ジョージのヒロイン対策
今日も無事に生き延びる為に、色々と予防策を考える事にした。何しろ、ゆっくりと対策を練れるのは幼年期だけ。ある程度、成長したら体を鍛えたり技術を身に付るのに時間を費やす予定なのだ。
チートにはなれなくても、自分の身を守れる様にはなりたい…だって、ジョージは家臣にも嫌われていたし。
今回の対策は、トラウマを植え付けてくれる可能性が高いヒロインの皆様。
キミテに出てくるメインヒロインは6人。それぞれ勇者から光・闇・土・水・風・火の力を引き継いでいる。主人公は彼女達と冒険を通じて絆を育んでいくのだ。ぶっちゃければ、キミテはハーレム推奨ゲームである。
「ほー、ハーレムか。赤ん坊も中身が大人やとエロい事を考えるもんやな」
ドキッとして声のした方を見ると、ミケがニヤニヤしながら空中に浮かんでいた。
『神使様、勝手に心を読むのは止めてもらえませんかね…それで、俺の事はどこまで分かってるんですか?』
ミケ・ニャアニャアなんて神使はゲームに登場しない…もし分かっていても、こんな濃すぎるキャラは登場させ様がないし。
「お前が他の世界から来たって事位やな…儂は、心は読めても記憶は読めんのや」
もし、記憶が読めたしても、膨大な記憶の中から任意の情報を読み取るのは難しいと思う。
『ミケは俺の味方なのか?』
「当たり前やないか!!契約者を正しく導くのが、神使の仕事や。それにお前の生き方が儂の成績に響くんやで」
ミケの話によると、契約者の育成次第で神使としての待遇が変わってくるらしい。つまり、ミケと俺は一蓮托生。
『心が読めるんなら、俺が嘘をついてるかどうか分かるよな…俺はこの世界の事を知っている』
それから俺はキミテの事やジョージの事をミケに伝えた。
「…にわかには信じがたい話やな。しかし、お前は嘘をついとらんし、辻褄もおうとる。それで、お前はどうしたいんや」
『勇者やヒロインと出来るだけ関わらない様にしたい。特に勇者がハーレムを築くんなら、深く関わらず出来るだけ敵対はしない様にする』
ハーレムルートでのジョージの扱いは悲惨だ…まあ、どのルートでも酷い目に会うんだけどね。特にハーレムルートでは、6人のヒロイン全員から叩かれる。暴言の雨霰、言葉の即死コンボを喰らう。
正に学級会の裁判状態なのである…小学生女子の団結力は恐ろしい。
「なんつーか、悲惨やな。しかし、お前らは何でジョージをそんな目に合わせたんや?そのげーむはお前らが作ったんやろ」
『ジョージは主人公の引き立て役なんだよ。あからさまに主人公だけを格好良くすると、胡散臭くなるし感情移入がしにくくなる。だから主人公を目立たせる為にはピエロが必要になるんだよ…それがジョージさ』
例えば魔族に出会した時、ジョージはビビって泣くけど、主人公は毅然としている。ジョージがみっともなく泣き喚く程、主人公は格好良く見えるのだ。
早い話がジョージはスイカに掛ける塩の様な物。塩がスイカの甘さを引き立てる様に、ジョージは主人公の格好良さを引き立てる。俺は、そんな役割をするつもりはないけどね。
「それで、そのシュジンコーとか言う奴以外に気を付ける奴はおるんか?」
シュジンコーか、新種のミジンコみたく聞こえてしまう。キミテは名前を入力するゲームなので、今の所は、主人公としか言いようがないので仕方ないけど。
『特に注意したいのは、マリーナ・ライテックとユリア・ナイテックだよ』
「ほー、光のライテック家と闇のナイテック家か。確かに、ライテック家で赤ん坊が生まれたそうや。しかし、闇のナイテック家に女子はおらんで」
マリーナ・ライテック、光属性のヒロインで没落騎士の娘。得意な武器はレイピア。金髪碧眼の正統派ヒロインである。
ライテック家はアコーギ家から多額の借金をしており、その関係でマリーナは半ば強引にジョージの婚約者にされてしまう。ちなみにマリーナの授業料や生活費もアコーギ家が出している。
それを寝取る主人公は心臓が強いと思う。
『あー、ユリアが、ナイテック家の血を引いてるのは本人も知らないんだよ。確か、ナイテック家の長男が、駆け落ちして生まれたのがユリア。確か、両親はナイテック家の放った暗殺者に殺されてるんだよ』
ユリア・ナイテック、闇属性のヒロインでジョージ専属メイド。得意な武器は短剣。
ジョージの我が儘が酷すぎて、専属メイドのなり手が誰もいなかった。そんな中、唯一応募してきたのがユリア。
ユリアは、ショートカットの黒髪で切れ長の黒い瞳が特徴のツンデレ系美少女…実は盗賊団に所属しており、ナイテックの姓はイベントが進まないと明らかにならない。
他の4人は、ジョージと直接的な関係はないから避けるのは容易いと思う。俺が主人公に絡まなきゃ、知り合いにもならないだろうし。
