ジョージ が嫌われる訳
サンダ先生が博識な理由が分かった。
「先生はオリゾン大学卒業なんですか?」
オリゾン大学は国立大学で、日本で言う東大や京大に当たる。オリゾンや周辺国の王侯貴族の間では、オリゾン大の卒業者を召し抱える事がステイタスになっているそうだ。当然、狭き門となり一浪二浪は当たり前。しかし、サンダ先生はストレートでオリゾン大学に入学したらしい。
「オリゾン大は一年に約千人が卒業するんですよ。そんなに驚く事じゃありませんよ。むしろ、異世界の記憶がある事の方が凄いと思いますよ」
うん、卒業者の余裕って奴なんだろうか?そういや、日本にいた時に東大や京大卒の人に会った事がない。知人から親戚に東大卒の人がいますって聞くのが、精々で姿は見た事がない。ああ言う人達は、凡才の庶民からしたら都市伝説と変わらないと思う。
「記憶はありますけど、有用に使えるかは分かりません。理論は分かっていても、実用性がなければ絵に描いた餅にしかなりませんよ。俺は手に技術を持っていませんし」
パソコンが存在しないレコルトで、プログラムを組める事に優位性はないと思う。
「ジョージ様に技術は必要ありません。貴方は君主となるお方です。何かを成したいと思ったら、それを成せる者を見つければ良いんですよ。ただ富や名誉を独占する事は避けて下さいね。むしろ、領地や民を富ませる事に尽力して下さい。民が大切なのは日々の生活、それを守るのがジョージ様のお仕事です」
なんでしょう、このハイスペックオークは…素晴らしい先生を紹介してくれた爺ちゃんに感謝しなくては。
「そうだ、先生に質問があるんですけど…勇者ブレイブ・アイデックは最後どうなったんですか?」
色んな人から話を聞いだが、魔王シャグランを倒した後のブレイブ・アイデックがどうなったのかが曖昧なのだ。そして、キミテでもブレイブ・アイデックの結末には触れられていない。俺の知識はゲームに由来する。つまり、ゲームで語られていない事を知る術はない。
「ブレイブ・アイデックの最後に関しては様々な説がありますから断言は出来ません。分かっているのは、アイデック姓を継ぐ者はレコルトに存在しないという事です」
キミテの主人公の姓は自由入力になっている。好きな名字を入れると、語尾にックがつくのだ。ネタでジュウロクモンキやカイシャガブラと付けるプレイヤーさんもいたらしい。
「勇者の子孫はいるのに、アイデック姓を継ぐ人はいないんですか?」
「勇者の子孫を名乗っている人は自称も含めるとかなりの人数になるんですが、アイデック姓を名乗る人は一人もいないんですよ」
ゲームでは勇者の子孫は主人公とヒロインしか出てこないが、六家の傍流や自称を含めるとかなりの人が勇者の子孫と名乗ってるとの事。そして勇者が滞在した伝説が残っている町には一軒は勇者の子孫を自称する家があるらしい。まるで平家の落人伝説である。レコルトにはDNA鑑定もないだろうから、名乗った者勝ちなんだろうか。
そんな中でも六家の名声は別格らしく、勇者の名声だけで何百年間も食えてきたらしい。
「六家の現状はどんな感じになってるんですか?」
「最近は明暗が別れていますね。やはり先祖の名声だけでは限界があります。まず、光のライテック家の祖先魔法騎士サリアです。ライテック家は代々、王家に仕え有能な魔法騎士を数多く輩出してきましたが、色々あって今は日々の生活に事を欠く有り様だそうです」
まあ、だから娘を差し出して家から援助を受けたんだろうけど。
「何があったんですか?光の魔法騎士サリアは物語でも多くの活躍が描かれていますよ。誇り高く悪に屈しない正義感の持ち主で人気も高いと聞いています」
「だからですよ。勇者の子孫というプライドと中途半端な正義感を拗らせたんです。イジワール公爵家の不正を告発しようとして、逆に閑職に追い込まれたんですよ。それに不正と言っても、国を守る為に敢えてやった事でしたので王族も手助けをしないんです」
