オボロ退治?自分の土俵で勝負
いつからキミテはMMОRPGになったんだろうか?
「サンダ、そっちに行ったぞ」
コカトリスがボルフ先生の投げナイフに襲われて、ほうほうの体で逃げていく。しかし、その先で待ち受けているのはサンダ先生。
「逃しません!」
哀れ、コカトリスは棍棒でぶん殴られ地面に叩き落とされた……地面にめり込んでるじゃん。オーバーキルってレベルじゃねえぞ。
「化け鴉め。刀の錆にしてくれる」
凛がヘルクロウを刀で一刀両断にする。何が凄いって、ドンガを横目でチラチラ見ながら切り捨てたのだ。
「凛さん、強いだなー。おでも頑張るだ」
気合全開になったドンガが、ハンマーでハーピーをぶん殴る。ドンガにも幻術防止が効いているらしく、ハーピーに惑わされずにいた。ハーピーに誘惑されたら、凛に愛想をつかされるぞと脅したのも効いたのだろう。
「カリナ、頼む」
ミューエさんがレインボーピーコックの首に鞭を巻き付けながら、地面に叩き付ける。レインボーピーコックはかなり強力な魔物だ。一撃で倒される訳がなく、頭を振りながら立ち上がった。立ち上がったのは良いが、脳震盪を起こしたらしく、若干ふらついている……その隙を天性の獅子人が見逃す訳がない。
「要はニワトリをしめるのと一緒だろ」
カリナさん、人と変わらない大きさの孔雀をニワトリと同列に扱うのはまずいと思うんですが。
カリナは素早くレインボーピーコックの首に腕を巻き付けると、半ば強引にへし折った。
……皆さーん、そんなに倒してもレアアイテムもドロップしませんし、ポイントも加算されないんですよ。
ちなみに俺は戦闘への参加を禁止されている。オデットさんいわく将は後ろに控えて部下の働きぶりを見る事が大切との事。まあ、俺が手を出す隙なんてないですけどね。ちなみに将と書いて荷物持ちとも読みます。中には鎖が二種類、先端を陶器で囲った物と鍵のついた物。ちなみに陶器付きの鎖の反対側は小さな鉄球も付いている。そして行動制限のマジックアイテムが三つとロープも三本入っている。
「ジョージ様、次はどっちの方角に進みますか?」
オデットさんの言葉を聞いて辺りを見回す。幸いな事にゲームとの違いは宝箱の有無だけだ。
「もう少し進めば三女の牡丹が現れると思います」
フーマ三姉妹の末っ子牡丹は怪我をした振りをしてプレイヤーを欺く。その為のキーアイテムはジョージの絵姿である……本物がいたらどうなるんだろう?
◇
自分が携わったゲームに言うのもなんだけでも、このイベント怪し過ぎるよな。
魔物が跋扈する山に足を怪我した少女がいるのだ。しかも、時代劇に出てきそうな町娘の恰好で。
「すいません。足を怪我したので町まで連れて行っていただけませんか?やだ、変態男がいる。神官様、お願い出来ますか」
町娘に扮した牡丹が俺を見つけると、あからさまに警戒してきた。ウインクの誤解まだ解けてないのね。
そんな牡丹がターゲットに選んだのはサンダ先生。確かに体も大きく優しそうなサンダ先生が妥当だと判断したのだろう。
残念、サンダ先生が一番のジョーカーなのだ。それと凛さん。牡丹がドンガをチラ見しただけ刀の鯉口を切るのはやめましょう。
「ほう?婚約者である自分の前で、サンダ先輩を誘惑すると良い度胸だな……フンッ!」
ミューエさんの鞭が牡丹に襲い掛かる。無論、これは打ち合わせ通りである。その証拠に鞭は牡丹をギリギリ掠めていく。
「ちょっと危ないじゃない。おぶってって言っただけで、攻撃してくるなんて頭がおかしいんじゃないの……」
さすがにやばいと思ったのか、牡丹が飛び退いた。そう、怪我をしているはずの牡丹がだ。
「おや、怪我をしていたんじゃなかったのか?」
