表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/199

シンプルイズベスト?

 今年で異世界に転生してもう十五年目だ。転生、十五年目にして初めて寝込んでいます。どういう仕組みか分からないけどバングルまで青くなっていた。

 人一倍健康に気を使っていたけど、この頃ずっと働き詰めだった。そこにきて春物の服のまま雪山に行ったんだから、風邪をひいても不思議ではない。

(暇だ……ただ寝ているだけが、こんなに暇だとは)

 忙しい時はいつか落ち着いたら、ベッドでぐうたらするんだと夢見ていたが、こんなに暇だとは……昔は平気で何時間もダラダラ出来たのに。

 暇を潰そうにもパソコンと本棚には、しっかりと使用禁止と書かれた紙が張ってある。しかも母さん、オデットさん、アミ三人の署名付きだ。

 特殊な魔法が付与されているらしく、触れたらブザーがなるらしい。

 暇です……感染症予防の為、面会禁止にしたので誰も部屋に来ない。


「おっ、大人しく寝てるな。どうだ、なんか食えそうか?」

 さすがは現役医師と言うべきか、谷はしっかりとマスクをしている。


「喉が痛くてちょっときついな。でも、薬を飲むにはなんか食わなきゃいけないんだろ?」

 オリゾンの主食はパンだ。ただ、日本のパンと違いかなり硬めである。食べたら喉に深刻なダメージを食らうのは確実だ。


「あれだけ喉が腫れてれば仕方ないさ。お前が感染したのはライノウイルスの一種だから、きちんと飯を食って薬を飲んで寝ていればじきに治るさ」

 そうは言われても食欲が湧かないんですが。


「いや、食欲がないんだって」

 とりあえずチョコかなにか口に入れておこう。カロリーを取るだけでも違う筈。


「その辺はきちんと手配しておいたから安心しろ。お前に一番効く薬を用意しておいたぜ。ここに風邪薬を置いておくから、飯を食ったらきちんと飲めよ。それとマスクを置いておくから、誰か来たらきちんと使え」

 谷が処方してくれた薬か……これは助かる。オリゾンで使われている薬は昆虫由来の物が多い。ポニーホッパー以外も、ジャイアントワームという巨大ミミズを干して煎じた物を熱冷ましとして使っている。

 その点、谷が処方してくれた薬なら安心だ……待て、風邪薬が薬だよな。

 谷の言葉に違和感を覚えていると、遠慮がちにドアがノックされた。


「ジョージ具合はどう?お粥、作ってきたよ」

 やって来たのは土鍋を抱えたカリナだ。土鍋で作ったお粥か。風邪をひいた日本人としては涙が出るくらい嬉しい。


「お粥ならなんとか食えそうだから、助かるよ。でも、よく風邪の時にお粥を食べるって知ってたな」

 カリナは日本で料理教室に通ったから、その時に覚えたんだろうか。しかし、問題はお粥のお供だ。オリゾンの食事は洋風である。当然、梅干しや海苔はない。


「タニザキ先生がお粥なら食べれるだろうって。作り方はニホンで買って来た本に書いてたし……それと、これ。ごめん、勝手にお味噌を使っちゃった……ジ、ジョージ、どうしたの?やっぱり怒った?」

 やばい、嬉し過ぎて涙が止まらない。カリナの前だと言うのに、ボロ泣きだ。でも、まさかレコルトでこれが食えるとは。


「卵味噌だ……まじかよ。しかもこの匂いは父さんの卵味噌じゃないか」

 卵味噌は俺の故郷の郷土料理だ。風邪をひいた時に父さんが作ってくれた思い出の味である。家によってダシが違うので、味や匂いが微妙に違う。


「あんたの家で料理を習った時に丈治が風邪をひいたら、これを食べさせて欲しいって……ほら、口を開けて」

 カリナは木のスプーンにお粥を乗せて、差し出してきた。これはいわゆるアーンってやつか。嬉しいが、俺はおっさんで、カリナは中学生だ。甘えている感じがして、かなり恥ずかしい。


