アゲハの正体?
くま太郎、ラノベデビューする?詳しくは活動報告で
王族パワーって、やっぱり凄い。あんなにしつこかったプレゼント攻勢がピタリと止んでしまったのだ。
それもそのはず、シェーン王子は次代の王。機嫌を損なえば、政治から遠ざけられてしまう。
「さて、次はイグニアに連れて行く奴等の経費だ……これだけの大人数を連れて行くとなると、さすがに金が掛かるな」
ボルフ先生が溜め息を漏らしながら、一枚の書類を机の上に置く。この世界がキミテとどんな繋がりがあるのか知らないがお行儀よく四人で戦うつもりはない。幸いな事にリーズンが代表なので宿代が格安になる……出張費は出さなきゃいけないけどね。
「マエストロ・グライツァーを倒せれば、シェーン王子の腹心の部下になれます。そうすればオリゾンは安泰。先行投資と思えば安いもんですよ」
王子の部下になれれば、本領も手出しが出来なくなるのだ。アランは伯爵であるが、シェーン王子には逆らえない。
本来なら俺なんか、王子と話す事さえ不敬にあたるお方なんだし。
「確かにな……俺も王子様から話し掛けられるなんて思わなかったよ」
オリゾンの王侯貴族の中には、露骨に獣人を差別する奴がいる。しかもボルフ先生は元アサシンだ。王子を直視しただけでも、死罪にされて誰も疑問に思わないだろう。
「サンダ先生はフェルゼンの貴族と太いパイプが出来ましたからね。王家はこれ以上六魔枢を倒した英雄を他者に盗られたくないんだと思いますよ」
あの戦いに参加したカリナもフェルゼン帝国と繋がりがある。何しろスノウさんはベガルとラブラブだし、コルレシオン公爵からも可愛がられているそうだ。
そしてオデットさんは爺ちゃんの部下でもある。つまり俺とボルフ先生を取り込んでおかないと王家の面子が潰れてしまのうのだ。
「カゼツグの嬢ちゃんと熊小僧はお前の部下だしな……次は履歴書?誰がこんな物混ぜたんだ?」
ボルフ先生が周囲の気配を探り始める……形式上は先生も俺の部下なんですけどね。
「私よ。ジョージ・アコーギ、神使である私が契約してあげるんだから感謝しなさい」
自信に満ちた声が室内に響く。しかし、声はすれども姿は見えず……何より事前にアポを取らずに来るなんて非常識すぎる。
「敬語を使わないどころか、挨拶も出来ていない。お名前は分かりませんが、今後の活躍をお祈りさせて頂きます。ボルフ先生、次の書類をお願いします……オデットさん、紅茶頼めますか?」
手元にある鐘を鳴らすと、一分も置かずにオデットさんがやって来た。その手に持っているのは、紅茶ではなく妖精だ。黒髪、黒羽の妖精がオデットさんの手の中でジタバタと暴れている。なんでこいつがここにいるんだ?
「アゲハ?」
妖精はキミテでジョージの神使であったアゲハだった。アゲハが本物の神使かどうかは、この際どうでも良い。問題は、なんでこのタイミングでアゲハが現れたかだ。
ちなみに紅茶をお願いしますは、侵入者ありの隠語である。
「そうよ。神使のアゲハ様よ。私を虫扱いするなんて罰があたるわよ。神使自ら契約しに来てやったんだから、泣いて喜ぶのが礼儀でしょ」
……正直に言おう。神使はドラ猫一匹で十分なのだ。普段の言動からは想像出来ないが、ミケは上位の神使らしい。今、アゲハと契約を結んだら、二重契約となり面倒な事になる危険性がある。
「申し訳ありません。私は既に神使と契約済みなんですよ……しかし、神使様を手ぶらでお帰しする訳にはいきません。急遽ですが、面接を行います」
神使としては契約出来ないが、職員として採用する事は出来る。
「契約済み?そんな……それじゃ、パパを助けられない。それにあのお方のご期待に沿えなくなる。どうしよう」
呆然としているアゲハを鑑定。時間が短かったから、得れる情報が少なかった。
そりゃ苗字を名乗らないよな。
「アゲハ・チョウさんですね。お父様には大変お世話になっております。そちらに座って下さい」
アゲハはカカリさんの娘だった。そういや年頃の娘がいるって言ってたもんな。カカリ家のアゲハさん。係長にアゲハ蝶か……カカリ家には名前で笑いを取るっていう伝統でもあるんだろうか?
