ワノ国で覚えた郷愁
久し振りの更新です 理由は活動報告にあります なんとかかけるまえ復活しました
今でこそ公爵だけど、俺は元サラリーマン。中間管理職どころか部下のいない末端プログラマーだった。
そんな俺がどうして彼等を責める事が出来ようか。
「も、もう少しお待ち下さい。あと四半刻もすれば、城から伝令が来ますので」
そう言って何度も頭を下げるお侍さん。額からは冷汗が滴り落ちており、顔色は青を通り越して土気色になっている。
分かる。分かるよ。現場って大変だよね。矢面に立つのは、いつも現場。
(四半刻、確か三十分だった筈……まず、無理だな)
今頃、エンド城内はてんやわんやだと思う。その原因の俺が言うのも何だけど、頑張って下さい。
「……四半刻?もう約束の時間を半刻も過ぎているのだぞ。今、ここにいるのはただの特使ではない。魔王と戦い国を……いや、世界を救った英雄なのでござるよ」
凜が怒るのも無理はない。約束の時間はもう一時間は過ぎている。でも、エンド側は理由を説明せず待って下さいの一点張り。
でも、予想はついているから怒れない。ある意味、俺にも原因があるんだし。
「その面は、なんで遅くなっているか分かっている感じだな。説明しろ」
ボルフ先生、侍を見習ってまで言いませんけど、弟子にもう少し優しくしても罰は当たらないと思うんですが。
「会見する場所が決まらないんだと思いますよ。当たり前ですけど、この国の殿様って偉いんですよ。最初は城内もしくは庭で平伏している俺に声を掛けるって。設定だったと思うんです。でも、昨晩俺達を竜神様や天狐様が警護してくれました。粗略に扱えば、彼等の顔に泥を塗る事になる。でも、自分達の威厳は守りたいってやつです」
この達が大事。殿様より、仕えている人達が面子を守りたいんだろう。
「そういやドンガが挨拶に行った時も、外で話したって言ってたもんな」
あれは鷹狩りの最中に偶然会ったって設定なんです。俺の裏工作もあって、和やかな雰囲気だったらしい。
「今回は公的な会見でしょ?俺達の扱いに苦慮しているんですよ。勇者の子孫もいますし。ドンガが持って来たミスリル扇も受け取ってしまった。何より、俺達が持って来たエンド病に効く野菜の苗は喉から手が出る程欲しい。見栄と実利を天秤に掛けているんですよ」
俺なら迷う事なく実利を取る。見栄や栄誉は他人に渡したい派だ。
「昨日風太郎様が簡単に会ってくれたのは、周囲に止める奴がいなかったって事か」
それもあるけど風太郎君は危険を冒してでも、自分の地位を確実な物にしたかったんだと思う。
「昨日、俺達を出迎えなかったら寒源一派が無礼だって騒ぐし、ここぞとばかりに自分達が次期将軍だってアピールしますからね。寒源の掲げる綺麗事オンパレードな政策なんて、絵に描いた餅以下ですし」
あんなのを政府公式発表なんて捉えれたら、地獄だぞ。聞こえが良いだけの政策には裏がある。
もしくはそれを実現するのは、とんでもない労力が必要なのだ。
「凜を国外追放にした所為で、人気は落ちた。ライバルは人気だけはある無責任な八方美人。聞いただけでも胃が痛くなるな」
その凜は『国外追放?違うでござる、拙者はどんがとの愛の運命によって、オリゾンにやって来たのでござるよ』と言っている。
もう、ご馳走様でござるとしか言えない。
「だから、今は気長に待つのが一番ですね。何より今頃妖狐が必死に寒源と鬼の繋がりを広めてくれています。待てば待つほど、こっちが有利になります」
出来ればお流れになって欲しいな。リアル将軍なんて絶対に緊張する。無礼者って配下が切れる危険性だってある。
(こっちでは尊王攘夷的な運動はないんだろうか?……その前にオリゾンで産業革命が起きていないから、まだ時期が早いかも知れない)
