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11 責められて女子なぎなた部

 日和は尋問じんもんを受けていた。


「正直に話されたほうがよろしくてよ」


 ここは体育館横に併設へいせつされたルカ女なぎなた部の道場。

 あえかの道場とおなじように、きれいにみがかれた木製の床のうえに日和は正座させられていた。


「わが校は男子禁制。あなたのような不審者は即刻打ち首されても文句などありませんのよ?」


(どこの江戸時代?)


 頭に浮かんだ言葉は、前後左右を囲まれたこの状況ではこの世最後の言葉となるやもしれず、うかつに発言できない。


「ホントなんだよぅ。オレ、香月ちゃんに招待されたんだよぅ」

「まだそんなウソをおつきになる気?」

 真実はいつも過酷かこくだ。


「ルカ女でお祭りがあるから、その下見ってコトでやってきたんだよぅ。信じておくれよぅ」

「男の言葉など信じるにたりませぬ」


 どうしろと?


「あなたがおとなしく『私は犯罪者です。二度とこのルカ女にはちかづきません。芦名花音の奴隷となりますのでゆるしてくださいませ敬具』とおっしゃられたなら、解放することもないですわ」

「んなムチャな」

 ギラリ、となぎなたの刃がかがやく。


「反論ありまして?」


「ないです」


 日和は命がしかった。


「正直者は幸福ですわ」

 満足そうな芦名花音。

 女子校で男子に味方はいなかった。


「それと、これはどうでもよいことですけれど――」


 コツコツ。


 言うべきか言わざるべきか、なぎなたのつかが神経質そうに床を小突く。

「――あの、無礼なもの言いのご友人、今日はご一緒でなくて?」

 花音は視線をあわせずたずねてきた。


「えーと、だれのこと?」

「ほら! 先日、あなたの窮地きゅうちにあらわれた見るからに不愉快なやからですわ!」

「――いっちゃんのこと?」

「イッチャン? それがお名前ですの?」

 目を輝かせる花音に日和は身をひいた。


「オレは友達は売らん!!」

「そ――そうですわ! あのような粗忽者そこつものは私の手で冥土めいどに送ってさしあげます。そのために、おたずねしたのです……」

 威勢いせいのいい言葉と裏腹に、それまでと異なる様子でなぎなたにしがみついていじいじしはじめる。


「気持ちわる……」


「なんですって!?」


 なぎなたを振りかぶられ、まわりを囲んだ女子たちが一斉いっせいに距離をあけた。


「ひぃーーー!! すんません! ウソです!」


「ウソ!? ウソをつきましたの? ゆるせませんわ! これだから男は信用なりませんの!」

 なぎなたをプロペラのごとくブンブン振りまわし、怒りに燃えたまなざしが日和を見下ろす。

 死を予感した。


「困っているようだな! 春日日和!」


 唐突に、声が響きわたる。

「この声――ッ!?」


「キサマの最後、この場で見届けることもやぶさかでないが、義によって助太刀してやらんでもない!」


「志村! 来てくれたのか!」

 日和はどこにいるかわからない友を実名で呼んだ。


「バカ! なんでそこで名前よぶんだ! オレはこの機会にルカ女の子たちと仲良くする気満々なのに!」


「くせものです! 皆様捕りかたの準備をッ!」


 花音の対応は素早かった。

 練習していた子もふくめ、部員の女子一同が武器を手に手にあつまる。

「敵は外! 第一陣、よろしくて!?」

 テキパキと手慣れた様子で指示をとばす花音。


「志村~~~! オレはココだぁぁぁぁ!! たぁすけてぇ~~~!!」


「おゆきなさい!」


 数人の女子が練習用のなぎなたを構えて出入りぐちへ殺到さっとうする。

 すると、道場にある窓の外からなにかが投げこまれた。

 ぺたっ、と先頭の女子の顔にはりつくと、「ゲコゲコ」白い腹をふくらませて雨ごいの鳴き声をあげる。

 ひと声悲鳴をあげ、その場にひっくり返る少女。

 その顔に張りついたのが、みるもおぞましい? 両生類のたぐいだと気づくと、ほかの女子たちはわれ先にともどってきた。


「なにをしてますの!?」

「だって、だって……あんなグロテスクな生きもの」


 つづいても窓から投げこまれる。

 カエルのたぐいだと予想し、きゃーきゃー逃げまどうルカ女の女子たち。

 投げこまれたものはアルミ缶のような音をさせて床をねると、コロコロところがり、プシュゥ、と白いケムリを吐いた。

 つぎつぎ投げこまれる缶とわきだすケムリで道場内はパニックになる。


「な、なんですの!? まさか――毒ガス!?」


「フッ。おじょうさん方、心配いりません。市販のバ○サンです」


 悠々(ゆうゆう)と窓から忍びこんできた志村は、「目が! 目がぁ!」とわめいている日和をたたき起こした。

「貸しイチな」

 準備万端で水泳用のゴーグルを装着している志村は、バ○サンのケムリのただなかを日和をつれてぬけ出した。

「覚えてらっしゃい! 志村(なにがし)!」

「さらば。我が青春の野望」

 ゴーグルの奥で、大粒の涙がキラリと光った。

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