ジョージとアニエス
共有スキルをジョブスキルに変更しました
ボーブル城が完成したのは、残暑厳しい九月半ば。オリゾンに空調設備なんてないから、風の魔石と水の魔石を組み合わせて作り上げた。床下にパイプを張り巡らせ冷水を流して温度を調整するのだ。ちなみに冬は風の魔石を火の魔石に代えて温水を流す予定。
残るのは、タスク山のドラゴンと中学校との交渉だけだ。ドラゴンとの交渉が終われば、小学校卒業前にボーブルへ移住しようと思う。
だからと言って安心は出来ない。まだ解決出来ていない問題が山積みなのだ。
まずはスキルを一つも覚えられていない。
(マリーナとの仲を考えると固有スキルは諦めるか…これだけ鍛練してるんだから、そろそろジョブスキルを覚えてもおかしくないんだけどな)
ジョージの固有スキルは三つ。体を好きな色に光らせるシャイニングボディ(効果、防御力+3)。瞬間的に自分の鎧を吹き飛ばすアーマーパージ(効果、敵に軽微のダメージを与える。自分の防御力激減)。
自分の武器を黄金色に輝かせるゴールドウェポン(自分の武器に光属性を付与し光らせる※攻撃力に変化なし)としょぼい。
そしてジョブスキルは華麗な突き(攻撃5%増化)・更に華麗な突き(突きを二回繰り出す。一回毎の攻撃力は30%減小)・かなり華麗な突き(華麗な突きを三回繰り出す)・格好いい斬撃(グループ攻撃、攻撃力が50%減小)と、こちらもかなりしょぼい。
(こうゆう時は…カモーンッ!!ダイタンス…ミケッ)
危うく三を英語で言う所だった。
「そのパターンのボケは危ないから、止めんかい!!…またパソコンかい。子供は風の子、たまには外で遊んだりせのか?」
中身がおっさんな俺が外で隠れんぼとかしていたら、痛々しいと思うんだけど。
「だったら優しい神使様が事務仕事を手伝ってくれよ。ところでミケ、スキルってどうやれば覚えられるんだ?」
「あー、言い忘れとった。この世界にお前の言っとるジョブスキルはあらへんで。固有スキルは魔法の一種に数えられとるし」
ジョージのジョブスキルは、他のキャラのジョブスキルの劣化版。名称はキャラにより違うが、華麗な突きは強攻撃の事だ。マリーナの強攻撃は光の一撃(1・5倍のダメージを与える)、ドンガの強攻撃はおで頑張る(2倍のダメージを与えるが、命中率が30%減小)。ちなみにおでもっと頑張る、おで更に頑張るとパワーアップしていく。
「マジか…ボルフ先生にスキルを教えて下さいって、頼まないで良かった」
これもエアリーディング能力の賜物と言えよう。
「行動の結果がジョブスキルになっとるだけやで」
そうか、野球で言えばカーブの握りで投げるからボールは曲がる。カーブだって叫んでも曲がらないし、念じても曲がらない。ボールが曲がるように投げた結果、カーブになると。そこに魔力は介入しておらず、関連してるのは運動エネルギーだけだ。
「そうだよな。ボクシングのストレートや柔道の一本背負いがジョブスキルな訳ないし」
でも、素人の見よう見まねのストレートパンチとプロボクサーのストレートパンチでは雲泥の差がある。そこあるのは鍛練と才能の差。
「早い話が強くなりたきゃ鍛練しろって事か」
固有スキルも魔法と考えれば納得がいく。属性魔法を使う時は、六属性の神から力を借りているそうだ。つまりそれぞれの神の信徒であるヒロインが祈る事で、新たな魔法を使える様になるんだろう。
「そうゆうこっちゃ。これで悩みが解決したろ」
ミケはそう言うと、どや顔でふんぞり返った。
「まだまだだよ。娼舘問題も解決してないし、前からボーブルに住んでいた領民と移民の仲も気になる。食料の備蓄も不安だ。ドンガとヴェルデの恋も気になるんだよな」
二人とも一途ならしく、まだ吹っ切れてないらしい。それに好き同士と言っても、そこは小学生。恋人には程遠い仲良しのお友達レベルである…ドンガ達の方が圧倒的に不利なのは変わらないけど。
「本当に苦労性やな。普通の貴族はもっと泰然としてるで」
何よりボーブルに引っ越したらアミとも離れ離れになるからお兄様の癒しがなくなってしまう。
他にも商品や調味料の開発、町のインフラ整備、騎士団及び警察の発足、病院や小学校の建築、奴隷制度の廃止等、問題は山積みだ…合体ゴーレム作りたかったのに。絶対に巨大ゴーレムは作ってやる。
「少しは自分の幸せも考えなあかんで。覚えとき、なくならない幸せなんてないんや。幸せは笑える程簡単になくなるんやで」
ミケはそう言うと姿を消した。やっぱり事務仕事は手伝ってくれないか…。
下手の考え休むに似たり、今溜まっている書類を片付けるのが先決だ。
…マジ?これ、どうしよう。その書類を見た途端、目眩がしてきた。二度見してもチラ見しても書類の内容は変わらない。裏返しても後回しにしても変わらず。当たり前か、stop・the現実逃避。
メイドさんに頼んでボルフ先生を呼んでもらう。
「ジョージ、またなんかあったのか?」
