ジョージと太陽生誕祭(中1)
指摘があり前話の皮膚呼吸のくだりを消しました
今日は太陽生誕祭、日本で言う冬至にあたりオリゾンが一年で一番賑やかになる日である。生誕祭は誰もがハッピーになる最高の日なんて言葉もある位だ。雰囲気的にはクリスマスの方が近いかも知れない。
既に日は暮れているが王都はいつも以上に賑やかで、街道を歩く人達は皆楽しそうな笑顔を浮かべている…でも、今の俺には作り笑顔を浮かべる余裕すらない。
王様からパーティーの招待を受けたのは良いが、ここ数日は緊張の余り熟睡出来ないし、食欲も湧かない。今日に至っては夜明け前から目が覚めたと言うのに、何も食べていないのだ。
(えーと、爵位が二つ以上、上の人には自分から挨拶をせずに声を掛けてもらうの待つ。近くでプライベートな話が始まったら、そっと距離を置く…駄目だ、想像しただけで胃がキリキリと痛む。ミケに頼んで、胃薬を取り寄せてもらおうかな…)
王家が主催するパーティーだけに重要視されるのは爵位。爵位によって乗っていける馬車や連れて行ける配下の人数まで決まっている。
俺は爵位がないので、一代爵位である男爵の下、特別参加枠になるらしい。馬車は一頭立て配下は二人まで連れて行けるそうだ。俺に付いて来てくれるのは、内政のベテランギリルさんと外交担当のロッコーさん。二人共リュミエール城には何度も行った事があるらしく、余り緊張していない。
「ジョージ様、下ばかり見てると馬車に酔いますよ。お顔の色が悪くなっています」
ギリルさんはそう言うと、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「すいません、もう少し復習させて下さい…それと顔色が悪いのは、緊張とプレッシャーの所為です」
俺が見ているのは、サンダ先生に作ってもらったパーティーでの注意事項が書かれた小冊子。今回のパーティーは国中から貴族や豪商が集まるから、小さなミス一つでも命取りになり兼ねない。礼儀作法から外れた行動を愛嬌と感じて貰えるには、ある程度の魅力やカリスマが必要だと思う。俺の場合は残念ながら両方とも及第点に程遠い。
「パーティーで話をする方は、もう決まっているんですか?」
今回の参加人数はかなり多いらしく、一人一人と話をしていたら直ぐにタイムオーバーになってしまう。俺みたいな弱小領主には爵位が上の人の挨拶を気付かない振りしてスルーしたり、話が長くなったからと言って途中で中断する権利なんてない。だから会話したい人を予め決めて動くしかないだろう。
「イジワール公爵様には、挨拶をしておきたいですね。来年はイグニス荒野に行きたいですし」
イグニス荒野は火の魔石の一大産地で、当然火炎属性の魔物が多く出没する。つまりイグニス荒野で戦えばシャイニングボディの火炎属性防御力を上げられるのだ。火傷は20%で重症、50%で死亡の危険があると言うから優先して上げておきたい。
レベルが上がればドラゴンのブレスを浴びても平然としていられる勇者達と違い、俺みたいな凡人は対抗策を講じておかないと火炎属性初級魔法一つが命取りになりかねないと思う。
「ローレン様はイジワール公爵と親しい間柄ですから、お側にいれば優先的に挨拶を出来ると思いますよ」
ギリルさんの言う通り、爺ちゃんとイジワール公爵は絶対に話をすると思う。それに爺ちゃんの側にいれば面倒な輩に絡まれる危険性も減る。
俺が関わりを避けたい人は色々ときな臭い噂が絶えない闇のナイテック家、爺ちゃんと一悶着あった火のフレイック家、ボーンタの一件で逆恨みされてそうなオッニゾーリ子爵。
避けたいけど避けられないのは、アランとマリーナの父親リヒト・ライテック。
「ジョージ様、ウォーテック家の当主リップル様がジョージ様と話をしたいそうですが」
リップル・ウォーテック、ハイドロ教教皇兼ウォーテック家当主。そしてアニエスの父親である。当たり前だがその権力は絶大で、逆らっても一文の得にならない。
「例の合同炊き出し会の件ですか?」
ちなみにマリーナとアニエスは、今日も炊き出しに精を出しているそうだ。マリーナ達と太陽復活祭を過ごせるとあってか、今回はかなりの人数が炊き出しに参加してるらしい。主な参加者は貴族の次男や三男。長男は王家のパーティーに参加して、次男や三男は勇者の子孫が開催する炊き出しに参加して領民の心象を良くしようって算段なんだろう。
「ええ、普段は寄付を出し惜しむ貴族も炊き出し会には積極的に参加していますから」
勇者ブレイブ・アイデックは300年経った今でも国民的英雄だ。当然、勇者の子孫も人気が高い。ハイドロ教の寄付に辟易してる貴族でも、勇者人気にあやかろうと炊き出し会に積極的に協力している。
「むしろお願いしますよ。勇者の子孫に嫌われ放しは不味いですし」
若い娘に好かれる自信はないが、同じ中年なら感じてもらえる物がある筈。おじさんと若い女の子は別生物と言って良い位価値観が違う。
「リップル様はまだ年は若いですが、しっかりした考えの方です。きっと大丈夫ですよ」
確かリップルの年は100歳だった筈。エルフの年齢感覚も人間とは違うようだ。
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普段、リュミエール城の周囲3Kmは関係者以外立ち入り禁止になっている。つまり俺もリュミエール城を間近で見るのは初めてなのだ。高さおよそ20mを誇る巨大な城は見る者を圧倒する。大きさで言えば東京のビルの方が圧倒的に大きいんだが、王城には何とも言えぬ迫力があった。
(へ、兵士の威圧感も半端じゃねぇー。それに参加者が、きらびやか過ぎて俺が場違い過ぎるっ!!)