「ひ、一人で食えるって」

 自分でも分かるくらい顔が赤くなっている。ふと見ると、バングルも赤くなっていた。今なら熱が原因だって誤魔化せるけど、気を付けないと何を考えているかバレバレである。


「病人は大人しく、言う事を聞くもんだよ……はい、アーン」

 カリナも恥ずかしいらしく、顔が真っ赤だ。あまりの甘酸っぱさに背中がむずがゆくなる……恥ずかしいが、部屋にはカリナしかいない。たまには素直になるのも大事だと思う。


「あ、あーん」

 素直にカリナに食べさてもらう。卵味噌の優しい味が口いっぱいに広がる。米から作ったお粥は腫れた喉にも負担を掛ける事なく飲み込めた。


「どう?美味しい?」

 カリナが心配げに俺の顔を覗き込んでくる。心配なのか獅子耳もが少し萎れ気味だ。 

 味はもちろん美味いが、それ以上に心が温かさに包まれた。父さんが料理には作った人の気持ちが込められているって言ってたけど、それが実感できた。


「ああ、涙が出るほど美味いよ」

 病気の時って安心できる人が近くにいてくれるのが、こんなに心強いなんて。


「良かった。初めて作った料理だから、心配だったんだよ。ほら、あーん」

 カリナは嬉しそうに笑っている。お陰で、こっちまで心が温かくなる。なんか、心の薬って感じだ。そしてお約束のように完食しました。

 お前に一番効く薬を用意しておいたぜ……どうやら、俺に一番効く薬はカリナらしい。


 ◇

 満腹になったお陰で、ぐっすりと寝る事が出来た。喉の腫れも少し引いたらしく、痛みも和らいでいる。

 窓から外を見てみると、まだ夜らしくどこまでも闇が広がっていた。


「発情期みたく、二人狂ったように抱きしめ合おう。獣のように求めあえば、心路の傷なんて忘れるさ。セクシーキャット・ナイトラブ。儂の腕の中、恋しか知らなかったあの日に様に眠りな」

 歌声がした方を見てみると革ジャンを着たミケがいた。毛皮の上に、皮製品を着るのかよ。しかもサングラスまでつけて芸が細かいと言うべきか、暇だと言うか。


「夢か……まだ夜だな。寝るか」

 今は突っ込む気力も湧かない。熱でうなされて悪い夢を見たって事にしておこう。


「くぉらっ!折角、見舞いに来てやったのに、無視して寝るってどういう事や。儂のロックはハートに響くんやぞ」

 今はだみ声が部屋に響いてますが。これは相手をしないと帰らないパターンだ。


「見舞いに行って病人が寝ていたら、物だけ置いてそっと帰るのが礼儀だぞ。それで何の用だ?」

 これでもミケは最低限の常識は持っている。そのミケが夜中に来たのは、何か用事があるからだろう。


「分かっとるやないか……でも、その前にマスクをつけい。人と話す時の礼儀やぞ」

 ……許されるなら、ミケに向かって思いっきり咳をしてやりたい。もっとも、そんな事をしてばれたらサンダ先生からお説教されてしまうが。


「ほら、マスクをしたぞ」

 話が進まないから渋々マスクをつける。第一、神使って風邪をひくのか。


「うん、オッケーや。用事ちゅうのは他でもない。リヤン様がキンウロコはんの鱗で作った鎧が出来たんで、届けにきたんや」

 そうは言うもののミケは手ぶらできており、鎧どころか箱菓子の一つも持っていない。ゼリーかプリンを日本から取り寄せる気遣いがあっても良いと思う。

 ……もしかして、不信心者には見えない仕組みなのか。それならかなり有り難い。見えないので、着られませんでしたって言い訳が出来る。


「あー、俺には鎧なんて見えないな。残念だなー。本当に残念だー」

 かなりの棒読みだけど義理はたつ。金ピカ鎧を着こなせるのは、よっぽどのイケメンか強者だけだ。


「見える訳ないやろ。リヤン様はお前に授けたバングルに新しい機能を加えて下さったんや。この間のキンウロコはんの鱗を持って“超竜変身!ゴールドジョージ”と叫べばオッケーや」

 何がオッケーだ。金ピカ鎧だけでも恥ずかしいのに、ださい変身ワードまで作りやがって。


「上司の失敗作にそれとなく駄目だしするのも部下の役目なんだぞ。なんだよ、ゴールドジョージって?」

 ジョージは良い大人なんですから、無言で変身できるようにした方が喜びますよとか言えば良いじゃん。


「ただの上司やないんやぞ。リヤン様は神様なんやで。安心せい、鎧は戦いに使う物やからシンプルなデザインにして下さったみたいや。鎧を脱ぐ時は胸に手を当てて、解除って言えばええみたいやぞ」