何でもイジワール公爵家は麦の価格が暴騰しかけたのを裏で手を回したり、不正を働いて防いだとの事。多分、爺ちゃんも何枚か噛んでると思う。これでジョージがマリーナに嫌われている理由が分かった。
「逆にライテック家だから飼い殺しで済んだんですね」
「ええ、普通の騎士なら追放ですね。闇のナイテック家の祖先は義賊のミリー。ナイテック家は子爵家になりましたが、色々と良くない噂がたっていますね。先祖は権力者に立ち向かう義賊一家だったそうですが、今は民を苦しめる圧政を敷いているそうです」
そりゃ実の兄を暗殺する様な家だもんな。圧政位平気でするか。
「¨艱難共にすべく、富貴共にすべからず¨ですね。富に恵まれたら義賊一家も堕ちると」
ちなみにゲームにはナイトキャットと言う義賊が登場する。正体が某メイドなのは一目瞭然なんだけど、誰も突っ込まないのが不思議だ。
「面白い言葉ですね。ジョージ様の世界の格言ですか?」
「シンサク・タカスギと言う人が残した言葉です」
ユリアは貴族や金持ちを忌み嫌い、義賊ナイトキャットとして盗みを働く。つまりユリアは貴族を嫌うと。
「水のウォーテック家の祖先はエルフの神官アリエス。ウォーテック家は水の神ハイードロに仕え、数多くの神官長を輩出しています。ただハイードロ教は゛雨が万物に等しく降り注ぐ様に、富も分かち合うべきだ゛と言う教えを説いており、貴族やお金持ちに献金を強要しているんですよ。そのお金で自分達の礼服を買ったりするので、ある程度の収入がある人達からは煙たがられています」
水属性のヒロインはアニエス・ウォーテック。水色の髪が人目を惹くエルフの神官。爺ちゃんだけでなく、アランも献金を嫌いそうだから、ハイードロ教から嫌われているだろう。無意味な施しは自己満足でしかない。自立の手助けをするシステムを考えておこう。そして俺はアニエスに嫌われるだろう。
「数年前、火のフレイック家の当主が、祖父の家で一悶着を起こしましけど、その後どうなりましたか?」
「生活を維持する為に、勇者の遺品を何点か売ったと聞いています。確か、ギリアム家の者が買ったと聞きました」
ギリアム家はオリゾン屈指の商家だ。そしてギリアム家の三男はジョージパーティーの一人。
「確か、勇者の時代にワの国からやって来た狸人の一族ですよね」
何でも、狸人は外来生物ばりにオリゾンに根付いたらしい。
「ええ、風のカゼック家と同じくワの国から来たんですよ。カゼック家はワの国に戻りましたので、詳しい話は聞こえてきませんね」
風の属性のヒロインは風継凛。サムライソードを振るう大和撫子だ。同じ勇者の血筋を引く主人公に忠誠を誓い、卑怯な振る舞いの多いジョージを毛嫌いしていた。先祖が平和を取り戻した筈なのに、貴族が大きな顔をして暮らしているのが気に入らなかったらしい。
「ギリアム家は勇者の遺品を、どこに売るんでしょうかね?」
「ナイテック家とイジワール家が興味を示しているそうですね。最後は土のアーシック家。祖先はドワーフの戦士ユン、ユンは鍛冶も得意としていましだが、アーシック家は領地の鉱石を取り尽くしてしまい、他領から買い取っているそうです」
その最大の輸出元は、我がコーカツ家。でも、最近はギリアム家の方が高く買い取ってくれるから、アーシック家との取り引きは少なくなったそうだ。
土の属性のヒロインはベル・アーシック。ベルはお約束のロリドワーフだ。
…ジョージがヒロインに嫌われる訳が分かった気がする。
「うちは恨まれてますね。これは早くアサシンの先生を紹介してもらわないと」
「その人ならもう少しで来ますよ。名前はボルフ・ルードウ。狼人のアサシンですよ」
ゲームと同じ様に、時代が動いていくのなら備えれるだけ備えておこう。ヒロインに嫌われるのは仕方ない。勇者と仲良くなれる様に、頑張ろう。