城に圧倒され、更に兵士のド迫力に気圧されて城に入る前からノックアウト寸前である。それに俺以外の参加者はお洒落な格好をしている人ばかりで、凄く気恥ずかしい。
ゲームでもリュミエール城は度々登場する。勇者は城にズカズカ入っていくし、宝物庫も平気で開ける…正に勇者だ。
ちなみに俺は廊下に引かれた絨毯を歩く度胸がなく、従業員用通路を歩いていた。緊張の為、動きもぎこちなく手と足が同時に出てしまう。
爺ちゃんと言う後ろ盾がいるとは言え、俺は爵位すら持っていないペーペー領主。王城では吹けば飛ぶような存在。
(しっかし本物はここまで豪華だったんだな。まっ、余り細部に拘っても容量の無駄だし)
城は至る所に細やかな装飾が施されていた。もし、これをそのまんまリアルに再現したら、
容量やコストが膨大に膨れ上がってしまっただろう。ドアノブの装飾を再現する為に、イベントや魔物が少なくなったりしたら本末転倒である。
一際豪華な扉を開けると、軽やかな音楽が聞こえてきた。汚れ一つない純白の壁、脛まで埋もれそうな真っ赤な絨毯、豪華な食事…絵に書いた様なパーティー会場である。
(…マジかよ、なんつー広さだ!!ここで野球が出来るんじゃねえか?あれが宮廷楽団か)
宮廷楽団、トップクラスの演奏者のみが入団出来る王家専属のオーケストラ…俺が楽団を持てたら、オーケストラで80年代のJポップやゲーム音楽を演奏させてみたい。
「ジョージ様、あちらにローレン様がいらっしゃいます」
ギリルさんの視線の先にいたのは物々しい集団。服装も華美な物ではなく、一見すると地味な物。しかし、使われている素材や仕立てをきちんと見ると高価な物だと分かる。
ギリルさんが元コーカツ家の家臣だった事もあり、すんなりと受け入れてもらえた。アウェー感が半端ないが、背に腹は変えられない。目立ちたくないし、小判鮫は端っこで大人しくしていよう。
「ジョージ、良く来たな。こっちに来い」
そんな俺の思いを知ってか知らずか爺ちゃんは、ド真ん中に俺を呼び寄せてくれた。
「コーカツ公爵様、お久し振りでございます。私はこの様な素晴らしいパーティーは初めてですので、ご指導お願いします」
孫だからと言って、馴れ馴れしい態度を取ったらコーカツ家の家臣団は面白くないと思う。
「ジョージ、ボルフから聞いてるぞ。緊張で飯を食べていないらしいな」
最初はボルフ先生に付いて来てもらおうとしたが“太陽祭は女と過ごす”って断られたのだ。
「これはお恥ずかしい…なんで、そんな最新情報を爺ちゃんが知ってるの?」
「ジョージ、死者の森で修行して強くなれたか?例えば、ボルフとの実力差はどうだ?」
正直な話、魔物は楽に倒せる様にはなったが、レベルがないのでどれ位強くなれたかなんて分からない。
「未だに負けっ放しです」
「ボルフの奴“まだジョージ様より弱くなる訳にはいきません”と言って、死者の森で魔物と戦っていたんだよ。サンダも“私はジョージ様の盾で御座います。盾が持ち主より弱い等言語道断です”そう言って魔物と戦っていたぞ」
何ともありがたいツンデレ先生達である。
「素晴らしい先生を紹介して頂き、感謝致します」
爺ちゃんと絆の神リヤン様に感謝する。二人共…いやロッコーさんやギリルさんも俺みたいな平凡領主には勿体無い人材なのだ。
「その心掛けは大切だぞ…さて、イジワールの顔を見に行くか」
キョーユウ・イジワール、冗談みたいな名前だが、その実力は凄まじい。国の為なら、英雄の子孫を平気で陥れる。
「まだ心の準備が…って爺ちゃん、聞いてる?」
「聞いてる、聞いてる。可愛い孫の話はちゃんと聞いてるぞ…後から俺とキョーユウにも、合同炊き出し会の資料を貰えるか?」
