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ジョージの話し合い

 オニゾッリー家から交渉団が来た。団長を務めるのは中年文官、副団長は筋骨隆々とした強面の騎士。強面騎士が俺に圧力を掛け、それに乗じて中年文官が自慢の舌で俺を丸め込むつもりなんだろう。実戦経験の薄そうな強面騎士よりボルフ先生の方が何倍も怖いし、サンダ先生・ロッコーさん・ギリルさんにも同席してもらうので舌戦で負ける事はない。

 

 問題は交渉団に付いて来た男だ。謝罪交渉に来たと言うのに、緊張感が微塵も感じられない。それ所か、まるで自分の家にいるかの様にリラックスしている。何より交渉団全員が、異常なまでに男に気を使っていた。

 特徴は肩まで伸ばした髪と整った顔立ち。深紅のジャケットとパンツを粋に着こなしている。何より所作の一つ一つが洗練されており、全身から育ちの良さが滲み出ていた。男が部屋の調度品に視線を移した隙に、人物記録にアクセスする。

 (また厄介な人を連れてきたな┄幾ら渡したんだ?)

 入ってて良かったサンダマナー教室。目線を合わせない様に気を付けながら、赤い服の男の前に跪く。


「ホート・オリゾン殿下で御座いますね。申し遅れました、ボーブルの領主を仰せつかっているジョージ・アコーギで御座います」


「名乗っていないのに、良く俺だと気付いたな」

 もし、男がホートと気付かず無礼な態度を取っていたら中年文官は俺を責め立てオニゾッリー家が提示した条件を丸飲みさせただろう。


「お目通りの機会こそありませんでしたが、殿下の事は祖父コーカツより良く聞いております。それにオリゾンで深紅の服を着こなせるのはホート様しかおりませんから」

 こちとら上司や取引先におべっかを使いまくっているジャパニーズサラリーマンだ。歯の浮く様なおべっか位、アドリブでスラスラ言える。


「だとよ┄他人の領地(いえ)で好き勝手した馬鹿坊主共と役者が違うぜ。それにこいつはローレンのお気に入りだ。あのおっさんを、怒らせたら俺でも匙を投げるしかねーぜ」

 いや、爺ちゃんをおっさん呼ばわりできるのは王族しかいないんだけど。


「ボルフ、娼館に連絡して殿下のご到着を伝えろ。この様なむさ苦しい城では、ホート様が休めぬ。気付かず申し訳ありません。粗末な椅子ですが、お掛けになって下さい」  

 中年文官が口を挟む隙がない位に、一気に捲し立てる。もし、俺とホートの会話を遮りでもしたら、逆に俺が不敬罪で責め立ててやる。


「まあ、ジョージ待てよ。こいつらの話も聞いてやってくれ」

 王族は領地収入以外にも副収入があるそうだ。赤ん坊の名付けを頼まれたり、婚姻の保証人をお願いされたり┄中でも多いのが、貴族同士のイザコザの仲介役。王族を間に入れる事で、後々の禍根を防げる。後からの蒸し返しは、仲介役をしてくれた王族の面子を潰すのと一緒だ。


「分かりました。しかし、ホート様の貴重な時間を無駄にするのは耐えられません。先に書類を見せて頂きますかサンダ、ロッコー、ギリル、要点を纏めてくれ」

 この手の書類は要約すると、笑える位に短くなる。まあ、無駄に長くするのにも腕が必要なんだけど。

 纏められた書類を見て、危うくお茶を噴き出しそうになった。


(犯人はタンラとリーゼンの二人、あくまでボーンタは無関係と。見事なまでのトカゲの尻尾切りだな┄しかし、こんな餓鬼の言い訳を書類に載せるのかよ)

 ちなみに、オニゾッリー家は見舞い金として5000万ストーンを払うらしい。あくまで見舞い金であって賠償金ではないとの事。ホートへのお礼も含めると、かなりの痛手だろう。


