囮の天才?
転生してきた時の目標の一つが、ワノ国に行き畳の上で寝る事だった。
ワノ国最初の夜、俺は板の上で横になっています。
横になっているけど、眠れません……だって、波の音がうるさいんだもん。
そう、俺は今甲板で寝ている。波の音がダイレクトで聞こえてくるのだ。
(寝袋を持って来て正解だったな)
囮役に任命された俺は一人甲板で寝る事になったのだ。そこで活躍したのが、前世でも愛用していた寝袋。
正式名称、加齢臭の染み込んだ寝袋だ……なぜかオデットさんは寝袋に大量のハーブを詰め込みました。
そんな臭くないと思うんだけど。
妖狐来てくんなきゃ、毎晩船で寝なきゃ駄目なんだろうか?
「あれがじょーじか?なんで、甲板で寝ているんだ?」
話声がしたので、薄目を開けてみたらでかい狐が俺を見下ろしていた。
その数、三匹。大きさは2m位、尻尾の数は5~6本。多分、あれが妖狐なんだと思う。
「そばかす・地味顔。聞いていた話と合致しているんだが……貴族って、大名みたいな物だろ?殿様が甲板で寝るか?」
うん。俺、公爵様だよ。たまに自分の境遇が疑わしくなるけど、世界を救った英雄でもあるんだぞ。
やっている事は、下っ端の兵士と変わらないけどね。
「おりぞんから来た猿人で不細工なのは、じょーじ一人だった。俺達が頼まれたのは、じょーじの始末……こんな好機もうないぞ」
そう言うと、妖狐達は俺目掛けて飛び掛かってくる。そして、俺の身体に攻撃が当たる寸前、思いっきり吹っ飛ばされた。
一匹、曲がっちゃいけない方向に首が曲がっていたんだけど。
「しかし、お前の囮効果って凄いよな。毎回、確実に相手を釣るんだからよ」
笑いながら、俺を見下ろすボルフ先生。囮役に定評がある貴族ってなんでしょうかね?
寝ているのは、俺一人だけで、皆には船室で待機してもらっていたのだ。
「ジョージ様は、この国に招かれた方です。人間の事は関係ないとかおっしゃるかも知れませんが、キンウロコ様は、ワノ国の竜神様を通じて天狐様にもお声を掛けて下さりました。貴方達は、竜神様と天狐様に逆らうのですね?」
流石はサンダ先生、事前に打ち合わせしておいただけに、的確に責めてくれる。痛みに呻いていた妖狐も、現状を知って顔を青くしている。
「この船はボーブル領領主であられるジョージ様の船。つまり領地と同じです。この船に攻撃を仕掛けたと言う事は、我が領に戦を仕掛けてと言う事。覚悟は出来ていますね」
そう言って凄むオデットさん。でも、貴女に蹴られた妖狐は既に半死半生なんですが。
策の為、殺さないで下さいって言ったけど、絶対に無事ではないと思う。
「あ……あいつ等、九尾組の先輩方が絶対に敵対するなって言っていた三人組だ」
一匹の妖狐が、ボルフ先生達を見て震えだす。
「あの傭兵制度廃止になった悪鬼の三人?……それじゃ、あそこにいる女が鬼神の悪手屠?」
傭兵制度、九尾組?……もしかして、イグニス荒野にいたナインテールの事か。
ボルフ先生達は、一対一でナインテールを倒したからな……そりゃ、噂にもなるか。
(そろそそ来る筈なんだけど)
「お、お前等、何してるんだ!り、竜神様、キンウロコ様、これは何かの間違いでございます。決して狐族の総意ではなく」
神々しい狐がキンウロコ様と龍に言い訳している。
なんで、こんな良いタイミングでキンウロコ様達が来てくれたのか?……答えは簡単。ミケを通じてチクっていたのです。
「東の竜よ。不味いぞ。あの船はミケ様がジョージ殿に下賜した物。何よりジョージ殿は。ミケ様と契約なされているのだぞ」
キンウロコ様の話を聞いて竜が冷や汗を流す。天狐や妖狐に至っては、驚きのあまり、固まっている……もう、一押しだ。
「あー、リヤン様から頂いた鎧に足形がついている!これ、落ちるかな?」
わざと大声で叫んでみる。案の上、頭上の空気は地獄になっていた。
「り、理梁様の鎧を汚しただと!西の竜よ。それは誠か!」
竜神様、驚きのあまり噛んでいます。狐さん達に至っては、涙目になっていた。
ごめん、これに関しては濡れ衣なんだよね。予め、丸く切った紙を鎧に張って置いたのだ。
寝袋から、顔しか出していなかったから、気付かなかったよね。
ちなみに寝袋はユリアに渡しました……良い子だから、指で摘まむのはやめましょう。
「誠じゃ。儂の鱗をリヤン様自ら鎧に仕立てたのだからな。付け加えると、ジョージ殿はポーチ様の覚えもあるのだぞ」
覚えって言うか、復職のアシストした恩人なんだぞ。
「待って下さい。今回、私は我が部下ドンガと凛の結婚祝いで来ています。そんな中、事を荒立てる気はありません……妖狐の皆様にお伺いします。俺を脅す様に命じたのは鬼と寒源様ですね?」
わざと脅すと言って、妖狐が食いつきやすい様にしておく。
「そ、そうなんですよ。私達は反対したんですが、鬼に脅されて」
案の定、妖狐は食いついてきた。まあ、格上の竜神様や天狐様が睨んでいるしね。
言っておく。俺は、虎の威を借る事に関しては狐以上だぞ。
「ですよね。つまり、ドンガと凛の結婚に反対ではないと?」
俺は妖狐と敵対する気はない。妖狐も俺が憎い訳じゃなく、戦乱を起こしたいだけ。
それも命あっての話だ。
「も、もちろんです。心の底からお祝いしますし、もう鬼族とは関わりません」
これで寒源の戦力を削ぐ事が出来た。そして今なら、もう一歩詰める事出来る。
「私からお願いです。今晩の事は皆様の胸に仕舞っておいて下さい。妖狐の皆様にお願いがあるのですが……寒源と鬼が繋がっているって言う噂を流してもらえますか?天狐様は、鬼族から妖狐の皆様を守って頂けますか?」
必死に頷く妖狐と天狐。下手したら、一族滅亡なんだから、かなり美味しい処遇だと思う。
「じょーじ殿だったな……我が国の者が迷惑を掛けた。詫びとして、何か願いを叶えてやろう」
竜神様が、威厳たっぷりに話し掛けてきた。だったら、お帰り願えますか?プレッシャーで胃が痛いのです。
「勿体ない御言葉、ありがとうございます。それでしたら、ボーブルの魔石をもらっては頂けませんか?……誰か、魔石詰め合わせを持ってきてくれ。それと我が部下ドンガと凛の結婚を祝って頂けませんか?」
実質、俺は得していない。でも、良いのだ。変に何かもらったら、お返しが大変だし。
竜神が祝ったって事実は、ワノ国ではかなりの強みだ。




