19 許嫁は式神使い!
「それでどうしよう?」
大見得を切ったはいいが、霊的常識皆無な日和である。
いつものあえかの荷物もちのような調子で香月にたずねた。
「あれだけの強烈な悪意が形をなすには媒介となる触媒があるはず。それをさがしだし、破壊する必要があります」
「なるほど」
知ったかぶりする日和。
「ワラ人形とかそういうの?」
わかる範囲の知識でまとめた。
「はい。あれも呪術の依代となるもの。呪いのうけ皿として一般化されたいざなぎ流の呪法です」
いざなぎ流は陰陽道の一派である。
道教思想をもとに、五行相生相克、天文占星術、風水といった気象学までをとりこみ、和国独自に体系化された陰陽道。一時は国をうごかす重要機関にまで隆盛を誇った古世魔術である。
祭事の吉凶をうらない、祈祷で病魔をしずめることを表とするなら、呪いの技は裏の顔。そのひとつが呪禁道。人を呪うために発達した呪術である。
ワラ人形のように相手を模した媒体を介して傷つける呪法を厭魅の法とよぶ。媒介を痛めつけたぶんだけ対象者に苦痛をあたえることが目的である。
「ワラ人形か……金属探知機があれば、クギとか引っかかるのに」
「依代が人形とはかぎりません。それらしいものを捜しましょう」
「でも、結構ひろいよこの家」
この部屋だけでも見ただけで高級感ただよう家具のオンパレードだ。下手にさわって弁償させられたらシャレにならん、というのが貧乏人根性の見解である。
「やみくもに捜しても無駄です」
そういうと、香月は式符をとりだし(何枚もってるの?)、空中に放り投げた。
ヒラヒラとした紙きれがぷくりとふくらみ、四肢をもつ生きものに化け、回転してスタ! と地上に降りたつ。
犬。
小犬。
ちょこんと行儀よくおすわりし、香月の足もとで尻尾をふる。
「おおっ! 手品師!?」
「伐折羅。見つけて」
クンクンと鼻をうごめかせ、右を向いたり左を向いたりせわしなく辺りをうろつきまわる。
見かけはまるきり小型犬だが、前髪のようなまる毛のかたまりで目が隠れている。勢いよく振りつけられる尻尾もグルグルととぐろを巻くほどにながい。
二人が見守るなか、ピク、とある方向へ鼻先をむけ、唐突に駆けだした。
速い。
スカートがひるがえり、香月も駆けだす。
ポカンとしていた日和は遅れた。
「待ってよぅ!」