壁に耳あり、障子に目あり。情報収集に関しては、爺ちゃんの方が何枚も上手らしい。
…やばい、弱っている胃が悲鳴をあげだした。
(やばい、絶対にやばい。マフィアのドンみたいな人がいらっしゃる)
身体は小柄だが、ふてぶてしい強面の顔は泣いた子が引き付けを起こすレベルである。
「これはこれは、コーカツ卿。ほう、そちらにいるのは自慢のお孫さんですね」
イジワール公爵は、そう言うとニヤリと笑った。今なら蛇に睨まれた蛙の気持ちが分かる。
(今のは挨拶に入るか?いや、直接声を掛けられてはないから直答はまだアウトだ)
「ああ、孫のジョージ・アコーギだ。来春から独立するから目を掛けてやってくれ」
一瞬、俺とイジワール公爵の視線が交錯した…正直、チビリそうだ。
「…礼儀は弁えてるようだな。お前に言われなくても、ボーブルには屑魔石の処理で取り引きがある…ジョージ殿、たまには俺も面白い話を聞かせてはくれないか?」
「お、お初にお目に掛かりましゅ。ジ、ジョージ・アコーギでございましゅ。来春にでもイグニス荒野にお邪魔しようと思っておりますので、その時にゆっくりお話を聞かせてくだしゃい」
噛みまくりである。美少女だから噛んでも萌えるのであって、フツメンが噛むとただみっともないだけだ。
「ジョージ、私はイジワール卿と内々の話がある。お前も皆様に顔を覚えて頂けるよう、頑張りなさい」
爺ちゃんとイジワール公爵の話となると、国の中枢に関わる事だと思う。そんなの聞いた日には、胃潰瘍になりかねない。
「ジョージ様、次はリップル様の元へご案内します」
ロッコーさんは俺の返事を待たずに足早に歩き出した。立場上、ロッコーさんは俺の意見に逆らえない。だから勢いに任せてリップルの元に連れて行くんだろう…俺の扱い方分かってるじゃないか。胃を休めたいのに、逆らえない小心者の領主なのだ。
案内されたのは、イジワール公爵と違う意味で近づくのがためらわれる集団。
(流石はエルフ。美男美女しかいない)
俺が混じったら、掃き溜めの中の鶴ならぬ、鶴の中の掃き溜めになってしまう。
「リップル様、ジョージ・アコーギ様をお連れしました」
「叔父上、お久し振りで御座います。お元気そうで何よりで」
ロッコーさんとリップルの挨拶を見たエルフの方々が嬉しそうに微笑む。場の雰囲気こそ和やかであるが、近づくのをためらってしまう。
ダチに誘われた飲み会が予想を上回るリア充イベントだった時を思い出す。取締役とかモデルとか反則だっての。
「君がジョージ君だね。叔父上から色々聞いてるよ。特に今回の合同炊き出し会のアイデアは面白かったな。どこであんな事を思い付くんだい?」
リップルは俺にも気さくに話掛けて来た。それと、どこでってアイドルイベントの丸パクリです。
「 お、お初にお目に掛かりましゅ。ジ、ジョージ・アコーギでございましゅ。たまたまでございます」
今日二度目の噛みである。
「そう、ちょっとロッコーを借りて良いかな?」
あれだ、リップルは気さくなんじゃない。俺を相手にしてないだけだ。それか奇策を丸パク…考えたのが、小物臭全開の小僧で安心したのかも知れない。
「分かりました。それでは、失礼します」
正直、色々と限界である。これ以上の接触は身体に悪い。
(どうする?どこに逃げる?そうだっ)
幸いな事に皆話に夢中で誰も俺に注目していない。素早く部屋の隅に移動。
(シャイニング・ボディ…セレクトホワイト)
一瞬で、服や髪が白くなり、壁に溶け込む。元々、存在感が薄かったのに加えて保護色となった俺に誰も気付かない。
そのままパーティーは無事終了。
(やばっ、アランに挨拶してない…ってか、今日クリスマスなんだよな)
その日、俺はベッドでちょっとだけ泣いた。