「殿下は書類の内容をご覧になられましたか?」

 和解の条件はともかく、この内容に頷くのは無理がある。


「いや、まだだ┄ブレイブ・アイデックが夢で御告げをしただ?おいおい、こんな餓鬼の戯言の仲介をしたなんて、バレたら王様から叱られちまうぞ」

 タンラ達の犯行動機は、夢に現れてたご先祖様(ブレイブ・アイデック)に従った為との事。


(だからホートを巻き込んだ訳か┄オニゾッリーとしては、ボーンタの経歴に傷が付くのを防ぎたいと)


「ホート様の名を公的に記載しないのなら了承します。ただ、今回の件はあくまでホート様がおられたからと言う事をお忘れなく」

 こんなくだらないゴタゴタに関わるのは、時間の無駄だ。金額を吊り上げるより、王族(ホート)とのパイプを太くし、オニゾッリー家に貸しを作って置く方が得だ┄何より、もうすぐ夏休み。俺はアミを全力で可愛がりたいいんだ。


「あ、ありがとう御座います。二人とも退学させ、タンラはフェルゼンのハイドーロ教会へ、リーゼンもフェルゼンの兵士養成所へ行かせます」

 中年文官の顔に、安堵の色が浮かぶ。彼も巻き込まれただけの中間管理職、リーマン経験者としてこれ以上ストレスを与えるのは避けたい。

 フェルゼン帝国は、オリゾンの隣に位置する軍事国家だ。標高の高い山が幾つもあり、タンラの行く教会も山の上にあるらしい。国民性はストイックで、自分にも他人にも厳しい。ゲームでは、中盤で魔王軍に滅ぼされてしまう。魔導兵器なる強力な武器を作るが、あっさりと負けてしまう。強力な武器を作ってた軍事国家が負けるのは、ゲームの様式美(おやくそく)なのだ。

 しかし、フェルゼンはその負けっぷりより、あるキャラの出身地として知られている。

 ミューエ・レオパルド、またの名をノンデレミューエ。軍服に身を包み、武器は鞭と言う一定層には、ご褒美なキャラだ。フェルゼンから使者として登場し、パーティーにも加入する。非攻略キャラである。それが女性ユーザーにも受けキミテの人気キャラの一人なった。

 

(二人共、実質国外退去か…これでボーンタが大人しくなれば良いんだけだどな) 


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 明日から学校が夏休みに入る。長期休暇でテンションが上がるのは異世界の学生も同じらしく、クラスの皆は夏休みの予定に華を咲かせていた。担任の先生の話を真面目に聞いているのは、ごく僅かである。

(先生が注意するのが先か、それとも真面目な奴がキレるのが先か┄こっちの世界じゃ、どっちなんだろうねー)

 先生が本気で困っているんなら俺が注意するけど先生にとって、この騒ぎは恒例行事らしく、どこか楽しんでいる様にも見えた。何より俺のエアリーディング能力が、楽しい空気に水を差すなと警告している。

(前世の俺もはしゃいでたよなー。夏休みに何かあるんじゃないかって、根拠ない期待なんかして)

 夏祭りで偶然好きな女の子に会って仲良くなれるかもとか、特別な冒険が待ってるんじゃないかとかワクワクしていた。そんな事は起きる訳もなくダラダラするだけのありふれた夏休みだった┄でも今になって思えば、無邪気に毎日を楽しめていたあの日々が特別だったって分かる。

 

「先生がお話をしてるんです。少しは、静かにしてもらえませんか┄こんな当たり前のマナーも守れないんなら小学生からやり直す事をお勧めしますよ」 

 ピーターの皮肉が効いたのか、教室は水を打ったかの様に静まり返った。一部の女子はピーターの凛とした態度に頬を赤らめ、大多数の男子は恥ずかしさから顔を赤くしている。ちなみにヴェルテは、ラパンの頬に朱がさしたのを見て顔を青くしていた。 


