表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/77

2 再結成 ゛テッペンコンビ゛!

 志村と御堂は、あれから一言もしゃべらなかった。

 目をあわせようともしない。

 結果として漁夫ぎょふをえた日和は、はじめて香月の弁当を完食した。1時間目から計算してペース配分を維持いじした結果の勝利だった。


 ふくれた腹をおさえながら、ゆるいペースで自転車をこぐ。

 あえかの道場へとおもむく途中であった。

 そういえば、自転車乗るのも二日ぶりだ。


――あいつら、なんだっていきなりケンカはじめたんだ?


 今朝からずっと考えている。

 思い当たるフシはない。

 ともに”G作戦”を決行した仲である。

 まさか、未完で終わったそのことがあとでこじれたんだろうか?

 それにしては、言動げんどうがおかしい。


『あの子』

『彼女』


 あきらかにひとりの、たぶん女の子を目あてにあらそっている。

 二人でひとりの女の子を取り合っている?

 思いつくのは、逃走中にしたしげに話しかけてきたあの子。

 ルカ女子っぽくない服装で、おおきな胸だった。

 あの胸にやられたのか。


 思い出してもあれはデカかった。

 何カップくらいあるんだろう。

 ちなみに師匠はCカップだ。


 あれだけおおきいとなると、この眼力をもってしても計測不能な領域だ。

 さわって確かめてみるしか方法がない。


 もう一度ルカ女に潜入するか?

 それは決死ではなく、必死の行為。

 次見つかると、ほんとに殺されるかもしれない。

 社会的な意味で。


 悪寒が走った。


「ぶあっくしょい!」

 まず風邪を直さないと。


 商店街の『自転車通行禁止』の看板を無視して進んだところで、カラオケ店から、見覚えのある学生が出てきた。


――いっちゃん?


 もう一人出てくる。

 大沢木に似た服装で、背丈は日和よりも小さい。ニコニコと子供のような笑顔で大沢木と笑いあっている。

 誰かとつるんでるなんてめずらしい。


「いっちゃん!」

 チャリをこいで近くまでいくと、ブレーキをかけて止まる。


「なにしてんの?」

「よぉ、ひーちゃん。もうそんな時間かよ?」

 大沢木は上機嫌だった。


「先生かなり怒ってたぜ? あのあといきなり小テストはじめるし、しまいにオレに鬼の宿題をすし」

「まじめに授業なんぞ受けてるからァ、ンな目にあうんだよっ」

 学ランを肩にさげ、けたたましく笑う。


 テンション高ッ!


 肩に腕をまわされ、引き寄せられる。

「こいつァオレのダチのひーちゃん。ガキの頃のなじみさ」


 うっ……!


「いっちゃん、酒、のんでんの?」

「マァな」

 アルコールの匂いを吐き出しながらニヤつく。


「イチのダチかー。ならボクのダチ!」

 対して少年の顔色は赤いというより、青いといった方がいい。そのくせ、大沢木と似たようなテンションで、目の前に手をひらく。

「ヘイ!」


「…………?」

 日和は大沢木に目をむけた。


「ヘイ! っていったら手を叩かないとアウトっ」

 勝手に手をもちあげて、自分の手に打ちつける。

「あいてっ!」

 シビれるほどの衝撃。


「ボク、戸隠猿壱とがくしきいち。よろしくー」

「チビだろ? キイチのキは、サルって書くんだ。チンパンジーみたいにウキキ、ってな」

「それじゃ、イチはきゃんきゃんうるさい子イヌだねぇ。首輪もちゃぁんとついてるし」

 といって、首回りをぐるりとなぞる。


「こいつか?」

 つられて大沢木も手をあてた。


 かたい金属質の冷たい感触。

 ふとすれば忘れている。こんないかつい代物だというのにだ。

 金剛のかけた犬神の『封印』。

 いまではからだの一部のようになじんでいる。


「――ただの飾りだ」

 キン。

 指ではじくとんだ音がした。


磯垣中ガキチュウの”テッペンコンビ”っていえば、この辺のワルじゃちょっとした有名人だったんだけどねー」

「う~ん、知らない」

「ひーちゃんはまじめだったんだろ。俺の”一”とキイチの”壱”で”一壱テッペン”コンビ。中坊のころは、このヘンのガッコをシメて回ったんだけどな。ひーちゃんとこにも回ったはずだぜ?」

