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13 壮絶! ケンカバトル!

 二時間。

 何度相手に拳をぶちこんだだろう。何度地にはいつくばって、起きあがることをくりかえしただろう。

 終わることのないなぐりあい。

 一対一の(タイマン)勝負。


「はぁ……はぁ……クッ」


 れのひかない痛みに顔をゆがめ、大沢木は相手をにらんだ。

 何度もいいのをブチこんだはずなのに、猿壱のからだには自分ほどの変化がない。

 息すらみだれていない。


「どうしたのイチ。はやくやろうよ」

 余裕の笑みすらムカつく。

「たのしいヨネェ! ケンカって! これが生きてるっ、てカンジだよね! イチのパンチはやっぱり効くよ」


「へっ。だろうがよ」

 てめぇのパンチも効くけどよ。

――悪かねぇ。

 意地の張り合い。

 この高揚こうようした気分ってのが、たまらねえッ!


「ねぇ、イチ。やっぱりこっちにきてよ。たのしもうよ。ボクといっしょに」

「まだ勝負はついちゃねえだろ」


 ゆるく拳をひらいて半身に構える。

 我流のスタイル。ケンカを重ねていつの間にか身につけた、自分なりのケンカ殺法。

 息をととのえる。

 まわりには、猿壱が『チームメイト』だとかほざく、不気味な奴らが思い思いに散らばっている。座っていたり、外を向いていたり、ふるまいはさまざまだが、そこにいる存在が希薄だった。

 やつらは俺たちのタイマンには興味がない。

 好都合だが、気味が悪いことも確かだ。

 だが――気にしてられない。


 踏みこむ。

 真正面からと見せかけ、踏みだした足を軸に身をひねる。

 大ぶりの裏拳。

 は、空振り。


――だろうよッ!!


 上半身への攻撃はフェイント。

 振りまわした腕のいきおいを利用し、かがんだトコロに蹴りをあわせる。


 めきッ

 

――ジャストミート!

 猿壱の頭部にクリーンヒット。首がおおきくのびた。

「もらいッ!」

 両手を組んで、真上から背中めがけてふりおろす。

 地べた直行コース!


「キキキ」

 耳障りな笑い声が聞こえたと思うと、踏みしめていた地面が消失した。

 そう思うくらいのあざやかな足払い――

(やられた!)

 どんっ、と身長分の高さから横倒しにたおれ、したたかにシビレる。


「――ッつぅ」


 くるしげにゆがんだ視界に、泥まみれのスニーカーが猛スピードで飛んできた。

「トビなァッ!!」

 顔面にめりこみ、サッカーボールのように蹴りあげられる。

 のけぞった世界がホワイトアウトする。

――やべ。

 意識をつなぎ止めるため、ギリリ。と血の味をかみしめた。たおれようとする体にあらがい、残るちからでバネじかけのように上半身をふりもどし、ひたいをつきだす。


 ゴィン!


 固いモノ同士ぶつかりあう音が脳天をゆらした。

「――っっっハァッ!!」

 めていた息を吐きだし、もう一度突きおろす。

 同じようににぶい感触。

 けたひたいから、ダラリと血がたれてきた。

 鉄サビの味を、ツバと一緒に床に吐きとばす。


「終わりにしようぜ、キー坊」

 あおむけに倒れた友を見下ろす。

「てめぇの負けだ。とっととくだらねえチームなんぞ解散しろ」

 猿壱はピクリともしなかった。

 胸が上下すらしていない。


――まさか!


「キキキ」


 笑った。

「なんだ、生きてやがったのか」

 悪態をついたところで安心する。


「ボクはさぁ、ボクがどうしてココにいるのか、よくわかっていないんだ。気づいたらあいつがいて、自由とひきかえに取り引きしたんだ」

 猿壱はムクリと起きあがると、()()()の悪い首を腕で固定して大沢木に向けて笑みを浮かべた。

 悲しいのか、うれしいのか、それともただの口を曲げただけなのか、よくわからない笑み。


「死ねないんだ。このカラダ。だってもう、()()()()()()()()()


 死んじゃっている。

「ハッ。ゾンビだってか」

「なんだ。わかってるじゃん」


 凶悪なヘッドバットの連撃だというのに、猿壱のひたいには、血も出ていなければ、はれてもいない。


 打ち身、打撲だぼくとは、皮下組織ひかそしきのダメージによる多く内出血をともなう細胞の損壊そんかいをいう。裂傷れっしょうとは、ヒフなど表面組織がけて断裂だんれつした毛細血管などから流血などをともなう損傷のことをいう。

 つまり、生きている人間なら内にしろ、外にしろ、キズとは出血をともなうものだ。


「…………」

 死んだあと、心臓はポンプの役割をとめ、血を循環じゅんかんさせるはたらきをうしなう。流れの止まった血は凝固し、切ろうが、打とうが、液体でないものはどこにも流れない。

 いまの猿壱のように。


「だからさぁ、ムテキなんだ。いくらイチに殴られようが、蹴られようが、死ぬ心配はないよ。だってゾンビなんだもん」

「それじゃ、アタマをぶち抜きゃシマイか」

「ムリだね。イチはボクには勝てないモン」

「んなモンやってみなきゃわかんねえだろ」


 ~~♪ ~~♪


 突然あらぬほうを向き、猿壱が舌打ちした。

「くそっ。帰ってきた」

「ああ?」

 不審げに見やる大沢木。


「――まぁいいや。つづけようよ、イチ」


 ♪かみさまなんか大キライ♪

  ♪どこかのだれかをたすけても♪

 ♪あたしはたすけてくれないの♪

  ♪きっとあたしがきらいなの♪

   ♪ずっとあたしにいじわるしてるの♪


「たっだいまぁ」


 とりまきの男たちにかこまれ、制服姿の少女が入ってきた。

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