いや、俺が近い事しちゃったけど。あれはそこまで影響がないと信じたい。
「でも、茶を飲んでって訳にもいかないだろ?せっかくワノ国まで来たんだ。時間を無駄にするな」
……弟子と師匠の関係って、死ぬまでこのままなんだろうか?立場が逆転しているシーンすら想像出来ません。
「谷、使者の皆さんを検診してもらえるか?カリナ、持ってきた野菜で何か作ってもらって良い?」
ついでに配下に偉そうに命令する俺も想像出来ません。
◇
結局、使者が来たのは一刻後だった。会見場所は、エンド城内に設置された陣幕の中。
(陣幕の中には、鎧武者が勢揃いか。生で見るとかなり動き辛そうだな)
でも、ここなら高座なんてないから、将軍の立場を保ちつつ、竜神の面子も潰れない。
誰の案か気になる。
風太郎の気配がしたので、直ぐにひざまずく。
「じょうじ殿、私が風継風太郎でござる。本来なら謁見の間にお招きしなければならないのですが、皆様は異国の方。我が国の礼儀を強要するのは無礼になりますので、この様な形をとらせてもらいました。そして父母に代わり妹凜が世話になった礼を伝えさせて下さい」
上手いな。それが俺の感想だ。ちなみに凜の両親である将軍と御台所様は臨時設置の御簾の中にいる。
直ぐにでも娘に会いたいんだろうけど、封建時代の権力者って大変なのね。
「もったいない御言葉ありがとうございます。これが我が王オリゾン・アベニールから預かった書状及びそれをワノ国の言葉に訳した物、それに貢ぎ物の一覧にございます。どうか、お納めください」
胸から取り出した書状を凜に手渡す。どうだ!異世界言語スキルで、ワノ国に言葉もすらすらでるし、凜に礼儀も仕込んでもらった。
何より、敬語はリーマンの必須スキル。
「ここは幕間の中。ある意味戦場だ。戦地で礼儀は不要と言う。どうか、いつも通りにしてもらないか?」
はい、風太郎さん。俺、公爵だけど、ため口で話せるの、ほんの数人ですよ。同級生組と谷位だ。公爵だけど市民にも敬語で接しているぞ。
「お言葉に甘えまして、私がジョージ・アコーギでございます。この度は妹君と我が配下ドンガの婚約を許して頂きありがとうございます」
陣幕の中が変な空気になりました。だって、これがいつもの俺だもん。
横目で凜に助けを求める。
「兄上、じょうじ殿は普段から、こんな感じでござる。ぼーぶるでは店員より、腰が低い領主と呼ばれております」
公爵が腰低くて悪いか。だって普段王族やベテラン貴族に囲まれて仕事しているんだぞ。骨の髄まで敬語が染みついています。
「そ、そうか。公爵といえば親藩の大名みたいな物と聞いたが」
そうだよ。でも、根っこはリーマンだもん。キャバで威張っている上司みたく、ためで威張れません。
「厚かましい話ですが、風太郎様にいくつかお願いがございます。箪笥作りの職人と風太郎様が治めている地の豪農や地主を紹介して頂けますか?」
事前に箪笥は贈り物を作る事、ドンガが農業指導する事を伝えてある。
「エンド病に聞く作物を持ってきてくれたと聞く。既に手配を済ませてある」
やはり風太郎は実務家だ。だから、調子の良い事が言えない。その辺を上手く引き出せば、人気が上がる筈。
「もう一つお願いします。安部曇天殿とお話がしたいのですが」
今の一番しなきゃいけないのは、鬼対策。その為には寒源の息が掛かっていない曇天と話す必要がある。
「それも聞いてある。曇天、こっちへ」
風太郎さんが背後に声を掛ける。なんだろう、この懐かしさは!
「あ、あの自分が安部曇天です……よろしくお願いします……」
現れたのは、やせ細ったぼさぼさ髪の男。卑屈笑み、自信のない態度。
前世の同僚を思い出す。胸を張って言える。この人は俺の仲間だ。
そしてまた新作始めました 俺、ヒーローなんだけど 良かったら読んで下さい




