ミケの歌
大変お待たせいたしました。言い訳は活動報告に
チーポの居城は六魔枢最後の砦だけあり、無駄にでかい。ついでに造りが複雑だし、敵も多く出る……筈だった。
「ハピネスクラウンの部屋を出てから、敵と遭遇しませんね」
城には人っ子一人いないんじゃないかってレベルだ。部屋を出てからゴブリンとすら遭遇していない。
「案外、魔王軍も人材不足なんじゃないか?ここは王都だし、補給も難しいと思うぞ」
ボルフ先生の発言を聞いて、ピンと来た。魔王軍の最終目的は、魔王ゴライアスをレコルトに呼び寄せる事だ。
ゴライアス降臨のムービーは、かなり気合が入った物だった。大勢の魔族が召喚陣に魔力を注ぐと、禍々しい光が溢れゴライアスが姿を現す。
「……短い期間で六魔枢が倒されたから、魔王を迎える準備に人手がとられているのかも知れませんね」
召喚陣に辿り着くと、瀕死の魔族が“これで今までの苦労が報われる。魔王様の御力で、この世界は闇に沈むのだ”そう言って息絶える。十分な準備期間があっても、疲労死するのだ。魔王城はがちでデスマーチ中なのかもしれない。
「邪悪の魔石には、魔力が溜まりきっていない。でも、六魔枢は壊滅状態……このままでは、魔王ゴライアスを召喚出来ないまま、計画が頓挫してしまう。だから魔王軍は総出で召喚の準備をしているんでしょうね。ブリスコラが率いていた軍隊を壊滅出来たのも大きいと思います」
流石はサンダ先生、きれいにまとめてくれました。
今思えばあの戦いは、時間稼ぎの側面もあったと思う。普通合戦は長い時間を掛けないと決着がつかないものだ。
それが予想外の援軍と挟撃にあってしまい、魔王軍は壊滅。さらに司令官のブリスコラも戦死。
株主お披露目の前にクラッキングで紹介ムービーがおじゃん。しかもチーフプロデューサーが倒れたようなもんか……魔王軍から残業代請求されないよな。
「あんたの巻き込みパワーは、魔王軍にも効くんだね……ハピネスクラウンの前に敵が多くいたのは、苦肉の策だったんだろうね」
その虎の子も、俺のネガティブパワーで壊滅と……魔王軍にもサービス残業あるのかな。
◇
魔族の城にふさわしくない荘厳で神々しい扉。そこに描かれるのは、神グルウベの降臨物語。
「ここがチーポの部屋です……手筈通り、ここは俺に任せて下さい」
笑顔でみんなを安心させる……実際は滅茶苦茶ビビってます。
チーポは強い。空中を飛んでいるから攻撃を当てにくいし、上空から魔法を避けるのは至難の技だ。
「良くここまで来ましたね。褒めてあげましょう。私の名はチーポ。神に逆らいし、愚かな堕神使。さあ、戦いましょう」
そこにいたのは美青年と言っても、差支えない男性。その背中からは真っ黒な羽が生えている。
「これを見ても、まだ戦うと言えるかな?」
懐にしまっておいた物を取り出す。それはミケから預かった封筒。
「それはなんですか?……採用通知!?差出人はラブーレ様……だ、騙されませんよ」
しかし、チーポの手は震えていた。俺はオボロと戦う前にミケに交換条件を出した。それはチーポを神使として、復帰させる事だ。
……
「もう一つ。これを頼めるか?これが飲めないなら六魔枢退治はしない」
要件を書いた紙をミケに手渡す。俺達だけがきつい目に合うのは納得出来ない。神使サイドも巻き込んでやる。
「……検討しといたる」
さすがに即答はできないか。
「なにも良い思いさせろとは言わない。体裁が整えば良いんだ」
……だって、チーポの倒し方思いつかなかったんだもん。
勝算はあった。チーポが完全に悪落ちしていたら、ミケは断った筈。それに、検討するって事は、ミケもチーポを必要な人材だと認めている証だ。
「信じられないなら、中身を確認してみて下さい」
厳重に封がしてあるから、俺も何が書かれているか知らない。
「ポーチ・ワンワン ラブーレ農園課長代理補佐として採用する ラブーレ……ラブーレ様、逆さ名を名乗って、堕神使となった私をお側において下さるのですか?」
今、なんて言った?逆さ名でポーチ?聞き間違いだろうか。
「あ、貴方は魔王軍にスパイとして潜入していた事になっています。受けてくれますよね?」
疑問は残るが、強引にでも話を進めてやる。疑問は残るが。
「これが神の愛なんですね……ウウゥ……ワオーン!」
チーポは泣き崩れたかと思うと、思いっ切り遠吠えをした。そこにいたのは、巨大な黒い犬……チーポ・ポーチ ミケ・ニャアニャア ポーチ・ワンワン……そういう事か。
「まさかポーチ様にお会い出来るとは……ラブーレ様の畑をお守りされている神使。それがポーチ様でございます」
サンダ先生は感涙にむせび泣いているけど、それって番犬って言うんじゃ?
「この馬鹿弟子っ!ポーチ様と言えば、オリゾンいや、レコルトでは知らぬ者がいねえっていう神使だぞ!ミケ様の時といいお前はっ」
ボルフ先生は、そういうと俺の頭を押さえつけてきた……ボルフ先生も泣いている! いや、カリナもミューエさんも泣いている。
「ミケか……あいつこそ辛かったろうに。きちんと神使の役割を果たして……君らはミケと顔見知りなのか?」
見知っているってレベルじゃないです。俺がレコルトにいるのも、ミケが原因なんだし。
「い、一応契約させてもらっています」
「さすがはミケだ。魔王軍は、君の活躍でてんてこ舞いさ。ところで、ミケは奥さんと復縁出来たのか?」
奥さん?あのドラ猫に奥さんがいるのか?
「プライベートな話を聞いた事はないですけど……」
復縁って事は別れているのか……聞かなくて良かった。
「まだ無理なんだね……ミケの奥さんの名はピュリア。ピュリア・ニャアニャアが彼の妻だ。かつて勇者を導いたピュリアはミケの奥さんなんだよ」
思わずフリーズしてしまった。
「ねえ、君は今どこで何をしてるの 夜露で体を濡らしてないかな?寒さに震えてないかな? 儂の中の君は、あの日のまま笑顔だけど 今の君はどこで何をしてるの? 君を思うと、儂の胸は切なさで張り裂けそうになるよ‥‥どや、新曲切ない猫ちゃん゛は?」
「波と一緒に君を追いかけたー遠い夏の日。今でも夢に見ている儂を君は笑うかな?焼けた砂浜で、またノミ取りして欲しいよー無邪気な夏ー」
「その坂には名もない花が咲くという。儂は坂を超える時、お前を思い出して一筋の涙を零すやろ。涙が地に落ちた時、新たな花が芽吹くんや……失恋ざぁかー」
「君は自由気まま、フェアリー。いつも儂を惑わすよ。そうさ、儂は恋のハンター。今はもういない君の面影を追い掛けて、今日も恋の迷宮をさ迷うのさ。行方不明・フェアリー」
そういや、あいつの歌う歌って、殆んど失恋物だったよな。
行方不明の妖精の切ない猫か……
ミケの歌で忘れている物があったら教えて下さい 一番最初のぷにぷにの肉球以外で




