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嫌われ者始めました〜転生リーマンの領地運営物語〜  作者: くま太郎


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残ったモノは?

 クレーム対応には相手の事を知るのが大切だと営業の田中が言っていた。ドラゴン族族長キンウロコ……レコルト基礎知識にアクセスする必要がないくらい有名でした。


「まさか伝説の黄金竜がタスク山に住んでおられたとは……初代オリゾン王が金色に輝くドラゴンの許しを得て、オリゾンを興したと伝わっております。それ以来オリゾン王家は黄金竜を紋章にしているんですよ。その黄金竜様がタスク山に住んでいたなんて、感激で言葉もありません」

 オリゾン王国建国の伝説が事実だったと分かりサンダ先生は感涙にむせび泣いていた。ちなみに鱗をもらった当の本人(おれ)は事態の深刻さに泣きそうになっています。


「王族以外の者が黄金の竜を紋章にしたら、不敬罪に問われるらしいな。紋章じゃなきゃ大丈夫だって屁理屈をこねた商人が、黄金竜を描いた絵を居間に飾ったら、私財を没収された上に死刑にされたって話もあるんだぜ」

 ボルフ先生、余計な情報ありがとうございます。キンウロコさんを描いた絵がアウトなら、手紙兼鱗を持っているのもまずくないか?王家に献上したら、キンウロコさんに対して失礼だし。


「とりあえず光の巨大魔石を手土産に持っていきます。やっぱり、キンウロコさんは山頂に住んでいるんですかね?」

 あの高さを登るのは正直きつい。しかも巨大魔石を持ちながらなんて自殺行為だ。でも、手ぶらで訪ねるには高位過ぎる相手なんだよな。


「ジョージ様、きちんと様をお付けになって下さい。キンウロコ様は神使様と同じくらい貴いお方なのですよ」

 サンダ先生マジ切れです。俺の知っている神使は高貴とほど遠いんですけど。キンウロコさんは信仰の対象にもなっており、偽物の鱗が出回った事もあるそうだ。それ故に黄金竜の存在を疑う学者もいたらしい。


「そうなると問題は保管方法ですね。餅は餅屋じゃないですけど、ユリアの意見を聞いてみますか」

 盗賊の家で育ったユリアなら的確なアドバイスをくれると思う。


「ちっす。ジョージ様、お呼びっすか?……そ、そこにあるのはドラゴンの鱗じゃないっすか!しかも、黄金竜のマジモンっすね。なにより、手紙になっているなんてドラゴンマニア垂涎物っすよ」

 ユリアは部屋に入るなりめざとく鱗を見つけた。しかし、ドラゴンマニアなんているんだ。タスク山のドラゴンをトレーディングカードにしたら人気が出るかもしれない

 ユリアはホームキーパー部門に所属しているので、作業服を着ている。髪も短い事もあり、パッと見工場で働いている少年のように見えてしまう。


「ユリア、良くドラゴンの鱗だって分かったな」

 鱗は手のひらくらいの大きさがある上に、金色の輝きを放っていた。あまりにもお約束過ぎて、逆に作り物にしか見えない。


「当たり前っすよ。盗賊が偽物を掴まされたんじゃ、商売にならないっすからね。このサイズなら最低でも五百万ストーンはくだらないっすよ」

 ナイトクロウは義賊を名乗るだけあって、貴族や悪徳商人に取られたお宝を盗み返す依頼を受ける事もあるそうだ。確かになけなしの金を払って偽物を持って来られた日には信用がガタ落ちだろう。


「ユリアに相談がある。この鱗を保管するにはどうするのが一番だと思う?俺は城の金庫に仕舞おうと思うんだけど」

 ここは貴族の城だ。しかも、アサシンギルドの協力を得て作ってあるから、侵入するのは難しいと思う。


「ボーブル城は“盗賊さん百人に聞きました。貴方の侵入したくないお城は?”に三年連続ベストテン入りしてるんすよ。アサシンギルドが設計に関わっただけあり、侵入が難しいんすよね。でも、それが逆に盗人魂に火をつけるんすよ。自分も何度か挑戦しようかと思ったんすけど、止めて正解っすね。化け物みたいな人がゴロゴロいるんすもん」

 うちの戦力か。筆頭は断トツで元L級冒険者のオデットさん。

 次にボルフ先生、サンダ先生の師匠コンビ、二人とも冒険者としての実力はS級相当らしい。

 ミューエさん、ベガルさんのフェルゼン帝国コンビはA級の上位冒険者と比べても遜色がないそうだ。ロッコーさんもA級冒険者並みの魔力を持っているらしい。リーズンもB級上位並みの実力があるらしいが、他の人が強すぎて霞んでしまう。

