初恋ラプソディー中編
今回の伏線は65話ジョージとご先祖様に
ナイテック家が弱体化した事により、ボーブルの情報収集能力はオリゾン一になったと言っても過言ではない。
「審査員は全員向こうの息が掛かっているぞ。それでどうするんだ?どうせ、ろくでもない事を企んでいるんだろ」
流石はボルフ先生、俺の事を分かっていらっしゃる。
審査員が、向こうに付く事は予想出来ていた。何しろ俺は音楽界に何のパイプも持っていない。でもインテーリ伯爵と、そのお仲間は音楽家のパトロンとして有名である。
金を渡さなくても、審査員はインテーリ伯爵の味方になるだろう。
俺が賄賂を渡せば、本気で怒る真面目な音楽家もいると思う。
あちらさんは、それを見越してケンカを吹っかけてきたのだ。
「まずはヴェルデに頼んで、景品に相応しい楽器を見繕ってもらいます」
正直に言おう。俺は楽器を一つも持っていない。城にあるのは、アミが練習に使うものだけだ。
「へー、ドケチにしては珍しいな。俺はまたゴミで作った様な楽器を出すのかと思ったぜ」
ドケチとは失礼な。俺が高級楽器を持っても豚に真珠、無駄でしかない。
「俺には、楽器の良し悪しなんて分かりませんからね。でも、向こうは専門家でしょ。下手な物を出せば『アコーギ卿は、音楽を馬鹿にしている。これは音楽神コンセール様を愚弄する所業だ』とか言われて、こっち側が演奏する前に無効試合扱いにされちゃいますよ」
音感やリズム感が絶望的な俺が作った楽器なんて、見向きもされないだろう。むしろあいつ等が喉から手が出る位欲しくなる様な楽器を用意してやる。
「それでこれから、どうするんだ?」
決まっている。ぐうの音も出ない位に、叩きのめしてやる。そして爺ちゃんの意趣返しをするんだ。
「工業ギルドとオリゾン小に連絡を入れて下さい。それと谷を呼んでもらえますか?」
◇
オリゾンで音楽を楽しんでいるのは一部の金持ちだけだ。何しろ全ての楽器は職人手作り。音楽教室なんてないから、馬鹿高い金を払って個人授業を受けるしかないのだ。
「しかし、カラオケに行っても、マラカスを振るだけのお前が音楽で勝負とはね」
だって俺が歌うとみんな笑うんだもん。金を払ってまで恥をかきたくないっての。
「お前、向こうからギター持ってきただろ?当日、一曲披露してくれ」
谷はフォークギターが得意で、昔は良く聴かせてもらった。
「良いけど、向こうはプロが出てくるんだろ?俺なんかじゃ、勝てっこないぞ」
いや、今回は谷の協力が不可欠なのだ。
「大丈夫、きちんと策は練ってあるから。それと一緒に工業ギルドに来てくれ」
そして俺は今回の策を伝えた。
「……良くそんな卑怯な事思い付くな。分かったよ。工業ギルドには、俺が行く。お前が来ても、何の役にも立たないしな。それと小学校に行くんなら、カリナちゃんに付いて行ってもらえ」
俺が谷に頼んだのは、楽器作りだ。正確に言うと音の調整に携わってもらうのだ。
◇
谷の話だと、俺は子供達に怖がられているらしい。原因は前に描かれた絵姿。どうも学校では勤勉の象徴として扱われているとの事。
「ジョージ、何があったの?いつものあんたなら、体裁だけ整えて、わざと負ける筈だよ」
流石は俺の嫁さん。良くご存知で。
「カリナ、お前もイジワール卿の執務室に入った事あっただろ?一枚絵が飾ってあったの覚えているか?」
だから婚約もしていないカリナを厚遇したんだろうな。
「覚えてるよ。廊下には豪華な美術品が沢山あったけど、執務室にあったのは古い絵が一枚だけだったよね」
そう、キョーユウの執務室は廊下と違って絵が一枚しか飾られておらず簡素な物だった。
「あの絵に描かれていたのは二人の少年と、一人の少女……少年は若い頃の爺ちゃんとイジワール卿さ。そして少女は二人とパーティーを組んでいた獣人の娘……爺ちゃんとイジワール卿の初恋の人なんだ」
二人共一目惚れだったらしく、頼み込んでパーティーを組んでもらったそうだ。
しかし、良い歳して二人共初恋を引き摺ってるとはね。男は何歳になっても餓鬼なんだな。
「まじで!……でも、それとインテーリ伯爵に何の関係があるの?」
「あの獣人の少女はインテーリ伯爵領の出身だったんだ。そして幸か不幸か、歌の才能があった。インテーリ伯爵は自分専属の歌手にする為に、少女を奴隷にしたんだよ」
かなりあくどい手を使ったらしいが、きちんとした手続きは踏んでいたそうだ。いくら公爵家の嫡男とはいえ、他領の事には口出し出来ない。
「……もしかして、その人はもう……」
何かを察したらしく、カリナは俺の腕をギュッと掴んできた。
「無理やり何曲も歌わされて、喉を駄目にしたらしい」
歌を歌えなくなった少女は、碌に飯も食べさせてもらえず衰弱死したとの事。
それを知った爺ちゃんは烈火の如く怒り、インテーリ伯爵をぶん殴ったそうだ。
「それでお義爺様は、奴隷反対派になられたんだ」
結果、爺ちゃんとイジワール卿は、奴隷制度に反対する様になったらしい。
「そう。カリナと、こうなれたのもある意味二人のお陰だろ。その恩返しの為でもあるんだよ」
インテーリ伯爵に言っておく。ローレン・コーカツの孫は手段を択ばないぞ。精々覚悟しておくんだな。
後編は最弱だけど最強を二話更新した後に書こうと思います




