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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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ジョージは悩みまくる

 ボーブル城の屋上にある見張り台。領内を見渡せるこの場所は俺のお気に入りスポットだ。今も頭上を見れば満天の星が見えるし、視線を下に移せば無数の街灯りが見える。


(あの灯りの数だけ人の暮らしがあるんだよな)

 魔王が現れるって事は、六魔枢や魔王軍がオリゾンで暴れるって事だ。魔族は人間を容赦なく殺す。女も子供も関係ない。むしろ弱者を殺す事を喜ぶ者すらいる。アミは嬲られ見世物にされるかも知れないし、ドンガの幼い弟達は食われてしまうかも知れない。

 魔王軍が攻めて来て、ボーブルが火に包まれる光景が頭によぎった。人々の暮らしは蹂躙され、笑い声は悲鳴に変わるだろう。豊かな大地は血と涙で汚されていく。体中に悪寒が走り、全身がガタガタと震えだした。


「ジョージ様、そんなに震えて‥‥風邪をひきますよ。見回りの人達も心配してます」

 暖かな毛布と声が頭上からフワリと降ってきた。恐らく俺の様子を見て心配した兵が、サンダ先生を呼んで来たんだろう。

 

「サンダ先生、ボルフ先生を呼んでもらえますか‥‥緊急事態です」

 ボルフ先生は城内に住んでいるが、サンダ先生は敷地内に住居を建てて住んでいる。


「‥‥何かありましたか?」


「‥‥取り敢えず俺の私室へ。兵には夜風に当たり過ぎて微熱が出たと伝えて下さい」

 自領の兵士を信じてない訳じゃないけど、人の口には戸を立てれない。AはBを信じて話し、BはCを信じて話す。噂はそうやって広がっていく。面白可笑しく尾鰭を付けて‥‥魔王が現れると言う噂が広まったら、オリゾンがパニックに陥ってしまう。その隙を魔王軍に突かれたら、勇者の出現を待たずして人は負けてしまうかもしれない。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「魔王出現のお告げか‥‥ただのアサシンの手には余る話だな」

 強がってはいるが、ボルフ先生の顔は青ざめていた。前魔王軍の暴虐非道は300年経った今でも克明に伝わっており、人々は心の底から魔王を恐れている。

 

「グルウベ様のお告げですから、無下には出来ませんね。それでジョージ様はどうするんですか?」


「ここで議論をしていても埒が開きません。今直ぐコーカツ領へ行き、爺ちゃんに相談をしようかと。さし当たっての問題は、俺の事を含めてロッコーさんとギリルさんにどこまで伝えるかです」

 ロッコーさんもギリルさんもボーブルには欠かせない人材だ。二人共、内政に深く携わっているから秘密裏に魔王軍対策を進めるのは難しい。


「訳の分からない記憶がある神使持ちの領主に魔王の出現予告か‥‥頭を疑われてもおかしくねえな」


「でも今一番の頼りになるのは、ジョージ様の記憶ですよ」

 魔王ゴライアスや六魔枢と直接戦う気はないが、対策は練っておいて損はないだろう。

 一番ベストなのは、勇者パーティに助言を与えるポジション。“勇者君とマリーナさんの愛の深さには感動した。僕は潔く身を引くよ”と告げる。無論、婚約破棄による損害賠償はしない。魔王を倒した勇者と対立するより、良好な関係を維持した方が儲かるんだし。


「遅かれ早かれ言わなきゃ駄目だと思うぜ。幸い、二人共、城内に住んでるから呼んでくるよ」

 ボルフ先生は気軽に言うが、一歩間違えれば痛い子扱いで領主としての尊厳を失いかねない。

 結果‥‥空気が物凄く悪くなりました。


「前世の記憶はジョージ様の偉業を考えると、納得出来ます。しかし、神使と魔王ですか‥‥」

 常識人ギリルさんからしたら俄には信じ難い内容だと思う。前世も魔王も証明する手立てがないし、神使ミケを見せてもメタボなドラ猫だって言われたら反論の仕様がない。

 

「神使ってそんなに珍しい物なんですか?ゲームでは、ピュリアを見ても誰も驚いていませんでしたけど」


「フェアリー自体は珍しい存在じゃありませんよ。そして神使は予言や神の意思を伝える為に、極稀に人の前に姿を現す事があります。ただ人と契約を結んでいるのは、代々オリゾン王家と契約を交わしてるジェネラル・グローリーだけです。それも王家と契約してるのであって、個人で契約出来たのはブレイブ・アイデック以後は誰もおりません」

 フェアリーは悪戯好きな為、よく人を騙すらしい。つまりピュリアは、野生のフェアリーと思われていたと。そういやゲームでもピュリアは“僕は本当に神使なの。信じろー”って叫ぶのがお約束だったし。

 しかし、ジェネラル・グローリーって名前格好良すぎないか?ミケ・ニャアニャアと違い過ぎるだろ。


「俺とサンダは実際にミケ様と会った事がありますが、あの威厳は神使としか思えませんよ」

 ‥‥ミケに威厳なんてあったか?


