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17 友情崩壊の危機!? {〆}

「ぶえっくしゅ!!」

 朝っぱらからくしゃみである。

 昨日は美鈴を追いかけたものの、二足歩行の速さに追いつけず、体力つきて道ばたにころがった。


 夕刻の風はなまぬるかった。

 とおり過ぎていくルカ女子たちは、きっかり半径2m以上の距離をとって下校していく。


 あいさつもされた。

 けど助けてはくれない。


 女子更衣室をのぞこうとした罪はこれほどに悪いことなのだろうか。


 気づくとまっ暗だった。

 きっと悪いことなんだろう。


 巡回していたおまわりさんに発見されて一命をとりとめ、家に帰るなり布団の上にダイブして寝つくこと数時間。

 風邪をひいた。

 これほどに、オレは悪いことをしたのだろうか。


「リベンジをたくらまねばなるまい」

 一夜明け、反省したこころはダークサイドにちていた。

 ぶるぶる震えながら教室の扉をあける。


「ちぃーす。夏カゼはいらんかねー……」


 最初の一歩で立ち止まる。

 不穏ふおんな空気。

 このところ、こういった空気に敏感びんかんになっていた。

 例外なく面倒ごとに巻きこまれているからである。


「なにしてんの?」


 志村と御堂がむかい合っている。

 かなり険悪なムードだった。


「御堂、これだけ言っても引かねーか」

「おまえのせいだぜ、志村。あのとき、おまえが止めさえしなければ、こうして対峙することもなかっただろう」

 机をはさみ、二人は強烈な火花を散らす。


「つぎの日曜、デートの約束を取りつけたのはこのオレだ!」

「なにを言う。彼女が指名したのはこのオレだ!」


「どーりで今日は平和に登校できたわけだ」

 香月からもらった重箱を机の上におく。

「なんか朝っぱらから熱いね二人とも」


「「黙れ」」


 冷たい返事に寒気がはしる。


「――ぶえっくしゅ!」


「カゼ引いたの?」

 美鈴がとなりにならび、心配そうに声をかける。

「うん。それよりさ、あいつらなんでケンカしてるの?」

「わたしがわかるわけないじゃない」

「いつもみたいな軽口じゃないよ。本気モードじゃん」

「そうよね。あの二人って仲良くしてるところしか見たことないし」


「御堂、オレは日曜にそなえ、綿密めんみつな雑誌調査からはじきだしたデートシミュレートをつくってきたのだ!」

 学生鞄から大々的にA4用紙のレポートの束を取りだし、御堂に見せつけた。


 フッ、と鼻で笑う御堂。

「志村、おまえの体育会系の知能じゃこの辺をまわるのがせきの山だろ? オレはネットを駆使くしして行動範囲をとなり町のおしゃれな喫茶店にまで広げている!」

 御堂も似たようなA4レポートを取りだしてみせる。


「なんで二人とも書いてきてるの?」

「さぁ?」


「やるな御堂。だがオレは、彼女のために一万円を支払う用意がある」

「一万……おまえ、月のこづかい3千円じゃ」

「まさに身を削るおもい。美倉みすずの写真集もあきらめた」

 美鈴がとなりで居心地わるそうにもぞもぞする。

「わが人生を決める記念日。それだけの覚悟でのぞめぬなら、下がれ御堂!」

「オレならその3倍はだすけどね」

「ぐ……ッッッ」


「家庭の事情がかいまみえる一戦だな」

「志村くんかわいそう」

「御堂んちのオヤジって、銀行マンなんだよ」


「そこ! 外野うるせえぞ!」

「志村、おとなしく負けをみとめるんだ。世のなかカネですよ」

 フフフ、と笑う御堂が非常にいやらしくうつる。


「フンッ」

 その顔面に拳がめりこんだ。

 つくえを巻きこみ後ろに吹きとぶ御堂。

「男なら拳で語れ!」


「いや、ありえんだろ……ってなにやってんだ!」

 さらに殴りかかろうとする志村の前に飛びでる日和。

 問答無用に殴られる。

「ごふ」

「ぐふっ! 日和、助けるつもりなら巻きこむなよ!!」

「ごめん御堂。いてー、志村、まじかよ!」


「ちょっと、やめなさいよ! 暴力なんて!」

 美鈴がたおれた日和をかばうようにってはいる。

「委員長、どけよ」

「日和はカゼひいてるんだよ? ケンカなら外でやってよ!」

 柔道部の志村はきたえているだけあり、殴られた威力もかなりのものだ。


「志村、おまえとちくるってんぞ! なに熱くなってんだよ!」

「うるせぇ! あの子はオレにホレてンだ!」

「なに言ってんだわけわかんねーぞ!」

「ふざけんな! 彼女はオレのだ!」

 日和を押しのけ、御堂が全身からタックルして押し倒す。


「なにやってんだよおまえら! 先生きたらどなられんぞ!」

「かまうか!」

「上等だ!」