そしてアゲハの肩書は神使補佐代理である。神使を名乗って良いか、グレーな所だと思う。問題は誰の補佐代理なのか鑑定不能だって事である。藪をつついて蛇を出すより、アゲハを取り込んだ方が安心だ。カカリさんの娘なら問題はないと思う。
「そう言って直ぐに座ったら、落とすんでしょ!きちんと勉強したんだから、その手には乗らないわよ」
この娘、案外真面目な奴なんじゃないか?カカリさんの性格からして、礼儀はきちんと教えている筈だ。
「まずは志望動機を聞かせて頂けますか?」
あえて毅然とした態度を取る。今までの流れからするとアゲハはプレシャーに弱いタイプだと思う。プレッシャーを掛ければ、ポロリと本音をも漏らすはず。
「志望動機って……私達の住んでいるコスモスの群生地を買うの!原因は貴方の父親なんだからね。きちんと協力しなさい」
アゲハ……ちょろ過ぎないか?しかし、これはまずい。カカリさんは神使とも繋がりのある妖精だ。
「詳しくお話を聞かせて頂けますか?」
アゲハの話によると、アランがカカリさん達の住んでいるコスモスの群生地を潰して、演習場を作ろうとしているらしい。カカリさんは群生地に住んでいる妖精達の受け入れ先を探して毎日遅くまで働いているそうだ。
そしてアゲハを焚き付けた奴の事は、口外出来ないとの事。なんでも本人からの厳命らしい。
(キミテでアゲハがジョージと契約したのは、自分の住んでいる土地を守る為だったのか。ジョージからもらった宝飾品を売って金に変えていたんだな)
カカリさんには恩義がある。ここは俺も動こう。
「オデットさん、本領の動きは探ってもらえますか?ボルフ先生、ホートー様にアポを取って下さい。アゲハさん、この一件は私に任せてもらえませんか?」
オデットさんはフーマ三姉妹を叩きのめ……鍛え直し、自分の配下にしていた。これからオデットさんは母さんのガードが主な仕事になる。爺ちゃんへの報告、総合商店職員への指示等の自分の手足となって動かせる人材が必要なのだ。
フーマ三姉妹もボーブル城に馴染んでいるらしい……らしいと言うのは、俺に近付くとオデットさんやカリナに怒られると近付いてこないのだ。
「良いけど……私を雇うの?雇わないの?どっち?それと……ありがとうございます。私パパを助けたいんです。毎日遅くまで働いて、休みの日も他の妖精の相談にのっていて、あれじゃ疲れが取れません。でも、弟や妹はまだ小さいし……」
雇ってあげたいが、妖精が出来る仕事か。身体の大きさを考えると、普通の仕事は無理だ。それでいてある程度の給料を掛けても周りが納得するには……。
「それでしたら、私の妹を護衛してもらえますか?護衛と言っても実際に戦う必要はありません。何かあったら、私に連絡するだけで良いですので」
俺には見えないが、ボーブルにも妖精は多く住んでいるそうだ。妖精とコンタクトが取れる人間を繋ぎに使えば、問題ない。
「アミ様ですよね?昔、遊んだ事があります。今から向かいますね」
アゲハはそう言うと姿を消した。ゲームと違い、俺とは縁がなさそうだ。
ホートーに報告したら、めちゃ悪い顔をしながら“俺に任せておけ”と言ってくれた。
◇
今回、イグニアに行くのは俺・ボルフ先生・サンダ先生・カリナ・ベガル・スノウさん・谷・ロッコーさん・リーズンの八人……そして谷がイグニアに行くと聞きつけたアニエス。それに加えて騎士団とエルフ魔術師隊も同行する。ありがたい事にイジワール公爵も金を負担してくれる事になった。
移動は俺がフライングシップを操縦してのピストン輸送である。谷も操縦出来るけど、今回は先発隊である調査をしてもらっている。
「前に来た時はドラゴンに運んでもらったんだよね。騎士団や魔術師隊を連れてきたけど、着いたら直ぐに六魔枢の城を攻めたりするのかい?」
最近フライングシップの助手席はカリナの指定席となっていた。特に長時間運転する時は話し相手になってれるので大助かりだ。
「まだマエストロ・グライツァーの城は攻めないよ。でも騎士団や魔術師隊の連中にはイグニス荒野で戦いをしてもらう。俺達も行ける所まで、行ってみるぞ。そういえばオボロを倒して何か変化があったか?」
俺は仕事が忙しくて、どれ位強くなったのか確認出来ずにいる。強いて言えば事務処理能力が若干早くなった位だ。
「身体能力がびっくりする程、早くなったよ。それと風牙爪の威力もあがったし」
カリナは自分の爪に六属性の力を付与する事が出来るらしい。今までは実戦で使えるレベルではなかったそうだが、オボロを倒した事で風牙爪の威力が上がり薄い鉄板を切り裂ける様になったそうだ……将来、喧嘩した時に俺の顔がズタボロにされそうでちょっと怖い。