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12 つよいものの味方です!

 ウサギとカメがキンキラキンにデコレーションされた爪が自分に向けられている。


「なんでこんなトコロにいるの? 授業中でしょ? あ。そっか。抜け出してきたんだぁ。やるぅ」


 キャハハ! と笑う。


 自分の知っている野墨灯里のずみあかりではなかった。これみよがしにはだけた胸元、短すぎるスカート。かわいらしさのボリュームアップされたメイク。それらはいちじるしく校則に違反した服装。

 バカみたいにまじめで、おどおどしていて、いじめるのにちょうどよい、クラス一の地味な女だったはずなのに――


「あなた、ほんとうに、野墨さんなの?」

「そうだよ。ちょっぴりイメチェン。びっくりした?」

 花音の反応がおもしろいようでクスクスと笑う。

「オンナノコの時間って短いの。おしゃれできるときにしなくっちゃ」


「なにこの子? 同じガッコの子?」

 見知らぬ男がひとり、なれなれしくアカリの肩に腕を回して話しかける。


「うん。あたしをいじめてた子」

「まじで? うっわサイテー」

 別の一人がさげすんだ目を向ける。


「な、なんですの?」

 なぎなたで防御の姿勢を見せる花音。


「なんだよそのカッコ。コスプレ?」


「イタい子ちゃんじゃん。でもかわいーねー。お近づきになりたいなー」


 アカリの周りには、さまざまな格好をした男たちが取り巻いていた。

 その中心から、まるで見下みくだしているような目が花音をみる。

「ダメだよ♪ 花音ちゃんがこわがってるよん」

「アカリの知り合いならルカ女ってことだろ? 食っててそんはねーじゃん」

「かわいいカオして結構経験豊富だったりして」

「オレたち食われちゃうかも♪」

「なにを言ってますの? 意味をわかりかねますわ」

 混乱しているようで、花音はアカリの周りを囲む男たちにとまどった顔を向けた。

「アカリをいじめてたワルい子にはオシオキしないとね」

 へらへらと笑みを浮かべて男たちが近づいてくる。


――イヤな笑い。


「近づくな!」

 切っ先を向けて牽制けんせいする。

「この三国兼定、本物でしてよっ!」

「だってさ。どうする?」

「こわーい。ハハッ」

 男たちは軽口をたたく程度で、いっこうにおそれてはいない。

 なんてオツムの弱い人たち!

 覚悟を決めて対峙たいじしたあの方と雲泥うんでいの差ですわっ!


「しもべ一号! なにをしてますの!? わたしを守りなさい!」

「ささ、おにいさまがた。やるなら今ですよ? ボクもお手伝いします」

 敵にいた。

 握りしめた柄に殺意がこもる。


「カノンちゃん。そんなこわいカオしてると、オトコノコにモテないよ?」

「あなたにれ馴れしくされる覚えはありませんわ! ノネズミさん!」

「ノネズミだって。あたしより今はあなたのほうがお似合いじゃない? ぷっ、なにそのヘンなカッコ」

「無礼な!」

 なぎなたを突きだす。

「うわっ!」と叫んでとびのく男たち。まっすぐにアカリに向かう。


「きゃーこわーい」

 と笑って、日和の服をつかむ。

「おねがいっ」

「へっ――むほゥッ!?」

 なぎなたの切っ先がほほをかすめた。


「ちっ」

 花音の舌打ち。


「うまくよけましたわね」

「こわーい。あたしを守って。しもべ一号さん♪」

「あはっあはははははっヒックあはははははっヒクッあはははは」

 笑うしかない。

「そんな野暮ったいカッコウしているから、オトコノコにモテないのわからない? ねっ、みんなッ」

 とりまきの男どもがみな一様にうなずく。


「アカリほどかわいい子なんてこの世にいないよ」

「サイッコーにかわいいもんな」

「こんなガキなんかイモだぜ」


「なんて不埒なッ!」

 男たちにほめちぎられるアカリに花音は憤慨ふんがいした。

「わが校は不純異性交遊厳禁! 校則其の八の一二項にその旨明記されておりますのよ!」

「アナタが知らないだけで、みんなやってるよ。オトモダチの真壁さんだって、アナタにナイショで彼氏つくって毎日いやらしいことしてたんだよ」

「なっ――うそおっしゃい!」

「ほんとなにも知らないのね。友達にまでだまされてたなんて。かわいそうなカノンちゃん」

「黙りなさい! それ以上言うと――」


 男たちがアカリを隠すように壁を作る。

 彼らの異様な迫力に、息をのんでなぎなたをにぎりなおす。

「じゃ、またね。カノンちゃん。きっと近いウチ、会えるとおもうから」

「バイチャ♪」とからかいの言葉を口にし、とりまきとともに去っていった。

 日和がはじきだされる。

 花音はくやしげに、己を小馬鹿にした背中をにらみつづけた。

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