ジョージの試合
闘技場は石で出来ており、一辺が5m位の正方形で周囲より30㎝程、高くなっていてた。
ケイオスの装備は鉄製のフルアーマー(兜なし)と2m近い長さの模擬刀、多分ケイオスはクレイモアの様な武器を愛用してるのだろう。磨き抜かれた銀色の鎧と光を浴びて輝く金髪が嫌味な位絵になる。
一方、俺の装備は布の服に片手剣の模擬刀。ケイオスの模擬刀は木製と言え、それなりの重量があるからまともに喰らえば骨折を免れないと思う。
「それではルールを説明を行う。試合は三本制とし、先に二本取った者を勝ちとする。判定は審判が有効打撃と認めなければ無効。その他にリングアウトした時や、攻撃魔法を使用した場合相手に一本が与えられる」
つまり俺が一本取る為には頭部への攻撃しかない。しかし、俺とケイオスの身長差は30㎝以上あるし、リーチもケイオスの方が長い。
「我が騎士道に誓う。私は正々堂々と騎士道に恥じぬ戦いをし華麗に勝利してみせる‼」
ケイオスの宣言を聞いた観衆は割れんばかりの拍手と惜しみ無い声援を贈る。特に女性陣の声援は凄まじく、まるでアイドルのコンサートの様だ。
一方俺はと言うと黙々とストレッチをこなしている。
“もうケイオス様に怯えているんですわ”とか“いつ泣きだすだ?”とか“金勘定が得意な青瓢箪領主“って聞こえてくるが、気にしない。上司からの駄目出しやネットの批判に比べたら可愛い位だ。
「随分な嫌われ様だな。大丈夫か」
俺に話し掛けて来たのは茶色のフードを目深に被った男性。顔は見えないが話し方からすると既知の人物だと思う…素早く人物鑑定。
「逆にワクワクしてきますよ。目に物見せてやるってね…それにホート様が応援して下さったら百人力ですよ」
俺に声を掛けて来たのはホート・オリゾン、継承権こそないが立派な王族である。何でホート様がここにいるのか気になるが、それより気になるのは、ホートと一緒にいる二人。二人ともホートと同じくフードを目深に被っているが、ただ者じゃないオーラを放っている。
「相変わらずひねくれた餓鬼だな…勝てる見込みはあるのか?」
「力も剣の腕も向こうの方が上でしょうね…でも、ケイオスが言った様に彼奴は騎士です。そこに付け込ませてもらいますよ…ホート様は、どこでこの話を聞いたんですか?」
オリゾンは対人戦争が何百年も起こってない所為か、騎士の戦いは形骸化している。如何に騎士らしく正々堂々と戦うかが大事らしい。しかし俺を鍛えてくれたのは、アサシンのボルフ先生や元傭兵のギガリさん。戦争はなくなってはいるが、裏での闘争や山賊や盗賊の討伐はなくなっていない。二人共、その中心にいた人物だけあり、いかにして相手に勝つかを教えてくれた。
「お前の親父さんが、貴族や有名人に声を掛けたんだよ。その証拠にお前の婚約者もいるぞ…まあ、向こうの応援みたいけどな」
ホートの言う通り、マリーナはケイオス側の最前列にいた。
「まっ、前から嫌われていましたから、今さら気にしませんよ」
マリーナを見る振りをして連れの二人を人物鑑定…マジかよ、絶対に負けられないじゃん。
軽く息を吸って、闘技場へと向かう。ケイオスへ賛辞、俺にはブーイング。
(良いぞ、もっと罵倒しろ。俺は、その悔しさを力に換えてやる)
今や気分は悪役レスラーだ。脳内で激しいロックを流して、気分を高揚させる。
「ジョージ様、覚悟は宜しいですか?」
ケイオスが爽やかな笑顔で俺を煽ってくる。しかし、まだ甘い…会社のブログで散々煽られた俺には屁の河童だ。
「少なくとも、餓鬼相手にフルアーマーを着てる弱虫騎士様よりは出来てるかと」
ケイオスは没落したと言え、光のライテック家の親戚。しかも、イケメンで騎士としても才能がある。他人を見下した事はあっても、年下の餓鬼に見下された事はないと思う。
効果は上々で、ケイオスの笑顔はひきつりまくっていた。
「それでは試合開始っ」
主審の合図と同時にケイオスが動いた。
「喰らえっ‼シャイニングソード」
シャイニングソードと言えば光属性の必殺技っぽいが、ただの上段斬り。しかし二十歳近いのに輝く剣は不味くないか?
