6 「願えば叶う! 奇跡のパワーストーン!『わたしはこれで、会社をやめました(48歳男性)』」
「カメラ用意してー。ライトー。セッティング遅いぞなにやってんの!」
プロデューサーの指示に、ADたちがせっせと機材を配置していく。
「うわぁ、まじゾクゾクするわー」
「ほんま……なんか出そうやなココ」
『てんつくてん』のMC二人は、ホロボロに朽ち果てた建物を見上げて言葉をなくす。
「ドウデスー? いかがでっしゃろ? なかなかのモンだとおもいますきにー」
「そのしゃべり方、なんとかならへんの?」
「ホワッツ?」
「もーえーわ」
「ミー、クラシカルなハウスのツアーがマイホビー。トレジャーハントでザックザク! コレも、タマタマミツケタトッテオキ!」
「……なんか、ヤナ感じする」
みすずは肩を抱いた。
「オーウ、カゼデスカー? ゴッドブレスユー?」
妙な外人――ミスター・ブシドーだとか名乗る男が声をかけてきた。すでに夜の帳が訪れたいまも、サングラスをかけたままだ。
「それ、はずさないんですか?」
「? ! オー、マイグラス?」
フチを持ち、わずかにあげてニヤリと笑う。
「マイ・フェイス。キョウミありマス?」
「い、いえ。でも、まっ暗だし、それかけてると、見えないじゃないですか」
「シンパイ、ノーセンキュー! ミーのグラスはマジック・グラス。あらゆるものが、コノ目の中に」
「はぁ」
「……第一、コレ、はずすことデキマセン。ソレ、宿命ネ」
宿命、という言葉に、一瞬、東香月の言葉がよみがえった。
「オー、余計なことイイました。わーすれてクーダサイ」
(……忘れたくても)
――逃げることはかないませぬ。
「不安ネ、リトルガール。そんなアナタに、コレイカガ!?」
男はポケットをゴソゴソと探り、手のひらを差し出した。
小さな石のかけらが、5、6つくらい転がっている。どれも色がバラバラだが、不思議にキラキラと細かな光を放っていて、引きこまれるように目をうばわれた。
「パワー・ストーン。オマモリね」
「くださるんですか?」
「ノンノン。こーみえてミー、ショーバイニンね。ギブアンドテイク。ライクアマネー」
「金を取るのか?」
わきから下田教授が不服そうに割りこんだ。
「ザッツ、オーライッ! どれもこれもよい石ヨー」
「金目の石なの?」
ギボーも興味深げにのぞきこむ。
「本日セールで二割引ネー。買うのやすいヨー」
「元値しらんと安いかどうかもわからんやんけ」
ゾロゾロと、集まってきた。
「そもそも原石というのはそれほど金にならんのだ。加工して抽出したものに宝石商が装飾をつけて値をつける。それができんのなら宝の持ち腐れだな。それに、こんな小さな石からとれる量などたかが知れている」
ここぞとばかり、物理学教授が鼻高々に知識を披露する。
「なーんだ、そうなの」
「いらんわ。仕事しよ」
潮が引くように散っていった。
「オーウ、大もうけのチャンス(ゴールドラッシュ)、カゼトトモニサリヌ。プリーズヘルプミー」
「わ、わたしも、いらないかな」
「アゥチ! ゴンザレス!」
かなり打ちひしがれた様子で、頭をかかえて座りこむ。
「このオマモリ、ジプシーからバイしたヨ。彼ら、ブードゥーの使い手。マジナイシのチカラ、モノホンね」
「ふむ、ならばなおさら手にせぬ方がよいだろう」
金剛が低い声で告げた。
「なんでですか?」
「まじない師は呪いが専門。身につければ不幸がおとずれる」
「ほ、ほんと?」
「ノンノン。パワーストーンネ。身につければ人生ハッピハッピー。オカネ舞いこむ。シゴトウマクイク。コイビトふりむくヨー」
(恋人……)
ぽう。と日和の顔がうかんだ。
(ちがうちがう! あいつにわたしがスゴいってみとめさせるの!)
「――効くんですか?」
「ム。これ、なにを言い出す?」
金剛がみすずの言葉におどろく。
「もっちろーん! ミー、ウサンクサイケドウソつかなーい! イマならおやすいよー。¥3000ポッキよー」
「高……」
「二割引で¥1000よ」
「買います!」
「待たんか」
金剛が止めようとするが、みすずは適当な石をつまんでふところに入れた。
「オーケー、¥1000ザッツプリーズ!」
クマのぬいぐるみが刺繍されたがまぐちのサイフをとりだし、キレイに折りたたんだ千円札をとりだして押しつける。
「マイド! グッドラック!」
「だ、だって、その……わ、わたし、このお仕事、成功したいんです! もし、つぎもうまくいかなかったらって……だから、ちょっとでも不安をとりのぞけたらって思って!」
必死の言い訳に、金剛は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「勝手にせい」
「みなさーん! ロケ再会しまーす!」
プロデューサーの声が響いた。