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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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マエストロ・グライツァー戦始まる

真っ正面から戦わなくて、本当に良かった。どう足掻いても剣や槍ではダメージを与えられなかったと思う。

 ルストラを引き上げてみたら、プロレスラーも真っ青なゴリマッチョでした。マッチョと言うより、人間と筋肉の質が違う。魔石を取り出そうと、腹に剣を突き立てたら折れてしまう始末なのだ。


「これがルストラか。身体構造は人間と似ているけど、全くの別物だな……丈治、俺に任せろ」

 谷はそう言うとルストラの腹にメスをあてた。するとどうでしょう。あんなに硬かったお腹がするすると裂けていくではありませんか……お医者様が、患者の筋肉が凄すぎて手術できませんって言えないもんな。


「谷、ストップ。お前がルストラ級の魔石を取り出したらやばいんだぞ」

 魔物から魔石を取り出そうとする時、魔力が放出されるらしい。それを吸収する事で、魔力を強くする事が出来るのだ。当然、強い魔物が持っている魔石程、大量の魔力を放つ。しかし、いきなり強い魔物の魔石から力を得ようすると、容量オーバーで死んでしまうそうだ。


「大丈夫だ。アールツト様に確認したら、俺は平気なんだってよ……意外とお前に基礎を身に付けさせる為に、ミケ様が嘘をついたんじゃないか……取れたぞ」

 出て来たのは巨大な紅色の魔石。持ってみると、普通の魔石より格段に重く硬い。

 確かにそれが可能なら貴族特権を利用して、魔力だけ強くしただろう。でも、基礎が出来ていないし、体力も経験もないからどこかでボロ負けする。


「格ゲーでビギナーがぶっ壊れ性能のキャラを使っても、プロゲーマーに勝てないから今の俺が正解だよな。これを洗ってリーズン様の所に届けてもらえますか?」

 リーズンはボーブル城を退職したので、もうイジワール公爵家の人間だ。当然、俺より位は高い。様付は忘れちゃいけないのだ。


「しかし、オボロに続いてルストラまで倒したとなると、少しは人気が上がるだろ……お前、大丈夫なのか?」

 確かに人気が上がるのは嬉しいし、チヤホヤされるのは嫌いじゃない。でも、それは他の貴族から嫉妬される事にもなる。


「そこはきちんと仕込みをしてあるから、安心してくれ。桶狭間で今川義元を倒したのは誰だか分かる?」

 谷はきっと織田信長と答えるだろう。ここはどや顔をするチャンスだ。


「確か毛利義勝じゃなかったっけ?……お前、リーズンが指揮した軍がルストラを倒したって宣伝するつもりだな」

 ……これだからインテリは嫌いだ。クイズの答えだけじゃなく、仕込みまで当てやがて。素早く、どや顔をキャンセルしました。


「元々リーズンは王都で人気が高かったし、結婚を控えているから話題になっている。それに貴族もイジワール公爵のポイントを稼ぐチャンスだ。下手に俺を叩けば、お祝いムードに水を差した上に、イジワール公爵の面目を潰すんだよ。俺は何らかの褒美をねだっておけば、小物イメージも相まって騒がれないだろうし」

 王都の住人も、俺みたいな不人気貴族よりリーズンみたいなイケメン貴族が活躍した方が喜ぶ。ちなみにご成婚おめでとうございますグッズで一儲けする予定だ。


「後はマエストロ・グライツァーだな。案外、お前が六魔枢と魔王を倒す羽目になるんじゃないか?」

 勘弁してくれ。風は自分の関係箇所だったし、火は押し付けられたから対応したんだ。これ以上はパスだ。


「関わるのは闇までさ。それに知恵を貸しても手は貸さない予定だ。勇者のシロー君にも強くなってもらいたいし」

 爺ちゃんに頼まれたら断れないが、他の領地とは繋がりが薄い……でも谷関連でウォーテックとも、繋がりが濃くなったんだよな……光、土は絶対に断る。



 何年たっても貴族のパーティーには慣れない。いや、丁寧に給仕される事自体が苦手なのだ。セルフサービスが至高の俺にとって、スプーンやフォークを落としても拾う事を禁止されるのは辛い。

 しかも今回のパーティーはルストラを倒したお祝い。俺が途中で抜けるのはマナー違反なのだ。


「こーら!主役がつまらなそうな顔していたら駄目だろ」

 ジュースを持ってきたカリナが悪戯っぽい笑顔を浮かべながら、話し掛けて来た。俺の座っているのは貴賓席の端っこ。イジワール公爵やリーズンのいる中央部は賑わっているが、俺の周囲は閑散としている。でも立場上立って歩く事が出来ないので、かなり暇です。

