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2 東香月、もうひとつの顔

 校門前に停めた車からおりると、生徒たちが校舎を見上げてさわいでいた。


「うわ。あんなとこに誰かいる」

「そんなわけないでしょ。人形かなにかじゃない?」

「飛んできたのかしら? ぶら下がってるみたい」

「でもあれ、うちの制服だよ?」

「”水宵祭”の小道具かな」

「どちらにしても片づけないと。かぐや様にお目汚めよごしになるわ」


「なにを騒いでいるの」


 早朝の朝。あつまっているのは生徒会役員の子たちだった。

 香月の姿を見るなり、一列に並んできれいにおじぎする。


「「おはようございます。かぐや様」」


 ルカ女生徒会の仕事は他の学校のそれよりも多い。そのため、部活動の朝練よりもはやく出席して業務をこなす。

 彼女たちは”選ばれた”メンバーであり、ルカ女の”かぐや”姫の側近をゆるされたもの。東香月は今年で三期目の会長をつとめ、かぐや生徒会と誇称こしょうされる生徒会選挙は毎年のように熱戦がくり広げられた。

 それだけに選抜せんばつされたメンバーには、優秀な人材がそろう。


「なんでもございません」

「なんでもないことはないでしょう」

 香月はそれまで彼女たちが見ていた屋上を見上げた。


――いんの気。

 香月には彼女たちが見えないものがえる。

 突然におとずれた悲劇に対する無念と憎悪。後悔となげき。それらがドロドロとけあってうずを巻き、この世をのろう鬼となりかけている。


「警察に連絡を」

 香月はみじかく告げた。

 キョトンとする生徒会役員たち。

「それから各クラスの学級委員長に本日を休校とするむねの連絡をまわすよう手配なさい。あなたたちも引き上げて」


「どうされたんです?」

「わたしたち、まちがったことをしたのでしょうか?」

 不安な顔でたずねてくる彼女たちを安心させるためにほほえむ。

「なにも。あなたたちはよくやってくれています」


 香月が校内で尊敬をあつめている理由には、その美貌びぼう以外にあるうわさがあるからだ。

 彼女には、不思議なチカラがあると。

 それは真実である。だが、ほとんどの生徒は半信半疑はんしんはんぎである。真実を知るものはごく一部の生徒と――生徒会に所属するものたち。彼女らはみな、その不思議なチカラの体験者だ。


 そう。

 彼女たちはふつうの高校生。巻きこむべきではない。


「わたくしも先生がたにご連絡したのち、帰宅します」

「そのようなこと! わたしたちが!」

「これは生徒会長であるわたくしの役目。あなたたちも自己の役目をつとめるよう。よいですね」

 そう言い残し、地に触れそうな髪をふわりと舞わせ、陰の気がこもる校舎へと向かった。


 鬼となるまでに、処置しなければならない。

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