(俺の剣速より速い…けど、ボルフ先生の方がもっと速い…かわせる)
バックスッテプでケイオスとの距離を取る。勢い良く空振りし、剣の風圧で俺の前髪がなびく。
「それならシャイニングソード・改」
何も変わってないにのに改とはこれ如何に。
シャイニングソード・改は敢えて受ける。木刀同士がぶつかりガツッと鈍い音が響いた。
(俺より力は強い…でも、ギガリさんの方が何倍も強い…受けきれる)
木刀を合わせたままジリジリと後退していく。
(真後ろにはホート達がいる…逸らさないと不味いな)
「どうした?受けたは良いが、後退しか出来てないぞ」
ケイオスの優勢を見た観客は熱狂状態。今や応援席は興奮の坩堝である。
(良いぞ…もっと騒げ。そうすりゃこいつは調子に乗る)
「そっちこそ改まで出して、もうネタ切れなんじゃないか?」
頼む、俺の煽りに乗ってくれ。
「ならみせてやろう…シャイニングソード・極」
煽りに乗ってくれたのは嬉しいが、この恥ずかしさはなんだろう。
…敢えて大袈裟にみっともなくシャイニングソード・極を大きな動きで避ける。でも、お陰でケイオスをホートから引き離せた。
「危ない、危ない…あんなの喰らったら気絶しちまう」
俺の言葉が耳に届いたらしく、ケイオスはニヤリと笑った…もう、ケイオスちゃんたら分かり易いんだらから。
「まだまだ…シャイニングソード・極」
受けれたは良いが、思いっきり手が痺れてしまう。体格も力もケイオスに負ける俺はそのままジリジリと後退。このままではリングアウト確実である。
「どうした?もう、後がないぞ…喰らえっ‼ファイナルシャイニングソード」
俺を仕留めようとケイオスは大上段に構えた…つうか、極めたんじゃないのかよ?
「バーカ、んな大振りの剣なんて余裕でかわせるっての」
ケイオスが剣を振り下ろすのと同時に脇から背後に回り込む。見えるのは、がら空きのケイオスの背中。
俺は無言でそれを蹴飛ばした。普段なら俺の蹴りじゃびくともしないだろうが、全力ファイナルシャイニングソードを空振りしたケイオスは、たまらず勢い余ってリングアウト。
「は、背後から攻撃するとは、貴様は騎士道を知らないのか?」
だって俺領主だもん。騎士じゃねーし。
「って事は俺の勝ちで良いんだな?」
物凄いブーイングだが気にしない。マリーナが侮蔑の目で見てるが平気である。だって、負けたらボーブル没収なんだし。ちなみにホートは腹を抱えて大笑いしていた。
「一本位くれてやる。私が残り二本取れば勝ちなんだからな」
成功だ。何しろ俺の新魔法は二回目からは効果が薄くなる。つまり、何としても一本取る必要があったのだ。
「二本目、開始」
審判の声と同時に俺はケイオスとの距離をとった。試合の盛り上がりなんて気にしない。一気に決めてやる。
「風力は7、強風。気流の中心地はケイオスの顔…纏わり付く《ストーキング》・風」
ストーキング・ウインドの攻撃力はゼロ。対象物に強風が纏わり付くだけの魔法である。これが普通の騎士なら嫌がらせにしかならないがケイオスは長髪の持ち主。自慢の長髪が風なびき顔に纏わり付いて離れないのだ。
いくら強くても前が見えなきゃ一本取るのは容易い。
「せーのっ‼ただの上段斬り」
観客が呆気に取られる中、主審が俺の勝利を告げる。堪らないのはケイオスと応援団。もう、大ブーイングである。そして俺に投げつけれる大小様々なゴミと罵詈雑言。
多分、ここがアコーギ本領と知ってるから騎士団も安心して悪態をついてるんだと思う。
「静まらぬか‼この愚か者共。ジョージ・アコーギはまだ中学生ぞ」
叫んだのホートのお連れさん。そしてお連れさんがフードを脱いだ途端、観客が静まりかえった。そこにいたのは厳めしい顔した渋い中年男性。
「王様だ」「アヴニール国王様だ…」
アヴニール・オリゾン。現オリゾン国王である。もし、ケイオスを王様に向かって突き落としていたら大問題になったろう。
明日から社員旅行で東京に行きます。嫌われの取材をします、




