暗雲
これで、ようやく肩の荷が下りた。フライングシップのモニターに映るのは、ルラキ湖に万能回復薬を撒く谷とアニエスさん。二人共、凄く幸せそうです。
魔物の死骸は綺麗に片付けさせた。今ルラキ湖に万能回復薬をまけば、戦いに巻き込まれて死んでしまった魚や水草が生き返る。
これで元の美しいルラキ湖に戻る筈。ライスシャワーならぬ生命シャワーだ。
ちなみに、万能回復薬は薬容器に少しだけパクっ……分けてもらいました。いざって時の保険だ。
「随分嬉しそうな顔してるね」
助手席に座っていたカリナが悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、俺の顏を覗き込んできた……今までのお返しにロリ崎君とからかってやろうと思ったが、どう考えてもブーメランになってしまうので、自粛しておく。
「谷を異世界に連れて来たのは、俺だろ。あいつが幸せになってくれてホッとしてるのさ。全く、アニエスさんを待たせ過ぎだっての……みんなも、そう思いませんか?」
みんなに同意を求めるが、返って来たのは深い溜め息。
「お前、隣にカリナの嬢ちゃんがいるってのに、良くそんな事が言えるな」
ボルフ先生が呆れ口調で突っ込んでくる。俺の場合は年齢差の他に、スペック格差って物があるのです。
カリナは、ゲームキャラのマリーナやアニエスさんに引けを取らない美少女だ。その上性格も良く、料理も上手だ……俺を好きになってくれるなんて、奇跡でしかない。
「そうだよ。ジョージ様は、人の恋愛には敏感だども、自分の事となると、亀より鈍いだよ」
ドンガ君、君も本来は奥手のにぶちんキャラなんだからね。誰がヒロインキャラの凛とラブラブになれるまで育成したと思っているんだ。
ドンガと凛、ヴェルデとコニーさん、ヘゥーボとリリル。ジョージパーティーの面子も、ゲームとは違いみんなリア充になっている。
それ以外にもサンダ先生とミューエさん、アイン君とユリア、ギリルとクレアさん、ムー君とサユリママ、ベガルとスノウさん、ファンと萩野……リヤン様の功徳半端ないな。
てか、俺の関係者ゲームキャラを口説き過ぎじゃね?メインヒロイン三人、サブヒロイン三人だぞ。原作ファンから苦情が来るレベルだ。
「拙者もドンガから聞いて呆れたでござるよ。中一で知り合って、高一まで待たせるなんて酷すぎでござる」
凛、君は本来“武士に恋愛は不要でござる”って言うキャラなんだよ。いつの間に、そんな耳年増になったんだ……絶対にうちの職員の影響だよな。
正直、ここまで改変しまくって悪影響とかないんだろうか。
◇
やばい、これは絶対にやばい。
ボーブルに戻って来たら、速攻オデットさんに拘束された。
「今回の行動は兵としては、正解です。しかし、ジョージ様は将なのですよ……お覚悟は出来ていますね?」
俺とオデットさんでは、戦闘力は雲泥の差だ。逆らえばオデットさんのトレーニングがハードになるだけである。
そして連れて来られたの、お母様の私室。
「ジョージ、ちょっとお母さんとお話しましょうか?」
お母様、笑顔でお出迎えありがとうございます。でも、目が笑ってないので物凄く怖いんですが。
「お兄様、アミは堪忍袋の緒が切れました。今日はしっかり反省してもらいますからね。みんな怒っているんですからね」
バックステップで逃げようとしたら、アミに行く手を塞がれた……アミちゃん、まずはお兄様が無事だった事を喜んで欲しいな。敵の攻撃範囲に身を晒したけど、かなりの武功をあげたと思うんだ。
前門の虎後門の狼とは、流石オデットさんだ……待て、今みんなって言わなかったか?