「へー」


 日和のいた中学にも不良はいたが、あまり彼らとかかわったことはない。


「まぁ、キジのいないモモタローのツレ、なんていうヤツらもいたな」

「”狂犬”と”暴れザル”。聞こえたらボッコボコにしてやったけど」

 おさない顔のわりに、発言は過激だった。

「中坊だからってバカにして逆にシメられてんの。笑えるよねー、キキキッ」

 笑い方も独特だ。


「昔のボクらはぶいぶいいわせてたからねぇ。たのしかったねえ」

「……ああ」

「おぼえてるよね、イチ」


 たばこを取りだした大沢木の、その手が止まる。

「……ああ、キー坊」

「よかった。しばらく会ってないウチに忘れたのかと思っちゃった」

 苦い味をくわえて空を見上げる。


「約束、な」


「そうさ! ボクらはこんなところで終わるコンビじゃない」

 猿壱はうれしそうにはしゃいだ。

「ボクらは二人でサイキョーなんだ。ねぇ、イチ」

 ケムリのゆくえを眺めたまま、「…ああ」とつぶやく。


「いっちゃんが”狂犬”ってのはわかるけど、猿壱さんが”暴れザル”って――」


「イマ”サル”っつった?」


 猿壱が豹変ひょうへんする。

 瞳孔がタテに細くなり、猛禽もうきんじみて獲物をにらむ。無邪気だった笑みに悪意がまじり、見るものを凍らせるようなすごみがはりついた。

 背中に回した手が引きぬかれると、ズルリ、と長い木刀があらわれた。陽向の下、ベットリ染みついた血のあとがまざまざと目に映る。

 数秒後の自分の姿が見えた。


「すんませんでしたぁぁぁーーー!!」

 一も二もなくまずあやまる。


「タマナシかョオマエもっぺん言ってみろボケ。首チョンパでブシャってされたいんダロ? ネェ?」


「これが”暴れザル”の正体だ。俺よりキレやすいタチなんだよ」

 苦笑し、平然とたばこをくゆらす大沢木。

 ヘルプミー、と日和は全身をつかってあらわした。


「ハァ? イチまで言っちゃうソレ? イマ? 覚悟できてるよねェ?」


「そういや、タイマンは十四対十五で俺の勝ちこし中だっけか」

 うれしそうにファイティングポーズをとる。


「そうだっけ? ボク記憶力ひくいからサァ。それよりずゥゥゥと多いと思ってたヨ」

 ぐるんぐるんと木刀を振りまわし、ピタリと肩におく。


「ヤっちゃう? ココで? 死んじゃってもシラねェカラヨォ――イチぃ!」


 抜き打ちに木刀がふるわれた。

 ブンッ! と当たるとヤバそうな音は風切り音だけでおわる。


「へっ」


 たばこをかみちぎる。

 かがんで凶器の一撃をかわした大沢木は、ひくい姿勢から拳をふりあげた。


「キキキッ」

 ける猿壱。

 アッパーカットを振りぬいた大沢木の胴をねらう。


 横のカラオケボックスの看板をつかむと、大沢木は全身を引きあげた。

 隙をねらった攻撃は足の下をくぐる。


 ちぢめた足を空中から突きだす。

 余裕でかわす猿壱。


 タン、と地面に着地した大沢木は、間をおかずに横へ跳んだ。

 かすめるように木刀がとおり過ぎ、蛍光板の店名にぶつかってぜる。


――パァン!!


 うすいプラスチックが粉々に砕け、穴をあけた看板はいきおいよく壁にぶつかり四散した。


「あーあ。イチがよけるから」

 衝撃に耐えきれず、カラカラン、と地面にころがる木刀。

「ま、拾いモノだしこんなものかな」


「相変わらず派手にモノ壊しやがる」


 カラオケ屋の店員が、何事かと出てくるなり、壊れた看板に唖然あぜんとしている。


「喧嘩売ってきたイチのせいじゃん。ボク無罪だよ?」

「これだからよ」

 日和にむけ、肩をすくめてみせる。


「マッポがこねぇうちに引きあげるわ。ひーちゃんもとっとと逃げた方がいいぜ? 共犯あつかいされたかねえだろ」

「じゃねぇ♪」

 とっくに逃げ出している猿壱を追って、大沢木も駆けだした。


「いっちゃん! 今日の修練は?」

「なしだ! わりぃな」


 へっへっへ、とうれしそうに去っていく。

 キョロキョロとまわりをみて、エヘヘと愛想笑いを浮かべると、日和はペダルを踏みこみ猛スピードで現場をあとにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