罵倒されたのを根に持ったらしく、ミューエさんがじりじりと紅葉との距離をつめていく……目がマジです。
「くっ、ジョージ・アコーギ覚えてなさい」
そう言うと牡丹は、素早く逃げていった。牡丹さん、俺なんもしてないんすけども。とりあえず第一関門クリア。
「オデットさん、どうですか?」
「鍛え直せば使えるかと……多少、ハードな特訓になりますが」
ちなみにオデットさんの基準は多少世間とずれています。
◇
牡丹がいた場所から次女紅葉が待ち構えている場所までは、そんなに離れていない。真っ直ぐ進むだけでたどり着く。ちなみにゲームでは左に進み、ジョージの新しい絵姿を取りに行く必要がある。
そして予想通り、岩壁にぶち当たった。もの凄く不自然な岩壁である。本当は両脇が崖になっているのだが、なにもない空間に周囲の岩と色が違う岩壁があるのだ。
ゲームでは岩壁の前でジョージの絵姿を使えば、幻術が解けるんだけど。ちなみに紅葉は崖の上で待機している。
(岩壁にキスをしたり、頬ずりをしたりしたらドン引きして幻術が解けるんじゃないか)
その代わり、パーティーメンバーからもドン引きされる危険性があるけど。
カカリさんの力のお陰で片目を瞑れば、壁は見えなくなる。でも、この効能はギリギリまで敵に伏せて置きたい。
「ジョージ様、岩壁を壊しますので、下がって頂けますか……オデット流忍法冥土キャノン!」
オデットさんの手から気弾が飛んで行き岩壁にぶち当たる。その威力は凄まじく、周囲の岩を破壊していく。その衝撃は紅葉が潜んでいた崖上まで達し、絶叫ともいえる悲鳴が聞こえてきた……オデットさん、とうとうかめは〇波を使えるようになったんですね。
◇
フーマ三姉妹の長女萩野は、姉妹の中でも幻術が一番うまい。どれくらい上手いかと言うと、洋風ファンタジーな世界の山に和風旅館を再現できるレベルなのだ。
「ジョージ、なんであれに騙されるん?どう見ても不自然だよね」
幻術は細かい所まで拘っているが、それが余計に違和感を覚えさせる。障子や設樂焼の狸なんてオリゾンにはないのに。ちなみに旅館の名前は富間亭。萩野さん、漢字を変えて誤魔化しているつもりでしょうが、オリゾンで漢字を読めるのは俺と谷だけですよ。
「旅のお方、さぞかしお疲れでしょう。宿で一休みしていきませんか?」
旅館の若女将に扮した萩野が近付いて来る。幻術を維持するのが大変らしく、足運びに隙がなさ過ぎる。足音を消して近づいて来る若女将なんて、ある意味ホラーだぞ。
「疲れてないから平気ですよ。このまま頂上に行きます」
頂上と聞いた途端、萩野の顔色が変わった。なぜなら頂上にはオボロの城があるのだ。
「泥を掛けるだけでは飽き足らず、我ら三姉妹の幻術を愚弄するとは……ジョージ・アコーギ許しません。牡丹、紅葉出て来なさい」
萩野さん、もう少し粘りませんか?萩野の言葉に合わせるかのように、旅館から忍び装束に身を包んだ二人の少女が飛び出して来た。
「萩野お姉ちゃん、フーマ三姉妹の力見せてあげよう」
牡丹が忍び刀を構える。ちなみのフーマ三姉妹の忍び装束は色使いが派手で露出も多い。日本文化が誤解されそうで怖いです。
「見れば見る程、不細工な面だな。お前に惚れる女なんていないだろ?いたら、そいつの顔を見てみたいね」
紅葉さん、中々の毒舌です。そしてみんなの視線はカリナに注がれた。
「へっ?あ、あたい?ジョージの顔嫌いじゃないし。むしろす……全部あんたが悪い」
顔を赤らめたカリナが紅葉に飛びかかる。当事者が言うのもあれだけど、どう見ても八つ当たりだよね。
