ジョージとおとめの祈り?
朝も早よからキーボード、カタカタ。ジョブズになりすます。プロッグラマーッ!!‥完全無欠のプログラマー。byジョージ。
異世界でもエクセルさんは大活躍です。データを抽出してソートを掛ける。
「ロッコーさん、これが例の資料です」
前に作っておいた企画書にデータを添付してロッコーさんに手渡す‥‥端から見たらロッコーさんの方が上司に見えるんじゃないだろうか。ロッコーさんならドラマの主役にもなれるだろう。ロッコーさんはやり手のビジネスマン、俺は脇役のオタクな部下って配役。
「それがジョージ様のマジックアイテムですか‥‥ほう、これはこれは」
俺が手渡した資料を見た途端、ロッコーさんは邪悪な笑みを浮かべた。
「マジックアイテムと言うか、前世で俺が持っていた道具をレコルトでも使える様にしてもらったんですけどね。資料使えますか?」
今回の企画書のタイトルは“勇者の子孫と行う合同炊き出し会”。マリーナ達が行った炊き出しに並んでいた貴族や騎士の資産状況が添付してある。
「1口5万ストーンで炊き出しの手伝いに参加、10口買えば炊き出し終了後に行われる勇者の子孫達との慰労会に参加出来て、50口で自領での炊き出しを行えると‥‥ボーブルからは食材を市価より格安で提供するんですね」
市価より安くってのが大切。貴族の自宅に納入される時の価格を参考にしてあるから、赤字にはならない仕組みなのだ。
「ええ、運営はハイドロ教にお願いします。脇で無償で治癒をしたら面白いんじゃないんですかね」
信者獲得には、もってこいのイベントである。
「ハイドロ教の司祭としては諸手を上げて賛成しますが、ボーブルの外交担当としてはもう一押し何か欲しいですね」
ロッコーさんは永年ハイドロ教で司祭をしていたからオリゾン中に顔が利く。外交担当には打って付けの人材なのだ。
「それに喜んで参加する奴を選別するのと、各地の貧民街の場所を確認したいんですよ。一番の狙いは、公衆衛生部門の人材確保と貧民に陥った理由を知る事ですよ」
公衆衛生は徹底したい事業の一つだ。でも、ボーブルは景気が良いから職員の成り手が不足している。だから貧民救済をお題目に掲げて、人材不足を解消するのが狙いだ。無論、給与をかけるし制服も貸与する。ついでに専用の浴場も設置する予定。
「貧民に陥った理由を直接聞いて、他領の暗部を探ろうって腹ですか」
レコルトにはネットどころかテレビすらない。情報は口伝が主流。紙の媒体もあるが、自領の暗部は情報統制が敷かれているから入手が困難である。
「ええ、王都の貧民街にいる人達を大別したら他領から逃げて来た人・何らかの理由で働けなくなった人・働く気がない人・後ろ暗い過去を持つ人でした。ちなみに貧民街にはドワーフが増えてるそうですよ」
貧民街ドワーフに関しては工業ギルドで面接を受けてもらった。技術力の高い人は工業ギルドへ、戦闘力の高い人は兵士として起用する予定。
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シャイン君との待ち合わせの日、俺はカリナと二人で下校していた。年齢的にストライクゾーンから外れるとは言え美少女との下校はウキウキする。
「ジョージは冬休みはどうするんだい?貴族様だからバカンスにでも行くのか?」
「独立の準備でそれ所じゃないよ。仕事とお付き合いで年末年始も休みなしだっての」
ちなみに太陽生誕祭は王家のパーティーに呼ばれている。今年のクリスマスは、腹黒のおっさん達に囲まれて過ごす訳だ。
「パーティーね。あたいは出た事ないけれど華やかで楽しいんだろ?」
言葉遣いは男っぽいが、カリナも年頃の女の子。華やかなパーティーに憧れるんだろう。
「パーティーの参加者は二つに分けられるんだ。領主とその子供達にね。子供達はお喋りやダンスで交流を深めるけど、俺は領主側だから腹の探り合いさ。それでも参加しなきゃ得られない情報や人脈があるから、サボれないし」
領主側も子供側もパートナー連れが大半だけど、俺はボッチ参加である。正確には爺ちゃんの腰巾着状態での参加だ。うちの事業に興味を持つ人は少なくなく根掘り葉掘り聞いてくる。しかし、爺ちゃんの小判鮫になれば、やましい考えを持った連中は近付いて来ない。
