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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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人の命

 貴族で領主だと言えば偉そうに聞こえるが、実態はとんでもないろくでなしだ。

 俺はボーブル軍の出発準備を、城の前庭で眺めていた。そこでは騎士や兵士が家族と別れの挨拶を交わしている。


「ぱー、ぱー」

 小さな女の子が、父親に向かって小さな手を伸ばす。大好きなパパが戦地に赴く事を理解できないらしく、無邪気な笑顔を浮かべていた。

(あの子はブルックの子だな……ごめんね)

 ブルックはボーブル設立時から俺に仕えてくれている騎士だ。ミューエさんやベガルに鍛えてもらったお陰で、実力をメキメキと伸ばしトムやファンと共にボーブル三騎士と言われるようになった……お陰で出世もしたが、幼い我が子を残して戦地へと連れて行かれてしまうのだ。


「リン、パパがお出掛けしてる間、ママの事を頼むぞ」

ブルックは、幼い我が子の頭を優しく撫でていた。温かな光景だけに俺の胸を締め付ける。


「あなた、ジョージ様をお守りして下さいね……無事に帰って来て下さい」

 ブルックの隣では、トムと奥さんが別れを惜しんでいた。奥さんの目には涙が浮かんでおり、既に崩壊寸前である。トムの奥さんは元ジョージメイド隊で、ガキの頃随分と世話になった。


「ジョージ様は絶対に守るし、ちゃんと無事に帰って来るよ。あのジョージ様だぞ。きっとえげつない作戦を考えて下さってるさ」

 トムはそう言うとお嫁さんをギュッと抱きしめた……無事に帰ってきたら、えげつない領主がトイレ掃除を申し付けるから、覚悟しておくように。


「あの……俺絶対に帰って来るから。そうしたら俺と……」


「……えっ?なになに?無理はしないでね」

 ファンが彼女に何かを伝えようとしているけど、微妙な間が開いた。フラグっぽいからファンは前線から外しておこう。


「丈治様、事前に噂をお流しになったのですか?」

 部下の惜別の光景を胸に焼き付けていると、谷が話し掛けてきた。今の気持ちを共有できるのは、オリゾンで谷だけだろう。

 オリゾンで人の命は、信じられないくらいに軽く扱われている。貧民街に死体が転がっていても誰も驚かないし、魔物や賊に襲われて死ぬ人も珍しくない。

 俺みたいに戦いが始まる前から、部下の死に怯える領主の方が異端だろう。


「賊とはいえ、戦闘が起こる可能性があると分かっていたら緊張感が違う。それにどんなに策を練っても、不測の事態は起こりうる……何しろ初めての対人戦だからな」

 ボルフ先生の話では、どんなに魔物退治に慣れた冒険者でも、初めての対人戦は上手く体を動かせないそうだ。ホートーは今後の戦いを見越して、俺達に対人戦を経験させるつもりなんだと思う。今回はこっちの方が戦力的に有利なので、安心して戦えるのだ。

 でも、賊に弓の名手や、名うての剣士がいたら戦死する奴がいてもおかしくない。完勝しても殺人の罪をおう事になるんだ。

 どっちにしろ俺は王族の命令で、部下の幸せを薪に変え火にくべるのだ。とんでもないろくでなし領主である。


「戦闘は避けられないんですか?……ピッチングマシンの調整は完璧にしておいたぞ。帰って来たらちゃんと礼を言え。良いな、絶対に帰って来るんだぞ」

 谷は夜遅くまで、剛球ストレートの調整をしていてくれたらしい。


「……先日、アサシンギルドから報告があった。賊の大半は元農民や町民だけど、それを煽動しているのは冒険者パーティーだそうだ。のせられた民はともかく、そいつ等は殺す必要がある」

 B級冒険者パーティー、グロワール。猿人で構成されメンバーは剣士・アーチャー・魔法使い・神官の四人。魔法使いは水属性の魔法を得意とし、B級上位相当の力があるそうだ。