素早さが自慢のフーマ三姉妹だが、獅子人で格闘家のカリナには敵わなかったようで、紅葉は一撃でノックアウトされた。カリナにロープを手渡し、紅葉を拘束してもらう。フーマ三姉妹はあえて倒さない。
「紅葉ちゃん……貴方達にこの動き見破れるかしら。牡丹ちゃん、噴流気流攻撃を仕掛けるわよ」
噴流気流攻撃、フーマ三姉妹による三位一体の攻撃。黒い三ツ星さんからもろパクリしました。萩野と牡丹は高速で俺達の周囲を回りだした。常人では目で追えない速さである。
「ボルフ先生、お願いして良いですか?」
ボルフ先生に陶器付きの鎖を手渡す。
「ジョージ、あの嬢ちゃん達なにがしてえんだ?走り回っても疲れるだけだろ……そらよ」
二人の姿が重なりあった瞬間を狙ってボルフ先生が鎖を投げつけた。鎖は二人の足元に巻き付いていく。そして当然、陶器は割れる。
「萩野お姉ちゃん。この黒い板に鎖が付いて取れないよ」
黒い板は磁石である。純度はそんなに高くないので、粘着力は低いが絡みまくった鎖の助長にはなる。
「オデットさん、ミューエさん。二人を拘束して隷属の首輪を付けて下さい。カリナも頼む……我、命ずる、喋るな」
無論、三人に手渡したのは行動制限のマジックアイテムで隷属の首輪ではない。効果はお喋り禁止と逃走禁止。叫ぼうとしても何も喋れず、逃げようとしても足が動かない。フーマ三姉妹は隷属の首輪を付けられたと勘違いするだろう……めっちゃ、俺を睨んでるし。
◇
フーマ三姉妹を人質にしたお陰かスムーズにオボロの城まで辿りつく事が出来た。
「オボロにつぐ。部下を返して欲しくば俺達と戦え。姿を現さない場合は城に火を付けるからな」
六魔枢との戦いで、相手の土俵で勝負するつもりはない。むしろ俺の土俵に持ち込んで安全に戦ってやる。
「まあ、ようこそ、いらっしゃいました。急な事なので、ちゃんとしたおもてなしは……」
「ミューエさん、お願いします」
現れたのは、たおやかな黒髪の美女。風の六魔枢オボロである。見た目こそ絶世の美女であるが、その正体はハーピークイーン、巨大なハーピーである。本来なら一定ダメージを与えないと正体を現さない。何故ならオボロは、自分の醜い姿を嫌っているから。
でも、もう一つだけ姿を暴く方法がある。それはオボロの頭に乗っている草冠を弾き飛ばす事だ。
……さすがミューエさん、正確に草冠に鞭を当てて粉々にしてくれた。現れたのは年老いた巨大なハーピー。かなりきついビジュアルをしてます。フーマ三姉妹も目が点になってるし。
「よくも、よくもこの醜い姿を……殺してやる。空からなら手の出しようがないじゃろ」
そう言いながらオボロは空に飛びあがった。何度、この展開をシミュレートしただろうか。
「この魔法はお前を倒す為に作ったんだぜ……風力は7、強風。気流の中心地は風切り羽……纏わりつく風」
風切り羽を引き千切る必要はない。あの巨体だから気流を乱せば、飛べなくなるはず。
予想通り、オボロは地面に落ちた。
「喰らうだよ」
ドンガのハンマーがオボロの羽を砕く。これでもう飛べまい。ドンガの気合、凄かったです。
「愛と忠義の前の剣喰らうでござる」
凛さん、愛が先なんすね。ここから一気にとどめだ。自分の体を鍵付きの鎖で拘束する。
「超竜変身……ゴールドジョージ。サンダ先生、お願いします。幸せを掴んで下さい」
「ジョージ様……分かりました」
サンダ先生は鎖の端を掴むと俺を振り回し始めた。ゴールドジョージの鎧は硬い。そして鳥類は飛ぶ為に骨が空洞になって……やばい、目が回り始めた。
俺は物凄い勢いでオボロの首に叩きつけられる。
怪鳥の絶叫がヴェント谷に響き渡った。
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