15 チャリをこいで三千里!
「ひぃ、ひぃ……ふーっ、ふーっ……ひぃ、ひぃ……はーっ、はーっ」
必死に自転車をこぐ。
鳴神坂の傾斜はおよそ15度だが、自転車で感じる角度はそれの倍、いや、体感角度45度の絶壁。
おもい荷物をのせていればなおさら急勾配に息が切れる。
「早くなさい。暑いじゃないですの!」
そんなこと言ったって。
立ちこぎして汗だくになりながら連れてきたというのになんていい草だ!
口に出せないので、心の中でつぶやく。
「つ、着きました……っす」
ブレーキをかけ、天上へと長くのびる階段のふもとで息をととのえる。
「そう、よくやりましたわ」
「重かったっす」
「なにか言いまして?」
「い、いや! ボク、最近太ったかナァ、ナンテあはははは」
このアマコロス、心の中で誓うのだった。
花音は「フンッ」と鼻で嘲ると、かろやかに自転車の荷台から飛びおりた。
「オシリが痛くて最低なのり心地でしたわ! エコノミー症候群になりましたらどうしてくれますの!?」
なればいいのに。
「次からはクッションの一つでもつけておきなさい」
「ははっ」
ケッ! もう乗るこたないだろうけどな!
「さて。こちらが”舞姫”さまのいらっしゃるお屋敷なのですわね」
「イエス、ボス」
「ずいぶん長い階段ですこと。これではあなたを使って上に行くことはできませんわね」
「いやっt……っさー、ボス」
当然だコノヤロー! どこまで楽しようってんだコノヤロー!
香月ちゃんのツメのアカでも煎じて飲んでろコノヤロー!
「……反抗的な目をしてますわね」
「ヤダナァ、ボクモトカラコンナメダヨ」
目をそらせてうたがいを回避する。
あぶねー。あの凶器を持ってるかぎり、逆らうコトなぞ夢のまた夢。
ここは師匠にたよるしかない!
「あれ?」
見なれない軽トラックが、自分とおなじように路駐してある。
お参りの人だろうか? でも、ここにくる人って、たいがい健康目的のジジババばかりだから、歩いてくることのほうがおおいんだけどなぁ。
「なにしていますの? いきますわよ」
「あーあ、もうわかったよったくオニババが」
はいはい、すぐに。
…………。
「しまった」
「だれがオニババですって?」
「考えゴトしていたせいで、ヨイショと本心、逆になった!」
「あァら、ふふふふふふふ、正直でけっこうなこと」
「いえ、すんません! ウソです! ワタクシめは犬です! 芦品花音さまの忠実なるしもべ一号くんですとも」
なぎなたの柄が後頭部にぶち当たる。
「あなたには高度な教育が必要ですわね」
コンチクショー!!
今度はちゃんと心のなかで思った。




