5 「突撃インタビュー! 美倉みすず彼氏発言に全国の志村が泣いた!(東スポ) 」
「ミー、ニッポンライクネー。スーシー、テンプーラ、モエー、エーケービー、ドザエモン、ザッツオールオッケーヨ」
「ドザエモンて死体やんか」
「オーウ、ノーノー。スモールライトゥ、ドーコデモドーア、タァイムマスィン、青いタヌキー、グッドテイスト!」
「あ、それNGね。局ちがうから」
先頭をいく妙な外人と、和気あいあいと話すMCとプロデューサー。
そのあとを、しょんぼりとしてみすずは歩いていた。
せっかくのアピールチャンスを失ってしまった。
あのひとが現れたからよかったけれど、あのままだったらずっと黙ったままだったかもしれない。
もっとちゃんとしなきゃ。
「みすず、だいじょうぶか?」
「……うん。ごめんなさい、笹岡さん。わたし、なにも、しゃべれなくて……」
「心配しなくていい。最初だから当然だ! チャンスはまだある。美倉みすずの良さをみんなにわかってもらうんだ!」
「ありがとう、笹岡さん」
「緊張しているならば、手のひらに『人』と書いてのみこむがよい」
「金剛さんも。ありがとうございます」
「料理の腕は上達したかの?」
「うん、がんばってはいるんだけど……」
「教える師がわるいのじゃろうて」
「ちがいます! あえかさんは、すごくていねいに教えてくれます! わたしが、うまく、できないから……」
「春日には食べさせたかの?」
「……おいしくないって」
「ふむ」
「見えます」
「ひっ!?」
耳元でささやかれたみすずは、おどろいて金剛にぶつかった。
さすがに巨漢はビクともしない。
「それは、あなたの彼氏ですね」
「ちがいます!!」
大声で否定する。
「ただのおさなじみです!」
「フラグか……」
はなれた場所で、物理学博士がこっそりつぶやく。
「なんやの? 大声出して?」
「な、なんでもないです!」
わたわたと手をふりふり首をふる。
首をひねって、谷川は先頭グループへと戻っていった。
「へんなこと言わないでください!」
「若さ。ソレハ罪」
「そ、それより、いったいどこなんでしょうか。もっと怖いところって。わたし、ほんとは、こういうのって苦手で」
話題をそらそうと口にする。
「安心なさい。子羊よ。このわたしに霊たちがおそってくることはないわ」
「ほ、ほんとですか!?」
「ええ。わたしにはね」
ふふふふふふふ、と怪しげな笑みを浮かべる。
「霊などこの世にいるわけないだろ。ハッハッハ、なにを言っているのかね!」
下田教授が傲然と否定した。
「物理学で肯定されてないものなど信じられるか!」
「霊はいるのよ。ほら、アナタの後ろにも」
「え! どこ? どこよ?」
不安そうな顔に変わって、ピタリと金剛に身をよせる物理学博士。
「シロウトには見えないのよ」
ふふふふふふふ、とニヤニヤ笑う。
「金剛さん、ほんとにいるの?」
「わしには見えんな」
ほっ、とした。
「金剛さんがいうなら、きっといないよね」
「ふむ」
金剛はうなづいた。
チラと視線をとばす。
霊は、どこにでもいる。自爆霊でもないかぎり、浮遊霊と呼ばれる存在はフワフワと成仏できずにそこら中をさまよっているのだ。
てきとうに言っても当たることはある。
カメラのレンズのようにピントを合わせればみえる。しかし、それは厳しい修行を経て身につけられるたぐいのもの。まれに、生まれつき霊の見える特殊な生い立ちの者がいるが、ほとんどは”なにかいる”ていどの霊感能力しかない。
この弓杜で生まれた子といえど、例外ではなかろう。
もし、見えていたなら――ここにこうして、平気で歩いていられるわけがない。
「まだつかへんのん?」
不機嫌にたずねる谷川。けっこうな短気らしい。
「もう10分以上歩いたやん。なーもみえてこぉへんで?」
「てか、ここどこだ?」
シン、とした深い森の中。たった10分歩いた程度で、こんな森の奥にいる。
「アンタ、やっぱりオレらをだましてッ!?」
「アーハッハッハ!」
ひたいに手を当て大げさに笑う。
「ノンノン。ミーほどのショージキ者この世にイナイ。たしかにお連れシマース」
「戻ったほうえんちゃうか?」
「うーん」
プロデューサーの菅原が腕を組んで悩む。
「ノープロブレム。マスター、オールオッケーオアナッシングよ」
「あとどのくらい距離あるの?」
「オーケー。プリーズ、ルックアップ」
指さした方向には、闇にしずみゆく先に、かすかに朽ち果てた建物が見えた。