「盗賊ギルドって…お前、どんだけ嫌われてねん」
確かに、身元が怪しい人物まで雇わなきゃいけないなんて酷い嫌われ様だ。
『だから今はメイドさんと良好な関係を目指してんの。問題はマリーナだ。多分、婚約者になるのは避けれないと思う』
でも、ユリアは今のままジョージメイド隊と良好な関係を継続していけば、俺の専属になる事はないだろう。目指せ、ホワイトな職場作り。
「何でや?お前が、嫌やって言うたらええんちゃうか?」
『マリーナの婚約には父親が絡んでくるんだよ。アコーギ家は歴史の浅い貴族だった筈。だからアランはアコーギ家に勇者の血を入れようと思ったんだろ』
カトリーヌ母さんに対するコンプレックスもあるんだろう。
「また難儀な話やな。貴族やから楽に生きれるって訳やないんやな」
つまり、金に物を言わせて無理矢理結んだ婚約。マリーナがジョージを嫌うのも仕方ないかのかも知れない。そして鳶が油揚げをさらう様に、主人公がマリーナを奪うと…頑張れ、俺。
『でも、あのスキルは欲しいんだよな』
そのスキルの名前は、シャイニングボディ…光の膜で全身を覆い、体を好きな色に輝かせるという派手好きなジョージらしい固有スキル。防御力が+3になるだけだから、ジョージにピッタリのゴミスキルと言われている。
「防御力+3って、どんな感じなん?」
『確か布の服の防御力が5だから、薄い布の服って感じじゃないか』
「なんや、そのスキルは?意味ないやん」
確かに、シャイニングボディは魔物の攻撃を防ぐには役に立たないだろう。
『いや、全身を覆えるなら、虫刺されを防げるし、間違って毒草に触ってもかぶれないと思ったんだよ』
流石に、熱湯による火傷や氷による凍傷を防げるかは検証が必要になると思うけど。
「虫刺されを防ぐスキルって、しょぼすぎやろ」
『こっちの世界じゃ知られていないだろうけど。蚊とかの虫は病原菌を媒介するんだよ。つまり、虫に刺されたら病気に感染する可能性があるのさ』
それに好きな色に出来るなら保護色で隠れられるし、透明に設定すれば、スキルを使ってるのがバレないと思う。
「そう考えれば便利なスキルやな」
『問題は、どうやって乙女の祈りイベントを起こすかなんだよな』
キミテでスキルを覚える方法は二つある。一つは経験を積んで覚えるジョブスキル。
もう一つはヒロインと仲を進展させる事で、覚えられる固有スキルだ。
進展の目安になるのが、神使から渡されるキズナリング。キズナリングには6個の魔石が埋め込まれており、ヒロインと仲が進展すると魔石も輝きを増していく…そんなに光っていたら、敵に見つかるんじゃねって、突っ込んではいけない。
キズナレベルは6段階あり、段階が増える度に何らかのイベントが起きる。
スキルを覚えれるのは乙女の祈りイベント。ヒロインが主人公の為に祈る事で、主人公が新しいスキルを獲得出来るのである。
「乙女の祈りか…あれは大切な相手の為に祈るから効果があるんやで」
だから、ジョージはゴミスキルしか身に付けられなかったのかも知れない。
『マリーナは俺の事をゴキブリ並みに嫌っているんだよ。どうすれば、祈ってくれるんだろ』
ゲームでは無理矢理祈らせていたけど…いや、金も借りて生活費も出して貰ってるのに祈るのも嫌がるってどうよ?
「答えは簡単や…諦めなはれ」
『ですよねー』
まあ、シャイニングボディを取得出来れば婚約を破棄しても良いと思う。
(最後の記念に祈って下さいって、言えば断らないだろう)
随分とお高いスキルになるかも知れないけど。
______________
ミケと色々と話し合ったが、全て保留になった。後手後手に回ってしまうけど、これから何が起きるかは不確定なんだし。まだキミテと同じ様に話が進んでいく保証はない。
準備と対策はしておくけど実行には移せない…何が起きるか予想が出来る身としては、心許ない話だけど。
(もしかして、マリーナが惚れてくれる可能性は…極薄だな)
勇者の血を引く美少女に惚れられると思うなんて、ただの自惚れでしかない。
軽くへこんでると、部屋のドアが開いた。
「ジョージ、明日はお爺様の所に行くわよ」
「おじいしゃま?」
片言で小首を傾げる中身はおっさんの一歳児…俺がさらにへこんだのは言うまでもない。
「そう、ママのパパよ。ジョージも一歳になったから連れて来なさいって…パパはお仕事が忙しくて無理だから、ママと一緒に行こうね」
母さん、アランは爺ちゃんにびびってるだけだよ。そして、母さんはどこか寂しげだ。見てろよ、アランッ!!
「マー、といっちょが良い」
俺は、そう言って母さんに縋りついた。俺はお前と違って、必要ならプライドをゴミ箱に捨てれるのさっ。
そう、権力者の爺ちゃんに媚びまくってやる。