ジョージのマジックアイテム
今日も母さんに伴われ、爺ちゃんの執務室に出勤。ちなみに俺が執務室にいる間、母さんは花嫁修業ならぬ母親修業をしているらしい。
「カトリーヌ、今日はジョージのマジックアイテムを置いていってくれないか?」
実は昨日の内に爺ちゃんにマジックアイテムを調べたいと頼んでおいたのだ。普段はマジックアイテムは母さんが管理していて、一回しか触った事がない。ミケの話でこの時にレコルト語やレコルトに関する知識を覚えたとの事。ただし、触れていた時間が短かったから、まだ覚えきれていない知識があるらしい。
そして母さんが部屋から出たのを見計らって、爺ちゃんはマジックアイテムを手渡してくれた。
「どっからどう見てもメモリースティックなんだよな…でも、どうやって使うんだ?」
きちんとアダプターに入ってるから、どこかに接続するんだと思うけど…生憎、俺にはUSB端子なんて付いていない。
「不思議な形のマジックアイテムだな。ジョージ、使い方は分かるのか?」
「これの元になった道具だと機械に繋げて使うんだよね…ミケ、使い方を教えてくれ」
このマジックアイテムは支給品らしいからミケが詳しい筈。
「使い方はお前が一番分かっとるやろ。これをお前の頭に繋げれば良いんや。触れるだけやと接続が不安定やからの」
ミケはメモリースティックを手に持つとニヤリと笑った。そしてジリジリと俺に近づいてくる。
「ちょっと待て。頭にメモリースティックなんて刺したら出血だけじゃ済まないぞ」
「ごちゃごちゃうるさいわ。これはメモリーなんちゃらやなくマジックアイテムや。問題はあらへん」
抵抗を試みるが、一歳児の身体能力で敵う訳がない。メモリースティックが俺の頭に突き刺さる。痛みなし、出血もなし…そして目の前に浮かんできたのは、見慣れた画面。
「レコルト言語翻訳機能に鑑定機能…それに人物とレコルト基礎知識?なんだこりゃ?」
翻訳機能や鑑定は分かるけど、人物ってフォルダは何の役に立つんだ?
「それがそのマジックアイテムの機能や。鑑定機能はそのまんまお前が見た物を鑑定する事が出来るんやで。人物はお前が会った事がある人間を記録していく事が出来るんや」
貴族は人と会う機会が多いから、便利と言えば便利だけど、もう少しチートな能力が欲しい。
「鑑定か…自分も鑑定出来るのか?」
きっと俺には隠された能力があるんだ。無限魔力に無限再生…スキル奪取も悪くない。
「ええ所に目を付けたの…ちゃんと出来るで。鏡に自分を映して鑑定と念じればええんやで」
幸いに爺ちゃんの執務室は大きな鏡が置いてある。何でも背後を警戒する為に設置したらしい。
(鑑定か…おい!!)
