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15 逃亡犯ホイホイ!

「なんで逃げないんだよ! 千載一遇せんざいいちぐうのチャンスだったのに!」

 追いついた日和は、志村と御堂の背中に不平をぶつけた。


「逃げる? バカなことを」

 鼻でわらうと、壁にぴたりと身をよせ、忍者のまねごとをして校舎のなかへ忍びこむ。

 クツはちゃんと脱いだ。


「御堂、準備はいいか?」

「オーライ」

 カメラをかかげてみせる。


「よし、作戦計画”G”を決行する」

「どういうこと?」

「作戦名に意味はない。しいていうなら”G”はGirlのG。あとはわかるな?」


「そういうことか」

 日和は理解したらしい。

「場所はわかるのか?」


「わかるわけないだろ」

「日和、更衣室の場所聞くのはおまえの役目だろ」

「いつ決まったんだよ! ……いや、すまん。うかつだった。女子校という聖地に足をふみいれるという現実に少々まいあがっていたらしい」


「ふっ、オレの右腕とよばれる男がその程度とは」

「その称号はつつしんで辞退しよう」


 廊下にはルカ女の女生徒の姿がある。部活のユニフォームを着ていたり、放課後のゆるい空気でおしゃべりしていたりして、お嬢様校だとはいえ、雰囲気は日和たちの高校とかわりない。


 だが今、彼女たちに姿をみせるのはまずい。なにしろ、さきほどの校内放送によって周囲は厳戒態勢だ。月代の制服を着た挙動不審な男子は見つかり次第に無礼うちか、110番通報されて親に顔むけできなくなる。


 緊張している気配がありありと感じとれる。

 イチかバチかの究極のカケ。この勝負に勝たねばオレたちに明日はない。


 死角である階段下に身をひそめる。


「しかしどうする? この広い校舎を手当たり次第にさがすのか?」

「問題ない。いま、有志からルカ女高等部の見とり図をうけとる手はずをととのえた」

「でかした御堂! おまえにこそオレの右腕の称号をやろう」

「リアルにいらんから」


 くらがりでいじけはじめた友人をさておき、御堂は自前のパソコンのキーボードを叩いて、その有志から届く提供情報を手ぐすねひいて待つ。


「キタぁ!」


 アップロードされた画像をディスプレイに広げ、3人でのぞき込む。


「これは――以外と近い」

「わざわざ『更衣室はココ!!』と画像に矢印入りで明記までしてくれるとは、なんて親切なネ友なんだ」


 156 : ミドリン : ID:Skbr76h

   >248 うpアリガトン>d(>ω<*)

 157 : 通りすがりのJK : ID:RKjK10A

   (・v・)

 』


「即席でつくったルカ女実況スレだけど、こうもタイムリーに情報通が訪れるとは、世間はおもっている以上にヒマ人おおいな」

「ミドリンて誰?」

「サァ、場所はわかった。あとはつき進むのみ!」

 人の気配がなくなったスキをつき、サササッ、と二階に移動する。


 閑散かんさんとしていた。

 廊下にはだれもいない。

「声がする」

 ある部屋から、女の子たちの声が聞こえてくる。


「来たな」

 堂々と廊下へのりだす志村。


「ああ、来た」

 カメラをぶらさげた御堂が隣にならぶ。


「とうとうオレたちはラスボスの住みかまでたどり着いたってわけだ」

「長い戦いだった。ここにたどり着くまで、幾多の苦難をこえてきた」

「まじそーだよなー、うん」

 場の空気においてかれないように日和もならぶ。


「ようやくむくわれるときがきた。いざ行かん桃源郷の最奥へ」

「われらめるときもすこやかなるときも思いは一つ」

「女体の神秘をこのマナコに!」

 威勢いせいよく小声で叫び、ソロリソロリと壁を背に部屋へとちかづく。


 更衣室にしてはおおきな部屋だった。

 ダンボにした耳が、きゃいきゃいと騒ぐ女子高生の声をとらえる。


「ど、どうしよう。オレ、どきどきしてきた」

「ここまで来たんだ! ゼッタイにこのスクープはモノにする!」

「盗撮って犯罪なんだぜ、御堂?」

「スクープのためにあえて汚名をかぶる。それはもっともえるシチュエーション」

「……御堂って、このなかで一番まともな人間だと思ってたんだけどね」


「よ、よし。まずはオレがためし役を」

「日和、志村をとめろ! ぬけがけする気だ!」

「まて志村!」

「とめるな日和! おれは今日、このためだけに生きてきたんだ!」

「おまえが行くならオレもいこう」

「友よ」

「待って! 仲間に入れて」


 3人そろって扉を囲む。


「……これは、横にひく扉であっているか?」

「うむ、押して開くタイプじゃないな」

「ああ、ノブを回して引くタイプでもないだろう」

「よし、意見の一致いっちをみたところで」


 全員が取ってに手をかけ、うなずく。

 カギはかかっていなかった。

 極力音をさせないよう、秒間0.5mmほどの速度で開けていく……


 はずが。


 ガララッ、と扉は自動ドアのようにいきおいよく左へ流れ、3人の姿を内部へさらけだした。


「「あれ?」」

 きょとんとする日和たち。


 うすく笑みをうかべる芦名花音。

 その他、大勢の女生徒たちが腕を組んで見下ろしていた。


 もちろんみんな、服を着ている。


「……すいません、部屋をまちがえました」


「合っておりましてよ」

 おきまりのポーズでなぎなたを突きたて、凄絶せいぜつな笑みをうかべる花音。

「女子更衣室ではございませんけれど」


 カクン、とひざを折り、志村が床に手をついた。

「夢は、ついえた……」

「なぜ、ここが!」

 志村の肩に手をかけ、日和はわきあがる恐怖を押さえこんだ。


「外での会話もつつぬけでしてよ? ミドリンさん」

 ハンドルネームをよばれたことで、御堂はきづいた。

「まさか、このようなあからさまなわなにひっかかるとは思いませんでしたけれど」

「なんてやつらだ! ハンドルネームをリアルでばらすのはマナー違反じゃん!」

「犯罪者にマナーがどうといわれたくありませんわ」


「逃げるぞミドリン!」

 日和はきびすを返してもときた道に足をむけた。

 さきほど一階下で談笑していた女子たちが行く手をはばんでいる。

 あれほど豊かだった表情が、いまは冷笑一色にそまっている。


「くっ……やはり予想通りの展開」


「逃げ場など金輪際こんりんざいございませんのよ」


「こうなれば!」

 日和は正面にある窓にかけよった。

 校舎の二階。

 いっちゃんは三階から飛んでも無事だった。

 一階くらい下ならオレだって!


 片足をかけると、固そうな地面がひろがっていた。

 くるりと180度回転する。


 ひざをつく。


 両手を天にかかげる、それはまさしく祈りのポーズ。


 それから、上半身を豪快ごうかいにおりまげた。


「すいませんでしたああああああああああ!!!」


 土下座どげざした。

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