7 逆恨みランナウェイ!
「一段だけでもけっこう量があったんだな。あいつらに分けてやって正解だったよなー」
放課後である。
ほかの学生たちが部室へむかう中、重箱を下げてぶらぶらと自転車置き場へむかう日和。いわゆる帰宅部の彼だが、これからが一日の本番といっても過言ではない。
自称、真心錬気道門下生筆頭である彼は毎日が闘いの日々である。
スポーツなんて子供のあそびだ。
真心錬気道は古代からつづく武術の一派であり、対霊物を対象とした祓いの儀式でもある。轟あえかはその唯一無二の遣い手であり、様々な霊障を解決するエキスパートである。
ここ弓杜町は特異な地形なのか、いくつもオカルト現象が多発する。師匠いわく、気脈の乱れで霊的磁場が不安定だとかむずかしい説明されたが、とにかく夏の特別番組でよく特集を組まれるほどのオカルトスポットである。
現実におこる霊害を取りのぞき、そのスジの人間ならば一目置く”舞姫”。
そのチチをねらう若きサムライ春日日和。
組み手のときが勝負。
今日はどんな作戦でいくか。
不遜な懸想でうんうんうなっていると、
「あの~」
声をかけられた。
志村度Aランクのかなりかわいい女の子が前にいた。
あたりをキョロキョロ見回し、ほかに誰もいないのを見てとる。
「俺?」
指さし確認。
「ほかにいませんけど?」
不審そうな彼女。
みれば、緋色の生地に白が映える制服。
ルカ女の子だ。
なんでこんなところにいるんだろう?
「さがしものがあってぇ、ご協力おねがいできませんかぁ?」
甘えた声に、疑問は意識のかなたに消し飛んだ。
「オーケイベイベー! このボクにまかせなさい」
「よかった。えっとォ、人をさがしているんですけどォ」
「こうみえてボクは顔がひろいよ」
「うんうん、助かりますゥ。春日日和ってオトコのコ、お知り合いにいらっしゃいません?」
まじまじと正面から女の子をみる。
「ああ、もち知ってる」
「本当ですか!?」
パァ、と少女の顔が明るくかがやいた。
「なにを隠そう、このボクが春日日和その人さ!」
ビシッ! と親指を自分にさしむけポーズを決める。
ふっ。
まいったな。
これがモテ期ってやつか。
一生に一度あるかないかの罪つくりな時代が到来しちまったようだ。
ビバ青春。黄金期のアバンチュールを謳歌するぜ!
「ホントにあなたが春日日和?」
「おどろくのも無理はない。こんなナイスガイだとはおもわなかったかい?」
『トゥルルル……』
手品のようにケータイをとりだす女生徒。
それまでと打って変わったするどい声で言葉を告げる。
「みつけたわ! あたしたちのかぐや様に手をだしたうつけ者よ!」
「うつけ?」
うつけってどういう意味だろう。
つけものの仲間かな? などと考えているうち、おなじ制服を着た女生徒がそこらじゅうから押しよせてきた。
取り囲まれる。
おおう、なんだ?
オレの魅力に気づいた女子がこんなに!?
「まいったな。これじゃデートの約束は数週間先まで満杯になっちまう」
「なにを戯言仰ってますの?」
ながい棒のようなものを提げた女子が、一団から前にすすみ出た。
「われらの”かぐや様”を拐かした下郎。いますぐここで成敗いたす!」
目ツキのこわい女生徒は、棒きれから布袋をはぎとり、その先を日和の眼前につきだした。
ギラリ! と刃が陽光を反射する。
鼻先まで近づいたそのかがやきに生つばごっきゅん。
あれ? モテ期は?
この空気……何回目だろう。
殺気と威圧のアソート。
殺意の波動につつまれた一触即発のデッドゾーン。
生命の危機に対し、日和の頭脳は咄嗟のひらめきを展開した。
「あーーーーっと、そこの地面に超特大のゴキブリ発見ッ!!」
「うそっ!?」
「どこ!?」
「きゃーーーー!!」
口から出まかせである。
脱兎のごとく駆けだす日和。
「お待ちなさい!」
なぎなたを構えた女生徒が追ってくる。
そのうしろに敵意むきだしの女子高生の群れ。ゴキブリ発言で怒りのボルテージは一気にMAXまで達したようだ。
「ちくしょー! 誰だよモテ期なんて言ったの! 全然ちがうじゃん!」
自分で言ったのではあるが、それに気づく余裕もない日和であった。