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10 異世界幻想! お嬢様の楽園!

 オレは異世界に迷いこんでしまった。


「はっ!」


 鋭い声。

 広大にひろがる芝生で、身の丈をこえる馬が全力疾走している。その背にのった騎手は乗馬服、とでもいうのか、見たことのないコスチュームに身をつつみ、馬を駆るその姿は凛々(りり)しくも美しい。


 パコン! パコン! と軽快にラリーの音をさせているのは、いくつも並ぶコートを縦横無尽に走るテニスウェアの天使たち。ラケットが風をきるたび、アンダースコートの白いかがやきに目をうばわれるのは若気の至りにいたすところで別に俺が悪いワケじゃない。


「かぐや様、失礼いたします」

 鞄をさげた女生徒たちが、わざわざ足を止めて頭を下げる。

「ごきげんよう」

 微笑みながら香月ちゃんがあいさつするなり、彼女たちは例外なく顔を赤くしたり、小さなよろこびの声をあげた。まるでタレントでも目にしたかのようだ。


 おそらく、実物のタレントを目にしたとしても、彼女たちはこれほどの反応はみせないだろう。

 尊敬とあこがれ、絶対的な信頼と羨望、そうなりたいと望みながらも、絶対にとどかない完璧な女性。女子校という場所では、それは信仰の対象ですらあるかのようだ。


 あきらかに隣のオレにむけられた敵意の視線でそれがよくわかる。

 とりあえず姿を隠そう。


「……なにをコソコソしてるの?」

 草むらのなかにスタンバイした姿をめざとく見つけ、美鈴がめがねを光らせる。

「オレはいま、光合成中だ。邪魔をしないでくれ」

「へー、そう。じゃ、お水あげたらよろこぶのかしら?」

「そうだな。ではミネラルウォーター500mlペットボトルで」


 むりやり引きずりだされた。

「バカ! なにすんだ! オレの擬態ぎたいが!」

「わたしたちは月代高校の代表としてきているの! ちゃんとしてよね! はずかしい!」


「バカヤロー! ノコノコ乗りこんできたけど、よく考えたらココ敵の本拠地じゃねーか! 近ごろの女子は刃物ふりまわすんだぞ!? またみつかって追いかけられたら、今度こそ命の保証がないんだよ!」

 美鈴の手をふりはらい、もとの場所へと駆けこむ日和。


「あんたねぇ」


「どうかされまして?」

 香月が隣にならんだ。

 腰までとどくながい髪が、日の光を浴びてキラキラとなめらかな輝きを放っている。

(綺麗……)

 ほんとうに、おとぎ話からでてきたみたいな人。


「香月ちゃん! オレ昨日、ここの女子に命をねらわれたんだ! なぎなたもったつり目の女子に心当たりない!?」

「わが校にはなぎなた部がございますけれど」

「それだ! そのなかで高飛車たかびしゃなもの言いで人の命をつけねらう趣味の人格破綻した子っていないかな?」

「わが校にはそのような生徒はおりません」

「あれぇ!? おかしいな? たしか昨日、香月ちゃんをかどわかしたとかってガッコに殴りこんできた子がいたんだよ!」


「まぁ、それは」

 香月は口もとに手をおいて、驚く様子をみせた。


「いささか突飛とっぴな行動をとる子には、心当たりがございます」

「ほんとに!?」

 日和は神か仏をみたかのように美月を見上げた。

「はい」

 香月はほほえんだ。

「いまも日和様の後ろに」


不埒者ふらちものッ!」


 植木がバッサリ刈り取られた。

 舞い散る葉のなかで、伏せた日和が蒼白な顔でフリーズしている。


「わが聖ルカ女学院に忍びこもうなど下郎の所行! おとなしく刃のツユとおなりなさい!」

 なぎなたを構えたルカ女の女生徒が、気迫をみなぎらせて背後に立っていた。


「でたッ!!」


 日和は叫んだ。

「ほらッ! 平和な日本で刃物振りまわすなんて、人格破綻している以外ありえない所行でしょ!?」

「黙りなさい下郎! わがおおとり流は実践に重きをおく古流槍術! 犯罪者の首など一刀両断にしてくれよう!」

「なにこの時代錯誤な人! フツーに殺人予告してるけどコレいいの!? ケーサツ呼んでよ手遅れにならないうちに!」


花音かのん


 香月が呼びかける。


「――”かぐや”さま」


 花音とよばれたなぎなた少女は、香月の姿をみつけて狼狽ろうばいした。

「これはお見苦しいところを……即刻そっこくこの下郎をみえない場所で始末して参ります」

「いやー! ヘルプミー!」

 どこからかあらわれたガタイのよい女生徒が、伏せていた日和を両脇から固めてひきずっていく。


「彼女の名前は芦名花音あしなかのん。わが校の風紀を取り締まる長ですわ」

「日和が連れてかれちゃったじゃない! はやく助けないと」

「彼女も良識あるルカ女学院の生徒。春日さまも命は無事にございましょう」

「そうなの? それなら、いいけど」


 日和の連れて行かれた方向を不安げに見守る美鈴の横顔を、香月はじっと見つめる。

 それに気づいた美鈴は、いどむように目を向けた。

「なんですか?」

「――いえ」


 香月は校舎へと歩き出す。

「落ちつく場所でお話ししましょう。このあたりは、他の生徒の目もありますので」

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