 伯爵家でもA級相当の騎士一人いれば良いほうらしい……そう考えると、戦力過多だよな。


「やっぱり、城で保管するのが一番か」

 金庫の奥底に厳重に保管しよう。それこそ二度と取り出せないくらい厳重に封印したい。


「甘いっす。ジョージ様からもらったキャラメルに砂糖をまぶしたくらい甘いっすよ。確かにボーブル城は外からの侵入は難しいっすけど、中の警備が手薄っす。家来を信用するのは良い事っすけど、悪い盗賊は城のメイドをたぶらかしたり、騎士の身内を誘拐したりしてでも宝をゲットするんすよ」

 言いたい事は分かるけど、悪い盗賊ってなんだよ。義賊も法律に触れているんだからな。


「確かに宝が原因で部下が巻き込まれたら、洒落にならないな。かといって常に持ち歩く訳にいかないし」

 宝の為に家来の奥さんが寝取られたら謝っても謝りきれない。まあ、相手の男はどんな手を使ってでも破滅させるけど。


「大丈夫っす。親父から教えてもらった家伝の魔法があるんすよ。ジョージ様、普段身につけているペンダントかネックレスはないっすか?」

 残念ながらそんな物ありません。俺は昔からアクセサリーの類をつけない主義だ。チャラチャラした格好が嫌いなのだ……絶望的に似合わないってのが一番の理由だけど。

(身につけられる物か……あれなら丁度良いか)


「アクセサリーの類は持っていないけど、これならどうだ?丁度、収まるみたいだし」

 俺が選んだのは父さんからもらったお守り。不格好だけど、手作りの温かみがある。


「見た事のない袋っすね。でも、ジョージ様との相性が抜群なので、ばっちりっすよ。自分、盗賊神バンディ様に願うっす。ジョージ様に黄金竜キンウロコ様の鱗の所有権を認めて欲しいっす。盗賊神(バンディ)の約束(ブロメス)……有効範囲は五メートルっすけど、身につけている限り盗まれる心配はないっすよ」

 盗賊の神様か。ギリシャ神話のヘルメスも盗賊の神様だけど、向こうは伝令や商業の神を兼任している。バンディは元々盗難防止の神様だったらしいんだが、いつ頃からか盗みの神として崇められるようになったとの事。


「これで鱗を盗まれる心配はなくなった訳だ。ユリア、ありがとな。何か欲しい物とかはないか?」

 キンウロコさんの鱗を盗まれたら、大問題である。きちんとお礼をしなければ。


「それならキャラメルが欲しいっす……それとジョージ様が殺されたら魔法の効果が無くなるから、気を付けて下さいっす。くー、甘いっす。美味しいっす。キャラメル最高っす!」

 つまり、俺は五百万の賞金首になったようなものなのか……鱗の件は緘口令を敷く事にしよう。

 ◇

 鱗には日付等が書いていなかったので、俺はその日のうちにタスク山へと向った。誤解を招かないよう一人で来ている。直ぐに行動に移しましたよって誠意がキンウロコさんに伝わるはずだ。

(まずはドラゴンサイドに接触して、キンウロコさんの都合の良い日を確認する。そこに向けてスケジュールを調整。大丈夫、俺の誠意は伝わるはず)

 心証を少しでも良くする為、春らしい薄手の服を選んできた。ちょっと肌寒いが、敢えてシャイニングボディは使わない。そしてドラゴンサイドに会ったらまずは土下座で先制してやる。ジャパニーズドゲザの威力を見せてやるのだ。

 これでばっちり、落ち着いて交渉出来るはず……だったんだけど。


「ア、アカダマさん、この間はありがとうございました。この度は本当に申し訳ありませんでしゅた」

 タスク山にもう少しで到着ってところで、アカダマさんと遭遇してしまいました。突然の事に土下座を忘れ、しかも嚙みまくりです。言い訳をさせてもらえば、運転中に突然ドラゴンに道を塞がれたのだ。ビビらないほうがおかしい。


「いえいえ、こちらこそすいません。長老が日付を書かなかったのに、こんなに早く来て下さるなんて。それでは長老の所へご案内致します」

 幸いな事にアカダマさんから怒りは感じられない……しかし、油断をした所に大きな雷が落とされる可能性もある。


「わ、分かりました。登山に時間が掛かると思うのでキンウロコ様にお伝えください」

 キンウロコさんが住んでいるのが山頂だとすると、最低でも二日は掛かる。なんの準備もしていないが、ドラゴンを敵に回す方が危険だ。


「大丈夫ですよ。今から私がお連れしますので」

 アカダマさんはそう言うとふわりと浮かびあがった。そのまま俺の背後にくると、巨大な爪で俺をがっしりと掴んだ……もしかして、リアルUF〇キャッチャー?

 抗議の声をあげる間もなく、地面がどんどん遠ざかっていく。

 抵抗したいが、暴れたら地面に真っ逆さまに落ちる危険性がある。鷹に捕まったネズミも、こんな恐怖を感じているんだろうか?