ボルフ先生は俺の渋面を見て察したらしい。言っておくけど、普段はニコニコ笑顔の優しい領主です。
「ハイードロ教から面会の申し込みが来ました。家の事情で中学進学を諦めている児童への援助の協力のお願いをしたいそうです」
ハイードロ教、水の神ハイードロを崇める宗教。神官長を始め重要なポストは水のウォーテックが独占している。キミテでは、水属性のヒロインアニエス・ウォーテックがハイドロ教の神官として登場する。
「相変わらず、金の臭いを嗅ぎ付けるのが早いな…ジョージ様、どうする?」
ある意味、領地経営が上手くいってる証なんだけど頭が痛い。
「金を出さないと色んな噂を流されると思いますから、応じようと思います…ただし、こちらからも条件を提示します。それと爺ちゃんに連絡をとってもらえますか?」
簡単に応じてしまったら、これ幸いと何度も金を毟り取に来るだろう。宗教勧誘を何度も撃退した腕を見せてやる。
「分かった。しかし、何が目的なんだ?」
「金の中抜きとハイードロ教への勧誘じゃないっすか?まっ、一番は宣伝ですね」
金は貴族に出させて手柄はハイードロ教が独り占めすると。
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ハイードロ教との面会日。対応策として、俺は質素な麻の服を着ていた。ハイードロ教の神官は、貴族が豪華な服を着ていたら ゛贅沢だ。そんな金があったら、庶民に施しをするべき ゛と絡んでくるらしい。ボーブルには見られたくない物が沢山あるので、話し合いはアコーギ城で行う。
「ジョージ様、ハイードロ教の方がお目見えです」
対応をお願いしていたサンダ先生が声を掛けてきた。ラブーレ教の神官でもあるサンダ先生が腹心と知れば、俺を勧誘する確率が下がるだろう。
「通して下さい」
入って来たのは一組の男女。長い耳に整った顔立ち、二人ともエルフだと思う。ちなみにお二方ともシルクで出来た高そうな僧衣を着ている。
「ジョージ・アコーギ様ですね。私はハイードロ教の南部神官長をしているロッコー・ウォータと申します。こちらにいるのがアニエス・ウォーテックでございます」
ロッコーはエルフだけあってかなりのイケメン。ちなみにアニエスは不機嫌らしく顔をしかめている。ちなみにウォータ家はウォーテック家の分家との事。
「これはこれはご丁寧なご挨拶ありがとうございます。ご提案頂いた件ですが大変素晴らしいと思います。ただし、幾つか条件を付けても宜しいでしょうか?」
確かに才能を埋まらせておくのは国にとっても痛手だ。
「どの様な条件をお考えですか?」
ロッコーの顔から笑みが消えた。
「まずは選考基準に偏りを出さない事。特に種族、信仰宗教に関係なく進学して欲しいですからね。そして金の流れを明確化させましょう。全てハイードロ教に任せては申し訳ないので、有志の貴族で基金を作りました。こちらが参加する貴族と予算案です」
今回も爺ちゃんの脛をかじらせてもらった。オリゾンの貴族の殆んどが爺ちゃんの呼び掛けに賛同してくれたとの事。それ位、ハイードロ教のたかりに辟易していたんだろう。
「お金お金って…猿人は口を開けば直ぐにお金の話をするんですね。ハイードロ様は仰られました¨富める者は貧しき者に富を分け与えよ¨と。そんな事をしていたらハイードロ様に嫌われますよ」
ハイードロ教では金に執着するのは浅ましい事とされているらしい。小学生?のうちから金を稼いでいる俺なんて許しがたい存在なんだろう。
「でも金がないと人は暮らせませんよ。昔ある偉人がこう言ったそうです。自分の国で苦しんでいる人がいるのに他の国の人間を助けようとする人は、 他人によく思われたいだけの偽善者だと。私の領地はまだ完全な状態ではなく、困窮している民も少なくありません。彼を餓えさせない為なら、喜んでハイードロ様に嫌われますよ」
マザーテレサさんの名言をパクらせてもらいました。正直、今は1ストーンも無駄にしたくないのだ。
「なっ…私達が偽善者だと言うんですか!?」
アニエスさん激切れ。偽善とは言わないが、綺麗事を言う人が嫌いなだけです。
「誰もそうは言ってませんよ…ロッコー様、ご覧の通り王様からも賛同を得ております。基金の代表にはハイードロ教から人を出して頂いても宜しいでしょうか?」
ちなみに基金の名前はハイードロ進学基金。実利は形骸化させたが名誉は残しておく。
「なるほど…噂通り面白いお方だ。でしたらボーブルにハイードロ教の教会を建てても構いませんね。ジョージ様は宗教を差別されないようですから」
「ええ、我が領は法を守って頂けるのなら何時でもご歓迎いたします」
ハイードロ教は力のある宗教だ。好き好んで対立する気なんてない。
「アニエス、君の負けだ。ハイードロ様の教えは確かに尊いが、形にならなければ何の意味もない…ジョージ様、私がボーブルの教会に赴任させてもらいますよ」
アニエスに嫌われて、厄介なエルフを呼び込んでしまった。




