14 逃亡犯潜伏中!
『全校生徒の皆様! 校内に不審者がまぎれこんでおります! みつけましたらただちに風紀委員長であるこの芦名花音までご報告くださいませ!』
「話がおおきくなってる気がするんだけど」
校舎中にひびきわたる声に、御堂がげっそりした顔でふりむいた。
「オレたちがなにしたっていうんだ!」
「健全な部活動をいとなむ女子たちに可愛いイタズラしかけただけじゃないか!」
「やっぱバ○サンのケムリがまずかったんじゃね?」
御堂がカバンをあさり、残りの缶づめを取りだした。
「てかさ、なんでバ○サン?」
「家にゴキがでたから買ってこいってうちのママンが」
『――不審者は三人! とくにわれらがなよ竹の”かぐや”さまを、あろう事か下劣なワナにはめ、あまつさえ許嫁にまで貶めた犯罪人春日日和! その仲間志村某とその他一名! 正々堂々出てきなさい! わが家宝三国兼定でお相手しますわ!』
「だれが出てくもんか」
いわれのない罪で犯罪者あつかいされ、ムッとする日和。
「日和、いまの話は本当か?」
志村に声をかけられてふりむくと、目の色を変えた友がいた。
「きさまというヤツは、えげつない罠で許嫁という地位を手にいれたのか! うらやましいぞ日和! オレにもやりかた教えろ!」
「ちがう! 知らん! あれはヤツらの作戦だ!」
「バカおまえら! 騒ぐなよ! 居場所バレるだろ!」
緑の葉をしげらせたソメイヨシノの木がおおげさにガサゴソ揺れて、しばらくして沈黙する。
「……どうやらバレてないようだ」
ほっとしたのもつかの間、
――ヒュンッ
こずえを切り裂き、ガコォン! とふとい幹に尾羽をつけた矢が突きささった。
固まる三人。
「……はずしました」
むね当てをつけた白袴の少女が弓をおろした。
後輩からわたされた二の矢を受けとり、となりにいる花音に冷静につげる。
「つぎは当てます」
「そう。ではやっておしまいなさい」
「くそぅ!!」
御堂はバ○サンの栓をぬくと、木の上から投げつけた。
「同じ手はくいませんことよ!」
芦名花音はステップをつけて踏みこむと、転がってきた缶をつま先で蹴りかえした。
白いケムリを上げながら、バ○サンはソメイヨシノの幹にあたってぼてっ、と下に転がった。
「――ゴフッ、げふぐふっ」
日和以下3名がバ○サンのケムリに巻かれる。
「今ですわ! 奴らに逃げ場はありません!」
威勢のいい声がおしよせてくる。
「おとなしくなさい! 私が天国に送ってさしあげますわ」
「……どうやらこれまでのようだ。女子高生のオシオキ、オレは甘んじてうけよう」
「志村! 目を覚ませ! おまえがおもってるよりヤツらの尋問はつらいんだぞ!」
尋問プレイの妄想に墜ちた友の、ほほを叩いて正気にさまそうと努力する。
「あきらめるのはまだ早い」
「御堂……この状況で、おまえはまだ、あきらめていないというのか?」
「あきらめたらそこで試合終了だ。オレたちにはまだ、やらなければならないことがある」
カメラを雄々しくかかげる御堂。
陽光を反射するレンズのかがやきに、志村が目覚めた。
「そうひゃ! 目的を果たふまへ、まだ死ふわへはゆはん!」
さんざんほほを張られ、痛みに涙をうかべていた。
「しかしどうやって……?」
「この御堂忠史。かつて幼少の頃は昆虫博士と呼ばれ、ムシキングの二つ名で呼ばれたこともある。この木はソメイヨシノ。この季節、青々としげった葉をむさぼり食らうモノどもに若干の心当たりがある」
デジタルカメラを首から下げると、枝をつかむ。
「うんせっ、うんせっ」
「なにしてんの?」
「揺らすんだ! そこに脱出の糸口がある!」
やることもないため、二人も懸命に揺らしはじめる。
「なにをしているのかしら」
もはや奴らは籠のなか。
――なにをしても無駄なこと。
「――捕縛いたします。皆様、相手は男。窮鼠ネコをかむとも申します。各々武器を手放さぬよう」
と言って、三国兼定を手にゆうゆうと木の根本に近づく。
「もっとはげしく! 勢いが足りない!」
「アイアイサー!」
妙なかけ声をあげて木の上に居座るおろか者どもに天誅を下すべく、なぎなたの先を頭上にむける。
ポト。
その剣先に、ふとい毛糸のようなモノが落ちてきた。
まじまじとながめる。
もぞもぞ動いていた。
ウネウネとのたくっている。
全身をおぞけが駆けぬけた。
「いぃーーーーーーーーーーーやぁーーーーーーーーー!!!!」
「「きゃーーーーーーーーーー!!!!」」
緑色や茶色の毛虫。
次から次へと降ってくる。
毛虫の雨に右往左往し、前後不覚に陥るルカ女の女子たち。
「いまだ!」
御堂の合図で幹にしがみついて地面までおりる。
「こっちだ!」
出口にむかう日和と逆方向へと駆け去る二人。
「なんで!?」
Uターンして追いかけた。