「パーティーも仕事のうちって事?それって、楽しくないだろ」
貴族のパーティーと言えば聞こえは良いが、俺にしてみれば会社の懇親会と変わらない。偉い人に頭を下げゴマをする。リーマン時代は終わってからの気のおけない仲間との二次会の方が楽しみだった‥‥ああいう時に出てくるホテルの飯って、当たりが少ないんだよな。
「普段は会えない先達の言葉を聞けるから有り難いよ。何より流行に疎い俺には情報を仕入れる格好の場所さ」
中身はともかく、俺はこの世界では名実ともに何も知らない若輩者である。無知を嘲笑われない若造のうちに、吸収出来る物は吸収しておきたい。
「相変わらず親父臭い考え方だね。うちの親父も言ってたよ“ジョージ様と話をしてると、中年の勤め人と話してる感じがする”って‥‥ところでパーティーにマリーナを誘うのかい?」
流石は客商売のプロ、それ大正解です。カリナの親父さんは獅子人だけあり、中々の強面である。
「一応、声は掛けたよ。掛けなきゃ不味いし‥‥参加するか断るかはマリーナの自由だけどね」
誘いに乗ってくれて不仲振りを知られたらマイナスにしかならないから、マリーナが断ってくれるのが理想だ。
「流石に断らないだろ。マリーナの家ってあんたの家から援助を貰って生活してるんだろ?‥‥着いたね、今日は何を食べるんだい?」
最近、カリナの店で飯を食うのが日課になっていてほぼ常連さんである。
「チキンカツ定食を貰うよ。シャイン君には好きな物を選ばさせてやって。それと、もう一人来るから頼むよ」
「はいよ、マッシュポテトは大盛りね」
店に入ると、既にシャイン君が待っていた‥‥相変わらずの美少年におじさん完敗です。
「ジョージ様、今日はわざわざすいません」
シャイン君は俺を見つけるなり、礼法通りの折り目正しい挨拶をしてくれた。見た目良し、家柄良し、剣術も魔法も一流。シャイン君のクラスメイトはコンプレックスを感じまくっていると思う。嫉妬で逆恨みされなきゃ良いけど。
「大丈夫だよ。ここで飯を食うのが俺の日課だし。相談はマリーナさんの炊き出しだろ?」
「はい、ジョージ様のお陰で僕の習い事が家計を圧迫する事はなくなりました。でも、今度は姉の炊き出しが家計を圧迫し始めて‥‥姉は苦しんでる人を見過ごせないって言いますけど」
そりゃそうだ。シャイン君の習い事代は無料になったとは言え、無収入の個人が貴族とお付き合いするには金は幾らあっても足りないだろう。ましてやシャイン君の父親リヒトはライテック家の当主、一族の慶弔を無視する事は出来ない。往事の栄光を覚えてるリヒトなら尚更だ。
「それでもマリーナさんは止める気がないんだろ?」
勇者の子孫と言う事はマリーナやリヒトのアイデンティティーであり、プライドだ。炊き出しをして流石勇者の子孫と褒め称えられる事は、この上ない喜びだろう。
「はい、誘ってくれたアニエス様の手前自分からは辞め難いみたい様で」
「要は家計に負担を掛けずに炊き出しが出来れば良いんだろ?‥‥ロッコー、来てくれ」
予め他のテーブルに待機していたロッコーに声を掛ける。仕込みって大切です。
「シャイン様、いつもジョージ様がお世話になっております。私はロッコー・ウォータ、ハイドロ教の司祭をしている者です。ジョージ様と相談してマリーナ様達の手助けが出来ればと考え、勝手ながら出資者を募りました。お姉様にこれをお渡し下さい。アニエス様には私が話をして既に了承を得ています」
ロッコーがシャイン君に手渡した書類には出資者の名前や炊き出しの日にちが明記されている。炊き出しの日にちと、俺がマリーナを誘ったパーティーの日にちが重なっているのはあくまで偶然だ。少しだけ日程調整はしたけど。
「ジョージ様、何から何までありがとうございます。せめて光の神フォース様に祈りを捧げさせて下さい」
シャイン君が熱心に祈りだすと、俺の身体を光が包みだした。
そして脳内に機械的な声が響く。
『我が使徒シャインの祈りに応えジョージ・アコーギにシャイニングボディを授けます』
男闘命の祈りかよ。
シャイニングボディは経験を積めば属性防御も可能らしい。
今の所は防寒位にしか役立たなかったけど。
冬も間近だ。領民が凍えない様に頑張ろう。




