ジョージとドワーフ
花山さん、やっぱりあんたは凄腕のCG職人だよ。
目の前に広がるのは恐いくらいにゲームと似かよった風景。真っ青な空とは対照的な赤茶けた大地がどこまでも広がっていた。荒涼とした大地は乾いており、馬車の車輪が土埃を舞い上げる。
(気候的にはうちと変わらない筈なんだけどな)
アコーギ領が中世ヨーロッパなら、ここは開拓時代のアメリカ。ファンタジーと言うより西部劇である。
アーシック領、勇者の子孫土のアーシック家が治める地。
レコルト基礎知識によると、住人の9割はドワーフ若しくはハーフドワーフとの事。主な輸出品はテラ台地で取れる土の魔石と工業製品。数年後、テラ台地に六魔衆の一人土のパペッターが城を築く。ちなみにパペッターは俺が戦いたくない六魔枢の筆頭である…ぶっちゃければ、全員と戦いたくないんだけど。
アーシック領に来た目的は職人のスカウト。今回もサンダ、ボルフの両先生が一緒です。
「しかし、見事なまでの荒れ地だな」
御者をしているボルフ先生が溜め息を洩らす。強面のボルフ先生はアーシック領と憎い程、マッチしていた。テンガロンハットを被らせジーンズとウエスタンブーツを履かせたらイケメンカウボーイの出来上がりである。
「昔は緑豊かな土地だったと言われています。土地が荒廃したのは土の魔石の影響と言われていますが、ジョージ様はどう思れますか?」
サンダ先生は俺が持っている異世界の知識に興味があるらしく、時々こんな質問をしてくる。多分、土の魔石の影響はアーシック家が言ってるんだろう。
「乱開発の所為で、土地が荒廃しただけですよ。一番の原因はあれだと思います」
俺の視線の先にいるのは数体のゴーレム。ゴーレムは3m近い大きさで、木を根っ子ごと引っこ抜いている。
ちなみにキミテのゴーレムは、大地の神ジーオの頭文字Gを取って付けられた名前である。だからレコルトにヘブライ語があるんですか?と突っ込むのは止めましょう。それと鉄やミスリルで出来たゴーレムはいませんって突っ込みも受け付けません…色違いキャラは容量の節約になるのです。
「あれはゴーレムですよね。ゴーレムを使うと自然が失なわれるんですか?」
アーシック領ではゴーレムを使って、鉱石を採掘したり素材を集めているそうだ。
「木を根っ子ごと引っこ抜いたりしたら、木は数を減らします。木がなくなり剥き出しになった地面に雨が降ると、土が流されてしまいます。それを繰り返すと、植物が根を張りにくい硬い地質が出てくるんですよ」
それにゴーレムには1トン近い重さを持つ物もいるらしい。そんなのが歩き回ったら、ますます地面が硬くなってしまうだろう。
「随分と詳しいんだな。それも前世の知識か?」
「ええ、俺が生まれた世界でも、自然が失われて大騒ぎになりましたからね。でも一度失われた自然を取り戻すのには、何倍もの労力を使うんですよ」
俺の生まれた田舎も里帰りする度に、自然が減っている。蛍が舞い踊った田んぼはコンビニになり、蝉が大合唱していた林檎畑にはホームセンターが建っていた。都会で便利な生活を享受している俺に口を挟む権利はないが、哀しくなってしまう。
「頭が良いのか間抜けなのか良く分からねえ世界だな…さて、工業ギルドに行くぞ」
アーシック領の工業ギルドは鍛冶だけでなく建築や治水、更には道具作りも引き受けてくる有能ギルドだった…まあ、思いっきり過去形なのである。最近は、鉱石を取り尽くした所為で、依頼を受けても素材を他領から買わなければならなく成ってるらしい。当然、利益も減り職人に渡す金も少なくってしまう。有名工はネームバリューで稼げているらしいけど、普通の職人は苦しい生活を余儀なくされているそうだ。
「工業ギルドに伝説の鍛冶屋ガンコー・ヘンクーツ殿も在籍されていますが、会わないんですよね」
ガンコー・ヘンクーツはお約束の様に、頑固で偏屈な職人。鍛冶、特に剣を作る腕はオリゾンでもトップクラスと言われているが、自分で気に入った仕事しか引き受けないそうだ。
更にお約束になるが、何故か主人公やヒロインだけは簡単に受け入れてしまう。主人公が良い目をしてるなんて、判断基準が曖昧過ぎるんだよな。
「ええ、質も大事ですけど確実に仕事をしてもらわなきゃボーブルを発展させ様がありませんからね。俺が欲しいのは一本の伝説の剣じゃなく、百本の鉄の剣なんですよ」
ちなみにキミテの最終武器は想いの剣。ヒロインに告白されると、その属性が付与されると言う女性団体に怒られそうな設定の剣なのである。俺が持つと攻撃力にマイナス補正が付くかもしれない。
