ジョージとスプリングギフトデイ
サラリーマン時代、社長になれば悠々自適な生活を送れると夢みてました…でも、社長より上の領主になってみたら、寝れない位忙しい日々が待っていました。
ボーブルは4月からの独立に向けてフル稼働状態で、俺も学校を休み領主業に専念している。独立に向けて最低限の準備は出来ているが、あくまで最低限であり、決して満足のいく物ではない。小屋を建てたは良いが、隙間風は入るし雨漏りもしまくる。このまま行けば倒壊確実なのだ。やればやる程、仕事が増えるし不安も増していく。
(やっぱり問題は騎士団の団長か。今の団長じゃ能力的に不安がある。でも外から有能な騎士を、スカウトして来ても、統率がうまく出来ないだろうな)
今までのボーブル騎士団は、正確に言うとアコーギ軍5旅団なのだ。しかもアコーギ軍には騎士と兵士しかいない。魔法使いや神官は軍属には入っておらず、有事の際に派遣されてくる事になっている。
俺の予定では騎士の他に魔法兵隊や弓隊の他に、熊人を中心とした重歩兵隊、狼人を中心とした軽歩兵隊、ドワーフを中心とした工兵隊、兎人を中心とした輸送兵隊、エルフの神官を中心とした衛生兵隊を作る予定だ。でも予算にそんな余裕はないし、全体を取りまとめられる人材もいない。何より俺は軍の知識なんて何もない素人。アイデアを丸投げ出来る人材が必要なのだ。
(でも兵の練度を考えると、早めに設立したいし…どっかに隠棲している天才軍師いないかな)
そうしたら三顧の礼と言わずに五顧でも十顧でもするんだけど。
「それでは王都に行って参ります。今日はお城へ行った後、ギリアム商会さんに寄りますのでお昼はいりません」
何故か、母さんとハウスキーパー部門の皆が見送りに来てくれていた。他の貴族は分からないが、仕事の手を止めての見送りは禁止している。全面的に禁止にしたいんだが、世間体を考えて簡素な形にしている。
「ジョージ、ちょっと鞄を貸して…もう、贈り物をあげるなら綺麗に包装しないと駄目でしょ」
母さんは俺から半ば無理矢理に鞄を奪い取ると、直ぐに茶色い紙袋を取り出した。
「今日はスプリングギフトデイじゃないのに、なんで分かったの?それに、きちんと隠してたのに」
スプリングギフトデイ、ウィンターギフトデイに女性からプレゼントを貰った男性がお返しをする日である。早い話がホワイトデイだ。ちなみに今日は3月7日、スプリングギフトデイの一週間前だ…なんで、分かったんだろう。
「何年、貴方の母親をしてると思ってるの。オデット、例の物を持って来て」
母さんは、袋の中から手の平サイズの木箱を取り出しながら、傍らに控えていたオデットさんに声を掛けた。
「カトリーヌ様、どうぞ」
オデットさんが持って来たのは、可愛らしい花柄のポーチ。レコルトには厚紙なんてないから、贈り物は裸または木箱に入れて贈るのが普通だ。王侯貴族なら金属の箱に装飾を施した物を使うそうだ。流石に手袋のお返しにそんな事をしたら、ドン引きされるのは確実である。
「いや、手袋のお返しなんだから。そんな大袈裟にしなくても」
「あら、やっぱりカリナちゃんにあげるのね。お母さんは“贈り物“としか言ってないわよ」
…謀られた。母さん後ろでは、ハウスキーパー部門の人達がニヤニヤと笑っている。
「ジョージ様、頑張って」「カリナちゃんによろしく」「ジョージ様も成長なされたわね」
俺がウィンターギフトデイに手袋を貰ってきた事は、瞬く間に城内に広まった。中でも母さんとハウスキーパー部門の人達は、とても喜んだらしい。中にはカリナの食堂に直接行った人もいたそうだ。
「い、行ってきます」
母さん達から逃げる様にして、馬車に乗り込むニヤニヤ笑っている第二の悪魔がいた。
「相変わらず、玩具にされてんな…で、お前はあの獅子人の娘の事をどう思ってんだ?」
「どうって、良く家の手伝いをして偉い子だなって思いますよ」