「そいつ等に罪をかぶせる算段なんだな?」

 そいつ等を主犯に仕立てないと、民はアランに死罪にされてしまうだろう。ただでさえ、本領では不満がくすぶっているというのに、そんな事をしたら暴動になりかねない。


「……グロワールは数か月前に、グルウペ教国から戻ってきているんだよ。谷、あれを使わせてもらうぞ」

 数か月前にグルウペから戻ってきた奴らが、賊を煽動しているのだ。きな臭さ満載である。


◇

 俺達が警護するのは王都へと続く道路。徒歩だと移動だけでも、数日掛かるがトラック型ゴーレム馬車を使う事で短縮できた。


「お前等拠点作りを始めろ。数日しか使わないからって手を抜くなよ」

 リリルの父親アイゼンさんの号令で、ドワーフ達が一斉に動きだす。俺達が、ここを警護するのは武闘大会が開催される一週間の間である。つまり、晴れの舞台には出れないのだ。臨時ボーナスでも出さなきゃ兵に不満がたまるだろう。


「ジョージ様、重騎士部隊、配置完了しました」

 報告に来てくれたのはドンガの父親ギガリ・シンセロさん。ギガリさんはかつて血塗れの狂い熊と呼ばれた名うての傭兵で、戦いに慣れている。片目を失い引退したとはいえ、兵の精神的な支えになってくれている。その実力は俺の体が一番分かっているし……今も週一で戦い方を教えてもらっているけど、毎回ボコボコにされている。


「六時間経ったら、交代させて下さい。夕暮れと夜明けは特に警戒するように指示してもらえますか?」

 賊側も俺達の存在に気付いていると思う。注意力が散漫になってしまう夕暮れや夜明けを狙ってくる可能性が高い。

 本来なら俺がギガリさんに敬語を使うのが不自然なんだけど、長年の子弟関係だったのでつい敬語になってしまう。何より隻眼の熊人って迫力が半端じゃないんです。


「分かりました。しかし、鎧似合っていますね。何より自由自在に動けているので、安心です」

 俺の着ているのは鈍色のフルアーマー。工業ギルド特製で、関節部分が動きやすく作ってあるのだ。アーマーパージ非対応だけど、ある仕込みはしてある。


「ありがとうございます。俺がいると仕事がし辛いと思うので、テントに戻りますね。誰かが来たら教えて下さい……それと後からアイリーンにテントへ来るように言ってもらえますか?」

 今回持ってきたテントは日本で買った物の複製だ。持ち運びに便利で、組み立ても簡単だ。

 アイリーン・エリャはナイトクロウに属していた栗鼠人の女性だ。弓の腕が抜群なので、弓兵になってもらった。ちなみに彼女の異名は声色のアイリーン、人の声を真似るのが得意だそうだ。

 作業している兵士を横目にテントに入る。貧乏性な性格なので手伝いたいんだけど、事前に参加禁止を仰せつかっているのだ。


(事務仕事は出来ないから、今後の対策を考えるか)

 まずはヒロインだ。関係が良好なのは闇属性のユリアと水属性のアニエス。ユリアは忠誠を誓ってくれたし、アニエスは谷やロッコーさんのお陰で誤解が解けた。

 関係が一番悪いのは光属性のマリーナだろう。マリーナから俺に接してくる訳もなく、ここ一、二年殆んど交流を持っていない。もう婚約を解消しても問題ないと思う。

 でも、婚約を解消するには、アランとマリーナの父親リヒトの許可が必要だ。何より婚約の解消は相手の人格を否定するようなもので、余程のメリットがない限りリヒトは応じないだろう。アランもアランで、アコーギ家に勇者の血を入れたいから婚約の解消には乗って来ないと思う。

 ……王家から圧力を掛けてもらうのが、一番だと思う。

 次に関係が悪いのは火炎属性のヴァネッサだ。何しろヴァネッサの祖父ヴァレリーは爺ちゃんの事を恨んでいる。そしてヴァネッサ派の生徒には熱血漢が多いらしく、俺の事を嫌っている。俺だけでなくピーター派とも対立しているそうだ。