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アーシック領領都ウッドランド。昔は自然が豊かだった事を偲ばせてくれる、何とも皮肉な名前である。サンダ先生の話によると、ウッドランドの建物は使われている材質で大体の年代が分かるらしい。
「古い建物ほど木がふんだんに使われております。尤も、一部のお金持ちの間では輸入木材で家を建てるのが流行っているそうなので確実でありませんが」
ちなみに普通の家はレンガ造りだそうだ。キミテでは木造建築で統一されていたけど、現実は違うらしい。ゲームではリアルさより雰囲気を重視する事もあるんです。
「しかし、でかいよな…あんなのに攻撃されたなんて考えただけで、ブルッちまうぜ」
ボルフ先生の視線の先にいるのは6m近い大きさの銀色のゴーレム。巨大なゴーレムはウッドランド城の脇に鎮座している。
「主な素材は鉄、そして全身をミスリルでコーティングしたアーシック家の守護神陸王丸。今は動かせないそうですが、迫力がありますね」
両先生は目を合わせると苦笑いをした…言えない、あれが土属性のボスになるなんて。
正確には六魔枢のパペッターに陸王丸が操られてしまうんだけど…キミテでは操られた陸王丸の攻撃でパーティーが全滅、ベルが泣きながらパーティーを庇うと何故か陸王丸が動きを止めてパペッターとの戦闘が開始になる。
陸王丸あれば魔王も余裕じゃね?って言うのは止めましょう。ゲームバランスが崩れるし、あんなのを動かしたら二次災害の方が深刻になります…昔の巨大ロボットアニメってビルを壊しまくっていたけど、誰が補償していたんだろう?
(パペッターとの戦闘は、勇者パーティーに丸投げだな)
現実にはイベントバトルなんてないから、伸しジョージになってしまう。
「…さ、さあ行きましょう。折角、ヴェルデの親父さんが約束を取り付けてくれたんですから」
いきなりうちに来ませんか?なんて誘っても怪しまれるだけである。だから俺はアーシック領と取り引きがあるギリアム家に仲立ちをお願いしたのだ。
ちなみに、募集条件は
ジョージ様独立に備え家臣、領民大募集。経験は問いません。アコーギ家では、やる気がある方を募集しております。次男、三男の方でもやる気がある方には独立の手助けをさせていただきます。家族手当てあり、自前で家を建てる時には建材を無料融資、土地代は二年間無料で貸します…近々、学校建設の予定あり。王都まで乗り合い馬車あり。ボーブルで一緒に夢を叶えましょう!!
工場の求人募集みたいになったけど、オリゾンにはきちんとした労働契約がないらしい。ちなみにヴェルデの親父さんは俺のやり方に食い付きまくっていた。
面接会場には大勢のドワーフさんが来てくれていた。
「身元保証がしっかりしていれば、私達が断る事はありません。移住を即希望される方がおりましたら、私達の帰りの馬車に乗って頂いても構いません」
サンダ先生の言葉に会場がざわつく。猿人の貴族の中には、他の種族を見下し近付くと汚れが移ると公言して憚らない奴もいると言う。
「猿人の治める土地だぞ。大丈夫なのか!?」
「俺は狼人でサンダはオークだ。そしてジョージは俺達の教え子なんだぜ。こいつがふざけた事をしたら、俺達が叱る」
ボルフ先生の体罰もきついが、サンダ先生の説教は精神に響く。気を付けねば。
「皆様、ご不安はごもっともです。しかし、皆様の移住はボーブルにとって最初の一歩に過ぎません。これからオーク・狼人・熊人・狸人・エルフ・獅子人、色々な種族の力を借りてボーブルを盛り立てて行こうと思います。是非、お力をお貸し下さい」
俺が頭を下げると、会場からどよめきが起きた。俺は必要なら頭を下げるし、土下座も辞さない。
「一つ確認させてくれ。学校を作るのは本当か?」
「まだ建築は始まっていませんが、後々建てます。暫くは乗り合い馬車で王都の学校に通ってもらいます」
スクールバスならぬスクール馬車の運行である。
「それなら安心だ。俺の娘が姫様の遊びに付き合わされて学校に通えていねえんだ。姫様は勉強しなくても平気かも知れねえが庶民はそうはいかねえからな…領主様、移住を希望させてもらいます」
なんか嫌なワードが出てて来た。
「姫様とはベル・アーシック様ですか!?」
話を聞くと娘さんはベルの親友で、今まで何度も引っ越しに横槍を入れられたらしい。しかし、俺が相手ならベルも手を出せないと…
(ベルから見たら親友を奪った嫌な奴になるんじゃねえか!?)