 金ピカな時点で目立ちまくるけど、デザインがシンプルなら式典とかでも使える。一度どこかに着て行けば義理は通るだろう。


 ◇

 風邪を治すのに二日ほどかかった。お陰で久し振りにゆっくりと休めた感じがする。


「まじで検証するんすか?俺としてはたまった政務を片付けたいんですけど」

 俺が今いるのは騎士や兵士が鍛錬に使っている屋内道場。リヤン様から授かった鎧がどんな物か見てみるらしい。


「当たり前だ。見ない事には運用方法が分からないだろ。神様から授かった鎧の扱いを間違ったりしたら、大問題なんだぞ」

 ボルフ先生は意外と信心深い。いや、神様や神使が生活に密着しているレコルトでは、神様を崇拝しない方が異端らしい。


「分かりましたよ……でも、人数多くないっすか?」

 検証に参加するのはボルフ先生、サンダ先生、谷、オデットさん、ロッコーさん、ミューエさん、ベガルさん、カリナの八人。このメンバーの前で変身しろと言うのか。ある意味バツゲームだぞ。


「リヤン様がお授けになった鎧ですよ。物によっては王様や民衆にお披露目しなくてはいけませんからね」

 サンダ先生、民衆の前で披露するのだけは勘弁して下さい。このメンバーで唯一の頼みの綱は谷だ。日本人の谷なら信仰心が薄いから、冷静な判断を下してくれるはず。

 お守りから鱗を取り出し、天高く掲げる。この時点でバングルは真っ赤だ。


「超竜変身!ゴールドジョージ」

 穴があったら埋まりたい。恥ずかしさで顔が赤く染まっていくのが分かる。

 変身ワードを叫んだ瞬間、全身金色の鱗で包まれ始めた。

 そして何故かみんな唖然としている。


「あー、丈治なんつー姿だ。昔の映画に出て来た宇宙人みたいだな。なんか電話してちょうだいって言いたくなるぞ」

 谷の言葉を聞いて窓に映った自分の姿を確認する……そして愕然とした。


「シンプル過ぎるだろ!」

 鎧って言うより、金色の全身タイツである。金色の鱗で全身がすっぽりと覆われており、かろうじて顔だけが外気に触れている。


「凄いな。全て黄金竜の鱗だ。これを着てればどんな攻撃も無効化出来ると思う」

 ミューエさん、マジな顔で解説するのは止めて下さい。


「でも、目立ちますよね。シャイニングボディ、ブラック」

 思いっきり叫んではみたが、変化する様子はない。


「竜の鱗は耐魔能力に優れております。それが伝説の黄金竜様の物なら尚更です。失礼ですが、ジョージ様の魔力では無理かと」

 ロッコーさん、マジですか?金色のまま人前に出なきゃいけないのか?


「ジョージ殿。その鎧を着てどのくらい動ける?」

 さすがは元兵士養成所の所長ベガルさん。運用方法が現実的だ。

(うん?ベガルさんの首筋にある傷はなんだ?何かに噛まれた痕みたいだけど)


「動いてみますね……って、重っ!」

 鎧はずっしりと重く、歩くのさえ一苦労だ。そう言えば、最初にもらった鱗一枚で百グラム近い重さがあった。それが全身に使われているんだから重くて当然だ。

 移動に四苦八苦しているとオデットさんが近付いてきた。きっと、身体を動かせない鎧では意味がありませんって助け舟を出してくれるに違いない。


「これを着て動くのは更なる鍛錬が必要ですね。分かりました、私が鍛錬をつけさせて頂きます。この防御力なら私が攻撃しても軽い怪我で済むでしょう」

 これを着て鍛錬しろと?しかも、オデットさんの攻撃つきだと?でも、オデットさんの言う通り、まともに歩けないんじゃ戦闘どころか式典にすら出られない。


「ジョージ、卵味噌ならいつでも作ってあげるから、頑張りな」

 まじでカリナだけが救いです。


卵味噌の作り方はリクエストがあれば活動報告に乗せます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて一気に読んでます [一言] 嫌われ者を始めたのは主人公だけじゃなくてミケさんもなのかも知れない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