9 勃発! 犬猿の仲!
「キー坊! いるか!」
工場跡の広い廃墟に、声が響きわたる。
大沢木は返答をまたず、ズカズカと入りこんだ。
許可などいらない。ここは、俺たちのアジトなのだから。
「くると思ってたよ、イチ」
声は、最奥から聞こえてきた。
「答えなんか最初から決まってる。当然イエス、だよね」
猿壱が姿を現す。
大沢木は歩くスピードをゆるめずまっすぐに向かい、正面に立った。
「ノー、だ」
「それ、ジョーク? つまらないよ」
「オレが冗談嫌ェなのは、てめえも知ってるだろうがよ」
ポケットから手をだし、にぎりしめた拳をつきだす。
「意見がちがったときは、俺たちのルールだ」
キキキ、と猿壱が笑い声をあげた。
「言うことを聞かせたけりゃ、相手をねじふせろ。だっけ」
「ああ。俺たちのルールだろ」
「そうだね」
くらがりから這いでるように進みでると、大沢木と同じように拳をつきだす。
「マイッタ、って言ったらほうが負け」
「気絶してもな」
「武器はイイかな?」
「好きにしろ」
猿壱はうれしそうに笑って、背中に手をつっこんで長いエモノを取りだした。
ガキン、とコンクリートの床に打ちつけるなり、闇が甲高くふるえた。
「どう? イチ。これ、当たったら痛いよ?」
「どこからんなモンもって来やがった」
「すごいだろ? このオモチャ」
――ブンッ!!
なぎ払っただけで、木刀よりもはるかに重い質量が空気を引き裂く音がする。
「イチだけだね。こいつのレアさ、わかってくれるの」
「あぶねえもん拾いやがって」
「なぁんちゃってェ♪」
といって、猿壱は刀を放り投げた。
壁にぶつかり、耳ざわりな反響音がこだまする。
「キキキ、使わないよ。テッペンコンビのタイマンは、いつだって拳で勝負。五分と五分でやり合わないとヒキョーじゃない」
「へっ。覚えてんじゃねえか」
「それじゃ、始めよっかァ」
猿壱の表情が一変する。
釣られて大沢木も、”狂犬”の笑みを浮かべた。