「中学生になった途端、良い子ちゃんになりやがって┄気に食わねえな」

 ピーターの上から目線な態度が気に入りなかったらしく、ケインが反抗的な態度で応える。中学生は大人振りたい時期だ。ましてやケインは年上のボーンタ達と遊んでいるから、自分はクラスメイトより大人だと思っているのだろう。


「不良と夜遊びする人には言われたくないですね」

 ケインとピーターは、小学校の時は仲が良かったが、中学になってから疎遠になっている。ケインが不良(ボーンタ)達とつるみだしたのもあるが、ピーターは真面目に磨きが掛かり融通が利かなくなってきた。今もケインとの口論に夢中になり、先生の話を妨害しまくっている。


(おいおい勘弁してくれよ。俺は夏休みで煮詰めたい事業がわんさかあるんだぞ)

 ちなみに城の職員は交代で長期休憩に入ってもらう。長期休暇前には臨時ボーナス(オニゾッリーの見舞金を流用)を手渡す予定だから、直ぐにでも帰りたい。

 年長者の責務もあるから二人を諌め様としたら。


「二人共、いい加減にしてもらえませんか?僕はこの後、大事な取引が控えているんです。喧嘩は授業が終わってからにして下さい」

 俺より先に口を開いたのはヴェルデ、ゲームとは違いオドオドしておらず堂々とした態度だ。


「ヴェルデ、随分と調子こいてるな」

 ケインはピーターからヴェルデに標的を変えて、にじり寄っていく。


「殴り合いの相手なら、オラがするだよ…外に出るだ」

 ヴェルデとケインの間に割って入ったのはドンガ。こいつもゲームとは違いビクビクしていない。


「お前は関係ないだろ」

 ケインの顔に焦りの色が浮かぶ。栗鼠人のケインと熊人のドンガでは、体格に差がありすぎる。何よりドンガは親父さんとの鍛練で、体がゴツくなっていた。


「ヴェルデはオラの友達だ。何よりジョージ様も、この後予定が詰まっているだ」

 はい、俺には夏休みはありません。襲撃事件でボーブルの雰囲気が暗くなってたから、夏祭りを開催する。通常業務に加え、その指揮もとらなきゃいけないし。

 ドンガにビビったのか、ケインも大人しくなり無事に授業が終わった。

 しかし、一難さってまた一難。


「ジョージさん、お願いがあります。タンラさんの処分を撤回して頂けますか?」


「ジョージ様、リーゼン君は本当は優しい子なんです。それにフェルゼンに行ったら家族と離れ離れになってしまいます」

 アニエスとマリーナが、タンラ達の罪を軽くする様に抗議に来ています。


「無茶を言わないで下さい。もう、処断は決まったのです」

 ホートの名前を表に出していないから、書類上は俺に決定権がある。


「貴方に慈悲の心はないんですか?誰でも間違いは犯します」


「リーゼン君のお母さんも妹さんも毎日泣いています。私はそれを見るだけで、心が押し潰されそうになるんです」

 ちなみにマリーナの目に涙が浮かんでいた。


(二人共、分家の連中に焚き付けられたな。さてと、どうすっかな)

 理論より感情で動いてる相手を説き伏せるのは至難の技だ。


「ちょっと良いかい?マリーナ、あんたはそのリーゼンって男を止められなかっただろ。それを体を張って止めたのは、あんたの婚約者のジョージだ。馬鹿をやらかした二人を庇って、ジョージを責めるのはお門違いじゃないか」

 助け船を出してくれたのはカリナ。カリナとマリーナは友達らしく言葉に遠慮がない。

 うちのクラスには獣人が多い。自然とマリーナ達を非難する声が強まる。

 結果、マリーナ達はいたたまれなくなったらしく、無言で教室を後にした┄俺を睨み付けながら。

 アミ、夏休みはお兄様を癒して下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄まじい程に女が政治に向かない事が理解出来る。お互い貴族なんだから領主としての立場とか国の法律や契約について知っている癖に、感情論で法律に則った契約を破棄させる様に強要するとはw 女はゴ…
[気になる点] ジョージなんでこんな黙ってんの?
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