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7 「ギポー・無謀が語る! 忌まわしき館!!(特集号)」

「ひぃっ!! ココには恐ろしい悪霊がいるわ!!」

 叫ぶギボー・無謀。

 建物はふるい工場あとのようだった。外から見るかぎり、廃屋となってずいぶんつようで、夜のとばりのせいかいっそうおどおどろしいげな雰囲気を漂わせている。


「あそこ!」

 サッ、とギボーが指を指した。


「ほらそこにも!」

 別の場所を指し示す。


「みえるわ! この世に未練をのこした霊たちがッ!!」


「ばかばかしい」

 物理学教授がいまいましげにののしった。

「霊などいるわけはない! 物理学が証明している!」

 言葉とうらはらに、ひざのふるえで上半身まで激しくブレていた。

「物理学なんて、オカルトの世界では通用しないのよ! ほら、あなたのうしろにも!」


「ギャース!」


 突如叫んで飛び上がるなり、横の巨漢にわっしと抱きつく。

「あら。気のせいだったわ」

 ホホホホホホ、とあざ笑う。

 ギボーの独壇場どくだんじょうであった。


「アカン、まじアカンわコレ」

「どうやらわれわれは、人類未踏のオカルトスポットへと連れられてきてしまったようです」

 MCがこわごわとカメラに向かって司会を務める。


「こ、金剛さん、ほ、ほんとに?」

 袈裟の端をつかみ、みすずがこわごわとたずねた。

「……わしにはなにも見えんがな」

「ほ、ほんと?」

 ほっ、として、袈裟から手を離す。


「ハーッハッハ! まぁ、わたしにはわかりきっていたことだがね」

「さっさと降りんか。おぬし重いぞ」

「これは失礼」

 下田教授はもったいぶった様子で地に足をつけると、いてきた。

「手、にぎってていいですか?」

「おぬし、ほんとに物理学者か?」

「もちろん!」

「では代わりにこのフダ、10000円で売ってしんぜよう」

「おのれ。宗教家というのはこれだから信用できん!」

 言いつつ、ふところからサイフをとりだし流れるように万札を押しつける。

「ふむ。わが霊威をこめたフダ、受け取るがよい」

「ははぁ。ありがたくちょうだいさせてもらおう!」


「ちょォ、あんたら! テレビの前でなにしとんねん!」

 谷川が怒鳴りこんできた。

「いやなに、ハッハッハ。このお坊さんに慣性モーメントとフェルマーの定理についてレクチャーしてあげていたのだよ」


「おい、ここんとこ大幅カット」

 プロデューサーの容赦ない一言が飛ぶ。


「ちょ、ちょっと待った!」


「金剛さん。そのオフダ、効くんですか?」

 小声で訪ねると、金剛はゴキリ、首を鳴らした。

「効くわけなぞないわ。経文の書き損じじゃからの」

「そうなんだ……」

 えげつないなぁ、とみすずはおもった。


「じゃがの。さきの石はちがう。あれには明らかに憑きものがあった」

 真剣な目でみすずに語る。

「手放すなら早いうちがよい」

「心配してくれてるんですね。でも、わたし、大丈夫です」

 グッ、と胸の前で両のこぶしをにぎる。

「なんか、不思議なんです。いままでずっと不安だったのに、ウソみたいに消えて。パワーストーン、ってスゴいんですね」

「はい、それではみすずさんに意気込みをきいてみましょう」

「はーいっ」

 とてててて、とMCたちの元へいき、カメラの前でナチュラルな笑顔を浮かべて話しはじめた。


「…………」


(なにも見えぬ、か)

 まわりに誰もいなくなり、金剛はゴキゴキと首をならす風を装い、見える範囲に目を向けた。

 なにもいない。

 どこにでもいるはずの、浮遊霊すらこの場にいない。

 それは、異常な事態だった。

 あのとき――森の中で見かけたモノたちは、みな、一様になにかにおびえ、自分たちと反対の方向へと逃げていった。

(なにがある)

 不吉な予感はふくれあがる。

「金剛さん、中に入るって」

 みすずにやってきて、そでをひっぱられた。「早く早く!」とせかされ、ついて行く。


 ジャラリ――


 まるで枷のように、いたるところに装飾品を身につけたサングラス男とすれ違う。

「おぬしはこんのか?」

「ハイ――ミー、ガイドオンリー」

 金髪の男は「アハハハハ」とテンション高く声をあげた。

「なにゆえ、ブードゥーなどとつながりがある?」

「ミーのホビーにツアーはツキモノ。好きコソモノノ、ナントヤラー。どこの場所でも、ヒトとふれあい、古きをシりて、新しきをつくり出シマース」

「あのようなもの、ふつうの者がもっておるはずがない。おぬしは何者じゃ?」

「ミーはミー以外の何者でもアリマセーン。アナタがアナタであるヨーにネ」

「禅問答などするつもりはないわ」

「クエスチョンでなくアンサー。それはトゥルース」


「金剛さん!」


 シビレを切らしたみすずが無理矢理引っぱっていく。


「バイしたパワーストーン。オダイジニー」


 笑顔で手をふられ、こちらも手を振り返す。姿が見えなくなるまで、金剛からは探るような目が向けられていた。

「さて、ミーの役目も終わりネ」

 彼らが全員建物のなかへ消えたことを確認し、現れたときとは逆に、誰にも気づかれないよう夜の闇に紛れる。

 張りついた笑みは崩れない。

「サキヨミの巫女――ミになるならせめて、ハナつけてクダサーイ」

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