アミの背後に目をやると、ホームキーパー部門のお姉様方が待機しておりました。中には結婚退職された初期メンバーの姿も……。
「ジョージ様、赤ん坊の頃は手の掛からないお方でしたのに」
「いい加減、ご自分の立場を弁えて頂けませんか?」
初期メンバーは、俺のオムツを変えてくれた育ての親の様な存在だ。逆らえませぬ。
(でも、全員戦闘は素人……嘘だろっ!?)
俺が逃げようとしたのを察したらしく、オデットさんが手を叩いた。
現れたのは総合商店の職員を中心とするオデット精鋭隊。フーマ三姉妹も混じっている。
結果、お説教六時間コースでございました。
◇
六魔枢も残るは、光のチーポだけだ。でも、こいつと戦うにはミケの協力が必須。準備が出来るまで待機だ。待機期間を利用して前線基地の工事を着工。ルラキ湖に建てた砦ゴーレムをそのまま流用します。
ちなみにルラキ湖での戦いでボーブル騎士団の評価はうなぎ登り。ついでにボーブル製の武具も飛ぶように売れている。
ヴァルムも汚名返上出来たらしく、ヌボーレ領に帰ったら領民が総出で出迎えたそうだ。
ここぞとばかりに、ヴァルムの悪評判を流した奴がいるらしいぞって、噂を流しまくった。ついでに谷とアニエスさんがくっついたって話を広めようとしたら、リップル様に先手を打たれていた。なかなかやるな、親馬鹿エルフめ。
そのお陰もあって、オリゾンに流れていた不穏な空気はお祝いムードに一変。
これならグルウベも、マルールさんの悲恋を利用出来ないと思う。
安心していたのもつかの間。青ざめた顔をしたボルフ先生が執務室にやって来た。
「ジョージ、やばいぞ。グルウベが戦の準備をしているらしい」
グルウベは魔族に利用されている。
そして魔族は焦っているんだと思う。六魔枢のうち、五柱が倒された。でも俺が早めに倒した所為で邪悪の魔石に負の力は溜まっていない。このままでは魔王ゴライアスは本来の力を発揮出来ないので焦っているのだ。
だから戦争を利用して、負の力を溜めようって腹づもりなんだろう。
「なんて理由をつけて、戦争をおっぱじめるつもりなんですかね?」
オリゾン、フェルゼン、ランドルの同盟は依然強固なままだ。下手に攻め込んだら返り討ちにあうだけなのに。
「知らないのか?あそこの王様は都合が悪くなると、神のお告げを利用するんだぜ」
……魔族にすれば、グルウベが勝とうが負けようが関係ない。むしろ、お互いが戦力を消耗してくれた方が良いのか。
「ホートー様に報告してきます。ボーブル騎士団は、ルラキ湖での戦いで強くなったのでグルウベにも負けませんよ」
多くの魔物を倒した事で、ボーブルの騎士は劇的にパワーアップしたのだ。
「ジョージ様、大変です。アコーギ騎士団が全員倒れたそうです」
余裕こいていたら、サンダ先生がとんでもない報告を持ってきた。
「全員倒れたって……奇襲でも受けたんですか?」
アランの趣味で鍛錬しまくっているから、アコーギ騎士団はそれなりに強い。そう、簡単には倒されない筈なんだけども。
「いえ、呪いに似た症状だそうです。野戦演習で第三夫人が振る舞った料理が原因らしいですよ」
そういや、第三夫人にグルウベの息が掛かった商人が近付いているって報告があったよな。騎士や兵士が劇的にパワーアップする薬だとかいって渡したんだろう。
アランからの寵愛が薄れた第三夫人は、藁にもすがる思いで薬に手を出したんだと思う。
(でも、なんでアコーギ騎士団なんだ?王宮騎士やコーカツ騎士団の方が強いってのに)
その日のうちに、とんでもない命令がボーブルに届いた。
『ボーブル騎士団はアコーギ家に出向せよ アラン・アコーギ』
無茶振り過ぎるだろっ!……待てよ、そういう事か。それなら辻褄が合う。
また叱られるかも知れないけど、吠え面かかせてやる。