「ジョージ様、ミケ様からお言葉を賜る事は出来ませんか?」

 

「お言葉って‥‥呼ばなくて良いんですか?」

 何故かみんなが固まってしまった。


「ジョージ様!!神使様に対して、呼ぶとはなんですか!!降臨なさって頂くと仰って下さい。サンダは悲しゅうございます」

 サンダ先生は涙目になってるし、ボルフ先生達はドン引きしている。


「と、取り敢えず準備しますね‥‥ちょっと待って下さい」

 ミケを呼ぶのに必要な物を揃える。


「まん丸い魔石に星が書いてあるけど、これを何に使うんだ?」

 魔石の数は七つ。それを一箇所にまとめる。


「いでよ!!シェンマオ


「ド阿呆ー!!裁判所に呼ばれたいんか?」

 取り敢えずミケは姿を見せて欲しいって言う願いを叶えてくれた。


「あー、これが俺と契約している神使ミケですけど‥‥皆さん、どうしたんですか?」

 後ろを見てみると、全員ミケに向かって土下座をしていた。ロッコーさんに至っては涙を流している。


「あー、苦しゅうない、苦しゅうない。儂は気さくな神使やから堅苦しい礼儀は無用や」


「神使様お目に掛かれてて至極光栄で御座います。私はエルフの神官ロッコー・ウォーターと言う者です。神使様が姿を見せてくれたと言う事は、ジョージ様の話は事実なんですね」

 驚く事にロッコーさんは恍惚の表情を浮かべていた。


「ああ、こいつに前世の記憶があるのも魔王が現れるのも事実や。でもこれは内緒で頼むで」

 当たり前だ。前世の記憶があって神使と契約してるなんてばれたらどんな立場に担ぎ上げられるか分かったもんじゃない。


「勿論、ハイドロ教の神官長にもウォーテック家にも決して言いません」

 

「おおきに。ハイドロ様にも、あんさんの事言う

とくで。あんさん等にお願いや。ジョージが魔物と安心して戦える様に助けたってや」

 魔物と戦うって時点で、俺には不安しかないんですけど。ゴブリンならまだ良いが、オーガ系や獣系の魔物と戦う自信なんて微塵もない。

 そしてミケが去ると同時に俺達はコーカツ領へと旅立った。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 コーカツ城に着いたのは明け方。普段なら門扉は硬く閉ざされている時間だけど、ギリルさんが緊急連絡を入れてくれたお陰で無事に城内に入る事が出来た。


「‥‥やはり魔王は現れるか。まずジョージの考えを聞かせてもらおう」

 この事について一番長く考えていたのは俺だし、ゲームの知識があるのも俺だけだ。


「まず必要なのは戦力の強化だよ。俺も強くならなきゃいけないけど、それだけじゃ駄目だ。オリゾン全体の戦力を強化しなきゃいけない」


「周りを上手く出し抜くチャンスとは思わないのか?やり方によっては英雄になれるぞ」

 今の爺ちゃんの言葉は本音とは思えない。


「謹んで辞退させて頂きます。英雄や勇者なんて余程のお人好しか腹黒じゃなきゃ勤まらないよ。第一、俺はそんな器じゃない。俺は見ず知らずの人間を命懸けで助ける奇特さなんて持ってないし。俺が命懸けで助けるのは、自分の大切な人達とボーブルの領民だけさ」

 ゲームなら英雄的行動は高く評価されるけと、現実では微妙だ。特に俺の場合は打算で動かなきゃ駄目だと思う。少女を助けた際に大怪我をしてしまい、戦の指揮を取れずに大敗なんて笑い話にもならない。


「ふむ、なら何故今まで戦力の強化をして来なかったんだ?」


「戦において一番大切なのは食糧。どんな英雄も飯が食えなきゃ戦えないよ。それに攻めるにしろ、守るにしろ金は絶対に必要だ。今までの基盤作り、本当はもっと時間を掛けてボーブルを育てながら策を巡らせたかったんだけど‥‥頭を悩ませてるのは、戦力強化のお題目を何にするかだよ。下手に動けば周りに勘ぐられるだけだし」

 戦もないのに戦力を強化したら税金の無駄使いと叩かれるし、周囲に警戒されてしまう。


「仮想の敵が必要と言う訳か」


「金は稼げてもまだ弱小領主だからね。無駄に敵を作りたくないし、いざ魔王軍と戦うって時にいがみ合ってちゃ目も当てられないし。先ずは、魔物と戦って自分を鍛えるよ」

 戦力を強化したらフェルゼン帝国の様に、魔物に目を付けられる可能性が高い。


「ジョージ、魔物との戦いは春からにしとけ。冬を越す為に、身なりの良い冒険者を集団で襲う貧民がいるからな。それに魔物が現れる場所までの足が必要だぞ」

 ‥‥落ち武者狩りかよ。魔物の前に現実が待ってました。

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