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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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恐怖のメイドさん?

毎年お約束のバレンタイン更新です

 俺が今いるのはテチュ荒野の、まだ手付かずの荒れ地。見渡す限り荒れ地で、民家はおろか人影すらなく非常に寂しいところだ。 

(周りに何もないから、ここを選んだのか……まさかウィナー・オブ・ザ・エターナルに放った策がブーメランになって自分に返ってくるとは)

 俺をここに連れて来たのはボーブルいやオリゾン最強と言っても過言ではないオデットさん。御歳……凄くお若いです。


「ジョージ様、これより修行を開始したいと思います。万が一の事に備えタニザキ様に来て頂いているので、ご安心下さい」

 つまりいしゃの出番が必要になる可能性があると……逆に怖いって。バラエティー番組の万が一の時に備えて医師と看護師が控えていますってテロップが脳内をよぎった。


「丈治様、これは修行ですので、そんなに硬くならなくても大丈夫ですよ」

 谷が敬語を使っているのは、今回の修行にアイン君とユリアも同行しているからだろう。ボルフ先生とサンダ先生は見るに忍びないと欠席した。何を見るのが忍びないんでしょうか?……正直、あまり考えたくないです。


「ユリア、オデットさんってそんなに強いのか?確かに隙はないけど……」

 アイン君はユリアとうまが合うらしく、もう名前で呼びあっている。今ならシローとフレーズさんがイチャイチャしても平気かもしれない。

(そういや、アインは闇属性だったもんな。ユリアと相性が良くても不思議じゃないか)

 アインをボーブルに連れて来て正解だった。魔王軍の戦力が増えるのを防げたからじゃない。一人の若者が人生を踏み外す事を防げたのが嬉しいのだ……すいません、今だけでも現実逃避させて下さい。


「強いなんてもんじゃないっすよ。素手でアイアンゴーレムを倒したって噂があるんすから」

 普通、アイアンゴーレムを倒すには鉄より硬いミスリル製の武具を用いる。そして素手で倒すって事は、素手で数十センチの厚さがある鉄を砕けなきゃ無理だ。とりあえずユリア君、良い子だから雇用主の不安を煽るのはやめましょう。


「さあ、ジョージ様。鎧を身に纏って下さい」

 しかし、近くに俺を尊敬してくれている部下がいる訳で……ためらっているとオデットさんが鋭い視線でにらんできた。

 ……もう、やけくそだ。

「超竜変身!ゴールドジョージ」


 二回目の変身でも慣れず顔が真っ赤になる。そして再び訪れる沈黙……。


「……だ、大丈夫っすよ。ジョージ様、一周回って格好いいっす」

 ユリアの今の間は言い訳を考えていたんだと思う。その気遣いが逆に痛い。


「ジョージ様、男は見た目じゃありません。それに装備で一番大事なのは性能です!」

 アイン君、その台詞はおじさんの見た目を否定しているって事を覚えましょうね。


「まあ、なんだ……頑張って下さい」

 谷崎君、同情の視線を向けるのは止めましょう。笑ってくれた方が楽です。


「ジョージ様、準備はよろしいですね……では、いきますよ」

 オデットさんは宣言を終えると、いつの間にかその姿を消していた。俺の目に映っているのは、土煙だけだ。


「どこだ?」

 慌てて周囲を見渡すが、オデットさんの姿はどこにもない。ぐるりと辺りを見回してみるが、影も形もないのだ。


「ジョージ様、こちらでございますよ」

 いた……オデットさんはいつの間にか俺の正面に立っていた。そしてニコリと笑うと、俺に向かって突きを放つ。


「ぐぉっふっ!」

 腹に今まで感じたことのない衝撃が走る。気付くと俺は宙に浮いていた。そしてそのまま無残に地面へと叩きつけられる。胃の中の食い物、肺の中の空気全てが逆流していく。

(……この気配は来る?)