鑑定結果 名前:ジョージ・アコーギ 種族:猿人 性別:男 身分:貴族(アコーギ伯爵家長男) 年齢:一歳 能力: レコルト言語翻訳機能・レコルト基礎知識・鑑定・人物記録・異世界の知識・プログラミング能力・普通免許(オートマ限定)・エアリーディング能力
(ショボすぎる…でも、エアリーディング能力には期待出来るぞ。きっと大気の流れを見て、相手の動きを察知出来るんだ)
早速、エアリーディング能力を鑑定してみる。
鑑定結果 エアリーディング能力:場の空気を読みとる力。異世界の日本人は、言葉を聞かなくても空気を読んでトラブルを未然に防ぐと言う。
…大気じゃなく空気かよ!!確かにリーマンには必須能力だけどね。まあ、外国の人は、日本人の空気を読む能力に驚くらしいから異世界でも珍しい能力になるのかも知れない。
「普通だな…哀しくなる位に普通だな」
人物記録以外は転生前と殆ど変わらない…オートマ限定なんて、レコルトで役に立たないだろ。
「当たり前やないか。能力は自分で努力して伸ばすもんやで。まっ、お前の努力次第ってこっちゃな」
とりあえず家に帰ったら好き嫌いをしないで、丈夫な体作りから始めよう。それと風邪を引いた時の為に、葛根湯を作りたい。
「頑張るしかないか…そういや、爺ちゃん俺と母さんを襲った犯人はどうなったの?」
「神使様に言われたから、牢屋に繋いでいるぞ。どうかしたのか?」
そうか、まだ生きているんなら助かる。生きているなら使い道がある。
「あの人達を解放して召し抱えてもらえる。それと、あの人達の家族をアコーギ領から呼び寄せて欲しいんだ」
「娘や孫を襲った奴を許せと言うのか?」
爺ちゃんの目付きが厳しくなる。自分の娘や孫を殺そうとした人達だから当たり前なんだけどね。
「ここであの人達を死刑にしたら、俺や母さんが襲撃犯の家族に逆恨みされるでしょ…それに殺したら、使い道がなくなる」
別にアランに命令されただけだから許したいとか、人の命を奪いたくないとかではない。これから領地を治めるんなら死刑を宣告しなきゃいけない時もあるだろうし、戦いになれば他人の命を奪わなきゃいけなくなる。
「ほう?あいつ等を何に使うと言うんだ?」
「家族に罪を許す条件として、事の顛末を叫ばせるんだ。どうやっても、アラン達は襲撃を認めないと思う…それなら事実を広める事でアラン達を牽制したいんだよ」
爺ちゃんと領民に襲撃の事実が知れたとなれば、アラン達も派手には動けなくなるだろう。
「相手に深読みさせて、動きを封じるのか。面白いな、分かった…ジョージ、爺ちゃんの頼みも聞いて貰えるか?」
「何なりと…こっちの世界で俺が頼れるのは爺ちゃんだけだし」
それにローレン・コーカツに味方になってもらえるメリットは計り知れない。
「先ずは向こうに帰ったら、普通の子供を演じてくれ。有力な貴族の子弟が殺される事は少なくない。マジックアイテムと神使を所有してる上に、豊富な知識を持っているとなったら、アランの妬心やプライドを刺激するには充分だ」
確かに爺ちゃんの言う通りだ。もし、ルミアが妹じゃなく弟を産んだらアランは俺が目障りになるだろう。でも、俺の能力が低いと判断したら、どこかを治めさせて失敗するのを待つだろう。後は難癖を付けて継承権を剥奪すると…
「分かったよ。どっちにしろアランとは殆ど会っていないし」
「それとこれはカトリーヌの父親としての頼みだ…女としての幸せを味わえぬならせめて母としての幸せを味わわせてやってくれ。貴族の結婚は、幸せになれるかどうかより、領地の損得が優先される…俺はカトリーヌの気持ちに付け込んで、不幸な結婚を企てた碌でなしの父親さ」
爺ちゃんは母さんがアランに想いを寄せているのを知っていたんだろう。そしてアランが母さんを好きにならない事も…コーカツ家とアコーギ家は領地が隣り合っているから、婚儀を結ぶメリットは大きい。領主としては正しい判断でも、父親としては辛い決断だったと思う。
「頑張って母さんが自慢出来る息子になるよ。その為にも爺ちゃんにお願いがあるんだ…ある程度の年になったら、俺に教師を付けて欲しいんだ。政治を教えてくれる人とアサシンの先生を派遣して欲しい」
爺ちゃんの配下に有能な文官は沢山いるだろうし、暗殺者ギルドと繋がりがある爺ちゃんなら有能なアサシンも知ってる筈。
「政治の先生は分かるが、なんでアサシンなんだ?暗殺者になるつもりか?」
「暗殺を防ぐ為だよ。蛇の道は蛇、暗殺を防ぐにはアサシンの技を覚えるのが一番だと思うんだ」
何しろ、アコーギ家に帰れば俺は四面楚歌状態になる。それに敵はアランだけじゃない、他領の貴族からの暗殺も警戒しなきゃいけないんだ。徳川家康は医者を警戒し、自ら医学を学んだと言う。俺は暗殺術を身に付けて、自分の身を守ろうと思う。