 ベルは謎の存在の策謀により、俺の事を嫌っている。マリーナの夢の騎士同様、ベルは偽の母親に依存しており、誤解を解くのは難しいと思う。

 まだ知り合っていないのは風属性の風継凛だ。ワノ国から海流が変わったとヴェルデが言っていたから、ゲームよりも早くオリゾンに来るかも知れない。

 次に問題なのは、高校で通常の定期試験の他にある魔物退治の試験だ。最初はオーガだけど、どんどんと対象モンスターは強くなっていく。確か卒業試験は、ミスリルドラゴンだった。タスク山のドラゴンとの関係を考えると、戦うのは回避したい。これはゲームのジョージ同様、金で解決しよう。

 高校には勇者のシロー君も進学してくる。シロー君の入学手続きは既に終えてあるし、アインに間に入ってもらって何とか良好な関係を保ちたい。

 学校行事は色々あるけど、まともに参加出来ないと思う。

 何しろ高二の夏からは、六魔枢との戦いが始まるのだ。六魔枢は風・火・闇・土・水・光の順番に出現する。どうしても俺が戦わなくてはいけなくなる可能性があるとしたら、風のオボロくらいだと思う。

 爺ちゃんやイジワール公爵の家臣には強い騎士がうじゃうじゃいる。その人達を差し置いて、俺が六魔枢討伐に行くのは礼儀に反するはず……万が一の時に備えて、対策はしてあるけど、俺は名誉より命の方が大切だ。

 ゲームにおいてジョージはお邪魔キャラ&オチ要因だった。マリーナにしつこく絡み、実力不足で失敗する。避けようとすれば、避けれるものばかりだ。


(タスク山のドラゴンイベントは起きないと思うし……五十万ストーンイベントがあったな)

 五十万ストーンイベント。ある日、王様が数人の生徒に五十万ストーンを使ってみろと命令をだす。ジョージは装飾品や遊びに使ってしまうが、主人公は知り合った子供の薬を買って、その子の家に伝わる家宝の剣をもらうってイベントだ。しかも全ヒロインの好感度が上がる美味しいイベントである。ちなみに家宝の剣は、結構な高値で売れてしまう。

 問題は五十万ストーンって半端な金額だ。俺個人にしてみれば大金だけど、事業で考えると使いようがない。何より大抵の物は、ボーブルで作れてしまう。件の少年も谷を派遣すれば、五十万も掛からないし。


◇

 意外な事に拠点には多くの来訪者が来てくれた。本領の商人に役人等が主だ。俺に取り入って、甘い汁を吸おうって魂胆らしいが、みなすごすごと退散していった。

 そりゃ、そうだ。熊人の重騎士隊を始め狼人による槍戦士隊、獅子人の軽剣士隊、ドワーフの工兵部隊、兎人のゲリラ兵士、エルフの魔法部隊、栗鼠人の偵察兵、各部族から選出された弓兵、オークの格闘神官部隊がずらりと揃って出迎えるのだ。しかも、全員が工業ギルドで作られた高性能の装備を身に付けている。


「久し振りですね。ケイオス殿」

 今日会いに来たのは、以前俺と戦ったケイオス・ライテル。そしてケイオスとお連れの騎士も怯えていた。何しろの俺の背後にはボルフ先生・サンダ先生・ミューエさん・ギガリさん・アイゼンさん・ベガルとボーブルを代表する強面の皆様が控えているのだ。


「久し振り……でございます。ジョージ様」

 皆さん睨むのは良いですが、ケイオスがため口で話そうとした瞬間に武器へ手をかけるのは止めて下さい。

 何でもケイオスは違う道を警護するので挨拶に来たそうだ。指揮する騎士が何人も来て大丈夫なんだろうか?


「帰りはファンが送って行ったぞ……それとジョージ、明日の朝一で襲撃を企ているって、報告が入ったぜ」

 ボルフ先生の話を聞いて気合を入れ直す。明日、初めての対人戦になるのだ。


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