 無理矢理体を起こして、飛びのく……危なかった。何があったのか分からないが、さっきまでいた俺の場所には大きな穴が開いていたのだ。


「ジョージ様、お次は火炎系魔法を体験して頂きます……パイロインフェルノ!」

 一瞬にして辺り一帯が紅蓮の炎に包まれる。オデットさんレベルになると、火炎系の上位魔法も無詠唱なんですね。普通、無詠唱だと魔法の威力が落ちてしまう。しかし、俺を取り囲んでいる炎の壁は優に3mを越していた。

(このままじゃ蒸し焼きだ……キンウロコさん信じてますよ。ストーキングウォーター)

 自分の顔に水を纏わりつかせて、炎の壁に突っ込む。リヤン様が作ってくれた鎧は、確かに防御力が高かった。しかし、顔面はノーガードで防御力ゼロ。アキレスの踵ならぬジョージの顔面なのだ……防御面でも顔面がネックになるとは。

 炎に突っ込んだのは良いが、鎧が重くて中々前に進めない。顔に纏わせた水の温度も徐々に上がり始めている。

 リヤン様の鎧はフルアーマーと重さが変わらないのだ。違うのは体を自由自在に動かせるって事くらいだ……一か八か、気合を入れてやってみるか。


「必殺!でんぐり返し」

 勢いをつけて一気に転がる。地面がでこぼこなせいで、斜めに転がっていく……なんとか脱出出来た。


「ふぃー、熱かっ……ぬおっ!」

 脱出できたと思い一息ついていたら、棒手裏剣が顔を掠めて飛んできた。


「鎧の性能を過信せず、直ぐに脱出なされたのは賢明な判断です。しかし、

 脱出できたからと油断をしていると……」

 また一瞬にして消えた……オデットさんの姿を探すもどこにも見当たらない。ふと、アイン達を見ると俺の後ろを指さしている。そしてある事に気付き、身体中から冷汗が噴き出た。

 短剣が俺の首に突き立ててられていたのだ。これでも気配を察知するのは得意な方である。それにもかかわらず、オデットさんは気配どころか足音すら気付かせずに俺の背後をとったのだ。


「……こんな風に死んでしまいますので、お気を付けください」


「べ、勉強になります」

 オデットさんの言う通りだ。もし、敵が弓矢を持っていたら、一瞬にして蜂の巣になっていた。しかし、オデットさんレベルの魔族なんて何人いるんだろうか?


「やはり、動きが鈍いですね」

 これは良い流れだ。上手く応対すれば、この地獄の修行から逃れられる。このままでは、鎧に慣れる前に俺の胃がやられてしまうだろう。


「ええ、まだ鎧の重さに慣れてないですね」

 喜びを押し殺し、いかにも残念そうに答える。


「その鎧に慣れる方が先決ですね。ジョージ様、今日からお城にいる時は、常時鎧を身につけて下さい。脱ぐのは就寝時、入浴時、他領の人間とお会いする時だけです」

 つまり仕事をしている時も飯を食っている時も、この重い鎧を身に付けていろと……恥ずかしさと相まって、拷問にしか思えないんですが。


「常時ですか?」

 危うく丈治が常時鎧を着るんですかって、親父ギャグを言う所だった。


「ええ、ジョージ様は、将来一軍を率いる方です。その時はフルアーマーを身につけなくてはいけません。戦場において将の鎧は身を守るだけでなく、配下の目印にもなります。将が逃げずに自分達と同じ戦場で動きを見ていてくれてこそ、配下は安心して戦えるのです」

 ぐうの音も出ない正論です。命を懸けて戦い本陣に戻ってきたら、将が鎧を脱いでくつろいでいたら戦意は消失してしまうだろう。

(目立つ、防御力が高い、視界良好、俺だと直ぐ分かる……条件だけ見たら最高の鎧なんだよな)