リーズンに栄誉を集中させる為誰がルストラを倒したのか正式な発表は伏せてもらったのだ。


「つまらないってより、酒を飲めないと間が持たないんだよ。本当はマエストロ・グライツァー戦への仕込みがしたいんだぜ。うちで作った保存食が好評だったから、営業したいし」

 俺は入念に準備してから戦いに臨みたいタイプである。あらゆる不測の事態に備えておかないと不安になってしまう。


「冒険者との試合で売った麦茶と魚の干物が売れたんだってね」

 日本の干物と違い、頭を落として売ったら好評だった。


「きちんと魚だって説明した上で好評だったから、期待大なんだよ。日本のダチに平野って奴がいてさ、そいつが言うには“商品の短所をしっかり理解してもらえれば、長く買ってもらえる”って言ってたんだよ」

 文房具の営業をしているけど、妙に魔物や魔法に詳しい奴だった。今頃なにしてるんだろ。


「あんたって稼ぐ癖に贅沢しないよね。何か欲しい物ないの?」

 今一番欲しいのは、ハイスペックなパソコンとネットが出来る環境だ。でも、それはないものねだり。


「美術品や服には興味ないし。欲しいのは領地だけど、買える所ないんだって」

 貴族の贅沢の基本は美術品や服飾品である。他に奴隷を買う奴もいるけど、奴隷反対派に属している上に人口が増えて土地が手狭になっているのでむしろいらない。

 東は本領、北は王都、西はコーカツ領、南は海なのだ。買えない事はないが、どこも手を出したら大問題になってしまう。

 埋め立てなんてしたら、神使に怒られそうだし。


「食べ物は炊き立てのご飯が一番の人だしね。そうだ!お城の台所を貸してもらえる事になったから、明日お握り作ったげるよ」

 イジワール領に来てから、パン食ばっかりだったから、これは嬉しい。確実に胃袋を掴まれています。


「ありがとうって……イジワール公爵から発表があるみたいだ」

 お約束の宴もたけなわながらってやつである。


「皆の者、今日は大義であった。本当ならもっとゆっくりしてもらいたいのだが、まだ魔王軍の城は落とせていない。明後日、総攻撃を行うので戦いに備えて身体を休めてくれ」

 いよいよ、明日か。でも、俺はこれから備えの点検をしなきゃいけない。



 パーティー解散の足で俺はフライングシップに乗り込む。目指すは一路、ボーブル。


「弓隊、乗り込み開始。それと改良型バックパックを積んで下さい」

 この改良型バックパックは水の代わりにトラッシュスライムを放出出来る。お陰様でスライムの養殖も軌道に乗って来た。

 見てろ、マエストロ・グライツァー。絶対にまともに戦ってやんないからな。



 まるで映画のワンシーンのようである。イグニス荒野に事前に作っておいた陣地を中心に大勢の戦士や魔法使いが集結していた。

 中央に台が設置され、騎士、弓兵、神官、魔法使いの順で囲んでいる。


「お前等、今日でけりをつけるぞ。城には精鋭部隊が突っ込む。他の者は援護に回れ」

 イジワール公爵の身にまとった銀色の服が朝日を反射して輝く。


「ジョージ、あれはお前が日本で買った服じゃねえか?」

 ボルフ先生の言う通り、イジワール公爵が着ているのは俺が日本で買った防火保護服、平たく言うと消防士さんが着ている服だ。しかも、裏地に耐熱呪文を施しており耐熱性は抜群である。


「よく覚えてますね……リーズン様、来ましたよ。号令をお願いします」

 遠くからワイバーンが迫ってくるのが見える。ワイバーンは邪竜の一種で、魔王軍に属している。


「魔法使いと神官は耐火魔法の詠唱開始。弓兵は矢をつがえろ。騎士は盾で防げっ」

 ワイバーンはリーズンの号令をあざ笑うかの様に、口から業火を放った。明らかにイジワール公爵を狙っている。

 業火がイジワール公爵の頭上に達しようとした時、陣地が輝きだす。事前に仕込んでおいた防火の魔法陣が反応したのだ。


「予想通り、マエストロ・グライツァーはイジワールこうしゃくを狙ってきましたね」

 魔法陣は火を防ぐ事に特化させたので、どうしても熱を防ぎきれないのだ。特にイジワール公爵は狙われる可能性が高い。だから、防火服を買ってきたのだ。ちなみに頭部には何重もの耐火魔法が施してある。

 結果、イジワール公爵を含め全員が無傷だ。唖然としているワイバーンに何百もの矢が襲い掛かった。


作中に出て来た平野は作者の新作異世界への出向辞令の主人公で、高校時代の丈治のクラスメイトです。

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