいてちょうだい。この国は私の宝、王族は可愛い子供なの。小石程度の脅威でも確かめておかないと、気が済まないのよ…ジェネラル・グローリーの名に置いてジョージ・アコーギをボーブルの領主に任命する。ジョージよ、決してオリゾンとミケ様を裏切るでないぞ」
でもジェネラル・グローリーは爵位をくれなかった。