 ◇

 今はまだ三月だ。山頂に近づくにつれて気温がどんどん下がっていく。薄着があだとなったようで、かなり寒い。


「長老、ジョージ様をお連れしました」

 ……寒さなんて一気に吹き飛びました。そこにいたのは推定三十メートルはある巨大な黄金のドラゴン。降り積もった雪に金色が反射して、神々しさすら感じる。


「ジョージ殿、よく来たの。儂がドラゴン族の長老をしているキンウロコじゃ。いつも美味しい魔石を届けてくれて感謝しておる」

 しゃがれ声が雪原に響く。お願いですから、それ以上大きな声を出して雪崩を起こすのだけはやめて下さい。


「み、皆さまのお陰で、南方の防衛費が浮いていますので大丈夫でございます」

 ボーブルの南方にはナイテック領がある。色々ときな臭い話がある所で、本当なら二十四時間体制で警戒しなきゃいけない。ドラゴンに渡している魔石はマナプラントから収穫した物。屑魔石を集めるさいに処理費用をもらっているので、トータルでみればかなりの黒字なのだ。


「正直で好感がもてるの……話は変わるが、この間の試合の事なんじゃが……」

 ついに来たか。流されるままここに来てしまったが、キンウロコさんに掛かれば俺なんて瞬殺されるのだ。さらに、ここには逃げ場がない。


「はーいっ、なんでござりましょう」

 こうなれば土下座どころかキンウロコさんの足を舐めてでも切り抜けてやる。


「あの猿人の若者はなぜドラゴンとの戦いを望んだのだ?」

 考えろ、キンウロコさんが不快にならない言い訳を……嫌味にならないおべっかを並べるんだ。


「彼等は冒険者なので、自分の強さを誇示したかったのでしょう。最強とうたわれるドラゴンに奇跡的に勝つ事が出来たら、強さの証明になりますから。何よりドラゴンの鱗はどんな金属より硬く、いかなる宝石にも負けない美しさがあります。身勝手な話ではございますが、脆弱な人間だからドラゴンの鱗を欲するのです」

 我ながら見事な責任転換だ。


「そう言えば人間は我らの鱗で鎧を作るらしいの……ジョージ殿は儂の鱗で作った鎧を欲するか?」

 キンウロコさんの鱗は市場価格一枚五百万。しかも金色に光っていてるから、かなり目立つ。そんな鎧を着て冒険に出たら速攻標的されてしまう。戦場なら良い的だ。


「欲しくないと言えば嘘になりますが、私はまだその器に達しておりません」

 ナイス言い訳、我ながら上手い断り文句だ。


「ふむ、若者の遠慮はかならずしも美徳ではないぞ。丁度今の時期は鱗の生え変わる季節じゃ。持って帰って鎧を作ると良い……まさか儂の鱗が派手で、嫌だと言うのではないだろうな」

 墓穴を掘ってしまった。なにか、良い逃げはないか?


「う、嬉しさの余り涙がでそうです。しかし、キンウロコ様の鱗ほど硬度がある物を加工出来る技術が我が領地にはありませぬ。ですので手紙として頂いた鱗を我が心の拠り所として鍛錬しようと思います」

 これぞ、大きなつづらではく小さなつづらを選ぶ舌切り雀戦法。後は感謝を述べて帰れば万事解決です。


「そうじゃの。それなら儂からリヤン様に頼んでみるとしよう。リヤン様はジョージ殿をいたく気に入っておられた。きっと素晴らしい鎧に仕立ててくれるじゃろう」

 はい、素晴らしくダサい鎧が出来ると思います。リヤン様とキンウロコさんのコラボって絶対断れないじゃないか。

 これは、あれだ。会社のお偉いさんが昔使っていた物だとか言って、ひと昔前に流行ったデザインのジャケットや腕時計をくれるやつだ。それでダサすぎて使わないでいると、直属の上司に怒られるんだ。

 ◇

 その後、ジョージはアカダマに連られて、キンウロコの住居から帰っていった。ジョージの姿が見えなくなったのと同時にミケがキンウロコの前に姿を現す。


「面倒をかけたの。ああでもせんとあいつは強力な防具を身につけんのや……まだ、ジョージに死なれる訳にはいけんのや」


「それは構いません。若者に物を贈るのは、年寄りの楽しみですし……しかし、ミケ様良いのですか?このままでは大切な方と敵対する事になるのでは?」

 キンウロコの言葉を聞いたミケは深い溜め息を漏らした。


「しゃーない。儂は神使なんや。自分の幸せよりお役目を重視せなあかんのや」


 ◇

 ボーブルに帰ってきら、そのまま倒れてしまった。だるい、身体がだるいし熱っぽい。


「風邪だな。薬を持って来るから、大人しく寝てろ」

 谷はそう言うと部屋を出て行った。色んな意味で泣きそうです。


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