 これデザインさえ良ければ完璧なのに……とりあえず、不自由なく動けるようになろう。


 ◇

 城に戻った俺は早速政務に取り掛かった。しかし、これがきつい。サイン一つするにも一苦労です。鎧を解除したいんだけど、ボルフ先生が見張っているので無理なのだ。


「こんな重い鱗があるのに、ドラゴンはよく空を飛べますよね」

 俺なんて指一本動かすのも一苦労だってのに。


「確かドラゴンは魔力を利用して、空を飛んでいるらしいぞ。ほら、次の書類だぜ」

 そう言えば、そんな話を聞いた事がある……待てよ。試しに鎧に自分の魔力を流し込んでみる。


「来たっ。俺って凄くないっすか?余裕で動けますよ」

 俺の時代が来た。この時は、本気でそう思っていました。


「凄かったのは三分だけだったな。それだけ多くの鱗に魔力を流したら、速攻魔力切れになるのは当たり前だろ。馬鹿やってないで早く仕事を片付けろ」

 明日は学校だ。学校では鎧を着なくても良いから、ここぞとばかりに書類を片付けてやる。

 次の日、俺は最悪の目覚めを迎えていた。全く、体を動かせないのだ。少しでも動かそうものなら、激しい痛みが全身に走る。何とか、痛みをこらえて谷を呼ぶ。


「これは竜の呪いなのか?谷、今直ぐ欠席届けにサインしてくれ」


「何が竜の呪いだ。ただの筋肉痛だよ、筋肉痛……アールツトヒール。これで大丈夫だ」

 時計を見ると、もう準備をしないといけない時間になっていた。勢いをつけて起き上がると、身体中に痛みが走った。


「くぅおの、ヤブ医者!筋肉痛が治ってないじゃないか」

 確かにさっきより痛みは和らいでいるが、動かすとまだ身体中に痛みを感じる。


「俺が治したのはダメージが大きすぎて、損傷が残りそうな部分だけだぜ。筋肉痛を完璧に治したら、いつまで経っても筋肉量が増えない可能性があるからな。毎日痛みを味わいたいんなら、完璧に治してもいいんだぜ」

 それは嫌だ。谷の話では二十四時間くらい回復期間を置いた方が筋肉に良いらしい。


「今日はファルコ伯爵とジンガさんが来るんだよな。どうせ、鎧を身につけられないから丁度いいか。お前は今日もアニエスの相手をするんだろ?」

 ムー君は相変わらず定期的にボーブルに来ている。ベガルの兄ジンガさんは工業ギルドで販売している装備の品質を確かめに来るとの事。

 そしてアニエスは谷の治療に興味を持ったらしく、毎週のようにボーブルに来ているそうだ。噂では随分甲斐甲斐しく谷を手伝っているらしい。これで異世界の人間を嫌っている説は消えた。そしてアニエスは谷が俺サイドの人間だと知っている……やはり、ジョージだから嫌わているのか。


「貴族って事を鼻に掛けない良い子だから大丈夫だよ。でも、ちょっと頭が固いかもな。実習に来たての看護学生みたいな感じだよ」

 谷自身はアニエスに興味がないようだ。アニエスくらいの美少女になら興味を持つと思ったんだけどな。さすがに年が離れすぎているか……もう、次の恋をしても良いと思うんだけどな……。


 ◇

 ムー君達との会合は滞りなく終わった。ジンガさんは工業ギルドの装備をいたく気に入ってくれて大量購入してくれるそうだ。


「ジョージ君には、兄弟ともにお世話になってばかりだね」

 ジンガさんは礼を言ってくれたが、お礼を言いたいのはこっちの方だ。コルレシオン家とファルコ家の働きかけのお陰で、レオパルド家がサンダ先生とミューエさんの事を認めてくれたのだ。


「お世話になっているのは私の方ですよ。そう言えばベガルさんの首筋に嚙み痕がありましたけど、何か分かりますか?」

 スノウさんに噛まれたんなら艶話で終わるが、ヴァンパイアにでも噛まれたのなら大問題だ。


「ほう、あの純情坊主もやるもんだな。獅子人の娘は惚れた男の首筋に自分の歯型をつけるのさ。これは私の男だって目印なんだとよ」

 ムー君の話では獅子人が狩猟民族だった頃の名残らしい。大昔は仕留めた獲物に自分の歯形を残していたらしいが、いつの間にか男女の仲を証明する習わしになったそうだ。

 思わず自分の首筋を抑えてしまう。ふとジンガさんと目が合うと、ニヤリと笑っていた。微笑んでいるのではなく、何かを企んでいるそんな笑顔だ。

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