俺が餓鬼だった時は、遊びに夢中で家の手伝いなんて余りした事がない。
「そうじゃなく女としてだよ」
「…年が離れ過ぎていて、そういう対象には見れませんよ」
トータルの年齢で言えば俺は40オーバーのおっさんだ。
「あの娘は、お前の事を好きだと思うぜ」
「そうかも知れませんね。でも気付かない振りをするのが得策だと思うんですよ」
これでも昔は彼女がいたしアニメの主人公みたく鈍感ではない。
「まさか立場や種族が理由じゃねえだろうな」
「先ずは婚約者を何とかしてからでないと、カリナが酷い目に合う可能性があります。それに貴族の結婚って家の結婚でもありますし」
炊き出し会の成功もあり、マリーナ達の人気は鰻登りだ。幾ら嫌っているとは言え、婚約者を盗られるのは気分が良くないだろう。マリーナのファン達が暴走する可能性も高い。
理想はマリーナを勇者に押し付け…勇者とマリーナの恋を応援して俺が身を引くパターン。
「家って、結局立場じゃねえか」
「カリナは良い娘ですよ。気立ても良いし可愛い。俺なんかには勿体ない女です。でも、カリナの親族はそうとは限りません。カリナの親族を利用しようって輩が出てくる可能性もありますしね」
それに貴族の一番の味方は親族だ。豊臣家が長続きしなかった理由の一つにとして、秀吉の縁者に弟秀長以外才能がある者がいなかったからだとも言われている…諸説あり!!
「安心しろ。あの一家に親戚はいねーから。既に調査済みだ。それと三世代前まで遡っても、違う種族の血は入っていなかった」
いつの間にそんな調査を…。
「知らねえのか?違う人種と結婚する場合は、三世代前まで他人種の血が混じってないのが条件なんだよ。古い仕来りだけどな」
両親の種族が違う時は、子供はどちらかの種族の特徴を持って生まれてくる。だから兄弟で種族が違うって事も珍しくないそうだ。つまりレコルトにはハーフエルフがいないのだ。
「隔世遺伝を警戒してるんでしょうね」
猿人と獅子人が結婚して、ドワーフの特徴を持った子が生まれたら大問題である。先祖返りで、他種族の特徴が出るかは分からないが、無駄な騒動は避けた方が良い。
「また訳の分からない事を…早い話がカリナが大切だから、適度に距離を置くって事だろ?そんな事じゃ何時までたっても結婚出来ねーぞ」
「そんなの嫌って程、知ってますよ。30を過ぎたら結婚なんて妄想にしか思えなくなるんですよ。ダチの子供の成長を知って愕然とした時のショックが分かりますか…あの綺麗な心の子を、汚い貴族の世界で汚したくないんですよ」
自分が汚れるのは構わない。ボーブルの為なら、汚泥に頭を突っ込んで土下座をしても良い。カリナはまだ13歳だ、直ぐに新しい恋を見つけるだろう。
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「お、久し振り…また痩せたね。しっかり食べてのんか」
「忙しくて三食バケットサンドだよ…クラスの様子で何か変わった事はないか」
ヴェルデから聞いた話だと、ドンガとヴェルデはウィンターギフトデイの収穫はゼロだったらしい。
「ケインの奴が調子にのってる位さ。また悪い奴等とつるんでるらしいよ。それで今日はどうしたんだい」
「ああ、ちょっと早いけどウィンターギフトデイのお返しだよ。今度うちで出す新商品さ」
花柄のポーチを手渡すと、カリナの顔に花が咲いた。
「わざわざ良いのに…そのありがとよ」
カリナは頬を赤らめながら、お礼を言ってくれた。
「気に入ってもえたら嬉しいよ」
「これって魔石付きのペンダントじゃないか。こんな高い物貰えないよ」
俺がプレゼントしたのは、風の魔石をはめ込んだペンダント。装備者の生命に危機が迫ると通報ブザーが鳴る仕組みになってる。
「言ったろ。うちの新商品だって。この店には色んな人が来るから良い宣伝になるんだよ」
「…ありがと。大切にするよ」
俺は決してロリコンじゃない。でも、このドキドキは不味い。