「やめろって! ぶあっくしゅっ」

 また殴られる。

「体調が万全なら、オレはやれた……」

 くずれる日和。


「ちょっと日和! 寝ないでよ!」

「いや、この場合は気絶したっておもうのが普通じゃないかな、委員長さん」

 むりやり起こされた日和は、ケンカの仲裁ちゅうさい役をあきらめかけていた。


「だれかとめてよ!」

 教室を舞台にあばれまわる二人を遠巻きにながめるクラスメイトたち。

「日和とめてよ!」

「やれるだけのことはやった」

「まだやってないでしょ! ちゃんととめてよ!」

「だって二人とも本気なんだよぅ。本気で人の顔なぐるんだよぅ」

「殴られるのなんて道場で慣れてるでしょ!」

「師匠の拳には愛があるんだ」

「もういい! わたしがやるから!」


 すっくと立ち上がった美鈴は、男子二人が争うさまをみるなりとたんに不安な表情をうかべた。

 たすけを求めようとして、ぐっと言葉をのみこみ、かぶりをふって二人にちかづく。

「志村くん! 御堂くん! もうやめてよ! みんなの迷惑だよ!」


「ああッ!?」


 血走った目ににらまれ、語気をなくした。

「うっとおしいんだよ! 消えろよ委員長!」

 肩をふるわせ、美鈴はうつむく。

「だって、だって――」


「ジャマすんならおまえから先に」

 目の色をかえた志村の拳が背後からつかまれる。


「――だれに手ェあげるって?」


 その一言のあと、カミソリのようなするどいフックが顔面を殴打おうだし、志村は御堂を巻きこんでいきおいよく転がった。


「お、大沢木おおさわきくん!」


 にぎった拳をほどき、クラス一の不良がニヤリと笑う。

「朝っぱらからケンカなんて、いいタイミングで来たもんだ」

「いっちゃん! さすがヒーローぶあっくしゅ!」

「病人はすっこんでろ」


 大沢木がでてきたことで、クラスに安堵の息がもれた。

 彼にさからおうなんていう人間は、このクラスに存在しない。

 ようやくまるく収まる、とだれもが思った。


「大沢木ぃぃぃ、てめーも邪魔すんのか!」

 志村がほほをふくらませてむくりと起きあがった。

 ぴくり、と眉をひそめる大沢木。

「……いい度胸してんな。ひーちゃんのダチだからって手加減する気はねーぜ?」

 手首をひねってかるく慣らしつつ、眼光するどくにらみつけた。


 たじろぐ志村と御堂。


 モノホンのケンカ屋とまじめな高校生では、場数も意気ごみも比較にならない。

「気合い入ってりゃァ、素人だろうとちったぁたのしめるかもなァ。オラ、こいよ」

 ファイティングポーズをとり、挑発ちょうはつする。


Shut up(シャラップ)!」


 高い声が教室にひびきわたる。

「なにをしているの!? チャイムはなっているのよ」

 小笠原がきびしい表情でツカツカと入ってくる。

「これじゃHR(ホームルーム)もはじめられないじゃない。だれがやったの!」

 バツのわるそうな顔で、顔中はれとキズだらけの二人が下を向く。


「大沢木君!」


「あァ?」

 ファイティングポーズをとき、不機嫌な声をあげる。

「あなたね!」

「なにが」

「態度がわるいにもほどがあるわよ! 昨日もそうだけれど、あなたには学び舎(まなびや)に対する礼節とうやまいが足りないわ」

 昨日は持っていなかった、細ながい教鞭きょうべんがビュゥ、とふるわれる。

 パシンッ! と黒板が痛そうな悲鳴をあげた。


「マジで女王様じゃん」

 ボソリと日和はつぶやく。


「そこに正座なさい。いますぐその傲慢ごうまんな態度をあらためてあげるわ!」

「せ、先生! それはちがいます! 大沢木くんはわたしを――」

「Cut it out、ミス・南雲。こういう手合いは体に教えこまないとダメなの! ペットにしつけるようにね」


「……これだからセンコーってヤツぁよ」

 苦々(にがにが)しい顔をしたあと、近くにほうり投げた鞄を拾う。

「早退すらぁ」

「Sit Down! まだ出席もとってないわよ! もどりなさい!」

 無視してとおり過ぎようとする大沢木。

 女教師の目がけわしくゆがむ。


「――Stay!」

 ムチがしなって空を切り裂く。


 パシッ、と予想以上にかるい音。


「いまの世の中よ、体罰ってのはマズイだろ」

 ビィィン、とふるえる鞭の先をにぎりこみ、するどい犬歯をみせた不良は剣呑けんのんに笑った。

「また――!」

 くやしそうに舌打ちする女教師。


「アバヨクソババア」


 ムチをはなすと、ふたたび窓に手をかけて外に飛びだす。

 もうだれも、とび降りた彼の姿を追いかけようとはしなかった。

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